………ホワイトデー。
散々悩んだけど、僕はお返しに、美冬姉さんが言ってた、
『タイプ別お返しシリーズ』というのを買ってお返しすることにした。
早速、教室で三島さんと御神楽さんへ渡すことにする。
二人とも頬を染めて、大げさに緊張した様子だったけど、
僕が取り出したお返しの包装紙を見た瞬間、三島さんと御神楽さんの視線に殺気が宿た。
あれ? なんで? ちゃんと二人の分は別のを選んだのに………
ちなみに三島さんに渡したのが『義理3倍返し』という意味で、
御神楽さんに渡したのが『義理5倍返し』だった。
希春には既に学校へ来る前に『お母さんありがとう』タイプのお返しを渡してある。
「……解ってない」
「……本当に解ってないわね」
どんどん表情が険しくなる二人から逃げるようにして自分の席に戻った。
ああ、恐かった。二人とも、なんであんなに僕を睨むんだろう?
………放課後。
部活でお世話になっているいずみ先輩には『これからもよろしくお願いします』タイプ。
部長になったいずみ先輩にはちょうどいいと思って選んでみた。
いずみ先輩は「うふふ、ありがとう」と、笑いながら受け取ってくれた。
不思議なのは、いずみ先輩に腕を組まれて
「『よろしく』だなんて、これからは『幸宏』って呼んだ方がいいのかしら?」
と、赤い顔で囁いてきたことだ。あれはどういう意味なんだろう?
………最後に美冬姉さん。
正直これには一番悩んだ。
美冬姉さんは部屋に来てくれたから、
僕も美冬姉さんの部屋に行って、直接渡すことにした。
初めて入る美冬姉さんの部屋に緊張で喉がカラカラだったけど、
お返しを渡した瞬間、美冬姉さんはとろけるように甘い笑顔で、僕のお返しを受け取ってくれた。
「勘違いじゃないよ。わたし、幸宏のこと………」
大人しい色調でラッピングされた箱を胸の前で抱きしまたまま、
美冬姉さんが恥ずかしそうに呟いたので、僕はそれ以上、何も言えず、見つめ合ってしまった。
僕が義理チョコをくれた美冬姉さんに、半分冗談のつもりで渡したお返しの意味は
『勘違いしてもいいですか?』だった。
おしまい