「も……もう、だめですわ……イかせてください……後生です……」  
おっとりした古風な話し方でミントがフィニッシュを要求する。流石にイヴも頃合いと  
見たのか、振動を早めていった。ガクガグガク……とミントの小さな体が宙で揺さぶられ、  
そして……。  
「あああああぁ……はぁううう〜〜!!!」  
絶叫の後、天に昇りつめ、そのまま失墜した。がっくりと体の力が抜け、倒れそうに  
なるのをイヴの触手が受け止め、そっと地面に降ろす。処刑されたものに対しては優しく  
対応するようだ。  
 
"貴女にはとりわけ優しくしてあげるからね"  
耳をふさいでも蘭花には聞こえてくるイヴの声。どうして私なの? 思わず悲鳴を上げ  
そうになる。  
"私にとって、貴女は理想の女性だから……"  
イヴが恥ずかしそうに微笑む。ロストテクノロジーによるエモーション機能とわかって  
いても蘭花の胸にその思いはずしりと響いた。理想……。どういう理想なのか?  
 
(蘭花、ヴァニラはどうした?)  
ひそひそ声でフォルテが話しかける。イヴの事を考えていた蘭花は一瞬驚いたが、すぐに  
気を取り直す。今は物思いにふけってる場合ではない。  
(保管庫に向かっています。ノーマッドを使って資料を解析するみたい)  
(そうか。なら、あいつはここで足止めしないとな……。ミルフィーユは保管庫に  
向かってヴァニラと合流しな。あの子一人じゃ危険だ。蘭花は…)  
(え?)  
(アタシと一緒にいな。あいつを足止めしながら守ってやるよ)  
ニコッとフォルテが微笑む。  
(で、でも…フォルテさん…)  
(大丈夫、いざとなったら電気アンマはアタシが喰らってやるさ。少しは……なんとか  
なるだろ)  
自分に言い聞かせるように言うフォルテ。その時……。  
(危ない!)  
フォルテが蘭花を突き飛ばした。壁まで吹っ飛ぶ蘭花。  
 
フォルテが気づいた時、2本の触手が鞭の様に蘭花とミルフィーユのスカートを襲って  
きていた。なんとか蘭花を突き飛ばしたが、突然の攻撃に交わし切れず、フォルテと  
ミルフィーユはそれぞれビシッ!としなった触手の打撃を下半身に受けた。  
「ああああああ〜〜〜!!」  
「「フォルテさん!!」」  
2人のスカートの形状が明暗を分けた。鞭の様な触手の攻撃は強烈だったが、特殊鋼で  
出来た繊維を編みこまれたエンジェル隊の衣服は、それ自身は裂かれても防御の役割は  
果たされていた。  
ミルフィーユのショートスカートは真っ二つに破られはしたが、触手に狙われた股間には  
届かなかったのだ。  
 
しかし、フォルテの前部に大きくスリットが入ったスカートはそうはいかなかった。前方  
からの触手の攻撃にフォルテのスカートは防御の役目を果たさず、鞭は赤いスキャンティに  
覆われた股間を直撃した。バシィ!!と強烈な打撃音が響き、鞭はフォルテの秘裂に沿う  
ように巻きついた。  
 
「あ……! が……!」  
股間を押さえながらがっくりと膝をつき、そのまま前のめりに倒れるフォルテ。全身が震え、  
顔は苦痛に歪み、額からはどっと嫌な汗が噴出している。急所を直撃したのだから仕方が  
無い。むしろ、強化繊維製のスキャンティのおかげで怪我を免れただけでも幸運と言えよう。  
残念ながら、スキャンティは苦痛までは取り除いてくれなかったが……。  
 
「はぅう……くっ!!」  
「フォルテさん!」  
蘭花が駆け寄ろうとする。が、  
「馬鹿! 散開しろ! 固まってるとまとめてやられるぞ!!」  
びくっ!と蘭花の動きが止まる。ミルフィーユも指示通り、フォルテから離れる。  
触手攻撃で一撃全滅を避けるには仕方が無い。  
「ミルフィーユ! さっきの指示通りに動け!」  
「は…はい!」  
苦痛に呻くフォルテが歯を食いしばって出した指示を受け、ミルフィーユは破れたスカートを  
翻し、反射的に行動した。  
蘭花はその場を動かない。いや、動けないのか? フォルテを地面に這い蹲らせたイヴは  
ゆっくりと蘭花に近寄ってくる。蘭花は魅入られたようにイヴを見つめて動けない。  
その時……。  
 
「させるか!」  
倒れていたフォルテが体を回転させ、なぎ払うようにのイヴの足を蹴りつけた。背後からの  
攻撃にふくらはぎを払われ、転倒するイヴ。  
「いまだ、蘭花! 取り押さえろ! ……蘭花!?」  
2対1で相手を引きずり倒したなら取り押さえられる、フォルテはそう踏んだのだが、  
蘭花が動かない。竦みあがって動けないのだ。  
「蘭花……あっ!?」  
立ち上がったイヴに突き飛ばされ、大股開きで倒されるフォルテ。更にイヴは2本の触手を  
鞭の様に振るい、フォルテの体をあちこち打ちのめした。ビシッ!バシッ!と打撃音が  
廊下に響き渡る。  
「あうっ!……はうっ!」  
「フォルテさん!」  
背中、腰、胸、腹、足……次々とフォルテに降らされる鞭の嵐。しかし、気のせいか  
打撃音は比較的軽い。数こそ多いが……。  
 
「こいつ! わざと……!?」  
"フフフフ……"  
強化繊維性の制服はいまやズタボロの布と化していた。フォルテの体はあちこち鞭の打撃で  
腫れ上がっていたが、それよりも狙いはフォルテの体を裸に剥く事であるのが明確になって  
いく。イヴはここでも蘭花をチラチラと見る。無論、これも蘭花にするプレイのつもりなの  
だろう。思わず目をそらす蘭花。  
 
「くっ! し、しまった…!」  
"捕まえましたよ エンジェル隊の隊長さん"  
イヴの話し方はどんどん人間味を増している。さっきの仕返しとばかり、触手でフォルテの  
足を捉え、ひっくり返すと、すかさず、その両足を取り、右足を股間にセットして電気アンマの  
体勢を整えた。  
 
「フン……電気アンマか。効かないとは言わないが、アタシはそれにはちょっと強いよ?」  
フォルテが不敵に笑う。多少、強がりであるのは明白だが、他のエンジェル隊のメンバーの様に  
過度にその技を恐れてはいない。さっきの股間打撃も、苦しみながら一応は耐えきっている。  
"そのようね"  
イヴは動じず、そのまま電気アンマを開始した。  
「う……! あっ……!! ああああ……!」  
強いとは言いながらもフォルテもイヴの電気アンマする足を押さえ、内股になりながら悶える。  
防御力が全くない急所を責められる技なのだから仕方が無い。  
"このままでも 苦しめられるけど 気絶に追い込むのは難しそうね"  
そう言うと、イヴは何を思ったか、右足をフォルテの股間から離した。そして、フォルテの  
体を180度回転させ、うつ伏せにする。その両足を開き、自分はその間に座り込んで、また  
右足を股間にセットしなおした。ちとせにやった電気アンマのうつ伏せバージョンだ。  
裏電気アンマ、とでも言うべきか?  
 
"チトセのが『グラウンド式』 ミントのが『突き上げ式』 そしてこの形が『リバース式』  
電気アンマと呼ぶのはどうかな?"  
「「えっ!?」」  
二人の脳裏にイヴの声が聞こえる。  
「……まさか、お前……」  
何かを察したフォルテが振り返ってイヴを睨もうとする。  
"そうよ さっきからこうやって蘭花をいじめてたの 絶え間なくずっと ね"  
クックック……と喉を鳴らすような忍び笑いが聞こえる。機械であるだけに不気味に二人の  
脳裏に響き渡る。  
 
「お前……ゆるさねぇ……」  
フォルテが獰猛に眉間に皺を寄せる。  
"許さないならどうすると言うの 隊長さん?"  
イヴは電気アンマを開始した。  
「こんなちゃちな電気アンマごとき、振りほどいてやる………はぉお!?」  
突然、フォルテの口調が変わった。イヴの表情に笑みのような物が浮かび上がる。  
「フォルテさん…?」  
蘭花は新たな不安に襲われた。イヴはフォルテに何をしたというのか?  
 
「あ……! が……!? は……! うぅ!! や……やめ……ろ……はうぅ!?」  
フォルテのリアクションが急に激しくなった。懸命に腕を立て、ひっくり返ろうとするが、  
急に全身を震わせ、またうつ伏せに寝そべる。はぁはぁと息が荒く、全身から大量の  
汗が噴出している。さっきまで電気アンマをそれなりに耐えていた姿とは大違いだ。  
 
「フォルテさん!」  
"フフフフフ"  
蘭花の心配とイヴの忍び笑いをよそに、もはや声も出せずにビクビクとのたうつだけの  
フォルテ。一体、さっきと何が違うのか? 蘭花は目を凝らしてイヴが責めている場所を  
見る…。すると、武器として使っている踵の位置が、性器より若干後方を責めているのが  
わかった。  
 
「お尻の……穴?」  
蘭花の表情が一瞬、凍りつく。  
"そうよ フォルテの弱点はアヌス さっき全身走査済みよ"  
イヴが面白そうに言う。  
「そんな……フォルテさん!!」  
"もっと面白いデータもあるのだけど"  
「え?」  
"フォルテもお尻の穴が弱いけど 一番お尻の穴が弱いエンジェルは彼女ではないって事"  
「………!! どうして……!!」  
蘭花は顔面蒼白になった。イヴはフォルテを責めながら蘭花を見て笑っている。  
そう。勿論、それは蘭花のことだった。性器から会陰部を経てアヌスに至るまで……と  
言うより、アヌスこそが蘭花の真の弱点なのだ。それをイヴは簡単に全身走査で見抜いて  
しまっていた。  
 
"性器だけでもあんなに怖がってたのにね それより弱い急所があるなんて"  
「やめてよ!」  
蘭花は、耳を押さえてへたり込んだ。しかし、そうしていてもイヴの声はクリアに彼女の  
脳裏に直接聞こえる。  
"見てなさい ほら"  
イヴは今度はアナルタイプの電気アンマを繰り返しながら、フォルテの体を上下に揺さぶった。  
「ああ〜〜!! う……や、やめろ……!」  
フォルテがまた新たな悶え方をする。  
"大きな胸は羨ましいけど こういう時には ね"  
「胸!?」  
蘭花がフォルテの様子を見ると、どうやら体を揺さぶられる事によって、裸同然に晒された  
フォルテの巨乳が床に押し付けられ、変形していた。その様子は淫猥で、普段のフォルテを  
知る蘭花にはなんとも不思議な感じがする光景だった。  
 
「く……うう…! 胸が…こすれて……あうっ!」  
もう一つ、フォルテが悩まされているのは裸の乳首が床にこすり付けられる事であった。  
敏感で繊細な乳首が床との摩擦で責められる。これも蘭花には目を背けたい光景だ。  
"どう? アヌスと乳首の両方を責める攻撃 貴女にもさぞかし効果的でしょうね"  
「……!!」  
イヴの嘲笑が脳裏に響いたとたん、蘭花は耳を押さえて駆け出していた。目の前では仲間が  
捕まって非道い目に遭っている。それを見捨てて逃げ出したのだ。フォルテは自分を庇って  
あんな目に遭ってるというのに……。  
 
「イヤだ……もうイヤだよう……!!」  
蘭花は保管庫の方にも向かわず、居住区の空き部屋に駆け込むと、ライトもつけずにドアを  
ロックした。そして壁を背に座り込んで蹲った。暗く冷たい、静かな部屋に蘭花のすすり泣く  
声だけが弱々しく響いていた。  
 
 
どのぐらいの時間、そうしていただろう……。  
空き部屋に篭ってから、泣き続け、その涙が乾き始めた頃にイヴが姿を現した。ぼんやりと  
光るその姿……例のイメージ立体映像だ。  
"元気が無いね ランファ"  
優しく蘭花に声をかけるイヴ。本当にいとおしげに、映像が蘭花の髪に触れた。  
 
「………」  
蘭花は何も答えない。その場を逃げ出そうともしない。ただ俯き、イヴの姿から視線を  
逸らせている。  
"逃げないの? 私が怖くない? フフフ 逃げないと私の本体が来ちゃうよ?"  
いたずらっぽく蘭花に話しかけるイヴ。  
「……好きにすればいいよ」  
ボソリと蘭花が呟く。  
「私が目的なんでしょ? だったら私だけを狙いなさいよ。どうしてみんなに酷い事を  
するの?」  
真っ赤に泣き腫らした目でイヴを見あげる。  
 
"あなたが目的だからよ"  
イヴがクスクスと笑う。  
"あなたが目的だから あなたの仲間を襲うの そうすれば あなたは自分のせいで  
仲間がやられる事に苦しみ あなた自身も自分がどうされるかをイメージさせられて  
何重にも苦しむ その姿が見たいからよ"  
 
「私のために…? じゃあ、フォルテさんやミントは……!」  
"最初からおさらいしましょうか"  
イヴは蘭花の質問を断ち切り、部屋の中央に浮かび上がり、そこに結界のような空間を  
作り上げた。その擬似映像空間から誰かの悲鳴が聞こえる…。  
 
「……ちとせ?」  
そこに映っていたのはイヴに電気アンマされているちとせの姿だった。座り状態で  
電気アンマされるちとせは全く逃げられずにひたすら悶えさせられるのみであった。  
"このグラウンド式電気アンマの特徴は 一旦体勢が固まると余程の事がないと  
逃げられない事 誰かが助けてくれるか あるいは仕掛けている人が疲労しない限り  
抜け出すのは困難ね そういう電気アンマを されたくないでしょ?"  
イヴが蘭花の反応を楽しむ。それがわかっていても蘭花の体はビクリと反応してしまう。  
 
"そしてこの突き上げ式電気アンマ どうしてこれをミントにしたか わかる?"  
イヴが質問を投げかけるが、蘭花は顔を上げない。  
"彼女が一番体重が軽いから この電気アンマの特徴はなんといっても この三角木馬  
効果にあるわ"  
ミントの股間にしっかりとイブの踵が食い込んでるところを大写しにする。  
 
"この効果は体格が大きいほど つまり体重が重いほど 効果が高いの 体格が大きく  
ても 急所である股間の強度にはそれほど個人差がないからね だから一番体重が軽い  
ミントは有利なはずなんだけど"  
にやり、と人がましく笑うイヴ。イヴは蘭花といる時は特に表情が豊かになる。  
 
"でもそのミントでさえ この苦しみようでしょ? 体重が重いあなただったらどんな  
効果があるのかな? ああそれと"  
イヴが蘭花に近寄り、チャイナドレスのスカートをめくろうとする。これには流石に  
蘭花も無視できず、慌ててその場を離れる。イヴはそれ以上は追わず、「冗談よ」と  
言ってるように首を竦める。ただのイメージだけの相手に翻弄される蘭花は唇を  
噛み締める。  
 
"それと 急所の強度には個人差が無くても 急所の感度には大きな個人差がある  
ものね 誰かさんは 特に感じやすいから"  
クスクスと笑うイヴ。「今までの二人以上に貴女は苦しむのよ」と暗にほのめかす。  
いや…『暗に』ではないか。  
 
"ここからは最新映像 貴女がさっき逃げ出して 見れなかった場面よ"  
映し出されたのは紛う事なく、フォルテの姿だった。うつ伏せ状態の電気アンマの体勢の  
まま体を震わせ、呻いている。  
 
「……! フォルテさん!」  
その場面を見るのは蘭花にとって凄まじく辛かった。しかし、容赦なく映像は映し出され、  
フォルテの悲鳴が聞こえると、蘭花は目を閉じていられなくなった。  
「フォルテさん…! フォルテさん……! ゴメン……!」  
映像の中のフォルテはいつもの気風の良い、姐御肌のフォルテではなかった。自分の  
最大の弱点であるアヌスを執拗に責められ、淫乱女のような濡れた悲鳴を上げさせられる。  
胸も同時に責められて顔は紅潮し、全身から多量の汗を流して悶えている。  
フォルテをこんな姿にしたのは自分だ……激しい後悔の念が蘭花を責め苛む。  
 
("フフフ 貴女も可哀想ね 信頼する仲間に 置き去りにされた気持ちはどう?")  
映像の中のイヴの声にビクリと震える蘭花。続けてフォルテの声が聞こえた。  
きっと自分を恨んで罵倒するだろう……。いや、むしろそうして欲しい……。  
唇を噛み締め、次に来る心の衝撃に備えた蘭花の耳に飛び込んできたのは、意外にも  
柔らかく、落ち着いた声であった。  
 
(「置き去りにされた? 蘭花は次の作戦行動に出ただけさ……戦略的撤退ってやつだ」)  
違う……。蘭花自身がそう言いそうになった時、フォルテの声が続く。  
(「あいつもやるようになったさ。今までは猪突猛進タイプだったのにねぇ……」)  
クスクスと面白そうにフォルテが笑う。  
("とてもそうには見えないけど? ミントが責められて 今また貴女が責められるのを  
見て 意気地なく逃げ出したのよ あの子は")  
イヴの声が少し険を含んだように聞こえたのは気のせいか?  
 
(「それなら……それでいいのさ」)  
("なに?")  
(「恐ろしい敵を見て引き下がるのは悪い事じゃないさ。一旦引いて立て直すなり、  
違う角度で見直すなり、心を落ち着けるなり……出来ることは色々ある」)  
「フォルテさん……」  
弱点のアヌスを執拗に責められ、恥ずかしい格好で体力を消耗しながらもフォルテは  
気概を失わないでいる……自分と違って。  
 
("その為に 貴女はこんな目に遭ってるのよ? 言わばあの子が 貴女をこのアナル  
責めの地獄に陥れたの そうでしょ?")  
イヴの口調が明らかに変わってきた。ほんの僅かだが喋り方に落ち着きが無くなりつつある。  
(「だから……違うって言ってるだろ?」)  
汗だくの顔でフォルテは凄惨に笑った。  
(「アタシが……こうなったのは……アタシが間抜けなだけさ……。お前が、あの子の  
代わりにアタシがこうされていると言いはるのなら……それはそれでいいさ。アタシは  
あの子を守ってあげたいって思ったんだから……それを達成できて満足だよ……」)  
 
「フォルテさん……」  
ボロボロと涙があふれてくる。(「電気アンマはアタシが喰らってやるよ」)確かに  
フォルテはそう言っていた。自分はあの時、フォルテの優しい気持ちに気づいていた  
だろうか? 自分の事ばかり考えていなかっただろうか……?  
 
("貴女は 変な人")  
機械的に責めていたイヴが冷酷な表情に変わった。蘭花も驚いて映像に見入る。  
("もうあなたのサンプルは要らない 私には必要ない ……つまらないよ")  
「ま……待って!!」  
蘭花は思わずフォログラフに飛び掛る。しかし、それは当然のごとく、空を切り、  
反対側の壁まで飛んでひっくり返った。映像は蘭花の脳裏に直接再現されているのだ。  
実態など、当然無い。  
 
("これで 終わり")  
イヴの触手がすっと先が細くなる。そして、ドリル状に捻られた。イヴはフォルテを  
離し、電気アンマから解放した。そして……。  
 
「フォルテさん…!!」  
蘭花は口元を押さえる。そのドリルの触手は勢いをつけて、なんとフォルテのアナルに  
強烈に叩き込まれた。  
(「はぅううう〜〜〜!!!」)  
体を仰け反らせ、ビクビクと痙攣するフォルテ。触手のドリルはグリグリとフォルテの  
アナルを責めていたが、やがてゆっくりと回転してそこから少しずつ抜けていった。  
少しずつ、ゆっくりと……最後の最後までいたぶるかのように……。  
(「お……お……わ……ぁ……あ……」)  
完全にドリルが抜けた時、フォルテは失神し、どう!と床に突っ伏した。  
イヴは無表情で触手を収め、失神しているフォルテを一瞥すると、宙を浮くようにして  
その場を移動する。映像はそこで消えた。  
 
"自分だって怖いくせに 強がりばかり つまんないやつだったわ あいつ"  
イヴが憎憎しげにフォルテを罵倒する。  
「……じゃない。……いよ」  
"え?"  
蘭花が何かを呟く。イヴが不審そうに聞き返すと、ゆらり、と蘭花が立ち上がった。  
 
「電気アンマじゃないじゃない…。ずるいよ、あなた」  
"な……?"  
「さっきのはフォルテさんの勝ちだね。これであたしたちの1勝2敗……」  
"なに…? なにを言ってるの?"  
イヴの音声に動揺の色が走る。蘭花はイヴの映像をキッと睨みつけた。  
「あんたなんか、あたし達が退治してやると言ってるの。次に会った時は容赦しないから。  
覚悟してなさい」  
"なによそれ? さっきの映像を見てなかったの? 私は貴女の弱点を全て見通して"  
「電気アンマが怖くてエンジェル隊は務まらないよ! 掛かってきなさい。あたしは  
もう逃げないから!」  
蘭花はきつくイヴを睨みつける。イヴはさっきの冷酷な表情で見返した。  
 
"足が 震えているよ"  
指摘されて蘭花も初めて気がついた。自分の足が震えているのだ。武者震いではない。  
電気アンマに対する恐怖だ。今、闘志に火がついたといっても、女の子であるなら  
先天的ともいえる電気アンマに対する畏怖心がすぐに拭い去られるわけではない。  
 
「今だけよ、こんなの!」  
ドン!と拳で太股を叩いた。震えよ、静まれ! その気持ちを込め、なんども自分の  
太股を叩く。気持ちが通じたのか、太股の震えは収まっていった。  
"貴女も 変な人 ……いいわ 保管庫に来なさい そこで……"  
イヴはすっと消えかかる。  
"そこで待ってるから あなたに次ぐ良い素材をたっぷりといたぶりながら ね"  
フッと含み笑いを残し、イヴの映像が消えていった。後には静寂だけが残される。  
 
「いい素材……ヴァニラ!?」  
なぜか、ヴァニラの事が気になった。『良い素材』とはどういう意味なのか?  
蘭花はドアを蹴り開け、廊下を駆け出していった。  
 
 

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