「乗り心地はいかがですか? 神庭様」  
「は、はい、最高です……でもいいんですか?西園寺さん」  
「立場上、あまり褒められたものではありませんが、  
私のわがままに付き合っていただいたお礼ということで」  
「ではお言葉に甘えて。でもやっぱり凄いなぁ、流石高級車」  
 
助手席に座った私は無邪気に喜ぶ神庭様を見て微笑む。  
 
「やはり男性ですね。私にとっては高級車でも仕事の一部という感じですが。  
でもよろしいのですか? 最初に助手席に乗せるのが私で」  
「あ、え? あ! そうか! でも運転してないし……  
いや、うん、西園寺さんなら喜んでというか……あ、今の聞かなかったことに!」  
 
彼をみているとついからかいたくなってしまう。  
弟がいればこんな感じなのだろうか?  
 
こうなった経緯は実は大したことではない。  
階段部のメンバーが揃わないため部活が中止となり  
いずみ様を早めに迎えに来てみれば、  
美冬様がお嬢様をテニス部の練習へ誘ったため私は待機することに。  
そこへ通りかかった神庭様を話し相手として捕まえたというわけだ。  
 
ただ、視界が開けてるとはいえ密室に男女で二人きりである。  
年上の女が少年を車にひきこんでいるのは傍目に見れば相当危険じゃないだろうか?  
と思いはじめた。それに彼は生徒会長で目立つ存在である。  
先ほどからこちらに気づいた生徒がちらちらと見ながら車の横を通り過ぎるのが  
何度か確認できた。といってもこちらから追い出すわけにはいかない。  
 
「どうかしました?」  
「いえ。ちょっと軽率だったかなと反省していまして……」  
 
少し考える素振りをした後、気にしないそぶりで  
「あ、僕と乗ってると勘違いされるかもしれませんね。でも大丈夫だと思いますよ?  
西園寺さんみたいな人と僕が何かあるなんてみんな考えないですよ」  
と答えた。  
 
そんな答えについからかいたくなる。  
 
「そうですか……わたくしでは神庭様にふさわしくないと……」  
「そ、そんなわけないじゃないですか! 西園寺さんみたいな大人で綺麗で  
仕事が出来るかっこいい人が僕なんかの相手をするわけないって話で!」  
「ふふっ、ありがとうございます、神庭様」  
「あ、今、僕のことからかったんですね。ひどいなぁ」  
 
困った顔に笑みがこぼれた。  
 
「あの、前から思ってたんですけど、その『神庭様』っていうの止めません?  
僕のほうが年下なわけですし、なんだかくすぐったくて」  
「といいましても神庭様はいずみ様のご学友ですし、軽薄に扱うわけには参りませんので」  
 
うーんとうなり始める。本当にこの人は見ていて飽きない。  
お嬢様が気に入るのもわかる気がする。  
 
「そうだ、僕と西園寺さんが友達になればいいんですよ!  
そうすれば二人きりの時は様なんてつけなくてもいいし!」  
「それは今後もわたくしと二人きりになりたいというお誘いですか?」  
「へ? はっ、いやそうじゃなくて! 先輩がいないとこでは  
ふつーにしませんか? という話で誘うとかそこまではっ」  
「あら、残念ですねぇ。神庭様のお誘いなら考えましたのに……」  
「いや、その、あの……もう!」  
 
真赤になりながら抗議するのがかわいらしいと思う。  
 
「ちょっとおふざけが過ぎました。それでどのように呼ばれたいですか?」  
「……『神庭君』とか『神庭さん』とか西園寺さんの好きでいいですよもう」  
 
ちょっとふてくされた彼に再び悪戯心が芽を出す。  
 
「それでは……お友達になりましょうね『幸宏さん』」  
 
とっておきの微笑みと共に繰り出した一撃は期待以上の効果を表したようだった。  
 
「あら、今日は神庭君が運転手なのね」  
 
その後も話しているといずみ様が車に乗り込んできた。  
話に夢中になりすぎたようだ。  
 
「申し訳ありません、いずみ様」  
「いいわよ、今日は珍しいものが見れたし」  
 
なんだか含み笑いをしているのが気になる。  
 
「御免なさい、いずみ先輩。僕が運転席に座ってみたいって西園寺さんに頼んだから……」  
「いいのよ、気にしないで。そうだ神庭君、送っていきましょうか?  
西園寺さんとまだ話し足りないようだし」  
「い、いえ! そこまでしてもらわなくても!  
それじゃ失礼します。いずみ先輩、西園寺さんさようなら!」  
 
慌てて車から降りると自転車に飛び乗り、手を振りながら去って行った。  
少し残念だったが、ここからは気持ちを切り替えなければならない。  
暖められた運転席に戻ると、彼の温かい笑顔が思い浮かんだ。  
 
 
おまけ  
 
「まさか神庭君とは思わなかったなぁ」  
「なんのことでしょう? いずみ様」  
 
バックミラーで後ろを見ると意味深な笑顔が見られた。  
 
「前に男性が苦手って話は聞いてたけど、天ヶ崎の人たちからも  
浮いた噂ひとつ聞かなかったし、年下好きだったとは盲点だったわね。  
うちは若い男の人がいないし、わからないはずね」  
 
したり顔でうなずいている。  
 
「……あの、いずみ様……」  
 
「あ、お付き合いするのは個人の自由だからかまわないの。  
寿退社も希望するならOKね。西園寺さんには長い間お世話になったし。  
あら? こういうときは寿退社って言うのかしら?  
それより神庭君はまだ未成年だから青少年保護育成条例には気をつけてね」  
 
「……いずみ様……」  
 
「でも神庭君狙いは大変よ? 結構もてるみたいだし。  
狙ってる娘多いんじゃないかな?」  
 
ここまで一方的にやりこまれるとつい反発したくなる。  
 
「その中にいずみ様は含まれていらっしゃるのですか?」  
 
こういった話は自分に回ってくると弱いとみての反撃。  
 
「さぁどうかしら? でも『幸宏さん』なんて呼ぶ関係にはまだなっていないかな?」  
 
……どこで聞いていたんですかお嬢様……  
 
 

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