夏になると人間って生き物は大胆になるらしい。  
夏という季節がそうさせるんか  
それとも、夏の暑さにやられて頭が可笑しくなるんかは分からんが…  
少なくとも今の俺は普通やないのは確かや。  
中田三郎と楽しそうに花火をしとる悦子を見とったら  
なんや、胸が締め付けられる思いがして  
無性に悦子に腹が立ってきて  
自分でも押さえきれんかった。  
「なんやの、ブー、用があるって…早うしてや…みんな、待っとるけんね」  
悦子は不機嫌そうに顔で俺を睨んできよった。  
そんな顔しても、全然、怖くないんやけど…  
悦子は可愛い。  
でも、今日の悦子は格別やった。  
朱色の浴衣に所々、散らばる桃色と白の花びら  
薄黄色の帯びと合わしたんかは知らんけど  
髪を彩る、黄色と桃色の花びらは  
悦子にぴったりやと思った。  
今日のお前は可愛ええな…ぐらいは、勇気を出して言おうかと思った。  
せやけど、悦子の隣にあいつがおった。  
なんや、あいつの隣で笑う悦子の顔は  
今まで見た事がない位輝いていて  
それでいて、ちょっと色っぽくて  
悦子やないみたいやった。  
中田三郎からしたら、たわいもないただの世間話やったかも知れん。  
やけど、今日の俺にはあいつが悦子を口説いとる様にしか見えんかった。  
嫉妬ってやつなんか?  
はっきり言って中田三郎に俺は嫉妬しとった。  
成績もええ、顔もええあいつに勝てる自信なんてない。  
やけど、ボートに賭けるこの気持ちと悦子に対する気持ちだけは  
負けとらん。  
中田三郎なんかには、絶対に負けとらん。  
ボートを思う気持ちは怪しいけど  
悦子を思う気持ちやったら世界一に決まっとる。  
こんな気の強いじゃじゃ馬女を好く男なんて  
世界中のどこ探しても俺しかおらん。  
絶対に………  
 
「もう、ほんとに用があるんか?馬鹿ブー、早うしてよ!!!」  
黙っている俺に痺れを切らしたんやろう  
悦子は憎まれ口を叩くと、ご丁寧に俺の胸元近くまできて  
キッと眼をきつくして、睨んできよった。  
男の胸の中に、自ら入ってくるなんて大胆な奴…  
悦子は、俺を男だとはちっとも思ってないんやろな  
悦子の記憶の中の俺は、泣き虫ブーのまんまなんやろう。  
そう思うと、悦子が憎らしくなってきた。  
「ちょっ、馬鹿ブー!!!聞いとるん?聞いとるなら、返事くらいせ………んっ!?」  
憎らしくなってきたから、ブー、ブー、煩い唇を塞いでやった。  
悦子の唇は想像していたよりもずっと、柔らかくて温かい。  
俺は夢中で唇を貪った。  
何故だか分からんけど、悦子は抵抗せんかった。  
あいつも夏の暑さにやられたんやろか?  
「んっ、んっーんっー!!!んっ、んふぅ………ぷっ、はぁっ─はぁっ─」  
悦子の顔が苦しそうに歪んできおったから  
不本意やけど俺は唇を離した。  
「はぁっ─はぁっ─馬鹿ブー、なんで、こんな事したんよ!!!」  
相当苦しかったんやろか  
悦子はぜぇぜぇと肩で息をしとる。  
大きな瞳は、涙で潤み  
頬は赤く染まとって  
なんや、その、あれをした後みたいや。  
その顔を見てたら、なんや、興奮してきた。  
い、いかん、浩之、抑えろ!!!ここは、抑えるんや!!!  
頭では分かとっても、下半身は正直なもんで………  
あれが、膨らんでくるんが分かった。  
「さぁっ…しいて言うなら…あれや、あれ………」  
ここで、無理強いする訳にはいかん。  
無理に事を進めればこいつに嫌われるに違いない。  
 
「あれって、なんやの!!!」  
「夏の暑さにやられたんや!!!」  
よし、決まった!!!  
中田三郎ばりにさぶい事言うとるけど  
まぁ、ええやろ………  
よし、これでこいつと宿に戻ればええ………  
なんて、甘い考えは見事に崩れ落ちた。  
「馬鹿ブー…今日と言う今日はゆるさ…あっ、ちょっ、待てや!!!」  
や、やばい、今、こいつと言い合うのは非常にやばい。  
下半身が膨らんだ俺の姿を見られるんは俺的にマズイ。  
マズすぎる!!!  
「悦子、スマン。話は明日聞く!!!俺、ちょっと、ランニング行ってくるわ!!!」  
俺は自分が持ってる力をフルに出して  
全速力で悦子の前から消えた。  
後ろから、馬鹿ブー!!!待てや!!!と悦子の声が聞こえたが止まる訳にはいかんかった。  
案の定、俺は次の日、悦子にぼこぼこにされた。  
馬鹿ブー、腐れブー、エロブー…散々、罵倒を浴びせられた。  
最後の一発が決った時  
俺は痛みに耐え切れず  
その場に座り込んでしもうた。  
俺の気のせいかも知れんけど  
最後の一発が決って  
座り込んだしもうた俺の耳元で  
「嫌やなかったけど…順番ぐらい守れや、エロブー!!!」  
って言った気がしたんや。  
薄れゆく意識の中でそれは、俺の心を満たしていった。  
俺が悦子と恋人同士になるんは、まだ、まだ、先やな………  
せやけど、こいつとこんな風に戯れるんも悪くはないな…  
そう思った。  
 
 
──終わり──  
 
 

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