「幸宏」
美冬が幸宏を呼び止めた。彼が自室へ向かおうとしたところだった。
幸宏の背中を美冬が見る形だ。幸宏は、美冬の表情が見えない。
「どうしたの?」
「…………」
従姉は黙ったまま、幸宏の腕をひっつかんで自分の顔を見させる。
ツインテールの彼女は、『ぼんてーじ』というやつを着込んでいました。
いきなり美冬の部屋へ連れ込まれる。
扉を乱暴に閉める美冬の行動が理解できない幸宏は、ただ美冬の部屋で突っ立っていた。
「寝て」
美冬の言葉はそれだった。
彼女の白い指先が示すのは、ベッドの上。白い枕に黒い布団が敷いてあった。
「……え?」
幸宏がぽかんとして口を開いていたが、二度目はなかった。美冬はぐいぐいと幸宏を押して、ベッドへ横たわらせる。
美冬がベッドの脇に立ち、彼の顔を2分ほど鑑賞していた。その2分間は、幸宏のための鑑賞時間でもあった。幸宏も従姉の姿をまじまじと舐めるように見る。
先ほどまではじっくり見えなかったが、胸の下から服が作られていて、ツインテールの上に被った帽子が少し曲がっていた。美冬の小さな胸が綺麗に露出されている。
「美冬姉さん、色々聞きたいことがあるんだけど」
美冬が少し顔を歪めた。微かな怒り。
幸宏の察しだけでは片付かない物事である。訊かずにはいられない。
幸宏が質問の文章をまとめている間に、美冬は部屋の箪笥から紐を取り出した。
いや、紐ではない。――鞭だった。
「えっとさ、まずだよ。何をするのさ」
「幸宏を犯す」
鞭をぴんと張って、美冬が横たわった幸宏を見下ろした。
妙な威圧感があったが、鞭は実用するつもりはないらしい。ぽいと床に放り捨てた。
「……性的な意味で、かな」
幸宏の微かに震えた声に対して、美冬はあっさりと頷いてみせた。こくり、という効果音が美冬の横で飛んでいるような。
美冬もベッドにあがる。幸宏の上に四つんばいになって、2人の顔と顔を近づけた。
「美冬姉さんさ、何かあったの? 悪ふざけは――」
彼の両腕両足を拘束している最中の美冬には聞こえないようだ。少し時間を経て、彼女はやっと幸宏を大の字に固定することに成功した。
そして、美冬はもう一度幸宏の顔面に近づく。舌を出して、すぐ引っ込めた。小学生の頃に流行ったいわゆる『あっかんべー』のつもりではないらしく、幸宏に対する舌を出せという指示だった。
幸宏はそれをうまく汲み取って、妙な顔で舌をおずおずと口から開放する。
美冬がその舌を口で咥えて、幸宏の口の中を唾液で塗れさせた。
「美冬姉さん」
呼吸が苦しくなった美冬が口を離してから、幸宏が呼びかけてみた。階段部で疲れた彼は、物事に慌てている余裕もない。
なぜか、彼はこの状況を受け入れた。
「僕のこと好きなの?」
美冬の瞳が丸くなった。
美冬の驚きという感情を目前に、幸宏は彼女の顔をじっと見ていた。
「……キライ」
少し辛そうな顔を一瞬見せて、美冬はもう一度幸宏の唇にしゃぶりついた。
2枚の布によって見えなくなっていた幸宏のそれを、美冬が丁寧に取り出す。疲れによってか、萎れた草花のように見えた。
美冬は立ち上がって、少し後ろに下がる。腰を下ろす。
ボンテージの衣装の一部である靴を幸宏に伸ばし、いや、幸宏の陰茎に伸ばし、そのまま靴のつま先で触れた。
「痛っ」
少々痛かったらしく、幸宏が呻いた。
それでも美冬は謝罪の言葉など述べないし、そんな素振りも見せない。
両足で挟み、少し足の裏で転がしてみた。幸宏としては、痛かったし、疲れているのに色々と活性化してきて大変だった。だけど、それと同じくらいの気持ちよさがあった。
亀頭を爪先で潰すように当てると、幸宏のものが起き上がった。
「姉、さんっ」
いい加減にしてほしかったのか、幸宏の声は少し怒っていた。怒っているのだが、快感も同時にあるのだ。少し柔らかくなってしまった故に、美冬も特に反応を見せない。
「姉さんはヤダ」
幸宏の言葉にだけそう言った。
無表情で幸宏と足先と亀頭で触れ合いながら、眉を顰めている。
「上の姉さん達とも一緒じゃヤダ」
束縛的に、彼女はそう言った。
幸宏の息が少し荒くなる。
「……美冬、姉さん」
沢山の呼吸と交えて出したその言葉が、明確に美冬に伝わったかはわからない。
美冬が笑うことは滅多にない。だが、不機嫌な顔が元の無表情に戻った。
幸宏は少し機嫌がよくなったのか、と思い少し笑う。が、それも本当に少しだった。いつの間にか美冬がティッシュで幸宏のモノを拭いていた。しごいているとも言える。
「ちょ……姉さん、待って! ちょっと一回止めて! ……あ、ああああっ!」
一瞬手が止まり、さらに激しくしごかれる。
痛みと快感が交じり合って、更に性欲を生産していた。
そして、あまりに大きすぎたそれが白濁の液になり、幸宏から噴出される。美冬は少し驚いたが、自分の顔についたそれを舐め取り作業に戻った。
「み、美冬姉さんっ!」
それによって、速度が緩み、やがて拭くのを止めた。
ティッシュを丸めて、水色のゴミ箱に投げ入れる。うまく入ったような音が聞こえたが、縛られている幸宏には見えなかった。
「……何してたの?」
「拭いてたのよ。足の裏なんて舐めたくないわ」
淡々と、当たり前のように答える。
ティッシュで拭くってさ、よくある話か? いやいやないだろ。
それにしても、足の裏なんて、というのはどういう意味だろう。幸宏はそれについて考えていた。
その答えはすぐに出てきてくれた。美冬が、答えを実行に移してくれようとしている。幸宏のそれを口に含もうとしていたのだった。
が、幸宏が制止する前に美冬はそれをやめた。意味もなくそれを叩く、軽くだが。
「幸宏は好きな食べ物はすぐに食べる方?」
「うーん……最後だと食べきれないかもしれないし、中間あたりに食べるかな」
なんとか落ち着いた声が出せる。彼女が幸宏の陰茎に対する作業を一切していないからだった。
それについてはあっそ、で終わってしまった。意味はなかったのだろうか。
「じゃあ、焦らしてあげる」
そのあとは、美冬が一方的に幸宏を攻めていた。先ほどからその関係は変わっていない。
「ふ……」
いつまでも、2人が唇を重ねていた。窒息しそうなほど。
美冬が幸宏の隣に左腕をつき、右手では彼の陰茎をしごいていた。
舌を舐める。歯を舐める。歯茎を舐める。唇を舐める。舌を吸う。
そんな行為を、繰り返し繰り返し。
喘ぎそうになっても、口は塞がれていた。息が苦しくなれば、お互いに離れあう。そして、息を吸ったらもう一度。
美冬のしごきは丁度幸宏にとって気持ちいいようで、手でし始めてから1回出していた。美冬の黒いボンテージが、ところどころ白い斑点となっていた。
「はっ」
2人が同じ言葉を言いながら口を離した。口や舌も疲れてきているようで、そろそろキスの時間も終了になったらしい。
「みふ、ゆねーさん……さすがにもうさ、止めない?」
幸宏は美冬以上に疲れていた。けれど、美冬がすればその疲れも快感の要素になっていた。
美冬は中止を拒む素振りを見せて、ボンテージを脱ぎ捨てた。彼女の裸体があらわになる。膨らみの少ない、というかほとんどない胸部から突き出たピンク色の乳首がたっていた。
帽子を靴だけ脱がないまま、彼女は幸宏の頭に股間を乗せる。
「美冬ねーさん!?」
さすがに幸宏も驚いたらしく、声を上げた。けれど、太ももや性器によってその声はくぐもる。
少し腰をずらして、幸宏の口に性器が当たるようにした。
「舐めて」
熱さと、自分の陰茎の痛みと、快感で溶けそうになっていた幸宏はおとなしくそれに従う状態になっていた。
ゆっくりと舌を動かして、唾液を生産する。唾を塗りたくるように舐めていた。
その間、美冬は喘いでいたのか嗚咽をもらしていたのか、とにかく声をあげていた。
「う……ふぇ、あうっ」
聞きなれた声が喘いでいるような台詞を言っている。新鮮だった。
舌が疲れきる前に、美冬は幸宏の顔面から退いた。
「……ごめん。これで終わりにするから」
小さく呟いた美冬の言葉は、幸宏に届いていたのだろうか?
幸宏も疲れていた。聞こえていても、反応できない状態だ。
美冬は幸宏の突起の上にゆっくりと腰を落とす。美冬のなかに、幸宏が入っていった。
「……入って、るよ」
「入れたんだもの……当たり前じゃない」
二人とも息が上がっていた。それでも、行為をやめない。
ゆっくりと、奥へ。そして、それは美冬の壁に当たった。美冬がびくんと跳ねる。
「美冬姉、さん」
「……なに?」
二人とも顔が赤くなるほど疲れていた。それでも、行為をやめない。
美冬がゆっくりと腰を揺らす。最後を惜しんでいた。
「最後じゃなくても……うあっ、いいよ」
幸宏の言葉に美冬の眼球が少し濡れた。
大きく目を見開いた美冬だったが、すぐに行為に戻る。
腰を少し上げては落とし、それを繰り返した。
やがて、夜もふけてきた頃。
「は、はぁっ! あっ……奥っ、出して! せーえき、いっぱい出して!」
もう終盤だった。
美冬が呼吸を激しくしながら射精を要求する。少しでも、終わらないように。終わるに決まっていると、わかっているのに。
だが、幸宏は呼吸だけを荒くして、何もいわなかった。射精も我慢していた。
「……何、やってんのよ! 早く出さないともう一か……いっ、しごくわよ!」
幸宏のリミッターの枷が外れる。美冬のなかに、幸宏は出した。
「……本当に、これで最後でいい。……最後がいい」
幸宏を固定していた金具を外しながら美冬が呟いた。
両腕が既に開放されている幸宏は上半身を起こす。美冬の顔は見えなかった。
「……なんで?」
「だって、私の最初が幸宏じゃなかったんだもの!」
言っていることが、わからなかったけれど。
幸宏と美冬の会話はかみ合っていないらしい。幸宏の求めた答えのいずれともかち合わなかった。
「美冬姉さんが何言ってるのか、わからないけどさ」
幸宏がそこで言葉を止めた。
「何で泣いてるの?」
美冬は泣いていた。
足を止めていた金具が濡れていた。
「……やっぱり、幸宏のことキライ」
キライらしい幸宏の腕が動いて、美冬の背中に回った。
泣かないでと言った。
好きだからと言った。
いつまでも、と、言った。
「……ありがと」
美冬は泣いていた。
美冬は笑っていた。