「幸宏〜ちょっと頼みがあるんだけど〜」  
 
休日の午後、ベッドに寝転がりながら漫画を読んでると  
返事の確認も無しに千秋が部屋へ入ってきた。  
 
「千秋姉さん……返事待ってからドア開けてよ……」  
「いーじゃんいーじゃん。変なことしてたわけじゃないんだろ?」  
「それはそうだけどさ……」  
 
千秋はいつもの傍若無人っぷりを発揮しながら  
勉強机に備え付けの椅子を引っ張り出しベッドの横に座った。  
 
「で、何の用?」  
 
面倒なことはさっさと終わらせるに限る。  
 
「あーんーうん。そう、なんだ、うん」  
「それじゃわかんない」  
「ちょっと落ち着け。こっちにも覚悟がいるんだよ」  
 
覚悟って……  
落ち着くのは千秋姉さんの方だと思うけど……  
 
「わたしが体育学部に通ってるのは知ってるな?」  
「うん。で?」  
「せかすな!」  
「ごめん」  
「まぁ姉さん達のすすめで一応教員課程も取ってるわけなんだが、  
ちょっと真剣に教員目指すのもいいかな? と思い始めたわけだ」  
「それは小夏姉さんの影響?」  
「それもあるんだが、世の中不景気だしな。  
教員免許取っててもいいかなって思ったわけだ」  
「ふーん。まぁいいんじゃない?」  
「ただな、そこには難題が待ち受けていたんだ。  
幸宏、体育教師の仕事って何だ?」  
 
千秋姉さんが何を僕にやらせたいのかよくわからないが、  
とりあえず話をあわせる。  
 
「ふつーに考えれば体育の授業。あとは体育用具の管理とか  
運動系部活の顧問とか体育祭の手伝いとか。場合によっては風紀委員の顧問?」  
「まだあるだろ」  
「んーあとは試験問題作成? あ、保健体育の授業もか」  
「それだ!」  
 
「それだって言われても……僕に試験問題出すの?」  
「ちがうわ! 授業のほう!」  
 
やっぱりよくわからない。保健体育をどうするっていうんだ?  
 
「それがどうかしたの?」  
「だから、体育には保健体育は付き物なんだよ。  
でだ。そこで問題が……」  
「なんで?」  
「う、だから……ち…………ち…………を……」  
 
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、急に声が小さくなった。  
 
「よく聞こえないんだけど」  
「だからぁ……ち……ん……」  
「はっきりしゃべってよ」  
 
なんだか急にしおらしくなって調子が狂う  
 
「なんか千秋姉さんらしくないなぁ」  
「だから……あたしだってそりゃ……言いにくいことだって……」  
「もう。用事無いなら出てってよ」  
「そんなこというなよ! 幸宏にしか頼めないんだから!」  
「だからちゃんと言ってもらわないとわかんないよ」  
「わかったよ! はっきり言えばいいんだろ! 言えば!  
だから幸宏のちんちん見せろって言ってんの!」  
 
「……はい?」  
「だから見せろ! そこの真ん中にぶらさがってるやつ!」  
 
千秋姉さんは逆ギレしながら僕の股間を指差した。  
 
「……いやちょっと待って……なんで見せなきゃならないの!」  
「見たこと無いんだからしょーがないだろ! レポート書けないんだよ!」  
 
落ち着け。落ち着け俺。まずは話を聞こう。  
 
「千秋姉さん落ち着こう。話を整理したい」  
「……おう」  
「千秋姉さんは授業のレポートを書く必要があると。  
僕の予想では性教育関係じゃないかと予想してるんだけど?」  
「お、おう。よくわかったな」  
「そこまではわかったんだけど、なんで僕のを見る必要があるの?」  
「だから見たこと無いから……わかんないんだもん……」  
 
千秋姉さんは指先をもじもじしながら俯いてしまった。  
 
「見たこと無いからって……えっと、叔父さんと小さいころ  
一緒にお風呂に入らなかったの?」  
「小夏姉さんが小さいころ、父さんとお風呂に入ったときに  
アレを引っこ抜こうとしたから、それ以来怖がって  
あたしらと入ろうとしなくなったって母さん言ってた。  
だから一緒に入ったこと無いし、見たことも無い」  
 
小夏姉さん……あなたって人は……  
 
「それにしたって僕のを見せろって……他に方法あるでしょ」  
「だって教本の断面図見たって、よくわかんないし。  
ビデオとか本は変なごちゃごちゃで見えないし」  
「じゃあ海外のサイトの無修正とか……」  
「パソコンつかったら希春姉さんに一発でバレるし」  
「彼氏とか男友達に頼みなよ……」  
「彼氏なんかいないの知ってるだろ!  
それに男友達に頼んで襲われたらどうすんだよ!  
仲間とか出てきて一辺に襲われちゃうかもしれないし!  
そんでビデオとか撮られて  
『これが返して欲しかったらおまえの姉妹をつれてこい』  
なんてなっちゃったらどうすんだよ!」  
 
千秋姉さんってそういうこと考えてるんだ……  
 
「まぁその点、幸宏なら襲われる心配無いし、  
襲われても撃退する自信あるし、  
幸宏なら…………まぁいいかな、なんて」  
 
「え?」  
 
「だから、身内だから安心ってこと!  
幸宏は襲ったり言いふらしたりしないだろ?」  
「そんなこといわれたって……」  
「なんだよ、姉の勉強の手伝いも出来ないって言うのかよ」  
「流石に見せろって言われて、はいどうぞってわけにはいかないよ……」  
 
難しい顔をした後、千秋姉さんは押し黙った。  
 
「もういいでしょ? 他の方法考えてよ」  
「わかった。そこまで断るならしょうがない。最後の手段をとる」  
「最後の手段ってどうするのさ?」  
「希春姉さんに言う」  
「はい?」  
「希春姉さんに言えば幸宏も逃げようが無いだろ。  
希春姉さんも手伝えって言いながら絶対に自分でも見ようとするはずだし。  
もちろん小夏姉さんと美冬にも言う。美冬はわかんないけど  
小夏姉さんもノリノリで参加するだろうし。あたしは一人で見たかったけど……」  
 
一瞬気を失った。確かに逃げられる気がしない。  
 
「さぁ4人に見られるのと、あたしだけに見られるの、どっちか選べ」  
 
それから長かった。とにかく千秋姉さんは引かなかった。  
結局押し切られて千秋姉さんだけに見せることで折り合いがついた。  
神庭姉妹にはいつも勝てない。  
 
「変なことしないでよ。見せるだけなんだから」  
「わかってるって」  
 
覚悟を決めたがやっぱり踏ん切りがつかなくて、  
パンツを残してスウェットの下だけを下ろした。  
 
「ほら、はやく脱げって」  
「そんなこといわれてもやっぱり……」  
「そこは男らしく…………幸…宏……お前の足、いい筋肉してるな……」  
 
え? と思う間もなく千秋姉さんの手がのびてきて僕の太ももに触れた。  
 
 

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