「ダッコと会うんも久しぶりやね…元気にしとった?」  
彼女の口があたしの名前を口にする。  
たった、それだけの事で  
私の胸の鼓動は乱され  
冷静さを失っていく。  
「うん、元気にしとったよ…悦ねぇはどうだったん?元気にしとったんか?」  
動揺を悟られないように  
私の気持ちに気づかれないように  
笑顔を取り繕う。  
実際、悦ねぇと会うんは久しぶりやった。  
東京での生活が大変らしく  
帰って来れそうや、帰れそうにもないけん  
この言葉の繰り返しやった。  
その度に、胸には喜びと落胆が踊った。  
季節は移り変わり、ボート部の練習が地獄の陸トレに変わる頃  
悦ねぇは帰ってきた。  
「私は元気にしとったよ!東京での生活も慣れてきたし…辛い事もない訳やないけど………」  
久しぶり会う悦ねぇはなんや、綺麗になったみたいやった。  
彼女のトレードマークでもあった、ショートヘアは少し伸びて  
丁度、鎖骨にかかるか、かからんかぐらいの長さになっとって  
少女の面影はなかった。  
ボートに全てを打ち込んだ女の子には見えんかった。  
私の見ない内に、彼女は少女から女になったんや。  
頭では理解しとっても  
心では理解できんかった。  
いや、違う。  
理解したくなかったんや。  
 
「ないけど?どうかしたん?」  
テーブルに肘を着くとぐっと、彼女のおる方に体を寄せた。  
近くで見る、悦ねぇの顔には薄化粧が施されていた。  
目元に薄ピンクのシャドウを彩り  
ぽってりした唇には真っ赤なグロスが塗られていた。  
ぷるんとした唇…  
キスしたい…  
今すぐ、キスしたい。  
でも、悦ねぇにはあいつがおる………  
関野と会う時もこうやって、繕うんか?  
そう思うと胸が引き裂かれさそうやった。  
「私にはボートがある…みんながおる…やから………」  
「頑張れるんか?」  
言葉の続きなんて聞きとうなかった。  
ちょっとでも、期待したあたしが馬鹿やった。  
ダッコがおるから頑張れるなんて………  
期待した、あたしが馬鹿やった………  
「うん…やから、頑張れるんよ。辛い事が合った時はみんなの顔を思い浮かべるんよ  
リー、ヒメ、イモッチ、ブー、中田三郎、コーチ…そして、たまに安田部長………」  
私の名前が呼ばれとらん。  
私は悦ねぇの慰めにもならんのか…  
そう思うと涙が零れてしまいそうやった。  
あの眼鏡が呼ばれて  
私の名前が呼ばれないなんて…  
やっぱり、リー達には…いや…関野にはかなわんって事なんか?  
「そして………」  
「──つっ?!」  
悦ねぇの手があたしの頬を手で覆った。  
必然と悦ねぇの顔が近くにくる事になる。  
悦ねぇ…やっぱ、綺麗になったな………  
大きな瞳にあたしの顔が映し出される。  
この大きな瞳に見つめられるなら  
全てを捨てても良い………  
彼女の瞳があたしだけを映すのであれば  
何もいらん………  
ボートもお金も全部………  
そんな馬鹿みたいな事を思い  
考える、自分が惨めに思えた。  
 
「ダッコがおるからや………」  
「冗談なんか聞きとうない!!!」  
私は頬を覆っていた手をパシっと払いのけてしまった。  
悦ねぇは悲しそうな顔であたしを見つめとる。  
違う…違う!!あたしは彼女にこんな事したくない。  
悦ねぇの悲しい顔なんて見とうない。  
彼女に悲しい思いなんてさせとうない。  
「冗談なんかやない…ほんとや………」  
彼女が嘘をつける程、器用な人間やないのは分かっとる。  
私が心の支えになっとる言うんも本心なんやろう。  
ただ、一番の支えやなくて  
その他大勢の支えなんやろう。  
だって、悦ねぇには関野がおるから  
彼女の心にはあいつがいるから  
「冗談やないんやったら………」  
証拠見せてや。  
彼女の唇に、そっと唇を重ね合わせる。  
重ねた瞬間、彼女の目は大きく見開いた。  
びっくりした?  
私は悦ねぇの事が好きだったんよ。  
初めて会った時から、ずっと、ずっと、好きだったんよ。  
「証拠見せてや………」  
唇を離した後、私は悦ねぇの両手首を掴んだ。  
何か、縛る物はないか?  
そう思い、辺りを見渡した。  
何もないな…  
しょうがない、これでええか…  
私はシーツを足で踏みつけると  
手首を押さえてない方の手でシーツを破った。  
─ビリビリ─とシーツを破く音  
彼女にはどう聞こえてるんやろか?  
悦ねぇは抵抗せんかった。  
いや、出来んかったんやろう。  
そりゃ、そうや。  
今まで、仲間だと、友達だと思っとった人間にいきなりキスされたんや。  
驚いて何も出来んくなるんが普通やろう。  
破ったシーツで彼女の両手首を縛った。  
縛っとる間、彼女の視線を感じた。  
私は怖くてわざと目を合わさんかった。  
彼女に嫌われるんが怖いんやない。  
そうやったら、こんな事しとらん。  
自信がなかった。  
目が合っても、続ける自信がなかった。  
罪悪感に負けるんが怖かった。  
だから、彼女と目を合わさんかった。  
縛り終えると、私は彼女をベッドに押し倒した。  
 
「悦ねぇが悪いんよ………」  
彼女の耳元でそう囁いた。  
悦ねぇの体がびくっと震えた。  
これから、始まるであろう行為に怯えてか  
それとも、仲間に裏切られたショックで震えたんかは分からん。  
分からんくてええ。  
そんなの関係ない。  
ここまでしといて、今更、彼女の気持ちなんて………  
「ダッコ…やめてや………」  
太腿を撫でた時、初めて彼女は抵抗の意思を見せた。  
もちろん、そんな事ぐらいで止めれる訳がない。  
太腿を撫でていた手を段々と、上の方に持っていく。  
「ダッコ、おねが…やめてや…こんな事…可笑しい───んっ?!」  
可笑しいやろ?  
たぶん、悦ねぇはそう言おうとしたんやと思う。  
聞きとうなかった。  
彼女の口から、そんな台詞を聞きとうなかった。  
逆ぎれもええとこや。  
そんなのは分かっとる。  
でも、聞きとうない。  
最初は逃げ回っていた舌も  
徐々に、逃げ回る事を諦め  
素直に求めに応じるようになった。  
瞳に恍惚の色が見え隠れするようになった。  
気持ちええんや…  
それに、気を良くした私は太腿を撫でていた手を  
ショーツの方に持っていった。  
彼女はばたばたと足を動かし  
身をよじった。  
そっと、ショーツに手を触れる。  
そこは、しっとりと湿気を帯びとって  
温かかった。  
感じてたんや。  
そう思うと嬉しかった。  
自分のキスで感じてくれたんが妙に嬉しかった。  
 
決して、関野に開発された訳じゃない。  
彼女の感度が良いだけや。  
そう思い込む事にした。  
ショーツの間から手を入れた。  
彼女は激しく抵抗した。  
頭をぶんぶんと横に振り  
いやや、いややと言っとるみたいやった。  
それに、構う事なく私は指で秘肉に触れる。。  
ぬるっとしとる…  
柔らかい秘肉は簡単に私の指を飲み込んだ。  
一本、二本、三本と次々に、指を埋め込んでいった。  
指を一本、また一本と埋め込む度に  
秘肉からは蜜が湧きあがり  
指の滑りを良くした。  
自分の指で彼女は感じとる。  
私の指で感じとる。  
関野やのうて、私の指で………  
三本、それぞれの指をばらばらに動かし  
肉壁を傷つかない程度に引っ掻く。  
彼女はこうされるんが好きみたいや。  
引っ掻く度に、中がよう締まって  
指を締め付ける。  
こうやって関野のも絞めとるんか…  
そう思うと無性に腹が立ってきた。  
唇を離して、苺に口付けようかと思った、  
でも、それじゃダメや。  
指だけでイカさんと意味がない。  
なんでか、知らんけど  
指だけでイカせれば彼女が自分の物になる気がした。  
関野がおらんくても  
私だけで満足してくれるはずや………  
そう思った。  
指を乱暴に動かした。  
ぬちゅぬちゅと卑猥な音がする。  
悦ねぇが感じている証拠………  
もっと、聞きたくてわざと音を立てる。  
心しか音を立てた方が反応が良い気がした。  
マゾなんやろか?  
いつも、関野にこうしてもらうんやろか?  
 
「ブー…ええよ…あんっ、あぁ…」とか喘いどるんやろうか?  
分かっとる。  
分かっとる。  
でも、ムカつく。  
指を締め付けとる、中がひくひくと痙攣してくるんが分かった。  
そろそろやな………  
指で悦ねぇの一番感じるとこを思いっきり引っ掻いた。  
舌を噛まれない様、唇を離して  
「あっ、あぁ…んっ…ダッコ………」  
彼女の唇が舌足らずに私の名前を呼ぶ。  
火照った頬に、潤んだ瞳、理性が音を立てて崩れ落ちていくんが分かった。  
可愛ええ  
虐めたい  
もっと、もっと、虐めたい。  
彼女の乱れる顔が見たい。  
舌足らずな声で私の名前を呼ばせたい。  
考えは決とった。  
「もっと、虐めたる…覚悟してや、悦ねぇ」  
彼女は力なく頷いた。  
心なしか、喜びの色が見えたのは気のせいだろうか。  
それから私は何度も、何度も、悦ねぇを求めた。  
ダッコ、もう、許して………  
この台詞を何回聞いた事だろう。  
止める気なんて微塵もなかった。  
気を失っても許さんかった。  
悦ねぇが動かなくなるまで狂気の宴は続いた。  
狂っとる。  
私は狂っとる。  
でも、そうさせたんは悦ねぇや。  
悦ねぇが私を狂わせたんや。  
悦ねぇが私を………  
私は動かなくなった彼女の体を抱きしめ  
眠りについた。  
 
小さい頃を思いだしとった。  
お母さんがよう読み聞かせてくれた絵本があった。  
──人魚姫──  
私はこの話が嫌いで嫌いで仕方がなかった。  
小さい私は人魚姫の取った行動が理解出来ず  
「なんで、人魚姫は泡になる方を選んだん?人魚姫…可哀相や…なぁ、なんで?」  
そう言っては、母を困らせた。  
「多恵子も大きくなったら分かるわよ。さぁ、もう寝なさい」  
そう言うばかりやった。  
そんなの分かりたくもなかった。  
王子を殺す方を選ばず、泡になる方を選んだ意気地なしの気持ちなんて  
分かりとうなかった。  
勝負しないで、負けを認めた彼女の気持ちなんて…  
でも、それを認める日がきてしまった。  
最初は、元気が取り柄のなんや、知らんけど張り切っとる子………  
私には一生縁がないなと思った。  
不良娘の私なんかには………  
きっと、気にも留めてくれないだろう。  
そう思ってた。  
でも、悦ねぇは違った。  
私の胸に飛び込んできてくれて  
本当の私を認めてくれた。  
辛かったら、泣いてもええんよ?と優しく私の肩を抱いてくれた。  
彼女の為なら死んでもええ…そう思った。  
暗闇から私を引っ張り出してくれた恩人に恋心を覚えるのに  
そう時間は掛からなかった。  
彼女が笑っとる時も  
泣いとる時も  
辛くてどうしようもない時も  
そばにいたんは関野やった。  
私やなかった。  
関野の隣で笑っとる悦ねぇが目に入る度に  
嫉妬で頭が(おかしく)なりそうやった。  
その時、初めて人魚姫の気持ちが理解出来た。  
たぶん、人魚姫もこんな気持ちやったんやろう。  
気持ちを伝えて二人の関係が良くなればええ。  
でも、上手くいかない場合は?  
私は女や。  
男にはなれん。  
関野にも中田三郎にもなれん。  
そう思って一度は彼女への思いを諦めた。  
思いを断ち切る様にボートに打ち込んだ。  
日に日に、自分でも上達していくんが分かった。  
悦ねぇの為に勝つんや。  
私に出来るんはそれしかなかった。  
男やない私にはそれぐらいしか  
彼女にアピールできんかった。  
でも、大会の前、彼女は腰を痛めてしまった。  
 
リーとやりあったんはまだ覚えとる。  
リーが羨ましかった。  
素直に悦ねぇと漕ぎたいと言えるリーが羨ましくて仕方がなかった。  
私だって、悦ねぇと漕ぎたい気持ちは一緒やった。  
でも、彼女の為に勝つんが一番ええと思ったんや。  
ここで無理をさせてボートに乗せたら  
その時は良いかもしれない。  
でも、後々、それが彼女の体を蝕んでいく事だろう。  
そう思った。  
それが、彼女を傷つけた。  
ボートに乗れなくて悔しいんは悦ねぇや。  
リーでも、私でもないのに………  
大会の日、彼女は来てくれた。  
中田三郎と関野が彼女を慰めたのは知っとる。  
彼らなりに彼女の事を考えたのだろう。  
結果的に彼女は来てくれた。  
喜びと同時にどうしようもない嫉妬に襲われた。  
悦ねぇが悪い訳でも  
関野や中田三郎が悪い訳でもない。  
彼らが悦ねぇに変な事をした訳でもない。  
私や駄目なんや………そう再認識させられた気がした。  
卒業してから間もなくだろうか  
彼女の口から関野と付き合っとる事を聞いたのは  
その日の事はよく覚えていない。  
ただ、新海のお嬢さんクルー相手にくだを巻いたんは覚えとる。  
それがきっかけで、彼女と打ち解けたんも覚えとる。  
どうやら、彼女も悦ねぇに気があったらしく  
その日は二人で浴びる程酒を飲んだんや。  
失恋した者同士仲良く…  
私の恋も人魚姫みたく泡となって消える…  
それが一番ええんや。  
そう思っとった。  
でも、考えが変わった。  
関野に渡すんが惜しくなった。  
関野に恨みがある訳でもなんでもない。  
むしろ、良い奴だと思っとる。  
悦ねぇを幸せに出来るんはこいつしかおらん。  
やから、二人の恋を応援しよか。  
そう思っとったけど、辞めた。  
勝負をしないで逃げるんは自分らしくないからや。  
それに、私は意気地なしの人魚姫とは違う。  
負けず嫌いのダッコや。  
関野には渡さん。  
絶対に  
絶対に…渡さん。  
「関野、覚悟せいよ…悦ねぇは私のもんやけん。あんたには渡さんからな」  
ぽつりとそう呟くと  
私は悦ねぇを抱きしめてまた、深い眠りに落ちていった。  
人魚姫のように泡となって消えない様に…  
彼女の手をしっかりと掴んで………  
 
 
 
 
──終わり──  
 
 

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