3年生が卒業して半年。  
天栗浜の山々も赤々と染まる季節。  
 
日が沈む頃には生徒会の雑務も2人で処理し、2人で帰路につく。私は今までは家の車で送迎してもらっていたけど、彼とお付き合いするようになってからは途中まで彼に送って貰っている。  
 
そう。私と彼は今付き合っている。こんなことになって私自身驚いているけど、今はとても充実した日々を送っている。  
私達が恋人どうしになった夏。階段部、他運動部の合宿が行われた時、私も生徒会として参加した。  
合宿中、私は三島さんと一緒に彼に手紙をだした。待ち合わせは最後の晩に場所は別々、時間は9:00。  
初めて会った時は屋上へ向かう階段だった。その時はお父様の学校へ全校生徒行ったと聞いていたので生徒と出くわして驚いた。同じクラスと知ったときはまずはこの子を犬にしようと思った。まぁ生徒会長戦ではその考えをあらためさせられたけど…  
 
今では生徒会でもクラスでも一緒だし、一番時間を共有していると思う。事実私は彼のサポートをしてるし、私も自分に無いものを沢山持ち、意見をぶつけてくる彼にとても惹かれている。  
そんなことを思いながら  
私は待ち合わせ場所へと向かった。  
 
 
約束の時間。  
 
来てくれると思った。  
 
でも  
 
その時刻になっても彼は来てくれなかった。  
 
私を選んではくれなかったということだ。私は溢れてしまいそうな涙をこらえ部屋に帰ろうとしたとき  
 
「御神楽さん!」  
 
後ろで聞きたかった声が私を呼んだ。  
私は涙で濡れた顔を見られないように背けながら  
「何?待ち合わせの時間はとっくに過ぎてるけど?三島さんの所に行ったんでしょ」  
と哀しさと悔しさを込めて言った。  
「うん。三島さんの所に行ってきた。そして謝ってきたよ。三島さんの気持ちには答えてあげられないって。僕も悩んだけど、気づいたよ。やっぱりずっと一緒に居たいのは御神楽さんだって。  
御神楽には副会長として、恋人として、僕を支えてほしい。」  
私は  
溢れた涙を拭いもせず  
彼の胸に飛び込んだ。  
「バカ。その言葉待ってたわよ」  
 
…  
…  
今思うととても恥ずかしい事をしていたんだと思う。私があんなに恋する乙女のようなことするなんて。  
使える人間、使えない人間で分けてた私が。万人から好かれる人柄を作っていた私が。  
 
 
今まで本気で人を好きになることはなかったし。私がこんな表情を出来るとは驚きだ…  
 
「御神楽さん?」  
彼が私を覗き込む。どうやら考えこんでしまったらしい。  
 
帰り道。緩やかな下り坂を2人で歩く。私には2人きりになれる数少ない時間でとても幸せである。  
まぁ恥ずかしいから彼には悟られないようにするけど。  
 
山上桔梗院の学園祭の話題など他愛もないはなしをしていたら  
 
「あ…」  
分かれ道。私の家と神庭君の家は正反対だ。  
私は寂しかったけど表情に出さないようにして  
「あら、もうここまできたのね。また明日ね神庭君」  
といい歩きだそうとした。  
 
「待って御神楽さん!!」  
彼の意思の籠った声がした  
「一緒に行きたい所があるんだ…」  
 
 
彼につれて来られたのは神社だった。長い階段を登り終えてもなお、二人とも息を切らさないのはお互い運動をしているからだろう。それでも彼の体力はすごかった。私は革靴なので彼に遅れて石段を登り終えた。  
「どうしたの神庭君?こんなところに何かあるの?」  
秋の神社はやはり人気は少なかった。なぜここに来たのだろう。私には彼の真意が全く分からなかった。  
「御神楽さん。上見て。とっても綺麗でしょ」  
彼は空を指差した。そこに広がっていたのは天栗浜と同じ位高所にあるのでとても綺麗な眺めだった。  
彼の言う通りとても美しい空だった。思わず「綺麗ね…」と口に出してしまっていた。  
「僕はずっとここでショットの練習をしてるんだ。やっぱりここの石段はかなりきたえられるよ。夜になると景色もいいしとても落ち着くんだ。」  
彼の横顔はとても楽しそうだった。いつもの彼だ。階段部のことはある程度知ってるけど、やはり階段部の活動を話す彼はいきいきしていた。彼はふと何かを思い詰めた表情になる。  
「僕は刈谷先輩に負けてからもずっと『先』をみたいとおもってたんだ。それがもうすぐ見えそうなんだよ」  
そういう彼の顔は真剣で、生徒会長選挙の時に見せた凛々しい顔だった。会長選の時はとても生意気な顔だと思っていたけど、恋人となった今ではこの表情を見ると私の胸は高鳴る。私の好きな顔。  
私は何故?と聞こうとしたが彼は話を変えてしまった。  
「御神楽さんいつも僕を支えてくれてありがとう。副会長で…恋人で…これからも僕を支えてください。」  
といい彼は私を抱きしめた。  
あぁ…駄目だ。私は彼と付き合う内に完全に骨抜きにされてしまったらしい。私は今嬉しくて恥ずかしくて顔が真っ赤だろう。私は彼を抱きしめ返し  
 
キスをした。  
 
高ぶった感情は自然に言葉を生んだ。  
 
「神庭君。私のファーストキスをうばったわね…?この責任はとってもらうわよ。私を幸せにしなさい。それといつまで御神楽なんて他人行儀な呼び方をするの?その…そろそろ私を名前で呼びなさいよ。」  
と言ったもののキスをしたのは自分からだし、恥ずかしさから顔を直視出来ない。  
 
「そうだね…ごめん。  
あやめ  
でも絶対にあやめは僕が幸せにするよ」  
「当たり前よ」  
私が言った時、今度は彼から口づけしてきた。私たちは深く、深くキスをしていた。  
 
 
…  
……  
………  
 
時は流れ私たちも卒業する日がやってきた。  
幸宏は3年の春頃からパタリと階段を走ることを止めてしまった。最初は私も心配していたが、彼の満足そうな顔を見て気付いた。『先』が見えたんだろう。  
階段部は部長に就任した井筒くんにまかせていたようだ。  
 
わたしたちは2期生徒会長、副会長を務めあげた。  
お父様からも山上桔梗院に戻るように言われたが当然断った。  
私たちは4月から大学生。  
私は幸宏と同じ大学に進学した。彼を私と同じレベルの学力まで高めるのは苦労したがお互い目標があったため頑張れた。  
県外の大学なのでお互い一人暮らしだ。  
私の一年かけて練習した愛妻料理を振る舞えるとおもうと楽しみでしかたない。想像すると顔がにやける。  
 
私たちは大学では学生会には入らず、のんびりと二人で過ごそうとおもう。考えてみたら私の天栗浜にきた理由も父に認められたいからだったし。認められた今は意地張る必要もないかな。  
 
 
私は変わったと言われる。確かに幸宏と付き合う以前は親しい学友もすべて手駒扱いし、すべてを見下してしたと思う。  
やはり私の価値観を変えたのは幸宏で私はとても感謝している。  
 
少し感慨深い思いでいると  
幸宏が壇上に上がった。彼の答辞だ。  
あぁ…あの凛々しい表情はいつ見ても素敵だ。  
彼を見詰めているとある女の子が視界に入った。三島真琴だ。幸宏のことで争った彼女も今ではもっとも仲のよい友人だ。彼女は県内の大学に行くそうで離ればなれだ。  
 
 
式も終わり、私たちは校門付近で生徒会の後輩たちや階段部、そのOBの先輩たちと談笑していると談笑していると  
女神委員会のバカ二人がやって来た。  
 
「じゃあーラブラブ生徒会カップルの二人には卒業記念にあつぅーい口づけを交わしてもらいましょおー」  
とバカなことを言い出した。  
「冗談じゃないわ!こんなトコでできるわけないでしょう!」と私は焦って言ったが  
周りはもうすっかりその気でキスコールまで出る始末。  
私が呆れ返り幸宏に答えを促すと  
 
彼は私をお姫様だっこして  
 
チュッ  
 
キスをした。  
 
私はもう羞恥を通り越してしまい、彼の首に腕を回して  
 
もう一度口づけした。  
そこを写真に納められたのは言うまでもない。  
 
私は今幸せだ。  
これからもずっと歩んでいくだろう。  
 
 
幸宏と二人で  
 
 
(了)  
 
 

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