茉衣子は宮野に向けて叫んだ。
「班長! なんとかおっしゃってください!」
「ああ、茉衣子くん」
宮野はわざとらしく溜息をついた。
「正直に答えよう。模範解答の一つをだ。それはだな、このまま何もせずに放っておく、という選択肢だよ」
茉衣子はスレが荒らされていくような既視感に襲われた。
本気ですか? このままでいいはずなどありません。あっては……。
「何故かを教えよう。いいかね、茉衣子くん、荒らしのモチベーションの源はスレ住人の直接的な反応だと思われる。
計らずも>>226殿が証明してくれたな。荒らしに直接反応せず機知に富んだSSを投下した>>226殿は、
その通り、スレが荒らされても、無駄に反応してさらにスレを荒らしたりはしておらん」
それがどうしたのだ。
「SSスレの住人がこのスレにいる理由を考えてみたまえ。なぜSSスレの住人がここにいるのか?
そしてこのスレを出て行ける時、SSスレの住人はどのような条件下にいるのか。そこまで思いつけば解答は目の前だ」
わからない。
「私の本心を言おう。スレ荒らしなどどうだってよい。それらはただの気違い。エラーだ。マッドでお花畑な現象に過ぎん」
真琴は素知らぬ顔をしている。何か言って下さい。何か……。
「理由だよ。なぜ2ちゃんねるのこの板にSSスレがあるのか、なぜスレ住人がSSをここに書いてしまうのか。その理由に私は思い至ったのだ。
そして、なぜ『涼宮ハルヒの憂鬱』や『学校に出よう!』をモチーフにしたSSが氾濫しているのか、
なぜスレ住人がそのようなSSを好んで生み出すのか、エロパロやキャラ入れ替えや性別反転ネタといった存在するはずのない作品があるのかも」
宮野は言う。
「すべては礎となるために存在する。正確を期すならSSスレの住人というのもおこがましい。
必要とされるのはキミや私を元ネタにしたSS作品だけなのだ。器はどれでも良かったのだよ。
何のためか? それは谷川流がこのスレを元ネタに
<アスタリスク>
介入する。
実行。
終了。
*
「班長……」
呼びかけていた茉衣子に、待てと言うように手を掲げ、宮野は真琴に挑発的な顔を向けた。
「さて、会長代理。思っていたより事態は急速に進行しつつある。認めるかね?」
「そうねえ」
真琴は宮野の視線をまともに受け止めつつ、
「もう一度、全荒らしを徹底スルーしないといけないみたいね。それも今度は徹底的にさ」
真琴は荒らしのIDをNGワードに登録しながら、
「連中にすっかり釣られたわ。スレ住人には悪いけど、これでようやく見えてきた。
荒らしている奴だけがスレが荒れる原因じゃないのね。他にもあるんだわ」
「そうだ。荒らしの持つ”反応されると喜ぶ”という特徴が荒れる原因となる以上、荒らしの種類は一定することがない。
ひたすらSS作者をけなすことしかできないものもいれば、無内容なコピペを貼り付けるものもいる。そして、」
宮野はSSスレの映るモニターを見下ろして、
「昼夜のいずれだろうと荒らし続けることが出来る暇人もいるというわけだ。
荒らしに直接反応することは伝言ゲームのようにさらにスレが荒れ続けることになる。
>>226氏のように機知に富んだ進化したSSを書き混んだり、
荒らしを完全にスルーして作品を投下し続けるのがスレの正常化につながるのかもしれないな」
茉衣子は無意識に今書きおえたSSをスレに投下した。