ある夜、中田三郎はランニングをしていた。
始めたボートは意外に楽しくて。
勝ちたいと思って。
自主練をするようになった。
公園の前を通りかかると、ブランコに見覚えのある女が座っていた。
「・・・?」
近寄ってみると、それは多恵子だとわかった。
「おう、菊池!何やっとるんこんなところで」
制服のままの多恵子が、一瞬こちらを向いた。
「なんや、中田三郎か。あんたには関係ない」
そういうと再び視線を地面に落とした。
「関係ないて言われてもなぁ。もう10時やぞ?家に帰らなぁ」
「家になんて帰りとうない」
冷たい声。いつもの女らしい高い声ではない。
「どないしたんやぁ?」
「あんたには関係ないわ。さっさと行きぃ」
決して目を合わそうとしない多恵子に、少し心配になる。
「そう言われてもなぁ、ほっておけんわ。このまま家に帰らんつもりか?」
「そうや」
多恵子は自分から見ても、少し、いや、かなり可愛い。
近頃は物騒だ。
このまま外にいさせるわけにはいかない。
「そんなに家に帰りとうないんなら、俺と飲みにでも行くか?明日は休みやし」
このままいさせるくらいなら、飲みにでも連れてったほうがいい、そう思った。
「・・・行く」
「あ、でもお前制服やん。店行けへんやんか。俺んち・・・ってのはアレだしなぁ」
「アレってなんなんよ?あんたんちはダメなんか」
「ダメっていうか、菊池は嫌やろ?」
夜中に男子高校生の家、さすがにそれはよくないと思った。
「えぇよ、あんたんちで。あんたさえよければ」
思わぬ答えに、少し驚いた。
「俺んちなんかでええの?」
「ええ。家に帰るよりよっぽどマシや」
そう言うと多恵子は立ち上がり、カバンを持って歩き始めた。
「ほら、お酒買いに行くんやろ?」
「お・・・おう」
さっさと歩き始める多恵子に、少しとまどった。
「よしっ飲むかぁ!」
あれからお酒とつまみを買った。本気で多恵子は三郎の家で飲む気らしかった。
三郎の部屋で、缶を開ける。
「っはぁー久しぶりやわ」
やっと少し笑顔が戻ったようだった。
「菊池は最近飲んどらんかったんか」
自分も缶を開けた。本気で酔ってしまわないように、度の低いチューハイ。
本気で酔ってしまうと、何をしてしまうかわからない。
「飲んどらんよ。ボート始めてから止めたわ。あんたは飲んどるん?」
「いや、俺もボート始めてから止めたわ」
「同じやな」
笑う多恵子。にーっと笑う彼女を、本気で可愛いと思った。
「ボート乗るときは、真剣やもん。アルコールなんか入った体で乗るもんやない」
「そうやな。今日だけは特別や」
公園に居た時が嘘のように笑う多恵子。
誘ってよかったと、三郎は思った。
飲み始めてから数時間後、相変わらず笑いながら話をしていた。
ボートの話、恋愛の話、悦ねぇ達の話。話は途切れることがない。
本気で酔わないにしろ、三郎は少しだけ機嫌がいいようだった。
多恵子も、同じようなふうに見える。
「なぁ、楽しい気分のとこ悪いんやけど、なんで菊池は家に帰りとうないんや?」
水を注すような質問だとわかっていた。しかし、気になって仕方がなかった。
「帰りとうないから帰りとうないだけや」
「ホントのこと言い――」
言葉が途中で遮られた。
口が、ふさがれていた。
目の前には多恵子の顔。
呆然とする三郎を尻目に、多恵子は口を離した。
「ちょっ菊池!何しよるん!」
「なぁ中田三郎、私を抱いてくれへん?」
突拍子もない多恵子の言葉に、唖然とする。
「抱いてって・・・何言うとるんや!」
「私は本気よ」
見つめる多恵子の目は確かに澄んでいた。決して酒に酔ってのことではない気がする。
頭の中が混乱する。
「何でそんなこと言うん。ちゃんと筋道立てて説明し?な?」
少し黙っていた多恵子は、口を開き始めた。
「・・・あのな、お父さん、再婚するって・・・今日家に帰ったら女の人がいて、結婚するって・・・
家に残っとったお母さんのもの、全部なくなっとった。離婚してからもな、お母さんは家にいるみたいやったんや。
私、お母さんの場所ちゃんと残しといたんや。いつ帰ってきてもええように。でも、全部なくなっとった・・・カーテンも、鍋も、全部買い替えとった。
私の部屋も模様替えされとった。お母さんが作ってくれたものも、お母さんが選んでくれたものも、全部捨てられとった。
あんな部屋、私の部屋やない。あんな家、私の家やない!」
多恵子の目から、涙が一粒零れ落ちた。
「そうだったんか。だもんで家帰りとうなかったんか。でもだからって・・・なんで抱いてくれにつながるんや」
少し眉間にしわを寄せる。
多恵子を抱き寄せ、頭をなでてやる。
彼女は興奮した様子で、肩を震わせている。
「一瞬でもいいから、忘れたかったんや。今日一日馬鹿ばっかしたわ。昔の仲間とカラオケ行ったり、タバコ吸ってみたりな。
でも、全然忘れられへんのよ。ずっとずっと、頭の中でぐるぐるしとるんよ。あんたに飲みに誘われて、忘れられるかと思った。けど、忘れられへん。
もう私壊れてしまいそうや・・・お願いやから、一瞬だけでもいいから、忘れさせて・・・」
そう言うと、多恵子は三郎を見上げ、再びキスをした。
キスをしたまま多恵子は三郎の上にのしかかった。
小柄ではあるが彼女の全体重だ。耐えることもできずに押し倒された。
舌が絡み付いてくる。唾液が、唇の周りを濡らしていく。
と、下半身に緊張が走った。
手らしきものが、敏感なところを這う。
理性が、本能を押さえ込んだ。
力を込めて、自分に貼りついている多恵子を引き離した。
「ちょっ菊池!止めんか!!」
肩をつかみ、目を見る。
涙が浮かんでいた。
「やっぱり、こういうことするの嫌か」
多恵子はうつむいた。
「嫌とかじゃなくて・・・お前、本当にそれでええんか。相手は俺やぞ?本当にええんか」
浮き沈みする本能に、負けそうになる。
「あんたでいいんやなくて、あんたがいいんや。お願い・・・」
潤んだ目。みずみずしい唇。
三郎は思わず多恵子を抱きすくめた。
「やめたくなったら・・・すぐ言えや。絶対に我慢するんやないぞ」
そういうと多恵子を抱きかかえ、ベッドへと向かった。
ゆっくりとベッドに横たわらせる。
自分も多恵子の上に覆いかぶさった。
「嫌になったらすぐ言うんやぞ」
「わかった・・・」
そう言うと多恵子は軽く上体を起こしてキスをした。
柔らかい感触に、気持ちが高揚する。
自分から舌を絡めていく。そのまま多恵子を再び押し倒すと、服の上から胸を触ってみた。
柔らけぇなぁ・・・
いつだったか、女子ボート部の面々が海で遊んでいるのを見た。
みんなスクール水着なのに、何故か一人、違う水着を着ていた。
女を強調した彼女に、友達数人と高校生男子らしい反応を示したものだった。
そんな彼女が、今自分と肌を重ねようとしている。
なんだか、不思議な気分だった。
唇を離すと、リボンを取り、ボタンをはずしていった。
多恵子は、顔を横に向け、ボーっとしているようだった。
キャミソールの中に手を入れる。一瞬多恵子の体がピクっと動いた。
片手でブラのホックを外すと、胸が溢れてきたように見えた。
「ばんざいしてみぃ」
多恵子が腕を上げたところで、一気に脱がす。
すべすべとした肌が、目の前に現れた。
普段日に当たらないところは、かなり白かった。
とても同じこの地域で生まれ育ったとは思えないくらい。
手でつかむと、激しくむさぼった。
「いっ・・・あ・・」
わざと水っぽい音が出るように吸ってやる。
先端が、硬くなっていく。
指ではじいたり、つまんだり。わざと強く吸ってやったり、優しく舐めてやったり。
「あぁっ・・んっ・・・」
その度に多恵子の口から声が洩れる。
普段は聞けない声に、更に気分は高まる。
上目遣いに顔を見ると、じっとこっちを見ていた。
今度は唇に口付けた。
舌が、絡み付いてくる。
負けじと、絡ませ返す。
腕が、背中に絡みついてくる。
空いていた手を太ももに這わせ、スカートの中へと侵入させた。
洩れる息が、不規則になる。
下着の上を這わせると、少し湿っている気がした。
唇を離した。スカートを脱がせる。ピンクだった。
「なぁ・・・あたしだけハダカ、恥ずかしいわぁ」
とろんとした目。いつのまにこんなに女の顔になったのだろう。
「そか。すまんな」
自分も脱ぐ。とりあえず上だけ脱ぐと、首筋に口付けた。
胸元に、柔らかいものを感じる。
女の感触。
耳をぺろっと舐めてやると、激しく反応した。
「ひゃっ!あぅ・・・やぁ・・」
「なんや、菊池は耳が弱いんか」
クスっと笑ってしまった。
少し恥ずかしくなったのか、多恵子は急にキスをしてきた。
下着を脱がしにかかる。片手では上手く下げられない。
少し腰を浮かして脱がしやすくしてくれる多恵子が、愛しかった。
今まで隠れていた部分に、指を這わす。
ビクッと体が動く。
赤く膨らんだ小さな突起を指ではじくと、とてもよく喘いだ。
1本・・・
「あっ・・・やぁ・・」
背中にまわされている多恵子の手に、力が入ったのを感じた。
2本・・・
「ぅあぁっ・・あぁっ・・・」
爪が立てられ、少し痛みを感じた。
そのまま指を動かす。艶っぽい声が耳に響く。
どんどん滑りがよくなっていく。
しばらく指でいじっていると、多恵子が何かつぶやいた気がした。
「どうした・・・?」
口元へ耳を近づけてみる。
――して?
小さな声で、確かにそう聞こえた。
「ちょっと待っときぃな」
軽くキスをして立ち上がり、机の引き出しを開け、ゴムをとりだした。
「・・・そんなん、つけんでもええよ?」
「だーめ。これは男の礼儀や」
ベッドに腰かけ、ゴムをつける。
と、背中に温かみを感じた。
「ふーん。あんたってけっこう紳士なんやな」
多恵子が、腕を回して抱きしめてきた。
背中に柔らかいものが当たる。
興奮してくる。
つけ終わると、絡められていた腕を解き、再び押し倒した。
指で穴を確認する。大丈夫、いける。
「いくよ?」
多恵子が頷くのを確認すると、自分のモノをあてがい、グッと腰に力をいれた。
「ああぁあっ!」
多恵子の体が大きく仰け反っていく。
多恵子の手が、シーツをつかみ、しわになっていく。
そんな自分はというと、案外冷静だった。
悶える多恵子をずっと見ていたいと思った。
ずっとずっと、多恵子の中にいたいと思った。
あったかい。あついくらいにあったかい。
締め付けられたり、緩められたり、でもやっぱりきつい。
薄い膜を通して伝わる体温。限られた人しか味わえない、貴重なぬくもり。
もっと奥へ、もっと、もっと。
最深部へ達すると、体を前に倒し、多恵子を抱きしめた。
「だいじょぶか・・・?」
「だいじょぶや・・・もっと・・して」
目。その目に見つめられると、気が狂いそうになる。
普段からそう思えるような目だけども、今は殊更思える。
腰を動かし始めた。
「あっあっっ・・あぁっ・・・」
喘ぐ声に、更に欲情させられる。
もっと声が聞きたい。
もっと、乱れさせたい。
誰も見たことのないような多恵子が見たい。
感じさせてあげたい。
水っぽい音と、肌と肌がぶつかり合う音が響く。
あまりの気持ちよさに、早くも達してしまった。
「ぅあっ!・・・っはぁ・・・スマン、もうイッてしもた・・・」
多恵子の上に乗っかったまま、肩で息をする。
正直、恥ずかしい。
今まで、こんなに早く達してしまったことなどなかった。
お酒が入っているせいもあるだろうが、原因は多恵子にあるように思えた。
こんなに愛しく、こんなに大切に抱いてやりたいと思ったのは初めてのことだった。
「ん・・・」
唇をふさがれると、起き上がりたいのか、少し体を押してきた。
座りなおし、口内を味わう。
どちらのものかわからない唾液が外に洩れてくる。
と、再び多恵子に全体重をかけられ、押し倒された。
ゴムが外されている感触がする。
自分のモノが、手で遊ばれている。
「・・・もっと・・したい」
多恵子の顔が視界から消えた。
と、言い表せないほどの快感が、下半身から感じられた。
自分のモノが、多恵子の舌に舐められていた。
「ちょっ菊池!そんなことせんでもっ・・うっ」
先ほどまでとはまた違った快楽。
両手で包み込まれ、舌でなぞられる。
少し元気をなくしていたモノも、再び元気になる。
ぺろっと舐めると、多恵子が顔を見てきた。
「私がしたいからするんよ。あんたは、嫌・・・?」
そんなわけない。願いたいくらいだ。
「嫌ではないけど・・・」
「ならええやろ。させてや」
再び快楽が襲ってくる。
多恵子の口の中に、自分が入っていく。
大事そうに、丁寧に、多恵子の舌は動く。
「ぅあっ・・・きくちぃ・・・」
思わず多恵子の頭を手で固定すると、腰を動かしてしまった。
「ぅぇっ・・・」
えずかせてしまった。口の中に含んだまま、苦しそうに顔を歪める。
パンッと、太ももを叩かれてしまった。
上目遣いに、多恵子が睨みつける。
動くなということらしい。
しかし、先ほどのことで少し涙目になっている彼女が、逆に愛しい。
なんとなく、背中をなでてやる。すべすべしていた。
「なぁ・・・っもうイってしまいそうや・・・」
また違った気持ちよさが、多恵子の口にはあった。
口だけではなく、手も優しく動かしてくれる。
こんなに早かったっけと、思った。
「きくちぃ・・・うっ・・」
出てしまった。口の中に。
多恵子は顔をしかめると、ゆっくりと引き抜いていった。
「うわっすまん!ティッシュティッシュ・・・」
ティッシュを取るため背を向ける。
ティッシュ箱を取り振り返ると、多恵子は残っていた缶チューハイを飲んでいた。
「・・・っはぁ、苦いわ。飲んでしもうたやないの」
多恵子は再びチューハイを口に流し込む。
飲んでしもうた?俺のを?
少し、混乱する。
どうしてそこまでしてくれるのか。
ただ今を忘れたいがために、抱かれているのではないのか。
涙目でチューハイを飲んでいる多恵子を見る。
いつのまに、俺はこんな気持ちになっとんのや・・・
見ていたい 触れていたい 感じていたい
見てて欲しい 触れて欲しい 感じて欲しい
俺は、こいつに惚れとるんか・・・
ボーっと見ていると、こちらに気づいた多恵子が缶を置き、再び上に乗っかってきた。
「私も、最後までイカせてや・・・」
唇を重ねると、多恵子は腰を沈ませてきた。
再び、多恵子の中に入っていった。