高いところから落ちる感覚、それでリーは目が覚めた。  
――この感覚、嫌いや  
枕元にきちんとたたまれている明日の服の上から時計をとる。  
――なんや、まだ4時やないの  
みんなの規則的な寝息が聞こえる。  
再び布団にもぐり込もうとして、隣りのダッコの布団がはだけているのに気付いた。  
――風邪引いてしまうよ  
布団をかけ直してやろうとする。  
ダッコの顔の近くに手をつき、反対の手を伸ばした。  
――きれいやな  
手が止まる。  
何故か突然そう思った。ダッコはきれい。可愛いより、きれいのがしっくりくる。自然と手がダッコの顔に触れていた。  
――何が私と違うのやろ  
可愛い子やと言われてきたし、告白されたことも何度かある。  
だけど、ダッコとは何か違う。  
なんだろう。  
――大人っぽい格好しとるなぁ  
パジャマでも、ジャージでもない。  
なんと言うのか知らないけど、大人っぽいものを着てる。  
――この違いやろか?  
自分がダッコと同じものを着てる姿・・・激しく似合わない。  
――胸も大きいしなぁ  
顔に触れていた手を、今度は胸の位置まで持っていく。  
ふにっと、女らしい感触がする。  
――それに比べて私は  
今度は直に自分の胸に触れてみる。なんだか少しかたい。  
――ダッコ、起きんよね  
ダッコの服の下に手を滑り込ませてみた。一瞬ダッコの顔が歪んだ気がしたけど、大丈夫な気がした。  
ふにっとした感触。なんでこんなに女らしいのだろう。  
なんでこんなに自分と違うのだろう。  
ちょっと、いや、かなり羨ましくなった。  
手を引き抜くと、布団をかけてもやり、自分も布団を被った。  
 
そのままもう一眠りする・・・はずだった。  
手首を掴まれた。びっくりして振り返ると、目をぱっちり開けたダッコがいた。  
「リー、何しとったん?」  
小声で囁くダッコ。その顔には、少しいじわるな笑みが浮かんでいて。  
「別に。布団かけ直したっただけよ」  
――起きてたのか どうしよう・・・  
思わず背を向けた。掴まれていた手首が解放される。  
ほっとして、目をつむった、その時。  
「!!!」  
ダッコの手が、リーの胸をわし掴みにした。  
そしてそのまま揉まれていく。  
――何すんの、ダッコ  
手首を掴むと、引きはがした。  
「何すんのよ」  
怒った声、だけど小さな声で、叱り付ける。  
いつものこと。  
しかし、今日は状況が違っていて。  
「何って、さっきリーがしてたのと同じことよ?」  
そう言うダッコはやっぱり笑顔で。  
――あんなことするんやなかった  
後悔。  
隙をついて、ダッコが服の下に手を入れてきた。  
ひんやりとした手が、胸を揉みしだいていく。  
「ちょっやめぇ」  
手で口が塞がれる。少し、苦しい。  
「大きな声出したらあかんよ。みんな起きてしまうやない」  
口が解放され、再び手が動き出す。  
――気持ちええ  
しばらくすると、そう思えてきた。  
慣れた手付きでどんどん事を進めるダッコ。突起を摘んだり、指ではじいたり。  
「なぁ、なんであんなことしたん?リーがするなんて、思いもせえへんかったわ」  
耳元で囁かれる。ぞわっとした。  
「知らんわそんなこと」  
ダッコの手から逃げようと、必死で身をよじる。しかし、足を絡ませられ、無理だった。  
耳をぺろっと舐められた。思わず声をあげそうになる。  
――このままじゃ私、変になってしまう  
ダッコの手は止まらない。  
 
「なあ、今まで彼氏おらんかったゆうの本当なんやな。かたいもん」  
――かたい?  
ダッコの言葉に、少し戸惑った。  
「かたいって、何なん?」  
「胸ってなぁ、いっぱい揉まれると柔らかくなるんよ。あと大きくもなるわ。リーのはまだかたいな」  
――だからダッコのは女らしいんや  
妙に納得した。一瞬、この状況も忘れて。  
「で、なんであんなことした?」  
また耳を舐められて、首筋も舐められて。  
ぴくっと体が動いた。  
黙っていると、ダッコの手がお腹のあたりを這いだした。  
「答えんとなぁ・・・もっとするよ?」  
「ひっ・・・」  
ダッコの指が、下着の上を這う。なんだか水っぽい感触に、頭がおかしくなりそうになる。  
「なんや、感じてくれとるんか。リー、もうちゃんと女やないの」  
――カンジテル?  
――いたずらされて感じてしまっとるんか私?  
軽くひっかかれ、身悶えする。  
指が、下着の中へ滑りこんできた。  
水っぽい音がした気がした。布団の中の音など、聞こえるはずもないのに。  
「うん、ちゃんと濡れとる。はよ答えな、指挿れてしまうよ?」  
――もっと  
もう、答えたくもなかった。もっとされたかった。いたずら、されたかった。  
「あ・・」  
にゅるっと、指が入ってきた。  
少し、冷たい。  
「ほら、挿れてしまったやないの」  
――もっと  
初めての感覚に、気が狂いそうになる。  
恥ずかしさと何かよくわからない感覚で、顔が真っ赤になる。  
――もっと  
ダッコの指が動くたび、体は正直に反応する。  
心も、おかしくなっていく。  
――私はおかしい子なんやろか  
女に、しかも友達にこんなことをされて感じてしまっている。  
恥ずかしいのに、求めてしまっている。  
胸が押し付けられている背中と、絡まりあう足と、指に蹂躙されているそこにダッコを感じながら、愛欲におぼれていった。  
 
気がついたら朝になっていた。知らぬ間に眠ってしまっていたらしい。  
「あー、リー起きたー!珍しいね、リーが寝坊するなんて」  
悦ねぇが言う。  
時計を見ると、7時。起床時刻より15分寝坊。  
ぼーっとしていたら、早く早くと急かされた。  
――あれは夢だったんやろか  
顔を洗い、歯をみがく。  
口をゆすいでいたら、ダッコがお手洗いから出てきた。  
「お、やっと起きたんか」  
いつもと変わらない様子のダッコ。  
やはりあれは夢だったんだ、そう思うことにした。  
「お手洗い、行かんでええの?」  
少し、いじわるな笑みが浮かんだ気がした。もう一度ダッコの顔を見てみると、いつもと変わらない。  
「ん、行く・・・」  
入れ替わりにお手洗いに入った。  
下着をおろす。と、染みに気がついた。  
おりものではない、薄い薄い染み。  
――これっ  
夢じゃなかった。あれは夢じゃなかった。  
これは、愛欲におぼれた証。  
途端、恥ずかしくなり、顔が真っ赤になった。  
お手洗いを出て、着替える。  
頭の中を、早朝のことがぐるぐる回る。  
「朝ご飯食べに行くよー!」お腹が空いたのか、ヒメが叫ぶ。  
「ちょっと待ってー!」  
最後に靴下を履くと、みんなと一緒に部屋を出た。  
少し離れて後ろを歩く。  
まだ頭の中をぐるぐるしている。  
「リー?」  
――ダッコっ  
 
ダッコが隣りを歩いているのに気付かなかった。  
――何を言われるんやろか  
冷や汗が出てくる。  
「なあ、私まだ答え聞いてないんやけど?」  
(どうしてあんなことをしたのか)  
自分でも、まだよくわからない。  
でもなんとなくなら。そう思う。  
ダッコの目を見る。深い目。吸い込まれそう。  
自然と言葉が出てきた。  
「・・・多分、ダッコみたいになりたかったんや」  
「私みたいに?」  
ダッコが目を見開く。  
「そうや。ダッコみたいに女らしくなりたかったんやと思う」  
それだけ言うと、うつむいて歩いた。  
「リー!」  
その声に顔を上げると、ぱんっと両手で顔を挟まれた。  
「何言うのこの子は。女らしさなんて、リーなら嫌でも身についていくわ」  
――本当に?  
「それに私からしたらリーが羨ましいんよ。もう私にはリーみたいな純粋さ残っとらんもん」  
溜め息をつくダッコ。  
「だからもっと自分に自信持ちぃ!なっ!」  
笑顔。いじわるじゃない笑顔。  
――ダッコだって、こんな笑顔できるくらい純粋やないの  
そう思ったけど、口には出せなかった。  
「リー!ダッコー!遅いー」  
遠くでヒメが叫ぶ。  
「今行くー!」  
ダッコが駆け出す。途中、立ち止まるとリーのほうへ振り返った。  
「はよ!ヒメが怒りよる!」  
――私は私のままで  
「うんっ」  
そう言うと、リーはダッコと一緒に駆け出した。  
 

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