光明寺茉衣子は妖激部へと向かっていた。  
 いつもは傍若無人な彼女も流石に今回の騒動にはまいっていた。  
 そこでなんとなく、ここ数日行動を共にしていた彼に会いたくなったのだ。  
 
 妖激部の扉をノックする。  
 誰も返事をしないので構わず扉を開けると、そこには一人の男性がたたずんでいた。  
 ボサボサ頭に白衣を着た長身の男、宮野秀作であった。  
 
「なぜ班長がここにいるのですか!」  
 
 よりによって茉衣子が今一番会いたくない相手であった。  
 ぼんやりと窓の外を眺めていた宮野は茉衣子に気がつくと振り返って言った。  
 
「やあ、茉衣子くん!キミを待っていたのだよ。それ以外に理由があるとでも思うのかね?」  
「あいにくわたくしには班長にお会いする理由などこれっぽっちもありませんわ」  
「そう邪険にするものでないぞ。  
私は茉衣子くんの傷つきやすくも繊細な乙女心を慰めてやろうと思っておるのだからな!」  
「班長に慰められるくらいならピラニアのいるプールに飛び込んだ方がまだましです!」  
「ほう、それはピラニアが実は臆病でそうそう人を襲わないということを知ってのことかね?」  
「そんな屁理屈など聞きたくありません。そもそもわたくしは同情されることが大嫌いなのです!  
それよりも茂さんがどこにいるかご存知ではありませんか?」  
「ふむ、彼か………」  
 
 宮野はそれまでの倣岸な態度を翻し、神妙な面持ちになった。  
 
「彼は消えてしまったよ」  
「えっ?」  
「キミに渡すよう頼まれた」  
 
 宮野はそう言うと一輪の造花を差し出した。  
 一瞬宮野の言葉が理解できなかったがその花を目にした途端、  
不意に茉衣子の脳裏に茂の言葉が蘇った。  
 
『花でもだしてやったら光明寺にプレゼントするグットタイミングだったのにね』  
 
 茉衣子はすぐに理解した。  
 
「何が『狙ったものは出せたことがない』ですか!」  
 
 彼はすでに、EMP能力を失っていたのだと。  
 
「ハナっからインチキだったのですわね!」  
 
 つまり、『彼』は本物の『彼』ではなかったのだと。  
 
「そんなことって……、何も言わずに消えるなんて……、うっうっ……」  
 
 宮野は肩を震わせる茉衣子にそっと手をかけた。  
 
「茉衣子くん、泣きたい時は素直に泣くべきだ。存分に泣くが良い!」  
 
 宮野の、そのギリシャ彫刻のような顔は幾分か慈愛に満ちているように思えた。  
 茉衣子は不本意ではあったが今だけはその顔を宮野の胸にうずめることにした。  
 
「うわあああぁぁ!」  
 
 何故こんなに悲しいのだろう?  
 今、わたくしが弱っているからだろうか?  
 それとも、いつのまにか『彼』に惹かれていたからだろうか?  
 どこかで『彼』がおどけるような仕草で笑っているような気がした。  
 
 
 こうして茉衣子にとって最悪な日々がここに幕を閉じた。  
 
 その後、第三EMP学園はこれまで通り、時々想念体が暴れては退治される日常が戻ったが  
 茉衣子は気が抜けた状態が続いた。  
 
 そんなある日、茉衣子は縞瀬真琴に呼び出された。  
 そこで与えられた任務は下界で消えた人型想念体についての調査だった。  
 
「まぁ、気分転換だと思って行ってくるよし。ちゃんと資金も出すよーん」  
 
 そのリストの中には何故か観音崎茂の名前もあった。  
 真琴なりに気をつかってくれたのだろう。  
 今回ばかりは一人で任務に赴くことになった。  
 
 
 完  
 
 

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