三枝のノートパソコンを奪い、『学校の階段でエロパロ』を読んだ九重が叫んだ。
その隣では、天ヶ崎が真っ赤な顔をしつつも興味津々で続きを読んでいる。
「そんなことないっす! 九重先輩サイコーです! 俺、毎晩九重先輩で……!」
「ストップ! 井筒、皆まで言うな」
「見城ちゃんと鉄板カップルのサエぽんはお黙り! 問題は私よっ!
何よ何よ! 私だっていざとなればエロってお手のものなのにっ!」
グーに握った両手を振り回しながら、九重はなおもわめき散らす。
「相手だって健吾がいるじゃない! なのに健吾は中村ちづるとですって!?
私いったい何なの!? 空気!?」
「……お前、本人を前にしてよくそういう事が言えるな」
心なしか赤くなりながら、刈谷が冷静にツッコミを入れる。
だが興奮した猿同然の九重は止まらなかった。
「缶バッチ! あんたでいいわ! 私とセックスしなさい!」
「なんで僕!?」
言うや否や文字通り飛びかかってきた九重を、必死で押しとどめる幸宏。
「うっさいわね! 四姉妹やら御神楽やらいずみやら、あんたおいしすぎるのよ!
いかにも僕オナニーしてませんみたいな聖人君子面しちゃって!」
「九重先輩、生々しいですよ! やめてください!」
オラオラ、おとなしくしな。とまるでチンピラのように九重は幸宏の服を脱がせにかかる。
そろそろ止めたほうがいいかな、と刈谷が重い腰を上げようとしたところで、もみ合う二人が
幸宏の鞄にぶつかり、その中身をぶちまけてしまった。
「缶バッチ、あんた……!?」
九重が動きを止めたのは、幸宏の鞄の中から出てきた雑誌の表紙を見てしまったからだった。
うわあああ! と言いながら幸宏が雑誌を回収するが、時すでに遅し。階段部の全員が幸宏を
違う生き物を見るような目で見ていた。
その雑誌のタイトルは……『月刊ボディビルダー』。
「違うんですこれは体育委員の彼に『神庭君も是非読み給え!』とかって押しつけられてえええ!」
「……いや、いいんだ神庭。愛のカタチは……人それぞれだからな」
「冷静に理解を示さないで下さい三枝先輩! っていずみ先輩誰に電話してるんですかっ!?」
「……いいのよ美冬、泣かないで。あなたには私がいるじゃない……」
「どさくさに紛れて人の従姉を口説かないでください! って……凪原さん、いつの間に!?」
「やっぱり神庭君、そうなんだ。井筒君が振り向いてくれないわけ、やっとわかった」
「ちがあああああううううう! って何赤くなってるんだよ井筒っ!!」
「いや……俺、実はけっこうお前のこと……嫌いじゃないぜ」
「受け入れるなあああああ!! みんな大っ嫌いだああああああ!!」
叫びながら走り去る神庭を見つめながら、九重は呟いた。
「……ほらね。何故か最後は缶バッチでオチがついちゃうでしょ」
「お前、愚痴を言う前にキャラを立てろ。ネタキャラはエロにし難いんだ」
冷静に筆者の代弁をする刈谷。青空に大きく缶バッチの笑顔が煌めいて……幕。