暑い夏は夜になっても
体の熱のほてりがさめない。
思い出すことは
昼間見た夏服から伸びた四肢、
笑顔だったりする。
やばい。
頭が夏の暑さにやられているのか
変なことを考えてしまう。
こんなときは眠って脳の疲れを
とろう。
……。
どうしようもないもやもやを抱えて
僕は部屋を出た。
『どうしたの、兄さん? 何かよう?』
妹が無邪気な顔で出むかえてくれる。
何も用があるわけじゃない。
『いや特にないんだが』
目をそらさずに言った。
『あたしの部屋が見たいの? いいけど』
ドアをあける。OKのサインだ。
『そんなんじゃない』
部屋に入る。
妹の部屋といってもここで生活してるわけじゃない。
僕と妹は遠くはなれた学園で生活していて
ここには休暇のときにしか帰らない。
むかし、妹と今はもういない双子の妹は
二人でこの部屋を使っていた。
子ども時代の思い出が、
記憶が、この部屋には
つまっている。
ぬいぐるみ、絵本、鏡、児童文学、
子どものころのものがならんでいる。
『兄さんがこの部屋入るの久しぶりだよね』
妹はベッドの上に座り、
僕はクッションにあぐらをかく。
沈黙が続く。
妹は僕が何か話すのを
にこにこしながら待っている。
慣れなかったんだ。僕は実家では
妹たちといつも一緒だったし、
学園から帰ってきたときも幽霊の妹がいつも
くっついていた。
一人で実家の自分の部屋にいると
どうしても
何かが足りないように感じてしまう。
まわりには笑われるだろうが。
『兄さんあたしと一緒に寝たいの?』
『な、何いってんだ、お前』
『だって兄さん春奈がいなくて
淋しいからあたしの部屋に
来たんじゃないの、
いいよ、あたしが
春奈のかわりしても』
こいつに読心能力があるとは知らなかったよ。
『ああもういい帰る』
『ちょっと待ってよ、兄さん、
ごめん』
妹が僕の腕をつかんで
ひきとめる。
ひんやりとした手の感触、
これが欲しかったんだ。
『え?』
僕は妹を抱きしめる。
妹は僕より体熱が低い。
『ちょ、ちょっと兄さん』
暑い夏の余熱も
一日の終わりに高くなる体熱も
僕より
熱の少ない体を
抱くことで
クールダウンする。
僕は妹の背中に回した両手をはなして
『じゃお休み』と帰ろうとしたが
いつの間にか
妹は僕にしがみついていた。
『兄さん……兄さん……』
『ちょ……離せよ。暑苦しいだろ』
嘘だ。抱きついてきても暑苦しくない。
『何でこんなことしたの?』
『え……』
『妹だから?』
『え……』
『妹だから抱きしめても別にいいとか考えてるの?』
『いや悪かった、2度としない』
『そうじゃないの』
沈黙。
『兄さん』
『……』