「幸宏……やっとふたりっきりだね………」
美冬は幸宏のベッドに腰を下ろすと、恥ずかしげに俯いた。頬だけではなく、耳までが真っ赤に染まっている。
美冬の顔にはいつもの険しい表情ではなく、いつか見た口元を緩めた微笑が浮かんでいた。
今この状況が、嬉しくて、愉しくて仕方が無いとでもいうみたいに。
幸宏の方はというと、目の前の光景が信じられず、ベットの中からむしろ青ざめた顔で美冬の横顔を呆然と眺めていた。
………な、何が起きているんだ。何でこんなことになったんだ?
繰り返し、繰り返し、同じ事を考えながらも、答えは見つからず。幸宏の頭の中を同じ問いが空回りしていく。
「………幸宏」
ツインテールを揺らしながら、美冬がゆっくりと振り返って、幸宏の胸の上に倒れこむ。
幸宏が身動きも出来ずに固まっている間に、美冬は自分から幸宏の唇を奪った。
美冬は最初から舌を入れて幸宏を貪った。熱心に舌を動かし、互いの唾液を混ぜてすするのに夢中になっている。
拒もうとしたが抗いきれず、幸宏はいつの間にか美冬に合わせて舌を絡ませていた。
美冬とのはじめてのキスは赤い赤い血の味がした。
「………美…冬……」
呻くような希春姉さんの声が足下から聞こえる。
途端に美冬は唇を引き離し、悪鬼のような形相で振り返った。
頬だけではない。耳までも真っ赤な返り血にそまった美冬姉さんは、
足下にナメクジでも見つけたように冷たい視線を注ぐと、
振り上げた足で勢いよくソレを踏み潰した。
ぐしゃっ………っと、嫌な音がして、かすかに聞こえていた呼吸音さえも聞こえなくなる。
ベッドに縛り付けられた幸宏にも、視界の外で何が起きたのかが解ってしまった。
「………これで、本当に二人だけ」
小夏姉さん、千秋姉さんに続き、希春姉さんまで………。
美冬は濁った瞳のまま、足下のソレを見つめたまま呟いた。
「………わたし…本気なの。たとえ姉さんでも邪魔はさせないから」