*         *         *  
 
 
一方、こちらは保管庫のヴァニラ。  
ノーマッドと共に資料を探していたが、膨大な資料の中からイヴについて記述されて  
あるマニュアルを見つけるのは困難を極めていた。  
 
「ふぅ〜〜、せめてどのあたりで落としたか、ちとせさんが教えてくれたら良かった  
んですがね〜」  
ノーマッドがぼやく。ちとせはそれに言及する間もなく、イヴの餌食となったのだから  
仕方が無いが。  
ヴァニラが更に保管庫の奥に進もうとした時、背後から黒い影が音もなく忍び寄ってくる。  
まだ気づいてない……? 黒い影はヴァニラに躍りかかろうとする。その時……。  
 
「ヴァニラさぁ〜ん!」  
間延びした少女の声が聞こえる。  
「そこから右へ飛んでくださぁ〜い!」  
声は黒い影の更に後ろから聞こえた。ヴァニラは背後を確認せずに言われた通りにする。  
その声は彼女が良く知っている声だったからだ。  
 
ドゥン!!  
 
銃声が響き渡り、黒い影はヴァニラと反対方向に飛んだ。二人がいなくなった空間を  
銃弾が突き抜けていく。  
 
”おまえは!?”  
黒い影――イヴは銃声の聞こえた方向を振り返る。そこには炸裂弾入りの拳銃を構えた  
ミルフィーユがいた。すかさず触手を飛ばし、ミルフィーユを攻撃するイヴ。  
しかし、それを斜め前方に飛んで交わし、体勢を立て直してイヴの側面から狙いをつけた。  
射線上にノーマッドがいる。しかし、ミルフィーユは躊躇わずに撃つ(おい)。  
 
ドゥン!! ドゥン!! ドゥン!!  
 
「ぷぎゃ!?」  
ノーマッドが踏み潰されたような悲鳴をあげた時、それがブラインドになったのか、  
今度は3弾ともイヴに命中した。背後に吹っ飛ぶイヴ。普段は天然ボケでもエンジェル隊の  
一員であるミルフィーユ。やるときはやる。  
 
「や……、やりましたか!?」  
銃を構えたミルフィーユがイヴに近づく。右へ飛んで射撃を交わしたヴァニラもじっと  
見ている。捨てられたノーマッドの額には風穴が開いている。イヴの様子は、と近づこうと  
したその時……。  
 
「……!!」  
ヴァニラのナノマシンが激しく反応する。  
”やるわね……。再生機能がない場所だったらやられていたかもね……”  
銃弾はイヴの右側頭部・左脇腹・右太股に命中していた。しかし、立ち上がり様、  
既にその傷は既に自己修復機能が働き、治りかけている。流石はロストテクノロジーである。  
 
「あの〜〜、私には再生機能ないんですけど……」  
同じロストテクノロジーのノーマッドがどくどくと額から血?を流している。しかし、  
生きているようだ。  
 
「くっ……! 再生機能!?」  
慌ててイヴから離れようとしたが、触手が鋭く伸び、ミルフィーユの破れたスカートを  
剥ぎ取った。更に、鞭の様にしなってその胸と背中を激しく打つ。  
「きゃああ!? あうっ……! あああ〜〜!!」  
鞭の一撃は強烈で、ミルフィーユの強化服をズタボロに裂いていく。それでも銃を  
構えるが、今度はそれを叩き落されてしまった。  
 
「あっ……!? だ、だめですぅ〜……! きゃああ!?」  
保管庫に放置されていたスチール製の重機部品越しに、触手がミルフィーユの両足を  
掴んだ。尻餅をつかされ、お尻を強打するミルフィーユ。  
「いったぁ〜い! ……お尻打っちゃったですぅ〜〜」  
涙を流してお尻を擦るが……。  
”お尻どころじゃないわよ”  
触手が急激にイヴの方に引き寄せられた。足を伸ばしたまま、凄い勢いで引っ張られる。  
重機の柱をミルフィーユの両足が跨ぐような格好で滑り、そして……。  
 
ゴ〜〜ン☆……!!!  
 
「はぐぅわ☆!!」  
ミルフィーユの股間が激しく重機部品の角に叩きつけられた。保管庫に響く悲劇の音……。  
 
「はううっ! あううう〜〜!! い、いたぁいですぅ〜〜!! いたた……!」  
顔をしかめ、目に涙を滲ませながら、内股状態で股間を押さえて床を転がりまわる  
ミルフィーユ。強化服は先ほどボロボロにされ、下半身はピンクのショーツ一枚しかない  
無防備状態であった。彼女が急所攻撃に悶絶する姿を見て、イヴの瞳が妖しく光り、  
心なしか頬が上気したように赤くなり、唇はアルカイックに釣り上がる。  
 
”まだよ ミルフィーユ。あなたのは蘭花たちと違って強いからね。念を入れて  
虐めてあげる”  
股間を押さえて悶えるミルフィーユを自分の下に引き寄せ、両足首を自分の両手で  
しっかりと掴んで固定した。  
「ふえっ…? な、何を……?」  
涙目状態でイヴを見ると電気アンマの体勢に入られそうになっている。慌てて股間を  
更に両手でしっかりとガードする。イヴに股間は丈夫と言われても、それはあくまで蘭花と  
比べた場合の話。急所なのには変わらない。敏感なそこを強打すれば痛いので防御するのは  
当たり前である……が。  
 
”無駄よ”  
イヴはミルフィーユのガードしている両手に足を乗せると、そこに触手を近づけた。  
すると、二つの触手が放電し、イヴの足元でスパークする。  
 
バチバチバチ☆……!!!  
 
「きゃああああああ〜〜!!!」  
もろに電撃を喰らい、激しく仰け反って両手を離してしまうミルフィーユ。すかさず  
イヴはミルフィーユの股間に足を宛がった。電気アンマの完成だ。そして更に……。  
 
バチッ☆! バチバチッ☆……!! バチッ……☆!  
 
「きゃああ!? ……はうぅ!! ……ああっ!!」  
イヴは放電させながら電気アンマを開始した。スパークが飛び散るたびにミルフィーユは  
激しくのたうつ。スタンガンを当てられながら電気アンマされているようなものだ。  
放電に激しくのたうち、更に電気アンマで股間をぐいぐい責め続けられるミルフィーユ。  
悲鳴を上げてのたうつが、イヴの責めは執拗で踵をしっかりと股間にあてがってグリグリと  
刺激する。  
 
「や……やめてくあださぁ〜い! も、もうだめ……」  
いくらミルフィーユでもこの快楽電気拷問は長くは耐えられないだろう。電気ショックで  
何度も失神し、その度に同じ攻撃で覚まさせられている。  
(”蘭花にはこんなに強くはしない……”)  
ミルフィーユの泣き顔がイヴのイメージの中で蘭花の泣き顔に重なった。  
(”あの子には、もっとゆるく……そう この十分の一ぐらいの威力で。でも長時間  
執拗にやってやるわ。股間が弱いんだもの 泣き喚くでしょうね あの子……。でも  
どんなに泣いても許さないの……”)  
クスクス……、と忍び笑いをしていた刹那、イヴは背後から激しい衝撃を受けた。  
 
ドォン……!!!  
 
まるで迫撃砲に撃たれたかのような衝撃。実際にそうだったのだ。イヴが振り返ると  
ヴァニラが無反動砲を構えていた。イヴの背中が大きく焦げて人工皮膚が溶けかかって  
いた。無言でイヴの様子を見つめるヴァニラ。  
 
”ふ〜〜ん……。今度は貴女が相手してくれるの?”  
ミルフィーユを離し、ヴァニラの方をむく。今つけられた背中の傷はシューシューと  
音を立てながら自己修復している。  
”かなり大きな衝撃だったよ。完全には修復しきれないかも……ここまでやったん  
だから貴女も覚悟はいいよね?”  
イヴがゆっくりとヴァニラに近づく。ヴァニラはまじろぎもせずにイヴを見つめ、  
何事かをボソリと呟いた。  
 
その刹那、イヴの顔色が急変した……様に見えた。  
 
 
         *         *         *  
 
 
「はぁ……、はぁ……。ミルフィーユ! ヴァニラ……!」  
途中、武器庫に寄りハイパーナックルを装着した蘭花が保管庫に急ぐ。  
あと2ブロックと言うところで前方を防ぐ人影があった。自分と同じぐらいのサイズと  
小さな子供サイズの影……。ミルフィーユとヴァニラか? 蘭花がそう思った時、  
脇道から飛び出してきた何者かに腕を掴まれた。  
 
「……!? やあぁ!!」  
反射的にその手を抱え込み、一本背負いで投げつける蘭花。とっさの事だったが冷静に  
対処した。しかし……、  
「な……なに!?」  
投げ飛ばした相手は細身の女だった……が、床に叩きつけられた時、ガシャン!と金属音が  
響き渡る。  
「アンドロイド……? はっ!?」  
その直後、子供のような人影が自分の股間めがけて背後から突撃してきた。慌てて足を開き、  
ギリギリで交わすと、その背中を蹴りつけた。やはり、ガシャン!と金属音が。  
 
「な……、なんなの、こいつら……!?」  
今襲撃してきた2体と、おそらくは前方に見えている2体も含めて4体の人型アンドロイドが  
蘭花を取り囲んだ。いずれも全裸で、二人は成人女性、もう二人は幼い少女の体型だ。  
 
(”男性向けの愛玩用アンドロイド達よ。単独の宇宙旅行とかに使われる『宇宙妻』ね”)  
「……イヴ!!」  
頭の中にイヴの声が響いた。よく見ると、確かに戦闘用ではなく、普通の女性の体つきで  
表面は人工皮膚で覆われている。素材は一般男性が扱えるよう、軽合金とシリコン、強化  
繊維質などで作られており、擬似血液が体内を循環する。人工知能で簡単な会話も出来、  
笑顔も作れる。無論、愛玩用としての機能は充実している。  
だが、冷静に見るとやはり作り物であるのはわかる。ロストテクノロジーのイヴとは根本的に  
造りが違うのだ。  
ただし……、蘭花の目にはイヴよりもこちらのアンドロイドたちのほうが余程人間らしく  
見えた。  
 
(”こんなので代用しようとするなんて男っていいかげんよね。それとも この程度もの  
でも脳内補完出来るのかな?”)  
「どうするつもり?」  
イヴの無駄口になどまったく付き合う気はないとばかりに険を含んだ声で答える蘭花。  
イヴの思考がクスッと笑ったように感じられる。  
 
(”この子達にちょっと仕込んだの。あなたの嫌がることをするようにね。そこの大人の  
女性型アンドロイドには貴女に二人がかりで電気あんまするようにプログラムしておいたわ。  
即興のロジックだけど 力や運動性は貴女と同じぐらいあるから 油断してるとやられちゃうよ?”)  
「……」  
イヴの声を聞きながらアンドロイドの動きを見る蘭花。ウェーブの金髪とストレート黒髪の  
女性型アンドロイドは前後から蘭花を挟み込むように位置取った。挟撃するつもりだろう。  
 
(”それから子供型アンドロイドには急所攻撃だけをするようにプログラムしておいたの。  
前にいる子は貴女の性器だけを 後ろにいる子は貴女のアナルだけを狙って攻撃するわ。  
大人のアンドロイドに気を取られてると無防備で急所を打たれるから気をつけてね”)  
少女型アンドロイドも蘭花を挟み込むようにして位置取りする。前にいる長い髪の子が  
性器を、背後のショートカットの子がアナルを狙うつもりのようだ。  
(”フフフ……いい感じよ 子猫ちゃんたち”)  
クスクスと笑うイヴ。だが、蘭花はその笑い声に少し違和感を感じていた。なんとなく  
気のせいかもしれないが、イヴの感情に少し乱れのようなものを感じたのだ。  
 
「……で? この子達で私を倒せると思ってるの?」  
油断なく周囲に気を配りながらハイパーナックルを起動して装着する蘭花。  
(”勿論 思ってないわ”)  
あっさりとイヴは認める。  
(”だけど 足止めにはなるわよね? 私から呼びつけてなんだけど 少し予定が変わっ  
ちゃったの。貴女と同じぐらい……いえ 貴女よりも地獄を見せてあげたい子がいた  
から……”)  
「わ、私よりも……?」  
思わず蘭花は驚く。あれほど執拗に自分を付けねらってたイヴに新たな標的が?  
(”だから少し時間を稼ぎたいの。その子に思い知らせてやるための時間をね……”)  
イヴの声は明らかに険を含んでいた。蘭花の脳裏にイヴの怒りの震えが伝わってくる。  
 
「そ、それは……だれ?」  
思わず聞かずにはいられなかった。ミルフィーユかヴァニラ、どちらかなのだが、  
そのどちらがイヴの感情をここまで逆なでしたのだろうか?  
(”大変よ その子……。貴女と同じぐらい股間が弱点なの。なのに馬鹿よね……そんな  
弱点があるのに、わざわざ私の怒りを買うなんて……”)  
「ヴァ、ヴァニラ!?」  
ミルフィーユでない事はなんとなくわかった。しかし、どうしてヴァニラが……?  
それよりも、こんな所で手を拱いていられない。  
(”じゃあ そこでゆっくりと遊んでいなさい。その間 私はあの子に地獄をみせて  
やるから……。クックックッ……”)  
サディステックな忍び笑いと共にフェードアウトするイヴの意識。  
「ヴァニラが……危ない!?」  
ここはすぐにでも突破しなければ。蘭花は前方のアンドロイドと対峙した。  
 
 
         *         *         *  
 
 
「う……。うう……」  
気絶したフォルテが起き上がろうとした時、同じく倒れているミントの姿が見えた。  
その彼女を何人かの裸の女が取り囲み、連れて行こうとする。  
 
「ま……、待て……」  
ミントを助けようと起き上がろうとするが、下半身の力がまったく入らず、転倒する。  
「くっ……、あのロストテクノロジーめ……ん?」  
気がつくとフォルテも女達に取り囲まれていた。しかし、よく見るとそれは人では  
なかった。非常に精巧に作られた機械人間達――蘭花が闘っている者と同じ連中だ。  
アンドロイドは何かを背負っていた。スカートを破られたエンジェル服を着た少女――。  
 
「ちとせ……?」  
フォルテはアンドロイドに引き起こされた。  
 
 
         *         *         *  
 
 
「くっ……! この……!」  
4人のアンドロイドが片手に電磁ダガーを持って一斉に蘭花を攻撃する。ハイパーナックルで  
辛うじて受けるが、受けきれない分は紙一重で交わした。しかし、強化繊維製のエンジェル服は  
紙の様に切り裂かれ、ボロボロである。  
 
(また……、えっちなトコばかり!)  
アンドロイドたちの目的が蘭花を傷つけることではないのは明らかだった。  
彼女達は正確に蘭花の服だけを切り裂く。それもチャイナドレスのスカートの部分や比較的  
豊満な胸の部分ばかり……。既に黒のショーツは丸見えで、胸も切られたブラからピンク色の  
左乳首が覗いている。  
ボロボロの隊服を辛うじて纏いながら奮闘する蘭花の一瞬の隙をついて、首を絞めるように  
金髪アンドロイドが両手を伸ばしてくる。  
 
「させるかっ……!!」  
金髪ウェーブのアンドロイド相手にがっちりとロックアップする蘭花。  
指貫グローブ型のハイパーナックルはアンドロイド相手に引けをとらないパワーを生み出す。  
エンジェルフレームと同じく、使用者の精神力を消耗し、イヴとの戦いの前にスタミナを  
ロスするが、気を抜いてはやられてしまう。  
 
「くう……っ! このぉ〜〜!!」  
最初は互角だったが、蘭花の気合が入り、徐々に押し気味になる。金髪アンドロイドが  
仰け反り、じわりじわりと後退した、その時――。  
「くっ!?」  
バシッ!っと片足で股間をガードする。金髪アンドロイドの股下を抜け、少女アンドロ  
イドが股間を攻撃に来たからだ。かろうじて股間攻撃は防いだが、今度は逆に金髪アンド  
ロイドに力比べで押し戻される。  
 
「し、しまった……! ……はうぅ☆!?」  
たまらず後退した蘭花のお尻を、ズン……!と重い衝撃が襲った。アナル攻撃担当の  
ショートカットの少女アンドロイドが、蘭花のアヌスを抜き手で強打したのだ。  
「くうぅ〜〜〜!! いったぁ〜〜……」  
涙目でお尻を押さえて四つん這いになる。たちまち黒髪のアンドロイドが蘭花にのしかかり、  
仰向けにして背後から首に腕を巻きつけ、呼吸の自由を奪う。  
 
「ぐっ……!? げほっ……! こ、この……!」  
蘭花が抵抗して振りほどこうとするが、今度は下半身を金髪アンドロイドに組み付かれた。  
そして、両足を抱え込まれる。  
(”女性型アンドロイドには電気あんまするようにプログラムしておいたわ。”)  
イヴの声を思い出したが後の祭りだった。金髪アンドロイドは蘭花の股間に右足をグリグリと  
ねじ込み、電気あんまを開始した。ブルブルと震える蘭花の下半身。  
 
「はううう〜〜!!! だ、だめぇ〜〜!!」  
ブルブルとした振動と、時折ゴツッ! ゴツッ! と脳天に突き抜けるような衝撃のある  
容赦のない電気あんま。いかにもアンドロイドらしい、無慈悲な攻撃である。そのたびに  
蘭花は体を仰け反らせ、苦悶に喘いだ。  
「……! それに……、ごほっ!!」  
更に蘭花を苦しめたのは黒髪アンドロイドの首絞めだった。股間からの衝撃で息が詰まり  
そうになるのに加え、実際に呼吸の自由を奪われ、苦悶は倍加している。更に……。  
 
「な、何をするの!? やめて……キャハハハ!! ……げほっ!!」  
なんと、少女アンドロイドたちが蘭花のお腹を擽りだしたのだ。微妙なくすぐったさに  
笑い悶える蘭花。これが実は結構キツイ。  
電気あんまと擽りで快感と苦痛の狭間を漂わせられながら、首絞めで呼気を奪われる。  
苦悶の三重奏の中、蘭花は次第に意識が遠ざかりそうになる。  
「アハハ……はぅん……だめ……げほっ! い……いい加減に……」  
局面を打開しようと、擽りをしているショートカットの少女アンドロイドの髪を掴んで  
引き寄せようとした、その時……。  
 
「あぐっ!? ああああ〜〜!!!」  
反撃に出たはずの蘭花が逆に悲鳴を上げ、体を硬直させる。  
くすぐり担当のショートカットの少女アンドロイドが引き倒されそうになった時、  
電気あんま担当の金髪アンドロイドが素早く足を引き、空いた股間を急所攻撃担当の  
ロングヘアの少女アンドロイドが思い切り殴りつけたのだ。少女型とはいえ、アンドロイドの  
パンチをモロに股間に喰らった蘭花は動きを止め、引きつったように体を震わせる。  
そして蘭花が股間を押さえる前に素早く金髪アンドロイドが電気あんまを再開する。  
蘭花はなす術もなく、内股になって悶える事しか出来なかった。絶妙のコンビネーションだ。  
(”貴女の嫌がる攻撃をするようにプログラムしたの”)  
イヴの嘲笑が再び蘭花の脳裏をかすめる。  
 
「く……うう……このままじゃ……」  
アンドロイド達は疲れを知らない。このままでは蘭花は力が尽きて失神させられてしまう  
だろう。それに、更に気になるのが……。  
「ヴァニラ……」  
イヴはこのアンドロイド達を『足止め』だと言った。ヴァニラに地獄を見せるための  
時間稼ぎだと。あれからかなりの時間が経過している。理由はわからないがイヴはかなり  
本気だった。片手間に3人のエンジェルを電気あんまで仕留めてきた彼女が、何故あれだけ  
動揺するのか? そしてどうしてそこまでヴァニラに目をつけたのか。アンドロイド達が  
与える苦悶の中ですら気が気でなくなる。  
 
「こ……この程度の責めでぇ〜〜!!」  
快感と苦痛の狭間を漂わせられながら、蘭花は唇を噛み締めた。そして、目を見開いて  
アンドロイド達を睨みつける。  
「機械の分際で……調子に乗ってんじゃないわよ!!」  
苦痛を堪えながら蘭花は電気あんまされている足を掴んで引き剥がした。金髪アンドロイドが  
慌てて反対の足で蘭花の股間を蹴っ飛ばす。ガン☆!!と脳天まで突き抜ける衝撃だったが…。  
「ぐっ……!! その程度の蹴り……!!」  
股間直撃の痛みを堪え、掴んだ足首をハイパーナックルで握りつぶした。金髪アンドロイドの  
足首がバキッ!と弾け飛び、蘭花は股間を蹴っていた反対の足も掴んで握りつぶす。  
「うぉぉ〜〜りゃあ!!」  
下半身が自由になり、上半身に絡みつく黒髪アンドロイドごと起き上がった蘭花は一本  
背負いで背後の敵を廊下に叩きつけた。そしてナックルに気を集中する。赤く輝く蘭花の  
右拳。それを倒れている黒髪アンドロイドに叩きつけた。  
 
バチバチバチ☆……シュバン!!  
 
赤い閃光がアンドロイドの体を突き抜ける。一瞬、回路がショートする断末魔が聞こえた  
後、黒髪アンドロイドは機能を停止した。  
少女アンドロイドが股間を狙って前後から攻撃を仕掛けてくる。しかし、彼女達だけ  
なら蘭花は動きを見切り、股間に命中する直前であっさり交わすと……。  
「ハッ……!! ヤッ……!!」  
ハイパーナックルも使用せずに回し蹴りを叩き込んで二体とも頭部の電子回路を  
吹っ飛ばした。少女アンドロイド達は暫くたたらを踏むようにして動いていたが、  
膝を突き、突っ伏すように廊下に倒れた。  
 
「これで…終わり!」  
まだ動いていた金髪アンドロイドの頭をハイパーナックルで無造作に吹っ飛ばすと  
蘭花はその場を離れて、保管庫に向かおうとする。……が、  
「うう……」  
股間を押さえて壁に手を突く蘭花。やはり狙われたそこは何度となく痛めつけられ、  
ダメージがまだ回復していなかった。それにハイパーナックル使用で精神面も肉体面も  
かなりのスタミナを消耗している。  
 
「でも……。これなら『人間がする』電気あんまほど怖くない……」  
股間を押さえて荒い息をつきながら蘭花は思う。確かに急所攻撃は厳しい責めだが、  
ある意味、格闘の範疇であった。痛いし、かなり効くが、本質的には殴られたり  
蹴られたりは格闘家につき物なので蘭花に取ってはイヤではあっても、ダメなこと  
ではなかった。  
 
(でも、電気あんまは違う……)  
今回、アンドロイドたちが仕掛けてきた電気あんまは非常に単純なパターンの組み合わせ  
であった。勿論、これも効くが、ある程度慣れてくると辛くはあっても耐え切れない  
物ではなかったのだ。だが、人間の――特に悪意のある人間がする電気あんまは  
そんな単純なものではない。人間は(特に女の子は)相手がどんな電気あんまを苦手と  
しているかをし掛けている最中に見抜くことが出来る。力の強弱、電気あんまをかける  
微妙なポイント、そしてリズム。経験の深い電気あんま使いにやられる電気あんまは  
これらのバランスが非常に優れていて、基本の電気あんまをされるだけで快楽地獄に  
追いやられるのだ。それに、個人別の修正が入ったら……多くの女の子にはそれは  
あまり想像したくない光景だった。  
 
(イヴはその事を良く知っているはず……)  
だからこそ、このような『時間稼ぎ』にしかならないアンドロイド達を送ってきたのが  
気になるのだ。ヴァニラに対する対処が急転したこと、ヴァニラを責める事に重きを  
置いた事が窺え、その事が蘭花の気持ちを更に焦らせる。  
 
(ミルフィーユも気になるし……)  
あの子は一体どうしたのだろう? 何故かイヴはミルフィーユについて語らなかった。  
蘭花が居住区で隠れていた間、或いは今アンドロイド達と闘っていた間、保管庫では  
どんな事が起こっていたのか?  
「急がなきゃ……」  
息を整え、蘭花は再び歩き出した。股間を痛めているのであまり早くは走れない。  
「この状態で電気あんまに耐えるのはかなり最悪かも……」  
自嘲する様に苦笑する蘭花。これは罰だ、とも思った。勇気を出してフォルテたちが  
健在なうちに対策を練れば、もう少し対処できたかもしれないのに……。  
 
「でも……。それでも、行かなきゃ……」  
まだ倒されたとは限らない仲間達と合流するために蘭花は歩いた。ゆっくりと、  
しかし、着実に。例えイヴの狙いが自分であろうとも、もう逃げない、と心に誓った  
のだから。  
 

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