昼下がり。暑い夏が終わり、過ごしやすい季節になった頃のこと。  
 ここは第三EMP学園。EMP、いわゆる超能力を発現した少年少女たちが住む場所。  
 そこに、彼はいた。  
「あいつ……俺との約束、忘れてるわけじゃないよな」  
 端整な顔立ちに張り付いてるのは不機嫌そうな感情。  
「連絡もつきやしないし、どうなってやがる」  
 不満そうな彼、蜩篤志は、ある野望のためにやって来た。  
 
 
「やっぱり何処の学園もそんなに変わらないもんだな」  
 独り言を呟きつつ、ここへ来た目的のために歩く。  
 その目的とは、ある夏の事件の際、奇抜な笑顔を浮かべた白衣の男と交わした約束にあった。  
 しかし、約束がいつになっても実行されないのだ。  
 彼はあの手この手で催促を試みたがまったく相手にされない、まさしく門前払いである。  
 この間などは酷かった。あちらから電話をかけてきたと思ったら、一方的に用件だけを言い  
 状況を把握する間もなく切られてしまった。  
 電話で話題となったルームメイトが帰ってきて、詳細な事情を聞くまでは、何だったのかとイライラしたものだ。  
   
 それでも我慢を重ねて、何度目かも分からない電話を宮野にかけ、やっと繋がったと思ったら、  
『そんなにもそれを欲すると言うのなら、私を倒してみたまえ。この宮野秀策はいつでも戦いを受け付けているぞ!』  
 こんなことを言いやがった。それ以降は音信不通だ。  
 そして蜩少年は非常に短絡的な性格だった。その結果、約束の白衣男、宮野秀策が居る第三EMPまで遠征をしているのである。  
 上の方に遠征の理由を聞かれたときは困った。まさか本当の事を言うわけにはいかないだろう。  
 この事態の発端となった、夏の事件の相談といった風に理由をでっち上げたのだ。  
「テレパスがいなくて幸運だったな」  
 彼の能力はそっちに疎いので、読心を防御する手立ては無い。とても危険だったが、それを冒す価値が、ここにはあった。  
「待ってろよ、あの野郎」  
 
「んん?」  
 しかし目的の部屋を探そうにも場所が分からない。そこらにいる奴に話を聞こうとしても、宮野の話になると皆逃げていくのだ。  
 あいつ、何やってやがる。  
 そのために、生徒会執行部にまで足を運んだわけである。執行部の位置なら第二と同じだ。  
「ふぅん、へえ? あんた第二から来たの。遠いところからご苦労様」  
 扉から正面、といっても植物で遮られ直接は見えない。その見えないところから猫をなでるような声が聞こえてきた。  
 何だ、俺は何も言ってないし、そもそもこっちは見えてないはずだ。  
「あんた、EMP学園に何年いるのよ。早くこっちに来たら? 別にあたしはこのままでもいいけど?」  
 ……テレパスか。また厄介な奴がいたもんだ。  
   
 植物を掻き分け、奥に進むと、ソファでだらしの無い格好をしたポニーテール女がいた。  
「はあい、第三EMP生徒会執行部会長代理、縞瀬真琴ちゃんでーす。よっしくー」  
 奥歯が軋む。  
「怒らない怒らない。話は聞いてるわ、目的は何なの?」  
 真琴が寝転んだまま聞いてきた。  
「話を聞いてるならその質問は必要はねえだろ、この間の仲嶋数花の事件の……」  
「本当の目的よ、本当の。あたしにかかれば分からないことなんてないのよ。自分で言うのもなんだけど、あたし、トリプルAだからね」  
 くくく、と押し殺した笑いをしながらこちらを見てくる。  
 そんなら、なおさら質問する必要がねえだろと蜩は思う。  
「いや、一応聞いてあげようと思ったんだけどさ。ふうん、そんな理由で行動するのも悪くないかもね。嫌いじゃないわ。好きでもないけどね」  
 更にニヤニヤを強くして視線を送ってくる。そんなので顔が良いのだからなお悪い。  
「はいはい、分かったわよ。宮野の居場所ね」  
 そう言うと同時に蜩の頭の中に部屋の番号が貼り付けられた。  
「これでおっけー。後は勝手になさいな。あ、ユキちゃんによろしく伝えといてね」  
 
 
 とんだ遠回りだった。エライ奴がいたもんだ。第三は変人の集まりってのは本当なのかもしんねえな。  
 そんなことを考えながら、目的の部屋に立つ。ノックをしてしばらく待った。  
「誰だ」  
 扉を開けて登場したのは、いつか会ったことのある気難しそうな男。  
 さっき名前を聞いたな。  
「どうも、ユキちゃん」  
 相手の顔が思いの他歪んだ。  
「高崎佳由紀だ」  
 真琴か、などと呟いている高崎に問いかける。  
「宮野って奴がここにいないか? 同室だと聞いたが」  
「不本意ながら確かに同室だ。だけど今はいないな。ちなみに居場所も知らない。予測も出来ない」  
「そうかい。それじゃあ失礼したな」  
 軽い音と共に扉が閉じられる。  
 それじゃあ、どうしたもんか。  
『あ、あーこちらブロードキャスティングセンター。 エマージェンシー!   
旧部室棟二階で、想念体の発生を確認! 周囲の対魔班はすぐさま駆けつけ、これを排除せよ! 以上」  
「……そういえばあいつは、対魔班の班長だったな」  
 
「久しぶりの想念体だ。私たちの力を試す良い機会である!」  
「遊びではありません。 さっさと準備なさってください」  
 学校の廊下をバタバタと走る白衣と黒衣。  
「不安かね、茉衣子君。大丈夫だ、私に任せたまえ! 美しい君を守るためなら世界を敵に、いや、世界を味方に付けて見せよう!」  
「班長が味方に出来る世界があるとは思えませんわ」  
 妙な言い合いをしながら、白衣の宮野秀策と、黒衣の光明寺茉衣子は想念体が発生した地点に向けて移動していた。  
「しかし、また想念体が発生するようになりましたわね。この間までは大人しくしてましたのに」  
「ふむ、この頃、事件続きだったからな。想念体も出る機会を失っておったのだろう」  
「想念にそんな意思があるとは思えませんが」  
「確かにそれは想念の意思ではない! それを操る者の意思なのだ!」  
 そしてこれだ。吸血鬼の事件から、宮野の物言いは少し変わった。  
 あの時した誓約。もう思い出したくもありませんが、まだ、あれは有効なはずです。  
 私が縛っておかないと、メタンガスが入った風船のようにふわふわと何処かへ行ってしまいそうですから私は班長といるのです。それ以上でも以下でもありません。  
 
「茉衣子君! ぼうっとしていてはいかんぞ。ほれ、すぐそこに想念体がいるのだ!」  
「ぼうっとしてなどおりません。 ちゃんと把握しております」  
「では行くぞ」  
 白衣の袖を振り、虚空に大きな黒の円を描く。自分の心を疑わない、信念の力でそれは完遂された。  
 複雑な模様が描かれたマジックサークルを手で押し出し、想念体近くの壁に貼り付ける。  
「昏い余剰の力よ。 私に対なす者を捕らえたまえ!」  
 円から噴出する黒煙の勢いに乗って、何本もの鎖が人の形をした想念に絡み付く。  
 縛鎖が敵を捕らえたのを見据えて、茉衣子は精神を集中させる。  
 突き出した腕の指先から淡い光を持つ、対想念体の蛍火が生み出された。  
 狙いを定め、EMPを解き放つ。鎖に捕らえられ、動けない想念はどうすることもなく、それを受け入れる。  
 EMP保持者にしか分からない爆発があり、その後、物理的な物体から成り立つ想念が爆散した。塵が舞う。  
「今回、想念体が取り憑いておったのは廊下に繁殖していたカビであったようだな。ここらは通気が悪くていかん」  
 咳を繰り返しつつ茉衣子は言う。  
「何故班長は平気なんですか! こんなにカビが舞い散っているのに!」  
「私には吸いたい気体しか吸い込まないフィルターが常備されているのだ! 故に問題ないのである」  
「問題は班長にあります!」  
 
 いた。ついに見つけた。  
 部室棟の場所を聞いて、大急ぎした甲斐があった。  
 爆発が起こって、ゴミが降り注いだ時は驚いたが、それ以上に宮野を見つけたことが大きい。  
 宮野の背後の通路の隅から、蜩は二人を見ていた。  
 前回のお返しをしてやる。奇襲だ、一気にいく。気づかれたら前の二の舞だ。卑怯もくそもあるか。  
 蜩はEMPを開放した。時間が粘性を帯びる。  
 
 
 塵を吹き飛ばす強風が吹いた。  
「――っ」  
 飛ばされそうになるのを堪え、茉衣子は風の吹いた方向に目を向けた。  
 こちらを向いた宮野はいつも以上の邪悪な笑みを浮かべ、茉衣子を見つめている。  
 その向こうには、腕を宮野に突き出して、その届かない腕の先を悔しそうに見つめる蜩が宙に浮いていた。  
 
 
 いける。気づいていない。30倍に加速させた主観時間の中で、水のような空気と格闘しながら茉衣子の横を通り過ぎ、宮野の背後を取った。  
 首を軽く突き、気絶させようとしたところで、ブラックサークルが白衣の周りに浮かんだ。  
 またか。これなら大丈夫だ。踏むと動きを停止させられるが、空中なら平気のはず。  
 軽くジャンプをし、サークルの中に入り、攻撃をしようとした瞬間、蜩は身体の自由を奪われた。  
 
 
「くそ! どうなってやがる!」  
 蜩が空中で固まったまま喚いている。  
 振り返った宮野が勝ち誇るように叫ぶ。  
「いつまでも平面にとらわれてはならない。  
隙あらば、立体を狙うのが良いだろう! 私は三次元方向にも魔法円の効果をもたらすようにしただけのことだ」  
「蜩さん。 何故貴方がここにいるのですか」  
「あ、いや、それはだな……」  
「彼にも色々とすべきことがある。例えばそれが、茉衣子君のあられもない写真集を奪取することだったりな!」  
「何ですかっ、それは!」  
 茉衣子は急激に顔色を変え、悲愴な声を上げる。  
「班長、そのような物の存在を私は全く存じ上げておりません!」  
「知らなくて当然だ。あれは君であって君でない君を被写体にしたものだからな」  
「処分してください、今すぐ!」  
「ははは、全霊で断る!」  
「うるせぇ――!」  
 
 
「蜩くん、迎えに来たよ」  
「……ああ」  
「そうだよねぇ、茉衣子ちゃん、可愛いもんね」  
「……」  
「縞瀬さんから聞いたよ。蜩くんの目的」  
「そ、そうか」  
「それに第二EMPの生徒会自治の皆にも伝わってるよ」  
「なんだと!」  
「帰ったらこってりだねぇ、うふふ」  
「……お、おぅ」  
 
 
 もうすぐ日が沈む。  
 茉衣子は第二から迎えに来た喜夛高多鹿のニコニコした表情と  
 完膚なきまでに自業自得な影を落とす蜩の去り行く背中を見つめていた。  
 隣に立つ白衣の木偶の坊から鈍重な声が聞こえる。  
「写真とは、時間を排斥した空間を写すものであり、写真の中の情景に変化は無い。  
 もちろん媒体自体の劣化はあるだろうが、今は考えなくとも良いことだ。  
 時間とは何であろう。静止した瞬間が重なり合って、混ざり合い  
 それが時間のように見えているだけではないのだろうか。  
 あたかもアナログな映画のフィルムのように、動いているように見える映像の  
 本当の正体は、ただの停止した画像なのだ。  
 しかし、静止には時間が無い。零に零を足しこんだとしても、答えは零だ。  
 それではなにも動きはしない、何も変わる事がない」  
   
 宮野は何時ぞやの真面目な顔でちらりと茉衣子を見て、また空を見上げる。  
「ふふん? しかし、静止した物体ほど操りやすいものはあるまい。  
 写真とは貴重な瞬間や稀少な物体を捉えるために最適なのだ。  
 それを持つものはいつでもそれを見ることが出来る。好きにする事が出来る」  
   
 白衣はこちらを向き直り、いつもの自分を思い出したかのような不気味な笑いをしだした。  
「もちろん、そのときの感慨に浸る事も可能なのだ……そう!  
 あのときの茉衣子君(優)のような私の英知を絶するような瞬間に!」  
「また意味の分からない話をしたと思ったら最後はそれですか!  
 早くよこしなさい。班長がそれを所持することは主に私の精神に悪影響を及ぼします!」  
 宮野は馬鹿笑いをしながら大声で叫ぶ。  
「無駄なことだ。写真を奪ったとしても、私の記憶までは奪えまい。  
 この記憶を消すためには、より刺激的な体験をしなければならないだろう!  
 茉衣子君にそれが出来るのかね。むしろさせて頂けるのかな!」  
「ばっ、アホ班長! それ以上喋ると吹き飛ばしますわよ!  
 いえ、もう十分でした。吹き飛ばさせていただきます!」  
「ははは、全身で断る!」  
 
 彼らが望むならいつまでも。期間限定の気侭な生活を。  
 
 

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