「はっ!?」  
 
目覚めた幸宏は、後ろ手に手錠をかけられ、椅子につながれている自分を発見した。  
妙に据えた匂いのする薄暗い部屋の奥から、すらりとした体躯の女性が姿を現す。  
 
「こ、小夏姉さん!? なんなのこれ!」  
『ふふふ』  
 
ホワイトボードをつきつける小夏。薄く微笑んだ美貌に蝋燭の光が照りつける。  
 
『神庭家特別拷問室へようこそ』  
「ちょ! 拷問室なんてあったの!? 知らなかったよ!」  
『夜なべして作った』  
 
満足げに周囲を見渡しながら、小夏が嘆息する。  
 
『我ながらいい仕事をした』  
「た、た、助けてーーーーっ!!」  
 
☆☆☆  
 
『叫んでも無駄。千秋を調教した時に実証済み』  
「千秋姉さんまで毒牙にかけるなんて……!」  
 
幸宏は、ここ最近、千秋の小夏を見る目がやけに  
熱っぽかったことを思い出した。  
 
『おとなしくおしおきされるがいい』  
「ちょっと待って! 僕が一体何をしたっていうのさ!!」  
 
その言葉に、小夏は目を見開いた。そして感情の読み取れない瞳で、  
じっと幸宏を見つめ、傍らからワイドショー番組で使うような  
厚手のフリップを何枚か取り出す。その正面にはこう書かれていた。  
 
『スクープ! 神庭幸宏のただれた性!』  
「なっ……!?」  
 
小夏がフリップを捲る。その下には、フリップの大きさまで  
引き延ばされた写真があった。  
 
「な、な、な……っ! 小夏姉さん、なんで!?」  
 
写真は、ベッドの上で絡み合う裸の男女を映したものだった。  
 
四つん這いでベッドに突っ伏し、背後から貫かれて  
切なげな表情をしているのは、間違いなく神庭家の長女、  
神庭希春だ。  
 
そしてその身体を貪るように背後から覆い被さっているのは……。  
 
「み、み、見てたの!?」  
『おかげで一晩中家に入れなかった』  
 
それは、希春と幸宏が初めて交わった日のものだった。  
 
あの日は結局、幸宏は迸る若さを止めることができず、  
5回、いや6回はしたのだったか。最後の方は記憶が曖昧で、  
気がつくと朝、希春と二人眠っていたのを思い出す。  
 
『これだけではない』  
 
フリップが捲られる。  
 
今度は洗面所の、洗濯機の前で希春のスカートをまくり上げて、  
背後から犯している幸宏の姿だった。ずり下げられた黒いショーツが、  
幸宏の性急さを物語っている。  
 
洗濯物を取り込んでいる希春のお尻が妙に色っぽくて、辛抱たまらず  
襲ってしまったときものだ。だめよ、こんな所でと口では拒みながらも、  
決して嫌がっていない希春の身体を幸宏は思い出す。あの時は燃えた。  
 
『まだまだある』  
 
皆が寝静まった後、風呂で抱き合いながら交わっている写真。  
 
台所に立っている希春の脚の間に幸宏が入り込み、頭の形に  
盛り上がったスカートの股の部分を、希春が泣きそうな表情で  
押さえている写真。  
 
幸宏のベッドの上で、愛おしそうに幸宏のモノを口に含む希春の写真。  
 
なぜか美冬の制服を着た希春(当然サイズがまったく合っていないが、  
それが妙にいやらしい)が、幸宏に犯されている写真……。  
 
写真はさらに続く。その全てが、希春と幸宏の秘密の交わりを  
映し出したものだった。いずれも、希春の甘い喘ぎが漏れ聞こえて  
くるかのような臨場感のある写真だった。  
 
衝撃的な写真の数々の前に、幸宏は青くなるやら赤くなるやら。  
ぱくぱくと口を開閉するだけで、継ぐ言葉を失っていた。  
 
「ど、ど、どうして……」  
 
どうやってこんな写真を撮ったのかについては、疑問はなかった。  
神出鬼没(を目指す)の小夏だ。これくらいできてもおかしくはない。  
 
それよりも、大胆なこともしてしまったけど、家族にバレていた  
ことが衝撃だった。まさか千秋や美冬も知ってしまっているのか。  
 
制服をこっそり希春が持ち出したことなど、美冬に知られたら  
殺されるかも知れない。  
 
『大丈夫。他の家族には知られていない』  
「よ、良かっ……くないよ! 何のつもりなの、小夏姉さん!?」  
 
幸宏の抗議に、小夏が首を傾ける。  
 
「ぼ、僕と希春姉さんは、あ、あ、愛し合ってるんだ!  
 どうしてこんなことするのさ!」  
   
希春がこの場にいたら、鼻血を吹いて倒れるかも知れない台詞を、  
幸宏は恥ずかしげもなく叫んだ。  
 
『勘違いするな幸宏』  
 
なぜか相も変わらずホワイトボードで会話する小夏。  
いちいち消して書き直すのを待つのがじれったい。  
 
『お前はただ希春姉さんに甘えているだけ』  
 
「なっ…!?」  
 
その言葉に、幸宏は言葉を失う。以前、階段部のことで  
家族に当たり散らした時も、同じようなことを言われたのを  
思い出す。そういえば、あの時も小夏にこっぴどく制裁された。  
 
『日常のストレスや性欲を、希春姉さんを利用して発散しているだけ』  
「そ…んなこと…は…!」  
 
ない。言い切ろうとして幸宏は言い淀んだ。  
本当にそうと言い切れるか?  
 
生徒会の役員会議でこっぴどくやり込められた時や、  
階段レースで思うようにタイムが伸びない時に限って、  
希春姉さんの身体を求めてはいないか?  
 
『希春姉さんも悪い。お前を甘やかしすぎ。だけど』  
 
ゆーちゃん。いいのよ。私はゆーちゃんのものだから。  
もっと、私を使って。気持ちよくなって。ゆーちゃん。  
行為の最中の、希春の言葉が幸宏の脳裏に蘇る。  
 
『希春姉さんはお前の道具じゃない』  
「……!!」  
 
幸宏が言葉を失ったのは、小夏の気持ちを理解したからだった。  
 
かつて希春と小夏の二人が語って聞かせてくれた、とある姉妹の  
話を思い出す。ぶつかり合って、結ばれた希春と小夏の絆。  
そして、誰よりも姉のことを大切に想っている小夏の気持ち。  
 
小夏から見れば、幸宏が希春を愛しているなど唾棄すべき甘えに  
映るのだろう。本当に愛しているのなら、相手を思いやり、  
そして相手の気持ちを第一に考えるはず。  
 
それが自分はどうだ。衝動に任せて、希春を犯し続けているだけだ。  
希春が受け入れてくれるのをいいことに甘えきってしまっている。  
会社の仕事と家事で疲れているだろうに、彼女の気持ちも考えず。  
 
「わかっ…た、よ。小夏姉さん」  
 
小夏の顔を正視できず、幸宏は俯いた。  
 
「確かに、僕は希春姉さんの気持ちをないがしろにしてた。  
 甘えきってたと思う。でも僕は、本気で希春姉さんのことが」  
 
顔を上げて続けようとした言葉は、その目前にあった光景に遮られた。  
先ほどまでいつものジャージ姿だった小夏が、服を脱いでいた。  
 
フリル付きの意外と可愛らしい下着に包まれた肢体を直視してしまい、  
あわてて幸宏は視線を逸らす。  
 
「な、な、なにやってんだよ小夏姉さん!」  
 
「お前は可愛いね、幸宏。  
 真剣に気持ちをぶつければ、素直に真剣な気持ちを返してくれる。  
 けど、お前に言いたいのはそういうことじゃない」  
 
小夏の声だった。その良く通るハスキーな声音を久しぶりに聞いて、  
思わず胸がドキリとしてしまう。  
 
「自分のしていることを自覚すれば、確かにお前は希冬姉さんに  
 手を出すのをやめるかも知れない。けど、それだけじゃ」  
   
小夏が幸宏の正面に立った。おもむろにしゃがみ込んだ小夏を、  
幸宏は椅子に縛られた姿勢のまま恐る恐る見下ろす。  
 
「それだけじゃ、足りない。おしおきに、ならないから」  
 
小夏が幸宏の股間に手を伸ばした。ゆっくりと、ジッパーを下ろしていく。  
恐怖と驚きで、幸宏は一言も発することができない。  
 
「お前に、罪悪感を植え付けてやる」  
 
ジッパーの奥から、小夏が幸宏の怒張をまろび出させた。  
小夏の半裸を見て、心根以上に素直な幸宏のモノは、すっかり元気に  
なってしまっている。  
 
そそり立つ幸宏のモノを見て、小夏は少し驚いたようだった。  
希春との連日の行為を経てきた一物は、以前よりも薄く黒光りし、  
逞しさを増している。  
 
「これでお前は、姉さんを……」  
 
おもむろに、両手で幸宏のモノをしごきあげる小夏。  
その快感に必死に抗いながら、幸宏は小夏の目が異様な熱を帯びている  
のを見て取った。まるで、何かに取り憑かれているかのようだ。  
 
「毎日毎日、姉さんの身体を……」  
「やめて! やめてよ小夏姉さん!」  
 
幸宏が、やっとのことで声を絞り出して抗議する。しかし小夏は  
幸宏を一瞥しただけで、モノをじっと見つめながらしごき続けた。  
 
「やめない」  
 
モノ先端から透明な液体がこぼれ始めた。先走り汁はモノをしごく  
小夏の手に垂れ落ち、ちゅぷちゅぷと淫靡な音を立てる。  
 
「だってこれは、おしおきだから」  
 
そして唐突に、ぬるりと生温かい感触が幸宏のモノを包み込む。  
小夏が幸宏の一物を口に含んだのだ。ひッと悲鳴をあげて、  
幸宏は腰を浮かせた。  
 
「あ、あ、あ……!」  
 
ぢゅぷ、ぢゅぷ、ぢゅぷ、とたっぷり唾液を含んだ小夏の口が  
幸宏のモノをしゃぶり上げる。自分の股間の上で小夏の顔が  
上下しているという淫靡な光景だけで果ててしまいそうになった。  
 
「あっ……いうッ!?」  
 
幸宏はびくんと身体を震わせた。モノへの口撃に加えて、小夏は  
その指先で玉袋の愛撫まで始めたのだ。ぞわぞわとした快感が  
背中を駆け上ってくる。  
 
口での行為は、希春にもして貰っている(むしろ希春がしたがる)。  
だが希春の経験が浅いせいか、それほど気持ちの良いものでは  
なかった。むしろ、自分のモノを好きな人が口に含んでくれて  
いるという事実そのものに興奮を覚えた。  
 
しかし今行われている行為は、背徳感とテクニックが相まって  
まったく別次元の快感を幸宏に与え続けていた。我慢しきれず、  
思わず声が漏れてしまう。  
 
「だ、だめ、だめ、だめだよ! あうッ!」  
『うるさい』  
 
幸宏のものをしゃぶりながら、小夏は器用にホワイトボードを掲げる。  
身体を強ばらせると、背後で手首を繋いでいる手錠ががちゃがちゃと  
音を立てた。  
 
「だ、だめ、だめだっ、小夏姉さん! イクッッ!」  
 
射精は唐突にやってきた。先端から精液が勢いよく噴出し、  
小夏の口内を汚す。さらに止まることない迸りは、  
びっくりして顔をあげた小夏の顔面に降りかかりった。  
 
「あ、あ、あ……」  
 
びくびくと身体を震わせながら、幸宏は重く暗い感情が自分に  
のしかかるのを感じた。  
 
小夏姉さんにイカされてしまった。  
 
希春のことを愛していると言った自分が、  
希春の愛する妹・小夏の行為によって。  
 
朦朧とする意識の中で、幸宏は小夏がしようとしていることを  
ようやく理解した。確かにこれはおしおきだ。幸宏の実直な性格を  
知り抜いているからこそ有効な罰だった。  
 
希春に合わせる顔がない。  
 
どうすれば良いのか分からず、泣きそうな顔をしている幸宏の口に、  
突然小夏の指が強引に突き込まれた。  
 
「んぶっ!? が…はッ! に、にが……」  
 
それは小夏が、顔についた精液を拭った指だった。  
続けて顔をがっしと掴まれ、無理矢理唇を押しつけられた。  
舌が絡み、精液が口内に流れ込んでくる。  
 
「よく味わえ。お前はこれで、姉さんを汚したんだ」  
 
見たこともない嗜虐的な笑みを浮かべる小夏に、幸宏の恐怖が加速した。  
目の前が真っ暗になって、そして----  
 
幸宏は荒い息をつきながら目覚めた。  
一瞬、自分がどこにいるのか分からず、慌てて身を起こして周囲を見渡す。  
見慣れた自分の部屋の、使い慣れた自分のベッドの上だった。  
 
「ゆ…夢…!?」  
 
やけにリアルな夢だった。性器を舐め上げられる感触すら思い出せる。  
ふと、股間に冷たいものを感じておそるおそる部屋着を持ち上げると、  
案の定べっとりと夢精していた。  
 
(あんな夢を見て、しかも夢精しちゃうなんて……)  
 
夢で良かったと思う反面、よりによって小夏との行為で射精してしまったという罪悪感が重く胸に残る。  
それにしても、どうして小夏姉さんが夢に出てきたりするんだろう……。  
 
「ゆーちゃん、そろそろご飯よー……どうしたの?」  
 
ベッドの上で蹲っている幸宏を発見し、朝食に呼びに来た希春が心配そうに幸宏のベッドに腰掛けた。  
幸宏はその優しい顔を正視できず、つい顔を逸らしてしまう。  
 
「もしかして、どこか痛いの? お医者さん呼ぶ?」  
 
あんな夢を見た後では、希春の優しさも胸に痛い。幸宏はいつしか涙を流していた。  
そのただならぬ様子に気付いて、希春がそっと幸宏を抱きしめてくれた。  
 
「悲しい夢を見たのね。大丈夫よ、大丈夫……」  
 
今ひとつピントがずれていたが、そんな希春が愛おしくて、幸宏は希春を抱きしめた。  
きゃっ、と希春が悲鳴を上げる。  
 
「ごめん、希春姉さん、ごめん、僕、姉さんを大切にする……」  
 
いつもならそのまま行為に流れてしまいそうなやりとりだったが、  
希春は優しく幸宏の背中を撫でてくれた。  
そんな二人を扉の向こうから見守る人影がひとつ。  
 
『思ったより効果があって重畳』  
 
ホワイトボードを手にしていないほうの片手には一冊の本と、  
数々のわけのわからない小道具が握られている。本のタイトルにはこうあった。  
 
"初心者でもできる呪術"  
 
言うまでもなく、小夏だった。その目元にはなぜか隈ができている。  
ふと、隣の部屋の扉が開いて、美冬が姿を現した。眠そうな小夏を  
不思議そうに見やると、階下に降りていこうとする。  
 
「ちょうどよかった、待って美冬」  
 
はい、と美冬に本を手渡す小夏。そのタイトルを見て、美冬が顔をしかめた。  
 
「その本、天ヶ崎に返しておいて。ついでにお礼も伝えてもらえると助かる」  
 
本のタイトルを見てギョッとしている美冬が振り返ったとき、  
すでに小夏の姿はなかった。興味本位でぱらぱらと頁を捲るうちに、  
いつしか美冬の瞳が熱を帯びてくる。  
 
「これがあれば……」  
 
<……つづくの?>  
 

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