卒業を控えると、三年生はほとんど学校に来なくなる。
私も仕事のことは、あの頼りない新生徒会長と後輩たちに任せて、悠々自適の隠居生活を送っていた。
大学も推薦で決まっているし、なんだかぽっかりと胸に穴が空いたよう。正直に言うと、ちょっと寂しい。
誰かいるかな、くらいの軽い気持ちで学校に足を運んでみると、彼の姿があった。
「やあ、ひさしぶり。元気だった?」
「一週間くらい前に会ったでしょう。変わりないわよ」
彼の名は遊佐由宇一。天栗浜高校の元生徒会長だ。
「君に会えなかった一週間、胸に穴が空いたようだったよ」
「そう? 私はあなたの顔を見ることもなく、平穏な時を過ごせたけど」
これは手厳しい、と相変わらず芝居がかった仕草で遊佐君はおどけてみせる。
「もうすぐ卒業だねぇ。三年間、いろいろあったね」
「そうね。特に、あなたにコケにされまくったのは忘れないわ」
「君の心に俺との思い出を刻んで貰えたとは、嬉しいな」
「…………」
もうああ言えばこう言う。本当にうっとおしい。でも、どこか憎めないのも確かで。
その後もべらべらと何かをしゃべっていたが、私の耳はそれを聞き流した。
こんな奴だけど、結局三年間、遊佐君に勝つことはできなかった。
本当に悔しくて、ずっと彼に私の力を認めさせたくて躍起になっていたけど、
結局は掌の上で踊らされていただけ。その事実を認めたとき、急に楽になるのを感じた。
負けを認めたわけじゃない。
私自身にできることが、どこまでなのかを知ることができた。
そして、まだまだ私は成長してゆける、という事も。
だから、今では彼には感謝している。
そんなこと、絶対に言ってあげないけど。
「……彼のことは、もういいの?」
唐突に聞かれて、はっとした。彼、というのが誰のことかは、言わなくてもわかる。
「……そうね。結局、刈谷君を連れ戻すこともできなかった」
生徒会を突然飛び出し、階段部などという奇妙な団体を作った彼、刈谷健吾。
遊佐君と刈谷君も、一種の緊張感を孕んだ関係にあったはずなのに、いつの間にかそれが溶けていて、
いつからか二人の醸し出す空気が変わっていた。
男の子同士っていいな、と思う。女の私には、二人の友情が理解できない。
そして刈谷君が追い求め、本当に見ようとしていたものも、理解できなかったけれど。
「いいのよ、もう……彼は、彼の道を見つけることができたんだろうし」
「うーん……そういう事を聞いたんじゃ、ないんだけど」
苦笑しながら頬をかく遊佐君なんて、初めて見た。
もしかして、三年間で初めて、私のほうが優位に立っている瞬間じゃないかしら。
「単刀直入に言うとね。ちづるちゃん。俺、君のこと、好きなんだ。ずっと」
「はいはい。わかりました」
「……真剣、なんだけどな」
ばっと手を握られて。じっと真剣な瞳で見つめられて。
私の時が、止まったーーー