光。次の教室に行くため渡り廊下を歩いてる途中、外から射し込む光に目を奪われ歩みを止めた。  
見飽きた校庭。外部から隔離された校舎。僕はいつまでここにいるんだろうか。  
 
≪ちょっとユキちゃん、何ナル入りブルーになってんの?  
ただでさえ暗いのにこれ以上暗くなんないでよね≫  
 
無神経なテレパスが侵入してくる。でも不快じゃない。  
真琴は道端で銀色のBB弾を見つけた子供のような嬉しそうな顔をして、僕の近くに立っていた。  
「いいか、お前と話してる暇はないんだ。これから授業だから」  
「あーら、ぼーっと阿呆な顔して外を眺めていたのはどこの誰?あたしが来なかったらあんた一日中そこにつったってたわよ」  
いくら何でも自分はそこまで浮世離れではない。だが僕がここに踏み止まっていられる理由の一つはこの性悪女だ。  
「いつも感謝してるよ、真琴」半分嫌味で半分本気だ。  
「うふ、ありがとユキちゃん。お礼にネクタイちゃんとしめてあげる」  
真琴はいきなり僕の首元のネクタイを直しはじめた。  
突然の展開と真琴から発する南国の植物のような香りに頭がくらっとした。  
 
気がつくと僕と目を閉じた真琴の唇は重なっていた。  
≪もうユキちゃんたらスキが多いんだから≫  
テレパスはキスの時でも言葉が伝えられるがそれは意味のあることなんだろうか。  
といったマヌケな考えは一瞬で彼方の外へ飛んでいった。  
校庭に妹がいたのだ。春菜はもうこの世にはいない。  
僕と目のあった若菜は一瞬泣きそうな顔をしたが何も言わずきびすを返して走り去っていった。  
 
あちゃー、よりによってあの子に見られちゃうなんてね。  
(おい、真琴。お前、若菜がいることに気付いてたのか)  
フフン、どーかしらねー。まあいいじゃないの。  
今度はあの子にキスしてあげたら。あんたがいつもやってるみたいに。  
「僕は妹とキスはしない」  
僕はそれだけ言って教室へ向かって行った。「あー、もうユキちゃんたらー」  
死んだ幽霊の春菜が消えた時の表情と(あれはキスというのだろうか?)  
さっきの若菜の表情が僕の頭の中で重なっていった。  
 
 
光明寺茉衣子はルームメイトで親友の高崎若菜がますますブラコンになっていると感じていた。  
 
以前は髪を切ってさし上げた時、わたくしの技量がまだ至らないにもかかわらず、  
「はー、そうかな、さっぱりしてて気持ちいいよ。あたし茉衣子ちゃんが切ってくれるの好きだな」と言ってくださったのに  
最近では「うん、兄さん気に入ってくれるかな」と言って食事中に高崎さまが髪を切ったことに気付いてくれるか待っているのです。  
そこにあの無神経きわまりない班長が  
「おー若菜くん、髪を切ったのかね。よく似合ってるぞ。いや茉衣子くんの一向に変化しない技量を誉めるべきかな」  
「班長、今度一度散髪をしてさしあげますわ。その時に寝首も掻かせて下さいませ」  
「ははは、茉衣子くん、君になら喜んでこの首の一本や二本くれてやろう」  
とウロボロスのように繰り返されるうんざりするやりとりの隣で  
高崎さまは若菜さんの頭に手を置いてくしゃくしゃとして  
「似合ってるぞ、若菜」  
若菜さんはこれ以上ない程の嬉しそうな顔をなさって、照れ隠しに  
「もう、髪切ってもらってすぐなのにー」  
朝っぱらから砂糖を入れ過ぎたコーヒーを飲んだ気分になったのはわたくしだけでしょうか。  
 
またお二人が帰省された際、地元の夏祭りに行ったときの写真を見せて貰いました。  
ピンク色の浴衣を着た可愛らしい若菜さんが高崎さまの腕に手を組んで笑顔で写っておられるのです。  
仲が良すぎる年頃の子供達を家の方がどう思ってらっしゃるか余計な心配までしてしまいました。  
 
若菜の様子がおかしいと気付いたのは朝食の時だった。  
食堂で盛り付けをしている若菜の前に佳由季がやってくる。  
いつもなら元気に「はよー兄さん」という若菜が今日は元気なく「あ…兄さん……はよ」と小声でつぶやくだけだった。  
席についた佳由季にクラスメートが声をかける。  
「高崎、妹とけんかしたのか?」  
「違う」  
佳由季にはその日の朝食の味がよくわからなかった。  
 
想念体。第三EMPの能力者の余剰の集合体。  
対魔班は今日の今日とて想念体退治をしていた。  
「ふふふ、我々の作戦通りだよ、茉衣子くん」  
「人が最も集まっている食堂に想念体を逃がしてしまうのが作戦とは初めて知りましたわ。これでまた妖撃部の信頼は失われていくのです」  
白衣の男と黒衣の女子が廊下を走っていく。逃げていく蛸型の化け物の先に見知った少女の顔が見える。  
「おー若菜くん障壁を張ってくれたまえ。ここで私と茉衣子くんの合体技を」  
「そんなものございませんから」  
 
?  
若菜さんはどうして絶対障壁を展開なさらないのでしょう?あんなに近くまで想念体が来ているというのに!  
それどころか若菜は腰を抜かしたようにその場にしゃがみこんでしまった。  
想念体が若菜に触手を伸ばしてくる。  
茉衣子の指から放たれた火球が蛸を直撃する。  
蛸と若菜の間に宮野が割って入り呪文を詠唱する。  
あらわれた結界に蛸は動きを封じられる。  
茉衣子が結界のキャンプファイヤーに火をつけ、蛸は燃えて消えた。  
 
茉衣子は若菜の身を案じ側へ行く。  
「若菜さん、お怪我は?」  
「あ、うん」若菜はためらいながらもある告白をした。  
 
「茉衣子ちゃん、あたしEMPなくなっちゃった」  
 
 
会長室はとても気まずい雰囲気に包まれていた。会長代理とEMPのない生徒二人とその友人三人。  
その気まずさは僕たち兄妹と真琴、残りの三人とでは微妙に違う。  
「若菜ちゃんの能力がなくなったんで念願かなってユキちゃんは外の世界に出られるわけね。それともまだここにいたいの?」  
 
僕はこういうしかない。  
「若菜お前はどうしたいんだ」  
「え、え、兄さんはどうなの」  
真琴はあきれて  
「あんたら、晩御飯に何食べたいのと聞かれて何でもいいとか言う子供じゃないんだから」  
 
「じゃあ外野に聞くわ、」真琴は猫を抱いた少女を差す。  
「若菜さん、行かないで下さい。私の能力だってあってないようなものです。行っちゃ嫌です」  
類は半泣きになっている。本当に若菜にはいい友達がいる。  
 
「わ、わたくしは若菜さんと高崎さまに出ていって欲しくありません。でも最終的にはお二人の気持ちが優先されるべきだと思います」  
類のように言いたいが言わない。そこが茉衣子の美点だと思う。  
 
「じゃ改めてユキちゃんは…」  
「おい、なぜ私には聞かんのだ、会長代理!」  
「あんたも数少ない友達がいなくなるのは嫌でしょ、アホ宮野」  
宮野は白衣の襟を立てて  
「ふ、まあな。それに高崎兄妹いるところ事件あり、宮野秀策いるところ解決あり。つまり二人がここにいる方が合理的でもあるのだ」  
こいつと関わらなくて済むのは魅力的だよな。宮野にはツッコミを入れずスルーして  
「おい、二人がこう言ってんだ。ここにいたらどうだ」  
すると若菜は不思議そうな顔をして言った。  
「兄さんは家に帰りたくないの?いつかはあたしたち学校を出なきゃいけないんだよ」  
だからこそ少しでも長く一緒にいたいんじゃないのか。  
とは言えなかった。  
いつか別れなきゃいけない。  
 
結局その日は結論はでなかった。  
 
 
妖撃部の部室。  
わたくしと類さんと班長で若菜さんのことについて話しておりました。  
「あ、あの、高崎さんと真琴さんがキ、キ、キスをしてたんです」  
類さんによると休み時間、校庭で若菜さんと猫と遊んでいたところ(微笑ましい情景が目に浮かびますわ)  
渡り廊下で高崎さまと真琴さんがキスをしていたのです。若菜さんはすぐにその場からいなくなったそうです。  
高崎さまと真琴さんの関係が浅からぬことはわたくしも承知しておりましたが妹の前でなんとハレンチな。  
「高崎さまは若菜さんの目の前でそんなことをするなんて何を考えているのですか」  
 
「なるほどEMPの消滅には自然消滅と何らかの原因によるEMPの抑圧があるがこの場合は後者か」  
どうしてこう班長はなにもかもわかったような言い方をなさるのでしょう。  
「つまり若菜くんは自分も寮長殿とキスしたいのだよ」  
全くわたしにはついていけない結論です。真琴さんがいいそうなことで若菜さんには似つかわしくないことです。  
 
「無意識にだよ。ここで二人に心理学の講義をしよう。人間の心はエスと自我と超自我で出来ている。  
エスは無意識のことでイドともいう。どろどろとした欲望の沼だ。  
エスは欲望を満足させるために衝動のかたちを自我意識に浮かび上がらせようとする。  
それを抑圧するのが自我の上にある超自我だ。  
抑圧されて変形された衝動のかたちが病気や夢になってあらわれる。  
若菜くんのEMP能力が消えたのも抑圧が原因かもしれん」  
 
わたくしは激怒致しました。班長に人の心の何がわかっているというのです。  
「落ち着きたまえ茉衣子くん。これはあくまで仮説だ。  
この話が多少なりとも私の関心を誘うとすれば個人レベルから世界レベルへの応用が可能だと言うところだ。  
いいかね。どれだけ上位世界が下位世界を抑圧しても下位世界からの影響は受けざるを得ないのだよ。  
抑圧すればするほど抵抗は強くなる。よって上位世界にとって望ましいのは緩やかな管理なのだが…  
告白しよう茉衣子くん。私は正直、人の心や色恋について何にも解ってないのかもしれない。  
だからこれが私なりのやり方なのだ」  
 
 
「おめでとうございます、高崎さん。第三EMPからの脱出、心からお祝いしますよ」  
 
「……何の用だ」  
 
「言うまでもありません。あなたと若菜さんのスカウトですよ」  
 
「正気か?僕達には何の能力もないんだぞ」  
 
「ふふふ、高崎さん、世界には大いなる謎がある。そして世界の謎を解く人間には2種類います。  
Aタイプは、ひたすらに世界の謎を解くため行動するタイプ。  
僕や宮野さんですね。楽観的で論理的。概して演説が好きです」  
 
「……」  
 
「Bタイプは世界の謎なんかどうでもいい。ただ目の前の女の子を守ろうとするタイプ。  
この場合女の子の謎が世界の謎と直結していて、知らず知らずのうちに彼は世界の真実を目にして自分の無力さをなげく。感情的で悲観的。  
そう、高崎佳由季さん、あなたです」  
 
「僕は世界の真実なんて知らない」  
 
「宮野さんも最近女性と仲良くしてますが、堕落ではなくBの重要性もわかってるんですよ。あなどれませんね、彼は」  
 
「じゃあ宮野と話をしろ」  
 
「いやいや、PSYネットに話を移しますとね、PSYネットの謎とあなたの今はなき春菜さんは直結してた。  
しかし春菜さんはもういない。代わりに双子の若菜さんではどうか」  
 
「若菜は春菜の代わりじゃない」  
 
「はい、双子だからと言って共に野球が上手いとは限らないし……この例はよくありませんね。  
そうですね、若菜さんの絶対領域は春菜さんにはない。でも春菜さんがミニスカとニーソックスを身につけることが出来れば?」  
逆に若菜さんにも春菜さんのような能力を秘めているかもしれない。そこを我々がひきだして…」  
 
≪ふざけるな、お前らにそんなことはさせない。死んでも妹は僕が守る。二度とかけてくるな≫  
 
僕は電話を切って電源をオフにした。  
最後のせりふを本当に言ったのか心の中で思ったのかわからない。  
 
わたくしと班長は大学で行なわれるEMP学会に勉強のため見学に行くので、今晩は遅くなると若菜さんに言いました。  
「行ってらっしゃい」  
高崎さまと若菜さんはまだ学校に残るかどうか決めてないようでした。  
わたくしは若菜さんに何をしてさしあげればよろしいのでしょうか。  
ひょっとしたら若菜さんは学校を出ていかれるかもしれません。  
わたくしは胸が詰まって若菜さんを抱きしめました。  
 
「う、は、あ、茉衣子ちゃん。何いきなり」  
「いつもいきなり抱きついてくるのは若菜さんのほうではございませんか」  
「あ、そだね。おあいこだね」  
 
わたくしは若菜さんの髪を撫でて  
「つい最近髪を切ったと思いましたのにもうこんなに伸びてますわ」  
「うん、気持ちいい茉衣子ちゃん…」  
「高崎さまは班長が指摘なさるまで髪を切ったことに何もおっしゃいませんでした」  
兄の名前を出して猫のように撫でられていた若菜さんがビクッと反応致しました。  
 
「言葉にしないとわからないのです。高崎さまに言いたいことがあるなら全て言うべきです。大丈夫です。  
高崎さまは若菜さんのお兄さんなんですから。若菜さんが何を言っても高崎さまが若菜さんの妹であることには変わりはありません。  
兄妹なんだから遠慮なんかせずに自分の気持ちを打ち明けるべきですわ」  
若菜さんは兄のことになるとどこか臆病になるとわかっていました。  
「ありがと、茉衣子ちゃん」  
抱き合うわたくしたちを類さんと班長が見守っていました。  
そしてわたくしたちは大学へ向かって行ったのでした。  
 
「いいのか?」  
「何ですの」  
「夜、二人きりにさせて何かあったらとか心配はしないのかね」  
「高崎さまは班長のようなケダモノとは違いますわ」  
とはいえ班長の世迷い言にわたくしの心に一抹の不安が宿ったのも事実なのです…。  
 
夜、宮野が学会の見学に行き一人部屋にいるところに寝間着姿の若菜がやってきたのには驚いた。  
「おい、何考えてんだ、夜の男子寮にやってくるなんて」  
「兄さんに会いたかったんだ」  
と言って、兄さんちょっと寒いから布団かしてねと勝手にベッドに入りこむ。  
「おいっ、こら」  
 
なんだこの展開は。  
まあこのままいっそのことベッドで眠ってくれたらいいんだが。  
しかし若菜は兄さんのにおいがするとか言って布団を体に巻いてベッドに座り、仕方がないので僕もこの隣に座った。  
 
「兄さん」  
「なんだ」学校のことについて話すものだと思っていた。  
 
「あたし、兄さんが好きだよ」  
何を言えばいいのだろうか。  
どうしてこんなに苦しいんだ。  
感動と悲しみは違う。兄妹愛と異性愛は違う。  
 
じゃあこの気持ちは何なんだ。  
心の中で真琴や宮野や茉衣子に侵入してもらってこの場をどうにかして欲しいという思いがかすめた。  
 
自分を軽蔑した。  
何を他人任せにしてるんだ。  
自分の意志で決めろ。  
若菜は自分の意思を伝えてくれた。  
 
「若菜」  
暗転。  
 
 
僕は若菜の背中を抱きよせ若菜と唇を重ねた。  
長いキスの後、頬を赤らめた若菜はぼーっとしていた。これでいい。  
「兄さん、ひざの上乗っていい?」  
僕は子供のころを思いだし、いいよと言った。若菜は体に巻いていた布団をとり、僕のひざの上に座る。  
若菜の寝間着の生地は薄く下着や太ももが直に感じられ、僕の下半身は……っておい!!  
 
真琴で僕の理性は鍛えられてるはずだった。しかし大きくなった僕のあれは丁度若菜のお尻の割れ目に当たる。  
「あ…兄さん……」  
若菜が反射的にお尻をすぼめる。僕のあそこはたまらなく気持ちよくなってゆく。理性が飛んでゆく。  
両手は寝間着の上から若菜の体をはってゆく。若菜のかすかな膨らみをもみ、へそのところを通りすぎ、下の寝間着に行く。  
僕の唇は若菜の首を責める。若菜の髪の匂いをかぎながら首や肩を唇や舌で責めると若菜はますます気持ちよくなって「あん」とかわいらしい声を立てる。  
 
僕は若菜の下着が見たいので下の寝間着を脱がそうとするが僕のあそことお尻が密着しているので  
下着が見えてもゴムで寝間着が元に戻る。そこで「若菜、腰を浮かせろ」と言う。  
ぼーっとしている若菜は「うん…」といい腰を浮かす。  
「ひゃっ」  
一気に下着ごと下の寝間着を脱がし僕も下半身を裸にした。  
 
そして若菜のお尻と僕のあそこが再び接触することになった。  
たまらない状態だった。若菜は濡れていて僕をやさしくうけいれてくれた。  
僕は少しずつ若菜の中に入っていこうと腰を使った。  
「あ」と若菜が痛そうな声を上げる。  
僕は大丈夫かと聞き顔を覗きこむ。若菜は涙を流しながら「大丈夫、兄さん」と言った。  
僕はますます愛しくなって唇を重ねる。  
そしてイきそうになった瞬間、大声が聞こえた。  
 
「寮長殿!!!  
 
宮野秀策ただ今帰還!!!!」  
 
 
 
やばい……やばすぎる…  
若菜はと見ると気を失って眠っていた。  
宮野に入るなと言っても無駄なのは知っていたので、  
とっさに脱いだものをベッドの下にやって、二人の下半身を布団で隠すことにした。  
 
宮野が部屋に入ってきた。  
「おー若菜くん。いつ見ても可憐な寝顔だ。  
そんなかわいい妹を膝の上に乗せて眠らせているとは寮長殿は万死に値するな」  
ああそうだ。お前の言う通りだよ宮野。  
 
宮野は表情を変えずに続けた。  
「寮長殿。お楽しみのところを邪魔してすまなかった。  
まさに私は一万匹の馬に蹴られて万死に値する」  
 
そうだ、こいつは何もかもわかってるんだ……  
世界の謎もおれたちの関係も……  
 
「私はともかく茉衣子くんにこれを知られたらどうしようもないな。師匠としても教育上問題がある。  
茉衣子くんが女子寮からこちらにやってくるのは時間の問題だ。ここは私が時間を稼ぐから二人は身なりを整えるのだ」  
 
「おい、宮野」  
「何だね寮長殿。事態は急を要しているのだぞ」  
「お前はどう思う」  
「…………」  
宮野は何も答えずに部屋を出ていった。  
僕は布団をはがし若菜の濡れているところをティッシュでぬぐい、下着と下の寝間着を着せた。  
そして自分も同じことをした。  
暗転。  
 
 
ベッドで安らかに眠っている若菜を見ると僕はオナニーの材料の人形として  
若菜を利用して汚したんじゃないかという罪悪感におそわれた。  
本当に若菜を大事に思ってるんだったら若菜に手を出すはずがない。  
若菜が目を覚ました。  
 
「兄さん……」  
「ごめん若菜」  
「なんであやまるの?なんで泣いてるの?兄さん」  
泣いてる僕を若菜が抱きしめてくれる。どこまで甘ったれてるんだ、僕は。  
 
「兄さん、大丈夫だよ。あたしは兄さんのそばにいるから」  
 
「高崎さま、若菜さん。お二人で水入らずのところ申し訳ありませんが  
失礼ながら入らせていただきます。」  
茉衣子の声だ。  
「あら…あら…部屋に入れませんわ。若菜さんバリアーが……」  
 
しばらく若菜はそうしていたかったらしく復活したEMPによって茉衣子と宮野と類は部屋には入れなかった。  
茉衣子は不審な顔をしていたが若菜がすっかりいつもの笑顔を取り戻して類と抱き合って喜んでいるのを見て柔和な顔になった。  
しかし宮野が土産だといって僕と若菜に赤飯を渡したのでまた疑わしい目を僕に向けた。  
宮野のバカヤロー。  
 
 
それからいつも通りの日々が続いている。  
以前のように僕と若菜は仲がいい兄妹だ。  
ただこっそりと「お正月実家に帰るのが楽しみだね」と囁かれた時はどう解釈していいか困った。  
 
真琴には何を言われてもいいと覚悟していた。  
「まあいいんじゃないの」  
「へ?」  
「別にあんたの腐れシスコン外道は昔からそうだったしね、  
今更驚くことでもないけど。結婚式で花婿から妹を略奪すんのだけはやめなさいね」  
「……」  
「あんたお尻に弱かったのね。今度わたしで試して見る?」  
(なんだ、この違和感)  
「逆よ、ユキちゃん。わたしはね、あんたたちに出ていってほしくなかった。  
でもわたしだけじゃなくてやっかいな子がいてね、ひずみができちゃった。  
それでわたしは何もしなかったのよ」  
「?」  
何を言ってるんだ、真琴は?  
 
「ユキちゃん。  
あんたの抱いた若菜ちゃんに黒子あった?」  
 
 
一匹の猫がいました。その猫は名無しといって長い長い時を越えた旅をしているそうです。  
わたしは名無しさんと仲良くなりました。名無しさんは何か一つ願い事をかなえてくれると言いましたが、  
わたしには願いなんてありませんでしたし、また何かトラブルに巻き込まれた時に願い事をすると言いました。  
そして予想は当たりました。わたしの友達の若菜さんがお兄さんのキスシーンを目撃してしまい、  
そのショックでEMP能力を無くし学校を出ていくかもしれないのです。  
わたしは若菜さんにいなくなってほしくありませんでした。  
若菜さんがあの日、キスを目撃しなければESPを失うこともなく、学校を出ていくこともない。  
若菜さんがあの日、あの光景を見ないように歴史を変えて欲しいとわたしは名無しさんに頼んだのです。  
名無しさんによるとそうすると高崎佳由季の主観歴史に歪みが生じ、  
高崎さんは夢とも幻ともつかない現実にしばらくの間一人囚われることになると言いました。  
わたしは若葉さんの目の前であんなことをする佳由季さんに腹を立てていたのでOKしました。  
お二人は今も学園にいます。名無しさんありがとう。  
 

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