*         *         *  
 
 
(何だか、静かね……)  
保管庫のブロックに入った時、蘭花はそう思った。少なくとも闘っている雰囲気  
ではない。  
(もしかして、二人とももう……)  
嫌な予感が頭をよぎるが、それを払拭するように首を振り、保管庫のキーロックを外した。  
シュイン……。保管庫のロックが外れ、電動の扉が両側に開く。中では……。  
 
「ノーマッド?」  
最初に見つけたのは保管庫のマニュアルの山の中央に鎮座しているノーマッドだった。  
目の部分が旧式の電子機器のごとく市松模様に点滅し、ピコピコと耳障りな電子音を  
あたりに響かせている。何かを解析している様子だ。蘭花が来たのにも気づかない様子で  
集中しているが……、  
 
「ノーマッドったら!」  
蘭花の回し蹴りが後頭部に炸裂した。「おごっ!?」っと前方に吹っ飛ぶノーマッド。  
「ナ……ナニシヤガルデスカ」  
目を点滅させたまま後頭部を擦るノーマッド。よく見ると額には風穴が開いたままだ。  
「私が来たのに無視するからよ。なんなの、その頭は? また変なファッション誌でも  
読んだ?」  
「こんな流行がどこの宇宙にあるんですか。全く……。ミルフィーユさんにやられたん  
ですよ。イヴを倒すためとはいえ、私が射線上にいるのに銃をぶっ放すなんて……」  
「私でもそうするわね……。それより、ミルフィーユとヴァニラは? それに……イヴは?」  
ノーマッドのぼやきなど知った風ではない蘭花。  
 
「……。サラリと流してくれますね。まあ、いいです。ヴァニラさんは向こうでイヴと  
闘ってます。ミルフィーユさんは行方不明ですね」  
ぶつくさ呟くように現況を説明すると再びさっきのマニュアルの山に鎮座する。  
「な……! あ、あんた、ヴァニラがあいつと闘ってるのになんでこんな所で油売ってる  
のよ! それに……え? 行方不明?」  
ヴァニラ交戦中と聞き、思わずノーマッドの襟首を掴んで揺する蘭花だが、ミルフィーユが  
行方不明と聞き、驚く。  
「ぐ……ぐ・る・じ・い・で・す……。そ、そうですよ! イヴとコンタクトした後、  
劣勢になってからいつの間にかいなくなったんです。それでミルフィーユさんを助けた  
ヴァニラさんが今イヴに電気あんまされてます」  
「電気あんまされてます……って、あんたって、馬鹿!? なんでヴァニラを救けないのよ!?」  
ノーマッドをマニュアルの山に叩きつける。  
「グホッ! そ……それは、命令を受けたからです。ここでやる事なんですよ」  
崩れたマニュアルの中でもがくノーマッド。  
 
「命令……? ヴァニラ達はどこ? 私が行く!!」  
「ヴァニラさん達は奥ですけど、蘭花さんは来させないようにって伝言されました」  
腰を擦りながらノーマッドが言う。  
「ど、どうしてよ!? ヴァニラは今闘ってるんでしょ?」  
「ええ、それも電気あんまされてます。私が命令されたのはイヴの『シャットダウン・コード』  
の解析です。それを入手した後、イヴ本体に入力出来るナノマシン機能を有したロスト  
テクノロジー兵器で攻撃し、イヴを停止させる――これしか彼女を止める手段はないそうです」  
「……な! じゃあ、ヴァニラはあんたの解析時間を稼ぐために自分が囮になってるって事?」  
「そういう事ですね……。オゴッ☆!!」  
蘭花の回し蹴りがノーマッドの顔面に命中した。  
「だったら油売ってないでさっさと解析しなさいよ! 全く……」  
解析中の邪魔をしたのは自分であるのを棚に上げて蘭花はノーマッドを急がせる。  
 
「私、行く。……ヴァニラ達はこの奥でいいの?」  
「え、ええ……でも……」  
「来るなって言われても行くわよ! 私たちは仲間だもん!!」  
フォルテの時の苦い思いを思い出しながら先に進もうとする。  
「でも……ヴァニラさんは大丈夫だって言ってましたよ? 私にはナノマシンがあるからって」  
「ナノマシンが?」  
ヴァニラは自分にもそう言っていた。確かに対処法は他のエンジェルよりはあるのだろう。  
彼女が嘘をつくとは思えない。だが、あの控えめな子が今まで自分の能力をそんなに  
強調する事があっただろうか? ここまで周囲に安全を強調するのは逆に不自然な気がする。  
(ヴァニラ……無事でいて……)  
何か嫌な予感が胸をよぎり、蘭花は急ぎ足で奥に向かった。  
 
 
         *         *         *  
 
 
(このあたりかな……?)  
蘭花があたりを警戒しながら奥に進むと、広場に出た。様々なロストテクノロジーを保管  
しているこの倉庫はあまり整理されておらず、ある場所は密集し、ある場所は閑散としている。  
その密度が薄く、広場になっているあたりに出た。  
 
(とは言っても物陰には注意しないと……)  
蘭花は知らなかったが、先の戦闘でミルフィーユがイヴに股間を叩きつけられた重機が  
目の前にあった。そして、その奥……。  
「見つけた……! ヴァニラ!?」  
重機より更に奥に入ったところに光り輝くイヴの姿を発見した。ハイパーナックルのスイッチを  
入れる蘭花。エンジェル達がやられた電気あんまの数々を思い出し、足が震える。しかし、  
勇気を振り絞って前に進んだ。  
 
「やめなさい、イヴ!」  
イヴの足元にはヴァニラが電気あんまされている状態で苦しんでいた。既に服は下半身が  
完全に破られ、下着すらない姿になっている。胸元に辛うじてエンジェル服と思しき  
強化繊維がまとわりついているだけだ。今までのエンジェル達よりも更に痛々しい姿に  
させられているヴァニラを見て蘭花は思わず息を呑む。  
 
「蘭花……さん……」  
ヴァニラは目を閉じ、息が荒く、半ば失神している状態だったが、蘭花が現れたのを察すると、  
目を開けてVサインを送る。  
「私は……大丈夫……ですから」  
「Vサインって……そ、それに大丈夫なわけ、ないでしょ!? 顔色が青いよ? 今助けて  
あげるから……」  
半ば呆れる蘭花だが、真面目で融通が利かず健気なヴァニラの性格を思い出し、精一杯の  
空元気だと悟って、即座にイヴに襲い掛かろうとする。……が、  
 
バシュッ☆……!!  
 
「あうっ……!? な、なに……これは!」  
二人に近づこうとした時、蘭花の体に電気のようなものが走った。二人から2m以内に  
近づけない。  
 
「バ、バリヤー?」  
”そうよ。私が張ったんじゃないけどね”  
「イヴ……!」  
ハイパーナックルを打ち込む構えを見せ、イヴを睨む蘭花。  
「ヴァニラを離しなさい!」  
”いやよ”  
「そんな小さな子を虐めて楽しいの? やるなら私にやりなさいよ! それに……こんな  
バリアーを張るなんて卑怯よ!」  
イヴを挑発する蘭花。だが足は竦んでいる。ヴァニラが虐められている状況を見てさえ、  
電気あんまに対する畏怖は拭い去れないのだ。それでも竦んでいる足に懸命に力を入れ、  
イヴが向かってきた時に備える。  
”健気ね 貴女も……”  
そんな蘭花の内心を見透かすようにイヴが冷たく笑う。  
”でも一つだけ勘違いしている様ね。バリアーを張ったのは私じゃなく あなたが言った  
小さな子なのよ”  
「なんですってぇ〜!?」  
蘭花は愕然と電気あんまに耐えているヴァニラを見遣る。  
 
「どういう事、ヴァニラ!? この障壁を解きなさい!」  
蘭花の要求にヴァニラは弱々しく頭を振った。表情はあまり変えない子なだけに、  
時折、ブルッと背筋を震わせて悶える僅かな変化が痛々しい……。幼い股間は完全に  
晒され、強制的な快感に無理やり濡らされ、それに耐え切れないかのように小刻みに  
ずっと震えっぱなしだ。おそらく、快感と苦痛の狭間で懸命に耐えているのだろう。  
 
「電気あんまが辛いんでしょ!? お願い、助けてあげるから、バリアーを解いて!!」  
涙目になりながら蘭花が呼びかける。イヴが薄く笑っているのを張り倒してやりたく  
なるが、このバリアーがある事でそれも叶わない。  
「ノーマッドが……シャットダウンコードを解析するまで……だめです」  
「ヴァニラ!」  
「私は大丈夫……。ナノマシンが治療してくれますから……」  
熱い吐息混じりに辛うじて言葉を継ぐヴァニラ。  
(”もう一つ 教えてあげるわ”)  
突然イヴが会話に割り込んできた。その声は何か楽しそうに聞こえたのは気のせいか。  
 
(”この子のナノマシンの治癒能力はたいしたものよ。私の電気あんま攻撃をリアル  
タイムで治療している……。さすが私と同じロストテクノロジーね”)  
イヴはクックと喉を鳴らしたように聞こえた。ロストテクノロジーのアンドロイドに  
それが可能ならばの話だが。  
(”だけど 流石に同時と言うわけではないわ。ナノマシンがこの子の受けたダメージを  
解析して治癒に当たるまでに何秒かのタイムラグは生じる。その間にこの子は苦痛や  
快感を感じるの”)  
その意味がわかる? と言いたげに蘭花を見るイヴ。その悪意の篭った笑顔に、蘭花の  
背筋が冷や汗でびっしょりになる。  
 
(”もし その状況でこの子が電気あんまをされ続けたら……。大変な事になる  
でしょうね。だって 苦痛と快感はたっぷり味わいながら体にはダメージを負わない。  
つまり いつまでも電気あんまされ続けてしまう。そのやり手がこの子のもっとも  
弱いポイントを知っているとしたらどうかしら? この子は実は電気あんまにはあまり  
強くないの。特にこの尿道の部分が物凄く弱くて そこを中心に攻め続けられて   
しかも生かされもせず殺されもせず 永遠とも思える責めを続けられたら 治癒機能で  
体はもっても精神面は……”)  
 
「やめてよ!!」  
 
蘭花の絶叫が倉庫中に響き渡った。  
 
「どうして……。そこまで分かっていてどうしてそんな非道い事が出来るの!?  
貴女はアンドロイドだから女の子の気持ちが分からないの!? やめてよ……。  
お願いだからヴァニラを離してあげて! 私、どんな事をされてもいいから、  
ヴァニラの代わりに私を虐めてもいいから、ヴァニラを許して! お願い……!!」  
蘭花が泣きじゃくりながらイヴに懇願する。自分より弱い女の子が自分の受けた数倍の  
屈辱と苦痛と快感を長時間受け続けさせられている。同じ女の子として放っておく事は  
絶対に出来なかった。例え身代わりにされてでもだ。  
 
イヴはその言葉をずっと聞いていたが、やがて薄く唇を開いた。  
 
(”……いやよ”)  
「……!! そんな、どうして……!?」  
(”この子はね 私を侮辱したの。だから許さない……”)  
「イヴ……?」  
またイヴの言葉に動揺が見え始める。憎憎しげにヴァニラを見ると今までよりも力を  
込めて股間を踏みにじった。グリッ!っとヴァニラの幼い割れ目が捻られる。  
 
「……!! あがっ……!!」  
苦痛のあまり背筋を反らし目を見開くヴァニラ。ナノマシンが激しく動き、慌しく  
治癒効果を増強する。しかし、イヴの責めは緩まらず、ヴァニラは全身を震わせる。  
目は見開き、唇は泡を吹きそうに痙攣する。  
「やめて! やめてよぉ!! ……あうっ!!」  
蘭花は思わずイヴを止めようと飛び掛り、バリヤーに弾き飛ばされた。したたかに尻を  
打ったがそれどころでなく、再びイヴに取りすがろうと近づく。  
「イヴ! お願い! もう……もう許して! どうして……どうしてそこまでヴァニラを  
虐めるの!?」  
(”この子は私に言ったのよ! 「可哀想」だって!”)  
何故かイヴも激昂していた。その迫力に思わず蘭花も口をつぐむ。  
 
(”私はアンドロイドだからあなたたちの気持ちはわからない!? そうよ   
あなたの言うとおりよ 蘭花。だからこそこんな酷い事も平気で出来るの”)  
イヴの心が震えてる? 何故かそう蘭花も感じた。それは怒りか? それ以外の感情か?  
どちらにしても、このロストテクノロジーは自分達の想定以上のエモーション機能を  
備えているようだが……。  
 
(”なのに……。そのアンドロイドの私が何故こんな小娘に「可哀想」なんて  
言われなければならないの!? それに……それに……あのナノマシン……。  
私の存在を否定するかのような……!!”)  
「ち……が……う……」  
ヴァニラから聞こえた声にドキッとする蘭花。しかし、驚いたことにそれはイヴも  
同様だったらしい。いつのまにか電気あんまが停止している。  
 
「違うの……イヴ、ごめんなさい……」  
「ヴァニラ?」  
電気あんまが停止したおかげで何とか口を利けるようになったヴァニラ。心配そうに  
見つめる蘭花に彼女なりに精一杯微笑むとイヴの目を真っ直ぐ見る。何故か、イヴは  
その視線を外した、様に見えた。  
 
「私は……そんなつもりじゃなかったの……ただ……あなたが苦しそうだったから……」  
(”言わないで!”)  
叩きつける様な言葉が蘭花とヴァニラの心に直接響く。  
(”そんな事 言わないでよ! 私はアンドロイドよ? 設計者が想定した以上の  
感情なんかこれっぽっちもないの! だから あなたが言う苦しみなんか……  
ありはしないの!!”)  
「……ごめんなさい」  
何故か激しく動揺しているのがイヴで、謝っているのがヴァニラだった。蘭花には  
俄かにその事情は掴みかねたが、彼女が一つやらなければならない事があった。  
 
「と、とにかく……。ヴァニラを解放して、イヴ。この子はもう限界なの」  
(”イヤよ”)  
またしても峻拒するイヴ。  
(”ナノマシンがあるから限界じゃないでしょ? 精神は知らないけど。それに   
この子が限界かどうかなんて私の知った事じゃないわ”)  
「イヴ!?」  
(”この子はもっと苦しませてあげる……。それに 蘭花。私が今あなたに構って  
あげられないからと言って あなたが無事でいられるとは限らないわよ?”)  
「え?」  
蘭花が思わず周囲を見渡した時……。  
 
「蘭花さぁ〜〜ん♪」  
 
間の抜けた呼びかけ声が聞こえる。  
 
「ミルフィーユ!?」  
思わずそちらの方を見て驚く。ミルフィーユが手を振りながら蘭花に近寄ってくるのだ。  
服装はボロボロであった。蘭花と同様、上半身には殆ど隠す機能がなくなっている  
エンジェル服を纏っているだけで、下半身はピンクのショーツとブーツだけだ。  
「ミルフィーユ……その格好、イヴにやられたの?」  
「はい! エヘヘ、負けちゃいましたぁ〜」  
あっけに取られる蘭花と悪びれずニコニコと笑顔のミルフィーユ。  
 
「負けたって……」  
チラリとイヴを見ると、イヴは馬鹿にしたように一瞥しただけだった。再びヴァニラを  
電気あんまで責めている。  
「蘭花さぁん〜♪」  
ミルフィーユが甘えたように蘭花に抱きつく。  
「ちょ、ちょっとミルフィーユ!? それどころじゃないでしょ!?」  
慌ててミルフィーユを自分から剥がす。そして諭すような口調で言葉を継ぐ。  
「と、とにかくミルフィーユ。私たちはこのバリアーを破らないとヴァニラが助けられ  
ないの。それを何とかしなきゃ……」  
「どうしてですか?」  
「……!? どうしてって、それは…………はうっ☆!!」  
蘭花がミルフィーユを訝しんだその時、ミルフィーユの膝が蘭花の股間を真下から  
蹴り上げた。  
「み……ミルフィーユ!?」  
蘭花は股間を押さえてミルフィーユの前で膝をつく。予想もしなかった急所直撃の  
膝蹴りに、対アンドロイド戦での痛みがぶり返し、全身を震わせてうずくまる。  
 
「ウフフ……。楽しみましょうね、蘭花さん♪」  
ミルフィーユはいつもの明るい笑顔で蘭花を見下ろした。その瞳は妖しく、赤く煌いていた。  
 

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