「御神楽さん、もうちょっと手加減してくれてもいいのに……」  
 
卒業式も終わり、遊佐さんに代わって実質的に生徒会長となった僕は  
今まで以上に御神楽さんにしごかれている。  
会議後疲れが抜けなかった僕は帰らずに誰も居ない教室で  
自分の席に座ってぼんやりとしていた。  
 
「まぁアレのせいもあるんだろうけど……」  
 
数日前の出来事を思い出していると、  
「わっすれもの〜♪わっすれもの〜♪」と調子はずれの歌を歌いながら  
誰かが教室に入ってきた。  
 
「あれ? 神庭君まだいたの?」  
 
声の主は三島さんだった。  
 
「あっ、うん。会議で疲れたから休憩してるとこ」  
「生徒会長は大変なんだね。お疲れ様」  
「三島さんこそ部活お疲れ」  
「うんお疲れ」  
 
さっきの歌から忘れ物を取りにきたんだろうけど、  
三島さんは僕の席に近寄ってきた。  
 
「ちょっと話していい?」  
「いいよ」  
「あ、あのさ、蒸し返すのはアレなんだけどさ、やっぱり……ね……」  
 
三島さんが切り出したのは数日前のホワイトデーのことだろう。  
僕はあの日、三島さんに冷たい宣告をした。  
 
「神庭君はあのとき、私とはつきあえないって言ったけど、  
やっぱり納得できなくて……試しにつきあうじゃ駄目……なのかな……」  
 
結局僕は三島さんにつきあえないことを伝えた。  
もちろん御神楽さんにも。  
 
「あのね、他に好きな人がいるならはっきり言って欲しいんだ。  
そうすれば私も諦めがつくから。でも神庭君は」  
「うん。特に好きな人がいるわけじゃないんだ。  
でも中途半端な気持ちでつきあったりしちゃいけないと思って……それから」  
「それから?」  
「僕、好きってよくわからないんだ。それにつきあうってのも。  
どうしたらいいんだかわからなくて。  
三島さんはつきあうってどういうことだと思う?」  
「え? んーと……一緒にいるとか?  
そうそうデート! 映画見たり、買い物行ったり、散歩したり?」  
「それなら友達でも良くない?」  
「そ、それは……友達との優先順位の違いとか?」  
「友達でも優先順位無い?」  
「それはそうだけど……」  
 
僕が変なことを言ったせいで三島さんは考え込んでしまった。  
 
「変なこといってごめん。  
そうだ、三島さん、僕のドコが好きになったの?」  
 
考え込んでいた三島さんはきょとんとした後、真っ赤になってしまった。  
 
「ごめん! また変なこと言っちゃって!」  
 
自分としては好きになるってどういうことか  
知りたかっただけだったけど、変なことを聞いてしまったようだ。  
 
「あ、いいよいいよ! 神庭君が私に興味持ってくれたってことだし……  
あのね、白状しちゃうと、4月にクラスメイトになったときには  
なんか線が細い人だなーぐらいにしか思ってなかったんだ。  
あと井筒君といつも一緒にいるなーとか。  
でね? ナギナギと一緒に居るとやっぱり神庭君のことが目に入るじゃない?  
そしたら神庭君見てると階段部でがんばってるなーって思ったり、  
全校集会でみんなの前で階段部認めさせちゃったり、  
最後には生徒会長までなっちゃうんだもの。目離せなくなっちゃって。  
いつのまにか見てるとドキドキしちゃうようになったの。  
でね、気づいたの。私神庭君のこと好きなんだって。  
あ、これじゃわかんないよね、ごめんね」  
 
好きという気持ちはよくわからなかったけど、  
三島さんの思いは痛いほど伝わってきた。  
そして僕の好奇心で三島さんにここまで言わせてしまったことに  
さらに心が痛んだ。  
 
「ごめん……」  
 
僕は謝ることしかできなかった。  
まっすぐな視線の三島さんを見てられなくて俯いた。  
 
「や、やだなぁ! 私そんなつもりじゃなかったのに。  
ほら、私が勝手に好きになっただけだからさ!  
しゃべったのも私の勝手だし! 神庭君があやまること無いの!」  
「でも……ごめん」  
「もう、そんな顔させるつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ……  
ほら、顔上げて!」  
 
そういうと三島さんは僕の頬を手ではさんで持ち上げた。  
 
「ごめんはもうおしまい。わかった?」  
「でも……」  
「でももなし! 返事は?」  
「うん……」  
「むー……よしわかった。おねーさんが元気の出るおまじないをしてあげる」  
 
そういうと三島さんは僕に顔を近づけ、目をつぶって、僕にキスをした。  
ちょっと唇がふれるだけのKiss  
 
「ぁぅぁ、ぁ?」  
 
正直何が起こったかわからなかった。  
声がちゃんと出せずに口をパクパクさせていると  
 
「次は私の好きをわけてあげる……」  
今度は唇を吸われるようなキス  
 
あれ? 僕何してるんだ? そうか、三島さんとキスしてるんだ。  
えっと僕も何かした方がいいのかな?  
舌とか入れた方がいいのかな……じゃなくて!  
 
頬に添えられていた手をつかんで顔から引き剥がし、  
キスから逃れるために顔を後ろにそらすと  
二人の唇の間に出来た橋が一瞬だけ夕日に光って消えた。  
 
「あ……神庭君……イヤ……だった?」  
 
首を全力で左右に振る。  
 
「ドキドキ……した?」  
 
首を全力で上下に振る。  
 
「元気でた?」  
「それよりびっくりした」  
「そっか」  
 
そういうと三島さんはとても素敵に笑った。  
 
 
 
「ママちゃ〜ん、忘れ物あった〜?」  
タイミングがいいのか悪いのか、  
待ち合わせてたらしい凪原さんがやってきた。  
 
「あ、あれ? お邪魔……だった……かな……」  
 
僕が三島さんの両手をつかんでいるのに気づいたようだ。  
そんなコントみたいな場面へもう一人現れた。  
 
「お、神庭まだいたかぁ一緒に帰ろうぜって、あれ?」  
 
井筒だった。流石の井筒でもこの妙な空気に気づいたようだ。  
 
「井筒君! 私と一緒に帰ろう!  
ママちゃんごめんね! また明日ね!」  
 
妙な空気を破ったのは凪原さんだった。  
井筒の手を取ると小走りで教室から出て行った。  
 
「ぷっ、あははっ」  
 
どちらともなく笑い出した。  
さっきまでの甘い空気はどこかへ消えてしまった。  
 
ひとしきり笑った後、かばんをもって二人で教室を出た。  
 
「ねぇ神庭君、今度デートしよ?」  
「え?」  
「デートじゃイヤだったら遊びに」  
「なんで?」  
「私思ったんだ。私が神庭君を見てたから好きになったんだから、  
神庭君が私を見る場面が増えれば私を好きになってくれるかな? と思って。  
ちょっと自惚れ過ぎかな?」  
「はぁ。うん」  
 
ついうんと答えてしまったけどいいんだろうか?  
 
「また変に考えてるでしょ?」  
「え? あ、ごめん」  
「またぁ。よし、そういうこと言う人は罰として  
私を駅まで自転車で乗せていくこと! 神庭君自転車通学だったよね?」  
「ええぇ!」  
「いいじゃないちょっとぐらい。二人乗りは恋人のすることのひとつだし  
試してみようよ。恋愛のことわかるかもしれないし!」  
「男が大変なだけじゃないかなぁ?」  
「チッチッチ。神庭君は乙女心がわかってないね。  
……わかってたら私なんて相手にされて無いんだろうけど……」  
「ん? なんか言った?」  
「なんでもなーい! さ、暗くなる前に帰ろう!」  
 
そういうと三島さんは僕の腕を取って駆け出した。  
 
 
 
正直まだ恋愛ってよくわからない。  
でも三島さんといると一緒にいれば何かわかるかもしれない。  
しばらくつきあってみるのも悪くないかなと思えた。  
そして三島さんが好きになれたらいいなと思った。  
 
 

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