――真夜中、突然目が覚めた僕は、なぜか体の上に重い何かが乗っている様な感覚に襲われた  
 
(……体が、動かない)  
 
これが俗に言われる金縛りというやつだろうか。  
 
(そういえば、金縛りのとき目を開けると、血みどろの女の人が……っていう怪談があったっけ)  
 
階段部なのに怪談話とは……。  
思わず心の中でクスリと笑う。少し疲れているだけだろう。  
そんな事を思っていると、耳になぜかおかしな音が入ってくる。  
 
「……クスン……クスン…………」  
 
……誰かのすすり泣く声?  
背筋を冷たい何かが通り抜ける。  
 
(怖い……こわいコワイコワイコワイ)  
 
あまりの恐ろしさに、身が硬直する。  
ただ、この声の主が誰なのか非常に気になるのも感情のひとつで……。  
――目を開けたら、血みどろの女の人だったら?  
そんな最悪の事態を考えながらも  
最終的に好奇心に負けた僕は、恐る恐る目を開ける。  
 
「……クスン…………ゆーちゃぁぁぁぁ」  
 
……そこには、真っ裸ですすり泣く、希春姉さんがいた――――。  
 
 
『斜め上なお姉さま』  
 
 
「……なにやってるのさ!!」  
 
あまりの唐突さに、一瞬固まってしまった。  
もちろん、唐突さに驚いただけではなかったのだが……。  
 
「あっ、ゆーちゃぁぁぁん!」  
 
裸のまま布団越しに抱きついてくる希春姉さん。  
 
「やっと起きてくれたぁぁぁぁぁ」  
 
その息は、非常にお酒臭くて。  
 
「聞いてよゆーちゃぁん」  
 
彼女が酔っ払っているのは、すぐに分かった。  
 
「……いいからまず服を着てよ」  
「いいのよっ! いまからどうせゆーちゃんだって裸になるのっ!」  
「どうしてそうなるの!?」  
「それはぁ、もちろんゆーちゃんの筆おろしをぉ、私のハジメテでしてあげるためっ♪」  
 
ニコリと笑いながらとんでもない事を言うね希春姉さん……。  
 
「いや、間に合ってます」  
「間に合ってなんてないでしょっ!!」  
 
希春姉さんがずずいと顔を近づけてくる。  
酔ってほんのりと赤くなった頬が、潤んだ瞳が、布団越しからでも分かる柔らかい肌の感触が、僕の心をズギュンと撃つ。  
 
「知ってるのよぉ? 机の引き出しの中、エッチな本がいっぱい入ってるのよね?」  
「……なぜそれを!? 鍵だってかけてるのに!」  
「ふふふ、愛のピッキングよ」  
 
犯罪ですから! っていうかプライバシーそっちのけ!?  
 
「もうゆーちゃんたら、妻が居るのにそんなことしちゃってぇ。発散したいなら、私を犯しに来てくれても良かったのよぉ?」  
 
まるで挑発するような目で、自らの胸を強調するようなポーズをとる希春姉さん。  
 
「それに、あのエッチな本、年上のおっぱいのおっきな女の人がいっぱい写ってたわよねぇ?」  
「…………」  
「ふふふ、素直ね」  
「希春姉さん、なにか……嫌なことでもあったの?」  
 
今日の希春姉さんは、明らかにおかしい。  
何処がと言われたら、多少過剰ではあるもののいつも通りのスキンシップだが……。  
 
「……ゆうちゃぁぁぁん」  
 
質問をしたとたん、また泣き始める希春姉さん。  
 
「今日ね、飲み会があったんだけどね、そこでね……セクハラされたぁぁぁ」  
「……セクハラ?」  
「そうなのぉ……イヤな上司が居るんだけどね、その上司が私のお尻を触ってね」  
 
……最低な上司だな。  
 
「もちろん、やめてくださいって言ったの。そうしたら……」  
 
希春姉さんは俯いて続ける。嗚咽を漏らしながら、悔しそうに肩を震わせながら。  
 
「処女っぽいねって……言われたの。いつでも女にしてやるって……」  
「……それは、酷すぎるね。いくら酔っ払っていても、言っていいことじゃない」  
 
既にセクハラの域を超えている、脅迫めいてすらいる言葉を吐かれたのだ。相当怖かっただろう。  
そう思い、軽く希春姉さんの頭を撫でようとしたときだ。  
 
「でしょ! 私は『ぽい』んじゃなくて処女なの!」  
「……は?」  
「しかも、あんな上司じゃなくて、ゆーちゃんから女にしてもらうの!!」  
「……へ?」  
 
唖然としてしまった。  
別にセクハラに怒ってたわけじゃないの?  
むしろそこに怒るの?  
 
「だって妻だもん! 今日は初夜なの!」  
 
いや、ワケが分かりませんから希春姉さん。  
 
「あれぇ? そんなこと言っていいのかなゆーちゃん?」  
 
声に出ていたらしい。しかし希春姉さんは余裕たっぷりの笑みで本棚を指差す。  
 
「あの本棚、本を避けるとどうして私ばかり写ってるアルバムがあるのかなぁー?」  
 
……背筋だけでなく、全身の汗腺から汗が噴出す。  
 
「な……なんのこと?」  
「ふふふっ、隠しても無駄よ? それに、あのエッチな本がある引き出しの中には、私がこの前、ゆーちゃんのためにきわどい格好をした時の写真が入っているわよね?」  
 
……完全にバレてる。  
汗どころかいろいろなものが吹き出てきそうになった。  
 
「ふふふっ、ゆーちゃぁん?」  
 
ゆっくりと顔が近づいてくる。  
 
「私の写真で、なにやってたのぉ?」  
 
月明かりで青白く照らされた肌、胸、唇。それらが酷く艶かしい。  
アルコールの匂いの中にまざる、ゆったりとした甘い香りが鼻腔をくすぐる。  
やわらかく、冷たい手が頬に触れた時、ゾクリした感覚が下半身を支配した。  
頭がしびれ、まるで理性が闇に飲み込まれるかのように、ゆっくりと沈んでいく。  
替わりに浮き上がるのは、目の前の彼女を思うままに犯しつくさんとする本能。  
最後の理性を沈めるべく、彼女の唇がゆっくりと、僕の唇に触れんとしたその時である。  
 
「へぷちん!」  
 
かわいいくしゃみとともに、一瞬にして本能が消え去り、理性が戻ってきた。  
 
「くちん!」  
 
季節は既に秋になろうとしている。そんな中、裸でいたら寒いのは当たり前だ。  
ホッと息をつき、布団を持ち上げる。  
 
「まず、入ったほうがいいと思うよ?」  
「……うー。そうする」  
 
モゾモゾと隣に入り込む希春姉さん。ふぅ、これで視覚による理性の崩壊はなくなりそうだ。  
 
「ねぇゆーちゃん?」  
「ん、どうしたの希春姉さん?」  
 
隣は決して見ずに、聞き返す。  
 
「いつからかなー。って思ったの」  
「え?」  
「だから、いつから私のこと……」  
 
語尾がゴニョゴニョと尻すぼみになる。  
 
「……アルバム、見た?」  
「……うん」  
「高校生の希春姉さんが、僕のことギュッとしてる写真、あったよね?」  
「……うん」  
「あの時から……かな」  
 
さすがに、ここまでバレてしまったら隠すことも無いだろうと思い、続ける。  
 
「それと、8年前のあの言葉、ウソじゃないから」  
「……え?」  
「希春姉さんから言われて思い出したけど、あの時のあの言葉、あれは今でもずっとそう思ってるから」  
 
月明かりが照らす部屋に、静寂が広がる。  
希春姉さんが、ゴソゴソと僕の体に密着する。  
やわらかい感触、ただ僕の手に当たる希春姉さんの肌は、先ほどまで布団の外にいたせいだろう、ひんやりと冷たかった。  
 
「ふふふっ、ゆーちゃん、あったかい」  
 
うれしそうに密着する希春姉さん。  
隣を見ると、やわらかく微笑みながら僕の肩に額を押し付けてきた。  
 
「ねぇゆーちゃん……キス、して?」  
 
指を絡めながら、ねだるような目をする。  
僕は体ごと横を向くと、希春姉さんの頬に手を当てて、ゆっくりと唇を重ねた。  
 
 

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