「ああっ・・あんっ・・・あっ・・・」  
多恵子が腰を動かすたび、快感が襲ってくる。  
先ほどまでと違う体位のせいか、とても奥まで突くことができる。  
根元まで、しっかりと入っていく。  
ベッドに寝転がったまま、上に乗っている多恵子を見る。  
ぷるんと胸が揺れて、さらさらと髪が流れて、苦しいけども気持ちよさそうな顔をしてて。  
気がついたら手を多恵子の腰に当て、自分も上へ突き上げるようになっていた。  
「ええっ・・かぁ?」  
「あんっっ・・・すごくっ・・・いぃっあっ・・」  
キモチイイ。気持ちよすぎる。  
ふと、大事なことに気がついた。  
 
 
「ぅあっ・・・って!お前ゴムつけとらんやろ!!」  
がばっと起き上がると、両手で多恵子の肩をつかんだ。  
「っは・・・そんなもんいらんっ」  
一瞬動きを止めたが、再び動き始めた。  
肩を持つ手に力を入れ、運動を止めさす。  
「いらんじゃないやろがっ。万一俺が病気持っとったりしたらどうする気やったんや!」  
「持っとらんのやろ?」  
「そりゃ・・・多分」  
冷静に答えられると、逆に返答に困る。  
とろんとした目ながら、鋭い目だった。  
「それにあんたもホントはつけとうないんやろ。今だってほら、まだつながったままや。抜くことだってできたはずやのに」  
そう言われて、下を見る。自分は確かに多恵子の中に食い込んでいて。  
こんな状況にもかかわらず、かすかに、腰を突き上げてしまっている。  
菊池に、絶対に『もしも』を与えないつもりやなかったのか。  
どうして、俺はこんなにこいつを欲しがっとんのじゃ。  
どうして、こいつの全部を欲しがっとんのじゃ。  
どうして、考えとることとやることが違うんじゃ。  
「私はあんたを、中田三郎を感じたいんや。だからそんなもん、いらん」  
そう言うと、多恵子がキスをしてきた。  
口を割って、舌が入ってくる。  
一瞬冷めてしまった空気を再び暖めるかのように、激しく絡まる。  
片手で多恵子を抱き、反対の手で胸を揉む。  
やっぱり柔らかくて。  
突起を弾くと、空気の抜けたような声がして、舌の動きが一瞬止まった。  
唇を離して、至近距離で目を見る。  
この幸せを味わえるのなら、もうどうなってもいいと思った。  
 
つながったままで、多恵子を押し倒す。  
足を大きめに開かせる。体が柔らかいのか、楽に開いた。  
軽くキスをすると、思いっきり腰を振ってやった。  
「ああぁあっ!あっん・・・っはぁっ」  
今まで聞いたどの声よりも、色っぽく、ぞくぞくする喘ぎ。  
「天国見したるわ」  
耳元でささやく。  
ゴムをつけていたときと違って、2人分の体液は滑りをよくしてくれた。  
水っぽい音と、体がぶつかる乾いた音。  
もう、心配ばかりしていた三郎ではなかった。  
さっきまでは、抱いてと言われ、応じるだけだった。  
今は、違う。  
今は、自分がしたい。  
多恵子を、抱きたい。  
抱けるのなら、どうなってしまってもいい。  
「・・・たぇこぉ・・うっ・・」  
いつもは菊池と呼ぶのに。自然と名前が出てくる。  
「あっやぁあっっ・・さぶ・・・ろっぁあんっ」  
息も荒く、悶える多恵子。  
三郎の腕をつかんでいる手に、力が入っているのを感じる。  
多恵子に覆いかぶさると、体を抱きすくめた。  
そしてただひたすらに突いた。  
その度に洩れる声が、歪む表情が、本能を呼び起こしていった。  
 
 
「あっあぁっんっっ・・・!!」  
多恵子の体が、大きく仰け反った。  
その顔は、苦悶の表情ではなかった。  
その顔を見た直後、多恵子の太ももに白いものがかかった。  
わずかに残っていた良心が、外に出させた。  
ポタポタと、垂れていく。  
息も荒いまま、ティッシュを取るとそれをふき取ってやった。  
ゴミ箱に投げ捨てると、そのままベッドに倒れこんだ。  
多恵子は肩で息をしたまま、天井を見つめていた。  
布団をかけてやる。素肌に布団は、なぜだかとても気持ちがいい。  
多恵子の横顔を見ながら、だんだん冷静になっていく自分を感じた。  
「・・・枕、いるか?」  
なんと声をかければよいか、わからなかった。  
変な質問だとは思ったけど、これしかなかった。  
「・・・あんた使うやろ?」  
「どっちでもええ」  
「じゃああんたが使いぃ」  
多恵子は自分に背を向け、寝ようとしていた。  
枕をベッドのちょうど真ん中に置くと、多恵子を抱き寄せた。  
「一緒に使えばええ」  
少ししっとりとした体が、事後だということを再認識させた。  
目と目が合う。なぜだか少し照れくさかった。  
キスをすると、手をつないだまま眠りに落ちた。  
 
 
まぶしさに目が覚めた。時計を見ると5時。  
カーテンを閉め、多恵子が起きてしまわないようにする。  
「こいつ、きれいな顔立ちしとんなぁ・・・」  
学校で授業中に寝てる女子の顔は、つぶれて、へちゃけて、言い表すことのできないような顔ばかりだ。  
だけど、多恵子は違った。寝ているのに、整った顔。  
もう一度寝ようかとも思ったけれど、何故か寝れなかった。  
「風呂でもはいるか・・・」  
そっとベッドを抜け出す。優しく布団をかけてやると、落ちている服を広い集め、風呂場へと向かった。  
シャワーの栓をひねり、頭からかぶる。  
ひっかかれた背中が、少し沁みた。  
抱いていたから、愛しいと思ったのか。  
今は正直わからなかった。  
愛しいような気もする。そうでないような気もする。  
一時の気の迷いだったのか。  
頭の中がこんがらがったまま、風呂を出た。  
 
 
牛乳片手に部屋に戻る。  
と、多恵子の携帯がピカピカ光っているのに気がついた。  
昨日は、家に来てから一度も携帯を開いていなかったような気がする。  
それを拾い上げる。開いてみて驚いた。  
何十件という着信履歴。そして何十件というメール。  
親だろうか。  
そのとき、多恵子がもぞもぞ動きだした。  
「菊池?目え覚めたか?」  
「・・・んー・・なぁん・・?」  
布団を被ったまま答える多恵子。  
「お前の携帯、すごいことなっとるぞ。親じゃないんか?」  
携帯を手渡してやる。多恵子が目を見開いた。  
「え・・・なんでや」  
「なんでって、そりゃ家に帰ってこなかったら心配するやろ」  
「そやかて、前まで私よう朝帰りしとったよ。そんでもたまに連絡しろってメール入ってたくらいやのに、なんで・・・」  
とりあえずメールを読み始めたようで、目が真剣だ。  
「なんや・・・新しいお母さんがすごい心配してるって・・・」  
「はよ帰ってこんか・・・」  
「いつまで遊んでるつもりだ・・・」  
自分に言っているのではないことくらいわかる。メールを読み進めていく多恵子は、どこか嬉しそうに感じた。  
「あ・・・」  
「どうかしたんか?」  
先ほどまでとは違った表情が、少し気になった。  
「私が帰らんのなら、出てくって・・・私が嫌なら、再婚せえへんて・・・そう、新しいお母さんからきとる・・・」  
と、携帯が震えだした。  
「・・・電話」  
「出ろや」  
「でも・・・」  
「はよ」  
少しおろおろする多恵子。こんな彼女は初めて見るかもしれない。  
いつも世間慣れした様子なのに。今は少し幼さを感じる。  
・・・ぇっ・・ぁ・・・・  
電話から、声が洩れ聞こえてくる。父親のようだ。  
黙って聞いていた多恵子は、わかったとだけ言って携帯を切った。  
 
「帰るわ」  
そう言うと多恵子は素早く服を着だした。  
「お父さん、なんやて?」  
散らばった服を拾い集めてやる。少しくしゃくしゃになってしまっているが、仕方がない。  
「ん・・・とにかく帰ってこいって。話し合おうって。私がこんなに嫌がるとは思ってなかったみたいや。嫌なら、再婚やめるからって」  
「菊池は嫌なんか?」  
服を着ていた手が止まる。少し、考え込んでいるようだ。  
「・・・わからん。私の中でお母さんは出てったお母さんだけや。どんだけひどくても、あれが私のお母さんや。新しいお母さんなんて、認めとうないだけかもしれんな」  
再び手が動き始める。  
「再婚、させん気か?」  
「・・・私にそんな権利ないことくらいわかっとるつもりよ。私、もう大人よ」  
強がっているのが手に取るようにわかる。  
愛しい。  
この感情は、一時のものではなかった。  
俺は菊池が愛しい。  
気持ちが、確かなものになった。  
「・・・お前がもし、また家が嫌になったら、いつでもここに来いや。話でもなんでも聞いたるし、飲むんなら一緒に飲んでやるし、泣きたいなら胸貸してやるけん」  
自分で言って、照れくさくなった。  
馬鹿じゃないの、と言われると思った。  
思わずうつむいた。  
しかし、聞こえてきたのは意外な言葉だった。  
「・・・ありがとう」  
笑った。  
笑顔を見せてくれた。  
篠村たちに見せるような笑顔を、自分にも見せてくれた。  
「ホントにありがとな。色々ワガママ言うてしもて。あんた、意外にいい奴やな」  
胸が高鳴った。俺は菊池が好きなんや。  
と、瞬間目の前が真っ暗になった。  
触れるだけの、軽いキス。  
「バイバイ!」  
そう言うと、多恵子は駆け出していった。  
最後のキス。何故そんなことをしていったのかはわからない。  
何度もしたにもかかわらず、それ以上のことをしたにもかかわらず、そのキスが一番貴重で、大事だと思った。  
 

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