「む〜〜、これも使えませんわ。……これもダメ。あれもダメ……ふ〜、エンジェル隊の  
皆さんをギャフンと言わせるロスト・テクノロジーなんて、そう簡単に見つかりませんわ  
ね……」  
GA基地保管庫で溜め息をつくのは烏丸ちとせ。アニメ版では何故か「準」配属状態の  
エンジェル隊の一員である。外見は黒髪が印象的な大和撫子だが、性格は少々エキセン  
トリックで……。  
 
「これですわ! 『対女性兵士専用・悶絶ぐりぐり電撃振動拷問兵器』! ……なんだか  
良く分からないですが、エンジェル隊の皆さんも女性兵士の端くれ、効果は期待できます  
わね……!」  
ガサガサと保管庫の奥から引っ張り出したのは1/1スケールの美少女アンドロイドだ  
った。長い銀髪と白い肌。アルピナを思わせる容貌はで、表面は人工皮膚製であった。  
「う〜〜ん……う〜〜ん……、どっせ〜〜い!」  
華奢な体つきに似げず、ちとせは一人でそのアンドロイドを背負い、入り口近くの広場に  
放り出した。ガシャン! ガラガラ・・・!! 命の吹き込まれていないアンドロイドは  
受身もせず、顔から床に叩きつけられる。  
 
「はぁ……はぁ……。こ、これがマニュアルですのね? えっと……起動スイッチは……  
右耳を引っ張り、左耳を引っ張り、鼻を押す……こうして、こうして……こうですのね?  
……お? 動き出しましたわ…!」  
静かな動力モーター起動音が鳴り続けた後、温水循環機能が作動し、人形の人工皮膚に  
血の気のような温かみがさしてくる。暫くすると意識が戻った人間のように瞼が開き、  
赤い虹彩の瞳が見開かれた。そしてゆっくりと起動する。銀髪が靡き、人工皮膚の放熱  
粒子がオーラの様に美しいボディラインを彩り、まるで妖精の女王が起き上がったような  
美しさだ。  
 
その人工妖精は起き上がるとちとせの前に立ち、ゆっくりと周囲を見渡した。そして、  
ちとせを足の爪先から頭のてっぺんまで機械的に視線を動かす。この時、アンドロイドは  
ちとせの体をスキャンしていたのだが、彼女はエンジェル隊に対抗する兵器を見つけた  
喜びで全然気づいていない。  
 
「はぁ〜〜。素敵ですわぁ〜。この美しい人形がエンジェル隊の皆さんを恐怖のドンゾコ  
に陥れる死の御使いだなんて。あなた、名前はなんと言いますの? 人工知能と言語発声  
機能は備え付けてありますわね?」  
うっとりするちとせに美少女アンドロイドはゆっくりと口を動かした。  
”私の名前は 『E.V.』。『イヴ』 と読みます……”  
「イヴさんですね? 私の名前は烏丸ちとせ。貴女の新しいマスターですわ。これから  
よろしくお願いしますのよ」  
ちとせの笑みにイヴは一瞬戸惑うような視線を向ける。が、それに気づかず、ちとせは  
言葉を続けた。  
 
「あなたにはエンジェル隊の皆さんをギャフンと言わせる武器になっていただきます。  
対女性兵士専門兵器だそうですね? 長く封印されていたようですが、あなたのその  
能力をすぐさま発揮できる自信はありますか?」  
イヴはちとせの話を聞きながら暫く黙考していたが、おもむろに口を開いた。  
 
”エンジェル隊のメンバーを 酷い目にあわせればよいのですね? わかりました   
それは 私の作られた目的とも一致します また 自動メンテナンス装置が働いてい  
ましたので 起動後速やかに稼動が可能です……”  
「すばらしいですわ! では、エンジェル隊討伐に向けてレッツゴー! です」  
上機嫌で倉庫を出ようとするちとせ。なんだか凄そうなロストテクノロジーを見つけて  
珍しく幸せそうに笑顔が輝いている。  
 
”その前に質問があるのですが……”  
イヴはそんなちとせに頓着せず、無機質に発声する。  
「なんなりと。これから私のために働いてくれる下僕のためですもの。なんでもお答え  
しますわ」  
”では質問です マスターとは何ですか? そのような言葉は 私の語彙には 存在し  
ませんが?”  
 
「……え?」  
ちとせが戸惑いの声を上げたとき、イヴはちとせの両肩をがっちりと掴んでいた。  
動いた気配が殆どしなかったのに……?  
”私の名前は 『E.V.』 『Electric Vibrator』…… 対女性兵士専用拷問兵器  
です 女性兵士『カラスマ チトセ』を認識 電気振動拷問します”  
「ち…ちょっと待って!? ……ひっ!?」  
逃げようとするちとせだが、イヴの力は人間よりも遥かに強く、全く動けなかった。  
するり、と肩口から伸びた触手にあっという間に拘束される。  
「ま、待ってください!! 話せば分かりますの……! きゃあああ〜〜!!」  
”問答無用です 全ての悪しき女性兵士に 電気アンマの裁きを……”  
イヴの右手がちとせのロングスカートを掴み、真っ二つに引き裂いた!  
 
 
「この…! 当たれ!!」  
「フフフ…。まだまだ、そんなのじゃ、余裕でかわせちゃうよ!」  
基地のロビーで突っかかってきたツインスター隊のココモを蘭花が相手になり、  
あっさりとココモの攻撃をかわしていく。さっきから何度となくココモが打ち込んで  
いるが、蘭花は涼しい顔で受けたり流したりして、自分からは攻撃に行かない。  
その分、如実に実力差を見せ付けてココモのプライドを刺激する。  
 
「くっそ〜〜!! これで、どうだ!!」  
ココモ渾身の飛び蹴りが蘭花の頭部に命中する直前、ランファは左手で受け流し、  
ココモの胴に加減した掌底を打ち込んだ。  
「げふっ…!!」  
ココモは体をくの字に折り、反対側のソファまで吹っ飛んだ。  
「だ、大丈夫ですかぁ〜?」  
居合わせたミルフィーユが駆け寄り、ココモの様子を見る。  
「ぐっ……うう……」  
意識はある。派手に飛ばされたが、着地した所がソファだったのでココモのダメージは  
最小限で済んだようだ。子供相手なので蘭花が手加減し、ちゃんと着地地点も考慮して  
打ち込んだのだ。  
 
「フフ……。ま、今日の蹴りはなかなか良かったよ。この前よりスピードも上がったし、  
頑張ったとは思うけど……まだまだだね」  
ニッコリと蘭花はココモに手を貸そうとする。しかし、ココモはそれを払いのけて拒否  
した。  
「こ、子ども扱いすんな! 今日はその……昨日の夕食が食あたりして力が入らなかった  
だけだからな! 次は……絶対一撃打ち込んでやる!!」  
ココモはとんぼ返りで立ち上がり、蘭花をにらみつけた。  
「負けず嫌いの子、大好きだよ。いつでもかかっておいで。相手したげる」  
やはり笑顔の蘭花に、フン、と背を向けてロビーを出て行くココモ。兄のマリブがそそ  
くさとお辞儀をしながら弟の後を追う。その姿を見送りながら、軽い準備運動をこなした  
と言うように金髪をかき上げる蘭花。  
 
「蘭花さんって、強いですねぇ〜。感心しちゃいますぅ〜」  
脳天気な声をかけるのは例によってミルフィーユだ。目をキラキラ輝かせて蘭花を見る。  
「まぁね。あいつももう少し強くなってくれたら、本気を出せるんだけど」  
まんざらでもない表情の蘭花に、ミルフィーユは更に尊敬の眼差しを向ける。  
「今ので本気じゃないんですか? 蘭花さんには弱点なんてなさそうですねぇ〜?」  
それを聞いて、ソファの影にいた大柄の女性がクスクスっと忍び笑いする。  
「なによ、フォルテさん。言いたい事があるならはっきり言えば?」  
ちょっとムッとして蘭花がフォルテを睨む。  
 
「だって……蘭花には『苦手な技』があったよなぁ?」  
「あれは……!! し、仕方ないじゃない! 鍛えられないところなんだし……それに  
フォルテさんだって、そんなに得意じゃないでしょ?」  
少し意地悪な表情のフォルテの言葉に蘭花は何を思い出したのか、真っ赤になって  
反論する。  
「まあ、あれが得意な女の子なんていないからね。例えアンデッド級のミルフィーユでも」  
「はい? 私が何か?」  
「なんでもないよ。そんな事、あんたも相手しなくていいの! それより次の作戦は  
あんたとあたしが組むんだから、ブリーフィングルームに行くよ!」  
蘭花がミルフィーユを連れてロビーを出ようとした時、反対側からよろよろと入ってきた  
女の子がいた。烏丸ちとせである。  
 
ちとせは虚ろな瞳を漂わせながら、壁伝いに歩き、そして入り口にへたり込んだ。彼女の  
雰囲気もさることながら異様なのはそのコスチュームだった。スカートは縦に深々と切り  
裂かれ、縞柄のショーツが丸見えになっている。そして頬を赤らめて荒い息……これだけ  
突っ込みどころがあれば、彼女がいつもと違うぐらいは誰でもわかる。  
 
「ちとせさん! どうしたんですか!?」  
ミルフィーユが駆け寄る。いつもの通り、スルーしようとした二人だが、今回の彼女は  
様子が少し違うのが気になる。  
「え……エンジェル隊の皆さん……逃げて……くださ……」  
ちとせが何かをミルフィーユに伝えようとした、その時……!!  
 
「きゃあああああああああ!!!」  
「メアリー少佐!?」  
ツインスター隊のリーダー、メアリー少佐の悲鳴が廊下から聞こえる。  
「なんだ!?」  
「どうした!?」  
早速戦闘態勢に入り、レーザーガンを構えて廊下に飛び出そうとする蘭花とフォルテ。  
「ま……待ってください! 行ってはいけません! あの敵にはあなた達でも……」  
ちとせが止める。  
 
「しかし…! メアリー少佐が!!」  
「敵!? 敵って何よ!?」  
「ロストテクノロジーの暴走ですわ。メアリー少佐はお気の毒ですが諦めていただくしか  
ありません……。命にかかわる事はありませんし……。皆さんは反対側から逃げてくださ  
い! 私を連れて……!」  
最後の言葉を強調しながらエンジェル隊を止めるちとせ。廊下からはメアリー少佐の絶え間  
ない悲鳴が聞こえ続けている。  
 
「命にかかわる事ではない?」  
「でもあんた、さっき、あの敵には私達でも叶わないとか言ってなかった?」  
「ええ……恐ろしい敵ですわ。ある意味、死より恐ろしい……女に生まれてきた事を後悔  
しそうな事をされてしまいますの……あの拷問人形に……!」  
「女に生まれた事を後悔する……」  
その場に居合わせたエンジェル隊のメンバーが顔を見合わせ、ごくりと生唾を飲む。  
ちとせがそこまで言うとは、一体どのような体験をさせられるのか?  
 
「……来たわ」  
それまで無言だったヴァニラが呟く。いつの間にかメアリー少佐の悲鳴は途絶えていた。  
その悪魔は生贄を嬲りつくしたようだ。  
「に、逃げた方がよさそうですわね……」  
エンジェル隊の一番後ろですぐさま逃げられるようにしていたミントが言う。  
「そ、そうですの! 早く! 今のうちに逃げましょう! 私を連れて!!」  
ちとせが切羽詰った声で叫ぶ。フォルテと蘭花がそのちとせをジト目で見つめる。  
 
「ロストテクノロジーがどうとか言ってなかったか?」  
「ええ、あの悪魔はロストテクノロジーの暴走した姿です」  
「それって、なんで今頃動いてるの?」  
「ぎくっ!」  
ちとせの背中に冷や汗が伝う。  
「誰かが封印を解いたからそんなものが動き出したんだよな?」  
「何のためか知らないけど、どうしてそんな事が……おまけに保管庫の管理は誰の担当  
だっけ?」  
「ぎくっ、ぎくっ!! い、いえ、私は決してそのような事は……エンジェル隊の皆さんを  
ギャフンと言わせようなどとは滅相もない、それに、例えそのようなと考えても、あのような  
悪魔だったなんて……あわわわ!?」  
どど〜〜っと、ちとせの全身から汗が噴出す。呆れたように顔を見合すフォルテと蘭花。  
 
「要するに、あんたの仕業なのね?」  
蘭花が呆れたように溜め息をつく。  
「おい、蘭花。敵と闘うにはその能力は知っておくべきじゃないのか?」  
「そうですね……」  
「え…? ええっ……!?」  
二人に見つめられ、オタオタと後退りするちとせ。手には閃光手榴弾を持ち、それを叩き  
つけて目くらまししているうちに逃げる算段を整えていた……が!  
 
「どうしたんですか? ちとせさん」  
その背をミルフィーユがひょいと掴みあげた。  
「み、ミルフィーユさん!? 後生ですから見逃してください!!」  
「え?」  
「よ〜し、よくやった。ミルフィーユ」  
フォルテがミルフィーユからちとせを奪い取る。「ひっ!?」と小さく悲鳴を上げるちとせ。  
そのまま逆さにして隠し武器を全部床に落とさせた。バラバラバラ…と、どこにこれだけの  
物が入ってたのか、とみんなが呆れるばかりの数の武器が床に山積みになる。  
 
「雷鳴弾、催涙ガス弾、BC弾……これらを使わなかったってことは、これでは倒せない  
相手か…そんなやつ相手に何の情報もなく立ち向かうのは無謀ってもんだな……ちとせ、  
君の尊い犠牲は無駄にしない。やつの生贄となって、その能力を我々の前に暴かせてくれた  
まえ…」  
痛ましげに瞳を閉じるフォルテと合掌するエンジェル隊のメンバーたち。ミルフィーユに  
いたっては涙ぐんでいた。意味が分かってるのかどうかは不明だが。  
 
「ちょっと待ってください!! わたし、いやです! もう、あんなことをされるのは…!」  
パニック状態のちとせに少なからず驚くメンバー達。その分、事態は深刻と思われ、ちとせを  
部屋の真ん中に置き去りにして、他のメンバーはいつでも逃げ出せるところに身を隠した。  
 
「お願い! 置いていくなら、いっそ殺して! あの拷問は……いやぁ〜〜!!」  
泣き叫ぶちとせの背後に迫る影……! ついにやつは来た!!  
「ひっ!!」  
その影に振り向き、おびえるちとせ。がくがくと腰が抜け、立ち上がれない状態で、必死に  
内股になり、両手で股間を守る。  
 
「……女の子!?」  
「しっ!」  
エンジェル隊の見守る中、全裸の美少女の姿で現れたイヴはちとせを視認すると、そのまま  
まっすぐに彼女に向かった。そして、背中から現れた二本の触手がちとせの両足を捉え、その  
まま広げる。  
「きゃあああ!?」  
恥ずかしい開脚状態で晒されるちとせ。さらにもう二本延びてきた触手が両手を掴んで股間  
から外させた。これで完全にちとせの股間は無防備になる。  
「助けて! 助けてぇ〜!! エンジェル隊のみなさぁん!!」  
 
”エンジェル隊……”  
一瞬、イヴは周囲をスキャンするように眺め回したが、  
”でも、今は貴女が先…… 今度は途中で逃がしたりしない……”  
「や、やめて! ゆるして〜〜!!」  
”許さない レーザーブレードで焼ききられた触手のうらみもここで晴らす 由緒正しい  
『正式の電気アンマ』で……”  
「いやぁ! もういやぁ〜〜!!」  
黒髪を振り乱し、泣き喚くちとせ。しかし、エンジェル隊のメンバーは誰も助けに出ない。  
ちとせのためにとばっちりを食いたくないからだ。  
 
「『正式の電気アンマ』?」  
蘭花が疑問に思っていると、イヴは触手で掴んでいたちとせの足を自分の手で掴み、脇に  
抱え込んだ。そしてちとせの足の間に座り込む。ガシッ!としっかりと抱え込んで、徐に  
右足を股間にセットする。これがどうやら正式な電気アンマの作法らしい。  
 
「確かにあそこまで固められたら逃げられんなぁ〜」  
感心したように腕を組むフォルテ。  
「冗談じゃないですよ。敵の攻撃って、電気アンマなんですか!? それは……」  
蘭花が顔を赤らめる。  
「蘭花の苦手技だもんな〜」  
「しっ! あいつに聞かれたらどうするんです!!」  
「ああ、ちとせさん!!」  
ミルフィーユの心配そうな声を聞き、部屋の中央の様子に集中する。ちとせは完全に電気  
アンマの体勢に入られ、全く逃げられない状態になった。  
 
「やめ……許して……」  
”振動、開始します”  
無機質な声で宣言すると、イヴはちとせに電気アンマを開始した。イヴの踵がちとせの縞柄  
ショーツの股間に食い込み、グリグリと捻りながらブルブル震わせる。  
「あああああああ〜〜〜!!」  
ちとせは悲鳴を上げ、おとがいを仰け反らせて悶える。解放された両手でイヴの足を退けようと  
するがビクとも動かない。内股になって震える股、懸命に堪えて紅潮する表情が実に色っぽい。  
 
「これは……私でもやばいな」  
「私もですぅ」  
「……」  
息を呑んで惨劇を見守るフォルテたちの横で蘭花は無言で俯く。フォルテに指摘された通り、  
蘭花は電気アンマが苦手なのだ。正確には電気アンマを含む股間攻撃が苦手なのだが。  
格闘大会でも常に優勝出来るポテンシャルを持つ彼女だが、それが偶然であっても、股間を  
触られたり、打たれたりすると、とたんに戦意を喪失し、敗退してしまう事がしばしばあった。  
(ちょっと打たれた程度でそれなのに、あんなの喰らったら……)  
ちとせではないが、一思いに殺された方がましかもしれない、と蘭花は思う。  
 
「はぁ……はぁ……はぁ……」  
電気アンマに悶えるちとせは一向に許される気配がない。既に何回か頂点に昇りつめらされ、  
体力がつきかけて、今は電気アンマされてビクビクと反応しているだけだ。  
”カラスマチトセ…… 貴女はかなり業が深いようですね ここまでされているのを見ながら  
まだエンジェル隊のメンバーが貴女を助けに姿を現さないなんて……”  
にやりとイヴは笑った、様に見えた。エモーション機能も備えているのだろうか?  
 
「な…なにぃ?」  
イヴの嘲笑はエンジェル隊のメンバーにも伝わったようだ。「いつまで隠れている?」と  
挑発するような口調。かなり高級なエモーション機能が導入されているようだ。  
「このまま言いたい放題、言わせておくつもりですか、フォルテさん」  
「ミント!?」  
「私に作戦があります。あのロストテクノロジーを破壊しましょう」  
「……大丈夫なのか?」  
どうしてもミントの立案には胡散臭さを感じる。今までが今までだけに仕方がないが。  
「大丈夫です。こうなったら一蓮托生です。私もあらん限りの知恵を絞りました」  
自信たっぷりの表情のミント。エンジェル隊で1,2位を争う腹黒さを持つ彼女を全面的に  
信頼するのは心もとないが、今は背に腹は代えられない。ちとせの尊い犠牲を無駄にしない  
ためにも、ここは一致協力して敵に当たらなければならない。  
……ちとせはまだ死んでないけど。  
 
「も…もうだめ…死んじゃう……死んじゃいます!!」  
あまりの切なさにちとせがついに泣き出した。いつもの嘘泣きではない、心の底からの涙だ。  
”わかりました これでとどめです ゆっくりお眠りなさい、ちとせ……”  
「ああ…やっと……はぁん……あああ〜〜!!」  
絶叫の果て、ちとせは失神した。力が抜けた彼女の肢体を解放し、立ち上がるイヴ。  
 
その時……!  
 
「ここだ!!」  
イヴの背後に現れ、ハンドレーザーキャノンを撃ち込むフォルテ。バシュッ!!と目がくらむ  
光がイヴの全身を覆ったが、すぐに何事もなかったように消えた。  
「だめだ! レーザー兵器は通じない! 行くぞ、蘭花、ミルフィーユ!!」  
フォルテが先立ち、蘭花とミルフィーユが続いてイヴが来た方向に逃げた。ミントの作戦が  
実行に移されたのだ。  
 
 
ミントの作戦指示通り、フォルテ、蘭花、ミルフィーユの三人がイヴを攻撃しながら  
引きつけていくのを見届けると、ミントは悠々と反対側の通路を歩いていった。  
そちらには緊急避難用の脱出通路があり……って、それは…?  
「とりあえずこの場は『私だけでも』脱出しなければ……それが皆さんを救う早道ですわ」  
 
どうやら仲間を利用して自分だけ助かるつもりらしい……。  
「失礼な。『戦術的撤退』と言って欲しいですわね。あんなものすぐに対処が出来る  
わけないですよ。すぐさま対策を練って救出部隊を派遣し、一刻も早く皆さんを  
助け出しますの」  
悪辣な勘の良さと面の皮の厚さと屁理屈の構成力。このあたりは同じ腹黒キャラでも、  
流石にちとせより一枚上である。  
 
パネルを操作して脱出通路へのセキュリティシステムを解除し、悠然と逃げようとする  
ミント。その時だった……。  
「まあ、命に別状は無い様子ですし、救出は一息ついてからでも良いですわね……  
ぬるめのお湯にゆっくりつかって……あら?」  
ミントの足下に影のような平面状の紐が伸びてきたかと思うと、するリ、と足首に  
巻きついた! それはすぐに立体化し、同時に足の間から銀髪の女性が顔を覗かせた。  
「きゃ!? なに、これ…? きゃああああ〜〜!!!」  
イブに捕らえられたミントの絶叫が通路に響き渡る。しかし、一人で逃げてきた彼女の  
周囲には助けてくれるエンジェル隊のメンバーはいなかった。  
 
一方その頃、ミントの策略で囮とされたフォルテたちは、それとは知らず、なんとか  
イヴを振り切り、警戒しながら居住区通路の影で小休止する。  
「移動速度はそんなに速くないのかな?」  
フォルテが銃を構えながら通路の向こう側を覗き込むとイヴのいる気配がしない。  
「だけど、いつまでもこうやって逃げてるわけにも行かないねぇ……。何か対策を  
見つけないと……」  
「フォルテさぁん! 蘭花の様子が変です!」  
「え?」  
ミルフィーユの声にフォルテが振り向くと、蘭花が困った表情で俯いていた。  
そう言えば、さっきから元気なく無言である。  
 
「蘭花、どうした?」  
フォルテが肩に手を置くと、蘭花はビクッ!と体を強張らせる。  
「あ……フォルテさん……」  
肩に手を置いたのがフォルテだと気づくと、かなりホッとしたように息をついた。  
「ゴメン、ぼ〜っとしちゃって。もう大丈夫だから……」  
懸命に笑顔を作ろうとするが、その乾いた笑顔はすぐに沈み込んでしまった。  
「……電気アンマされるのが怖いのかい?」  
フォルテがずばりと指摘すると、一瞬の沈黙の後、コクリと頷いた。  
「あれだけは……ダメなの。この前もミルフィーユと遊んでいた時に冗談でされたら、  
……大変な事になって」  
「そ〜ですよ! あの時の蘭花って、洪水みたいに……!」  
「こ、こら! そんなこと言うんじゃない!!」  
慌てて蘭花が真っ赤になりながらミルフィーユの口をふさぐ。  
 
「ふ〜む……あたしもそんなに強いって程じゃないけど……。ミルフィーユは電気  
アンマは平気か?」  
「え〜と……その……。得意じゃないけど、頑張りま〜す!」  
両手で拳を握り締める。どう頑張るのか、本人が分かってるかどうかは不明だが。  
「じゃあ、迎え撃つ時のフォーメーションは前衛2、後衛1を維持しよう。あたしと  
ミルフィーユでやつの進行を食い止めるから、蘭花はフォローに回ってくれ。いつもと  
役割が違うけど、大丈夫だよな?」  
簡単な決め事を説明しながら、蘭花を勇気づけるように見つめる。  
「う…うん。ありがとう、フォルテさん」  
蘭花も今度はニッコリと本当の笑顔を返した。二人の友情?に感謝する。  
 
「あたし達が食い止めている間にミントなりヴァニラなりが対策を見つけ出して  
くれればいいんだけど……」  
フォルテがそうつぶやいた時、  
 
《きゃあああああ〜〜〜〜!!!》  
 
「……ミント!?」  
さっきまで自分達がいた方向からミントの悲鳴が聞こえた。  
「しまった! あいつ、感づいたのか!?」  
フォルテが銃を構えて駆け出す。  
「ああ〜〜ん! 待ってくださぁ〜い!!」  
ミルフィーユがフォルテに続いた。蘭花も慌てて追いかける。どこから敵が現れるか  
わからない状態で孤立したくない。  
 
「ミント〜〜!! どこだ〜〜!!」  
フォルテとミルフィーユが左右を警戒しながら悲鳴の上がった方に駆けつける。  
後方の蘭花は背後を警戒しながらのため、二人より若干遅れ気味だった。  
一行が、士官住居区域を抜け、脱出通路のあるシェルター区域に入ろうとしたその時、  
音も無く一室の扉が開き、4本の触手が一瞬にして蘭花の口をふさぎ、続いて人型の  
本体が覆いかぶさってきた!  
「……!!!」  
蘭花はイヴにあっという間に組み敷かれてしまった。  
 
開閉音のしないリニア式のドアのせいか、前方に注意がいっていたフォルテと  
ミルフィーユは蘭花が後方で捕まった事に即座には気づかない。ミントの悲鳴が  
前方で聞こえているので仕方が無いところか。  
「もごもご……!」  
声を上げることを拒まれた蘭花はめちゃくちゃに抵抗した。覆いかぶさるイヴ向かって  
ストレートパンチを叩き込む。ドガッ!と手ごたえがあり、触手の本体が吹っ飛んだ。  
 
”……痛いわ……”  
と言いながらその人型のナノマシンはニコッと微笑んだ、ように見えた。  
「……あなたは!!」  
捕まった相手がさっきのナノマシンだと気づき。蘭花はとっさに逃げようとしたが、  
イヴの金色に光る瞳に吸い込まれるような気がして、動けなくなった。  
(な……なに? これ……!?)  
 
体が痺れたように動かない。なんだか実感が無いような、地に足が着かないような感覚。  
”私の名前はイヴ 対女性兵士専用拷問兵器 貴女に甘く切ない夢のひと時を……”  
蘭花は知らないが、ちとせが起動した時より、言葉が人間の女性らしくなっている。  
(拷問…兵器? あっ…!?)  
イヴはおもむろに蘭花の頬に手をやり、唇を重ね合わせた。  
(……!!)  
抵抗できぬまま、声も出ないまま、蘭花の唇はナノマシンに蹂躙される。長い時間かけて  
キスをした後、イヴはゆっくりと蘭花の唇から離れた。きらりと光る糸が二人の間を  
架け渡し、さらりと消えた。  
 
”ウフフフ……”  
イヴはまるで理想の恋人とあったかの様に、頬を染めている。蘭花と会うのが楽しそうだ。  
”電気アンマ……苦手なのね?”  
(……!!)  
全身を走査する機能があるのだろうか? 女性兵士専用拷問兵器と言うからにはその生贄  
となる女体の身体的特徴をを分析する機能があってもおかしくは無いが、いきなりそれを  
見抜かれて突きつけられると、不安に襲われる。その気になれば、このナノマシンは蘭花が  
最も嫌がる責めだけを選んで繰り返す事が出来るのかもしれない。  
”股間を触られるのも苦手みたいね…… 勿論 打たれるのなんて たまらないでしょう  
ね? こんなのはどうかしら……?”  
 
(……!!!)  
動けない蘭花の股間に触手が下からなで上げるように触ってゆく。黒のショーツを  
隔てて秘裂を嬲る触手のざらりとした感覚が段々とごつごつした感覚に変わり、蘭花に  
声なき悲鳴を上げさせる。  
 
”気に入った? 私ってこういう遊び方も出来るの…… でも あなたにはたっぷりと  
電気アンマをしてあげる 正式な作法でね”  
(……いやぁ……)  
蘭花は心の中で悲鳴をあげた。あまりのおぞましさに泣きそうになる。  
”何か嫌われちゃったかな? これ以上苛めると泣かれちゃいそうだから 今は解放して  
あげる お友達は左前方区域にいるわ また後で会いましょうね”  
 
そう言うと、イヴは蒸発するように消えた。まるでフォログラフィーの立体映像の様に。  
同時に蘭花の体の金縛りが解ける。  
「……あっ!?」  
突然金縛りが解かれてふらつきながら、蘭花はきょろきょろと周囲を見回した。  
「今の……なに……?」  
誰に問いかけるでもなく、蘭花は呆然と呟いた。幻なのだろうか? そう言えば、裏拳の  
手応えも、股間のおぞましい感覚もなくなっている……が。  
「これって……」  
蘭花は恥ずかしそうに自分の手を見た。念の為に股間を確認した手の指先が、蘭花自身の  
蜜で濡れていた……。  
 
 
その時、背後から人の気配を感じ取った。  
「誰!?」  
蘭花はカンフーの構えを取り、振り返るが、相手を確認するとホッと胸をなでおろした。  
「なんだ、ヴァニラじゃない」  
「蘭花さん、ここで何を?」  
「なんか怪しいですね。この緊急事態に一人でぼ〜っと突っ立ってるなんて」  
毒舌の方はヴァニラが持つぬいぐるみから発声されている。見かけは不細工だが、一応、  
これでもロストテクノロジーが生んだ人工知能型コンピュータだ。名前をノーマッドと言う。  
ヴァニラの方はいつもの様にボソボソと喋る。いや、いつもより気持ち、大き目か。  
 
「何って……その……」  
蘭花はノーマッドがいるので一瞬躊躇したが、ヴァニラに全部話す事にした。殴った時は  
手ごたえを感じたのに、敵が消えるとその感覚も無かった事、触られた感覚もなくなった  
のに自分の恥ずかしい蜜で股間が濡れていた事。なんとか表現が生々しくならないように  
目一杯工夫しながら、蘭花が恥ずかしそうに話す内容を冷静にヴァニラは聞いている。  
勿論ノーマッドもだ(笑)。  
 
「精神攻撃を受けたんじゃないですかね。触手も、キスをしてきた本体もイメージだけの  
物でしょう」  
ノーマッドが分析する。  
「どうしてわかるの?」  
「話を聞いてると敵が消えた時、蘭花さんに残された痕跡は蘭花さんが反応したものばかり  
ですからね」  
ノーマッドがペラペラと解説する。蘭花は恥ずかしい事を指摘されたように真っ赤になる。  
「股間を触られた感覚を覚えてなくて、性感を感じた痕跡だけが残ってるのは、蘭花さんが  
大脳皮質に直接投影されたイメージに対し、猥らな反応を……」  
どっか〜〜ん☆!! 蘭花のパンチが炸裂し、ノーマッドは10mも吹っ飛んだ。  
「ご、ごめん……。恥ずかしがってる場合じゃないのはわかるけど、そこまで深く解説され  
ると……」  
蘭花が真っ赤になる。ヴァニラは二人を見比べていたが、とりあえずはノーマッドを拾いに  
いく。ナノマシンの治癒能力で半壊したノーマッドは即座に修復された。  
 
「それにしても、これからどうしよう……」  
蘭花が考えていると、  
「フォルテさん達と合流すべきでしょうね。蘭花さんは狙われていますから」  
ノーマッドがはっきりと宣告する。蘭花は一瞬、不細工なぬいぐるみを見つめるが、それを  
否定しなかった。あの感覚……蘭花を恋人の様に慕うおぞましい感覚は忘れられない。  
 
「わかった。とりあえずそうする……ヴァニラも行くよね?」  
「いえ、我々は。保管庫に行こうと思います」  
ノーマッドが代わりに答える。  
「どうして?」  
「ちとせさんが起動する時に使ったマニュアルを入手して解析します。あれがどんなものかを  
知る手がかりが必要ですからね」  
「そうね……じゃあ、あたしも行くよ」  
「蘭花さんは危険です。あいつに襲われたら私たちではとても庇いきれないですよ?」  
「う……。ま、まぁ、そうなんだけど……でも、単独行動が危ないのはヴァニラも一緒だし、  
やっぱり一緒に行くよ」  
蘭花が言うと、ヴァニラは少し俯いた。恥ずかしそうに微笑んだように見えたのは気のせいか?  
「ありがとう……」  
ヴァニラが初めて言葉を交わす。  
「いや、まあ……その、仲間だもん」  
さっきのフォログラフィーで不安になった蘭花を、話を聞くことによって元気づけてくれたのは  
ヴァニラ(+ノーマッド)だった。その彼女を一人で危険な場所に行かせる事は出来ない。  
例え自分が狙われていても。  
 
「私は大丈夫。この子が守ってくれます」  
ヴァニラが手を上げると、シュワン!とナノマシンはヴァニラを包む卵の殻のような防具に  
変身した。確かにこれならば、イヴに対抗するには蘭花よりも役に立ちそうだ。  
「そうだったね……わかった。でも気をつけてね。深追いしないように。ミントと合流したら  
保管庫に行くから。それまで無理しちゃダメだよ?」  
蘭花が念を押すとヴァニラはコクリとうなずき、保管庫の方に走っていった。  
それを見送ると、蘭花はフォルテ達の方に向かった。ミントの悲鳴はいまだに続いていた。  
 
「はぅう……! フォ、フォルテさん! 助けてください!!」  
ミントが泣きながらフォルテに助けを求める。可愛らしく泣き叫ぶその表情にはいつもの  
腹黒さは全く見られない。皮肉な事に年相応の美少女の泣く姿だ。  
「う〜ん……助けろって言われても……」  
困り果てるフォルテ。ミントは完全にイヴに捕われていた。イヴはちとせの時とは違い、  
ミントを立たせた状態で下から突き上げるように足を股間にあてがい、ミントの足首を  
開き加減で固定していた。座り状態の電気アンマを90度傾けた感じで、ミント自身の体重が  
彼女の急所を責め苛んでいる。  
 
「こ、こうなったらミルフィーユ、体当たりに行け!」  
「は、はぁい! ミントを離してください! ナノマシンさん!!」  
た〜〜〜!!! と雄叫びを上げながらミルフィーユが突っ込んだが、びた〜〜ん!!と  
触手を顔面に叩きつけられた。  
「あちゃ〜〜……」  
「痛いですぅ〜〜」  
顔面に大きな絆創膏を貼り付け、すごすごと帰ってくるミルフィーユ。カウンターアタッ  
クをまともに喰らっても人体の急所を外してるあたりはやはり強運の持ち主か?  
「ミルフィーユを送り込めばとりあえず何か起こるかもと思ったんだけど……だめか」  
「すみませぇ〜〜ん……今日は星の巡りが悪いみたいですぅ〜」  
「フォルテさん……」  
「おわっ!? ら、蘭花、どうした?」  
突如背後から現れた蘭花に驚くフォルテ。さっきまで少し元気があった蘭花だが、ミントの  
姿を見るとまた暗い表情に戻ってしまった。  
 
「だめ……もう……ゆるしてください……」  
涙を浮かべ、はぁはぁと荒い息をつきながら、全身汗だくで変形電気アンマ責めに耐える  
ミント。SMで使う三角木馬に載せられたような格好で白いおとがいを仰け反らせて悶える  
姿にその場にいるエンジェル達も息を呑む。  
 
(”あなたには 全部してあげるからね 電気アンマの『フルコース』よ”)  
「……!!!」  
脳裏に直接聞こえてくる声だった。イヴのほうを見ると、イヴも蘭花のほうを見ていた。  
視線が合い、イヴが微笑む。悪意のある笑顔ではなかった。まるで恋人に向けるような、  
優しげな笑顔。だが、それだけに蘭花には恐ろしかった。  
彼女からの一方的な恋愛サイン……蘭花はこの場を逃げ出したい思いを懸命に堪える。  
 

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