「つ………いたぁ………」
一歩一歩、階段を下りる度に感じる痛み
普段なら感じるはずのない痛み
足を下ろす度にすきずきと体中に響く痛みは
三郎との情事が夢でなく現実のものだったんだと
嫌でも感じさせる。
ふらふらと、何度か転びそうになりながらも
少しずつ痛む体を庇いながら前へ進む。
一歩、一歩、足を踏み出す度に体に伝わる痛みを感じながら
ぼんやりと悦子は考えていた。
なんで…中田三郎は私にあんな事したんやろ…
さゆりさんはどうするんよ?
なんで、私にあんな事したんよ?
私、何か中田三郎にしたん?
気づかないうちに中田三郎の事傷つけてたん?
なら、言ってや…
お願いだから言ってや…
謝るけん、許してもらえるかどうか分からんけど
謝るけん
一生懸命謝るけん
だから、だから、あれは嘘やって言ってや………
せやないと、私、どうにかしてしまいそうや………
やっとの思いで浴室に着くと今まで堪えていた涙が溢れ出した。
ぽたぽたとシャツに落ちていく涙の雫は
三郎に汚された体を洗い流すかのようにとめどなく
悦子の瞳から流れ出す。
悦子はそれを隠すかのようにシャツや下着を脱ぎ捨てると
足早に中に駆け込みシャワーのコックを捻った。
「うっ…ひっく、んっ………なんで、なんでなんよ………」
ざぁざぁと肌に伝わるお湯の温かさは悦子の心を優しく包み込むかのようだった。
涙も三郎に汚された体も全て洗い流してくれるかのような錯覚を感じていた。
唇を噛み絞めながらむせび泣く哀れな少女は
自分を犯した相手を憎みきれなかったのだろうか
時折、掠れた声で小さく三郎の名前を口にした。
──あれも夢やったんやろか?──
「悦ねぇ…大好きや…この気持ちに偽りはない。ほんとや…」
おぼろ気ではあるが三郎の声が聞こえた。
普段の彼とは違う、すがるような声に悦子は戸惑いを感じた。
騙されたあげく、処女を散らされた相手のはずなのに
唇に伝わる三郎の温もりに不思議と嫌な気持ちは起こらなかった。
中田三郎…?どうしたん?その言葉を口にする前に悦子は深い眠りに落ちていった。
夢の中での一時ではあったが多恵子達の笑顔が眩しかった。
「はよう、おいで!」
そう自分に呼びかける多恵子達の姿が眩しくてたまらなかった。
多恵子達の笑顔は身も心も傷ついた哀れな少女を慰めた。
多恵子、利恵、敦子、真由美、それぞれの優しい笑顔
それぞれの顔を思い浮かべては込み上げてくる涙
「ヒメは…夢の中でもヒメのままやったな………」
普段はおっとりとした敦子だが
スイッチが切れてしまうと周囲が驚くぐらい人が変わってしまう癖があった。
気の強い、多恵子や理恵も敦子にはかなわなかった。
スイッチの切れてしまった敦子を止める役目はいつも悦子だった。
むしろ、悦子にしか出来なかったのだろう。
「ヒメ…私、怒ったヒメの顔よりも…笑ってるヒメの顔の方が好きや………」
悦子自身に自覚はないのだが
涙目でそう敦子に訴えるその姿を見て
他の女子メンバー達は心の底から
自覚がないって恐ろしいもんやな…と思った。
さっきまで、怒りに身を任せていた敦子の姿はどこに行ったのやら
今では、ニコニコと笑顔を浮かべ
「悦ねぇ…ごめんなぁ…心配かけて…ほんと、ごめん…」
などど言いながら悦子に抱きついている。
なにせ、悦子自身に自覚がないのだから性質が悪い。
「うん…ええよ…ヒメ…大好きや………」
本人に自覚が無いのだから仕方がないのだが
うるうると大きな瞳を潤ませて涙目で訴える悦子の姿を見て
なんで、それを中田三郎の前でせえへんのやろか…
あんなんされたら、中田三郎どころかうちらも…あかんわ…
まっ、それが出来へんから可愛ええんやけどなぁ…
大きな溜息を付くばかりだった。
ただ、一人多恵子を除いては──
「ブーは………ブーはっ………あんなんブーやない!!!」
悦子は吐き捨てる様に言った。
そんな事したところで何かが変わる訳でない。
だが、口にせずにはいられなかった。
「ブーは…あんな卑怯な真似はせん………」
夢の中の一時の出来事
所詮、夢の中で起こった出来事やないの
何をそんなに悩む必要があるんよ?
あんた、そんな子やった?
うじうじして、一人で悩んで…泣いて…
いつもの元気な悦ねぇはどこ行ったんよ?
大体、ブーがあんたにそんな真似する訳ないやろ?
ブーは、あんたの事が───
好きなんやで?
いつも、守ってくれたのは誰?
ピンチの時は必ず、助けに来てくれて
悲しい時は黙って泣いてる理由も聞かず
そばにいてくれたんは誰よ?
あんたがブーを信じないでどうするんよ?
しっかりせえよ
キャプテンやろ?
みんなのキャプテンやろ?
キャプテンがこんなんでどうするんよ?
しっかりせえや………
「ブー…ブーに会いたいけん…ブーの顔が見たいけん………」
少女は嗚咽の混じった声で愛しい男の名前を口した。
ブー、ブーと浩之の名前を口にする事で気を紛らわせようとしたのだろうか
何回も愛しい男の名前を口にした。
空しい声が浴室に響く。
愛しい男の名前を口にしたところで
男が現れる訳もない。
男の名前を呼ぶ少女の声は弱弱しく
今にも壊れてしまいそうだった。
いや、いっそ、壊れてしまった方が良いかも幸せなのかも知れない。
──ブー…私、どうしたらええんやろね………
──分からないんよ…
──あんたも…中田三郎も…私には分からないんよ………
少女の悲しい叫び声と共に夜が明けようとしていた。
「なぁ、なぁ、やっぱ、あれって…悦子の彼氏なんやろ〜?」
姉の紀子は隣で味噌汁を啜っている悦子の肘をこんこんと小突く。
悦子は紀子の問いに答えず黙って味噌汁を啜っている。
やっかいな事になったな…悦子は心の中で溜息を付くばかりだった。
なんせ、朝から顔を合わせるや否や、おはようよりも先に出てきた言葉が
あの子と付きおうてるん?
どこで知り合ったん?
どっちが告ったん?
いつから付き合ってるん?
あの子のどこが好きになったん?
これだった。
悦子とて、姉の紀子の事が嫌いな訳ではないが
これには、心底うんざりしていた。
悦子は姉に聞かれる度に、中田三郎とはそんなんやない!と答えたが
紀子は本気にせず、照れんでもええやないの〜付きおうてるんやろ?と
にやにやと笑うばかりだった。
いっそ、本当の事を言ってやろうか?
そんな考えが頭に浮かんでは消えていく。
紀子とて悪気があっての事ではない。
悦子にだってそれは分かっていた。
誰がどう考えたって、悦子と三郎の間に起こった出来事など
思いもつかないだろう。
悦子を背負って来た人間が恋人に見えなくて何に見えると言うのか?
しかも、三郎は前にも悦子の家に来ているのだ。
その時の親しげに話を交えている二人の姿は恋人同士の様だった。
楽しそうに笑いながら話を弾ませる二人を見て母達は話しに華を咲かせた。
唯一、幸雄を除いてはだが
悦子は視線を幸雄の方に向けた。
紀子や母親達は耳に蛸が出来るぐらい三郎の事を聞いてくるが
幸雄は三郎の事を一向に聞いてこない。
そればかりか、悦子と口も聞こうとしない。
おはようと言っても「あぁ…」と答えるばかりだった。
──元から口数の多い人やないけど…
悦子は味噌汁を啜り終えると静かにお椀を下ろし
「ごちそうさまでした…じゃぁ、行って来るけん」
少しぐらい聞いてくれてもええやないの…
──やっぱり、私の事なんか可愛くないんか?
両手で手を合わせごちそうさまでした…と言うと
席を立ち居間を後にした。
足早に席を立ち、玄関に向かう悦子に紀子は抗議の意味を込めて
「え〜もう、学校行くんか…?ええやないの〜今日休みやで?
ゆっくりしようや〜彼氏の話聞かせてよ〜えっちゃんのいけず〜」
とからかう様に悦子の頭をぽんぽんと叩いた。
「だから、中田三郎はそんなんやないって言うてるやろ!!!」
悦子は姉の手を払いのけると靴を履き玄関のドアに手を掛けようとした。
「悦子…中田君と付きおうてるって言うのはほんまの事なんか?」
「付きおうてないって言ってるやろ!お姉ちゃんしつこい………お、おとうちゃん?!」
何度も何度もしつこいけん!!悦子が振り向くとそこには紀子ではなくて
幸雄が立っていた。
悦子は驚きの余り、言葉を失った。
起きてから、一度も口を聞こうとしなかった幸雄の第一声が
中田君と付きおうてるんか?だったからだ。
「悦子、正直、お前に彼氏が出来た事を認めたくもないが許したたくもない…だが…」
「お、お、お、おとうちゃん………」
酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせる悦子をよそに、幸雄は話を続けた。
「昨日の中田君の紳士的な態度を見ていてな…考えが変わったんや…
こいつにならお前を任せてもええってな…俺も丸くなったもんやの………」
幸雄は深く溜息を付くと寂しげな笑顔を見せた。
──おとうちゃん…違う、違うんや…私と中田三郎は…そんなんやない
──中田三郎は…私を………私を………中田三郎は………
──そんな人間やない…中田三郎に私は無理やり犯されたんや………
──嫌や、嫌や、言うても止めてくれなかったんや………
そう口にしてしまいたかった。
だが、幸雄の寂しげな笑顔がそれを思いとどませた。
悦子は喉元まで出掛かった言葉をぐっと飲み込むと
「おとうちゃん…ありがとう………」と
とびっきりの笑顔を作り幸雄に微笑んだ。
その笑顔に釣られて幸雄も微笑んだ。
そんな二人の様子を見つめていた母達は
幸雄との仲も中田君が取り繕ってくれたと手を叩いて喜んでいた。
──自分が、我慢すればええ…私が我慢すれば…ええんよ…
──おとうちゃんの笑顔を見れるんなら我慢するけん…
二人の間に数年ぶり、いや、あるいは初めてであろう優しい時間が流れた。
どれだけの時間が流れたのだろうか、二人の間に流れす優しい調べは
言葉を交わさずとも
今までの衝突やすれ違いで出来た溝を埋めていくには十分だった。
幸雄のこんなにも穏やかな顔を見た事があっただろうか
いつも、顔をしかめてばかりの父親の穏やかな顔つきに
悦子は驚きを隠せなかった。
それと同時に初めて幸雄に認めてもらった気がした。
今まで、幸雄が悦子に見せていた姿からは想像が付かない。
穏やかな優しい笑顔
その笑顔を壊してしまう事など出来なかった。
三郎との間に起こった忌まわしい出来事を話してしまえば
幸雄の笑顔は消えて無くなってしまうだろう。
二度と、自分に笑顔を見せてくれなくなってしまうかも知れない。
──そんなのは嫌や!!!
──おとうちゃんを悲しませとうない………
──この笑顔を壊しとうない…
──私が忘れてしまえばええんよ…中田三郎にされた事
──忘れてしまえばええんよ。そしたら、みんな幸せなんや………
うつむいて涙ぐむ悦子を見て幸雄は悦子の肩を小さくぽんぽんと叩き
「泣くな、泣きたいのはこっちや…可愛い娘を他所の男に取られてからに………」
そう呟いた。
「おとうちゃん………今、なんて………」
悦子は自分の耳を疑った。
いつも、自分をけなしてばかりいた父親
褒められるのは姉の紀子ばかりだった。
その父親が、今、自分を可愛いと言った。
自分は愛されてないんだと思い込んでいた悦子には信じられない言葉だった。
「な、な、な、なんも言っとらん!!!ほら、悦子、学校はどうした。はよ、行け!!!」
さっきまでの穏やかな幸雄はどこに行ったのやら
顔を真っ赤にして、ぷぃっとそっぽを向いてしまった。
「おとうちゃん…もう一回言ってや…なんて、言ったん?」
悦子は幸雄の言葉が聞こえなかった訳ではない。
もう一度、幸雄の口から言わせたかったからだ。
もう一度、父親から可愛い娘…と言われたかったからだ。
悦子がそっぽを向いてしまった、父親の背中を叩こうとした時
─ピンポーン─
チャイムのけたたましい音がなった。
「誰や…こんな、朝、はよう時間に………はーい、どちら様です………中田三郎?!」
悦子はぶつぶつと小言を言いながら戸を開けた。
扉の先に立っていた男は、今、悦子が一番会いたくない相手だった。
「おお、中田君か?こんな、朝早くからどうしたんや?」
こともあろうに、父親は娘を騙した挙句、犯した男相手に
親しげに言葉を投げかけている。
「ちょっと、篠村の様子が気になったもんですから…来てしもうたんです…
朝、はよう時間にすいません…どうしても、顔が見たかったもんで………」
三郎はそう言い終えると頭を深く下げた。
「そうか、わざわざすまんな…今、ちょうど悦子が学校に行くとこなんや…悪いんやけど………」
「あっ、学校なら俺も一緒に行きますから安心して下さい。俺もそのつもりで来たんです」
一緒に学校に行ってやってもらえないか?そう幸雄が言葉を続ける前に
三郎は口を挟んだ。
悦子は二人のやりとりを黙って見ていた。
三郎を見つめるその瞳に笑顔はなく
まるで、人形の様だった。
──どういうつもりや…こんな朝、はよう時間に…家に来たりして…
──しかも、おとうちゃんに挨拶なんかしよって………
──中田三郎、あんた…何考えてるんよ?私には、あんたが分からないんよ…
──あんたの考えてる事分からないんよ…
「えっちゃん〜何、そんな怖い顔しとんの?彼氏の前や!もっと、にこにしぃ!!!」
いつのまに、来たのだろうか?ぼーっと三郎を見つめていた悦子の顔の前で
──パンっ!!!──
と手を叩いた。
「えっ…あ、う、うん…そうじゃね…彼氏やもんね…彼氏………」
悦子は驚いてびくっと体をすくめた。
とっさに、口走ってしまった言葉に
しまった!!と後悔したが…後の祭りだった。
「へー、やっぱり、彼氏なんや…初めから、素直にそう言えばええのにぃ〜」
紀子はにたにたと、顔を歪ませると母達にも聞こえる様に大きな声で
「中田君と悦子、付きおうてるんやて──!!!今夜は、お祝いにご馳走作ろうな。おかあちゃん!!!」
そう言った。
「だから、中田三郎とは何でもないって………」
言うてるやろ!!
口にしてしまいたかったが止めた。
瞳に、楽しそうに手を取り合っては笑い合う友子とキヌの姿が飛び込んで来たからだ。
今夜、作るご馳走のメニューでも考えているのだろう。
楽しそうに、あーでもない、こーでもないと話し合っている。
そんな、二人の姿を見て悦子は言葉を失った。
今、悦子が三郎との事否定すれば
幸雄は、おろか、悦子以外の人間が傷つくだろう。
いや、傷つきはしなくても
まず、信じないだろう。
言ったところで、信じる訳がない。
また、悦子のあまのじゃくが始まった…
そう思われるだけだ。
それに、悦子の口から言える訳がない。
自分の隣にいる男に私は犯されました。などと言える娘がどこにいるだろうか
言うぐらいなら、舌を噛み切って死んでしまう方がええ…
仮に、悦子が言ったところで誰も信じないだろう。
にこにこと人当たりの良さそうな笑みを浮かべ
礼儀正しく、幸雄達に接する三郎の姿は好青年そのものだからだ。
間違っても歪んだ愛情の持ち主には見えないだろう。
そう、間違っても───
「じゃぁ、行ってくるけん…今夜は早く帰って来れると思うから…心配せんといて………」
溢れ出す思いを必死に抑えて、消え入りそうな声で告げると
三郎の手を引っ張り外に出た。
途中、「中田君と一緒に帰っといでよ。中田君の分も作っとくけん!分かった〜えっちゃん!!!」
姉の声が聞こえたが悦子はそれに答える事なく無言で戸を閉めた。
「わかっとるよ…言われんでも分かっとるけん…お姉ちゃんのあほ………」
悦子は唇を強く噛み締めた。
ぎりぎりと強く噛み締めた。
唇からは赤い鮮血が滲んでいる。
鮮血は悦子の唇を妖しく色づかせた。
唇から滲み出る鮮血は肌の白さを際立たせていた。
「悦ねぇ、あかんよ。そないな事せんといてや…」
三郎は頬を撫でると、指を口元に持っていき
血で滲んだ唇に触れた。
「んっ………」
三郎は血を掬い取ると、それをぺろりと舐めた。
(悔しゅうて、どうしようもなくて唇を噛んだんやな…)
「なっ…中田三郎、あんた、何して…や、やめっ!!」
三郎は悦子の唇に舌を這わすと血で滲んだ部分を
極力、悦子が痛みを感じない様に優しく舐めた。
「消毒や、悦ねぇが怪我したから消毒したんや」
血を全部、舐め終えると三郎は悪びれる様子もなく
笑顔で悦子に告げた。
「つっ…中田三郎…あんたって人間は………んっ!!やぁっ、いっ………」
三郎は悦子の首筋に舌を這わすと、何を思ったのか
首筋に噛み付いた。
軽い甘噛みだったがそれで十分だった。
悦子は瞳を涙で潤ませて、三郎を見つめている。
強くせずとも、悦子の恐怖心を焙るには十分すぎる程だった。
(ええ表情…ほんと、虐めたくなるわ…可愛ええ、ほんと、可愛ええ…)
「もう、二度とこんな事したらあかんよ?分かった?」
「分かった………分かったけん………」
涙を滲ませながらじっと、三郎の眼を見つめて悦子は言った。
涙で赤くなった下瞼が何とも言えず、色っぽい。
(可愛ええな…虐めて下さいって顔して…誘ってるんか?)
「そうか、なら、ええよ…ほんなら、学校行こか?」
「えっ、あ、う、うん…」
三郎は優しい声色で悦子に優しく問いかけた。
三郎に優しい声色に安心したのだろうか
悦子の口元から歯がこぼれた。
ちらりと見える白い歯は何とも愛らしい。
歪ませたい、この可愛ええ顔を
呼ばせたい、息もたえだえに俺の名前を
今にも、押し倒してしまいたい衝動に駆られたが
ぐっとこらえた。
今、無理強いするには三郎にとって得ではない。
飴と鞭を上手に使い分けて悦子を自分から
離れられなくする…ボートも浩之も瞳に映らないよう
己の虜にする。
それが、三郎の目的だからだ。
(まだ、まだや…ゆっくりでええ…ゆっくり虐めて俺から離れられないようにしたるわ…)
「ほら、後ろ乗り、しっかり掴まっとくんやぞ」
三郎は自転車に跨ると手招きをし
後ろに乗り、と悦子に促した。
悦子は素直に後ろに乗ると三郎の腰に手を回した。
少女が罠に掛かった瞬間でもあった。
三郎は素直に自分の言う事に従う悦子を見て
ほくそ笑んだ。
自転車を漕いでる間、三郎は悦子に優しく語りかけた。
たわいもない話を面白おかしく喋った。
その度に、悦子は笑い声をあげた。
三郎に話しに笑い声をあげる悦子の姿からは
二人の間に起こった忌まわしい出来事によって傷ついた
少女の顔の面影が消えていた。
正確には、消えていた訳ではないのかも知れない。
だが、三郎の話に声を立てて笑う悦子の顔からは
三郎に対する嫌悪の色が薄まっていた。
残酷な罠が待ち受けているとも知らずに──
そんな罠が待ち受けているとは知らず
悦子は、時折小さな声で
「中田三郎の背中、あったかい…ほかほかするけん………」
と言っては強く三郎に抱きついた。
(のんきなもんやなのぉ…これから、どうなるとも知らんで…)
背中に顔を埋めて時折、そう呟く悦子に三郎は小さく笑った。
獲物を捕らえた狼の様に笑うその様は
獣以外の何者でもなかった。
「ほら、着いたで、案外、はよう着いたなぁ…」
三郎は、駐輪所に自転車を止めると恥かしがる悦子の手を取り
自転車から降りた。
「あ、ありがとう…もう、ええよ…私、自転車取りに来ただけやし………」
悦子はそう言うと、昨日、乗って帰れなかった自分の愛車に向かおうとした。
「えーやん、そないに急がんでも…せっかく、来たんやし…ゆっくりしようや」
ぐいっと三郎に手を掴まれると、そのまま三郎の体の中に引き寄せられた。
「やっ、やぁっ!!は、離し…離して…」
悦子は三郎の腕の中から逃れようと、必死で暴れるが
三郎の力に敵うはずもなく
力はどんどん弱まっていき
「ゆっくりして行くんなら、離してもええけど?」
「うっ…わ、分かった…ゆっくりしていくけん………」
抵抗するのを諦めた。
「そうか、ほんなら部室にでも行こか」
「えっ、部室…それは、いや…あ、う、うん、何でもないけん…」
部室に行きたくない、そう言えばまたヒドイ事をされるとでも思ったのだろう。
言葉の続きを言わなかった。
三郎に手を引かれて悦子はとぼとぼと歩いていく。
肩を落とし、下を向いて歩く悦子とは対照的に
三郎の機嫌は良かった。
口笛を吹きながら、時には鼻歌を歌いながら歩いていた。
機嫌が良いのも当然だろう。
悦子はもう手に落ちたも同然だったからだ。
(あぁ…楽しみやな…これから、悦ねぇは俺だけの悦ねぇになるんやからのう…)
哀れな少女はこれから、自分の身に起こるであろう未来を分かっているのだろうか?
それとも、まだ男を信じているのだろうか?
いや、どちらでもないのかも知れない。
少女の真っ黒い瞳からは諦めの色が漂っていた。
三郎はそんな悦子の姿を瞳に映すと
満足そうに口角を上げた。
「ほら、着いたで…悦ねぇ、先入り」
「えっ、あ、う、うん、分かったけん…」
三郎は部室のドアを開けると悦子を先に部室に入れた。
一瞬、手を離してもらえるんやろか?
悦子は思ったが、いかんせん、相手は三郎だ。
悦子の考えなどお見通しだった。
三郎が悦子の手を離す訳がない。
パタンとドアの閉まる音がしたと同時に
ガチャっと鍵を掛ける音がした。
「えっ、な、中田三郎、何するんよ…何で、鍵を掛ける必要が…や、やめっ!!!」
悦子が驚いて三郎の方に体を向けるや否や、そのまま床に押し倒されてしまった。
目をまん丸に大きくして信じられないと言ったような表情で己を見つめている
悦子を見て三郎は悦びを覚えた。
(なんや、信じてたんか…可愛ええのう…簡単に信じるなんて…ほんと…可愛ええわ)
三郎は震える悦子の頬をぺろんと舐めた。
悦子は気持ち悪いといった風に顔を歪める。
「そう簡単に人を信じちゃあかんよ…例えば、俺とかやね…」
楽しそうに笑いながらそう言い放つ三郎に
悦子は身をすくめた。
「ブーは…ブーは違う…ブーは………やぁっ、や、やめっ、おねが………」
悦子の口から浩之の名前が出るのは予想していた。
予想はしていたが、実際、悦子の口から他の男の名前が出るのは
気分が良いもんではない。
(ブー、ブーって…そないに、関野がええんか?まっ、ええわ…今だけやしの…)
三郎はスカートの中に手を滑り込ませると太腿を撫でた。
三郎は悦子を焦らすように指を滑らせた。
指に感じる、なめらかな手触りと恐怖の色
「抵抗しても無駄やで?関野が来る訳ないやろ?俺と仲良うしようや…」
腿を撫でていた指は段々と内腿を上がっていく。
悦子は必死で足を閉じようとするが恐怖で足に力が入らない。
「あれっ?何や、濡れてるみたいやけど………?どないしたん?」
ショーツに指を這わせるとそこは湿っていた。
三郎がからかうようにどないしたん?と聞いた。
「ど、どうもせえへんよ!!お願いやから…離してや………」
涙で瞳を潤ませながらも気丈に答える悦子の姿は
男の劣情を誘うだけだった。
(いつ濡れたんやろか…調教のしがいがありそうやのぉ…こないにスケベやったとは…)
「そうか?心配やなぁ…こないな所にしこりまであるし………」
陰核を見つけるとそれを軽く引っかいた。
「ふっ…あっ、ああっ!!!」
引っかいた時、悦子が甘い吐息を漏らしたのを三郎は見逃さなかった。
かりかりと爪を立てて軽く引っかいては突いた。
「んっ、あっ、あぁん!!や、やめ、んっ!!!」
つんつんと陰核を小突く度に悦子の口からは吐息が漏れ
蜜壷からは蜜が溢れ出した。
(しかし…ほんと、スケベやのう…まだ、ちょっとしか触ってへんのに………)
「う〜ん、掻いても掻いても取れへんのう…それに、しこりが固くなってきてるしなぁ…」
三郎は固さを増した印核をきゅっと強く摘んだ。
「あっ、あぁ…やぁっ…摘ままんといてぇ………」
涙目でそう言われたところで説得力などある訳もない。
(嫌がってる割には、随分とイヤラシイ声をあげるのう…体は素直やのに…)
「こりゃ、直でみんとあかんな。よし、中田先生が見てやるから安心せえ!!」
三郎は嫌がる悦子をよそに、ショーツを下までずり下げると
そのまま手にかけて取った。