「やっぱり現役にはかなわないわ」
あれ以来、いずみとはたまにテニスをするようになった。
彼女は昔の勘を取り戻したようで最近は二人の勝率がかなり近づいてきた。
「十分テニス部のレギュラーになれる力はあると思うんだけど」
「感覚はだいぶ取り戻したんだけど、何か違和感があるのよ」
そう言いながらダブルのバックハンドの素振りを繰り返している。
たかが遊びでもいずみは真剣だ。お嬢様として育った環境もあるのだろう。
にしてもこのひとの存在は反則ではないだろうか?
綺麗で頭がよくて人当たりもいい。さらに身長が高くて胸だって……
「胸?」
つい口に出してしまっていたようだ。
なんとか誤魔化そうと考えるが口下手な私には思いつかない。
「ああそうね。胸が邪魔になってるのね。
そういえばあのころは私も胸大きくなかったし」
どうやら私の独り言は別の意味に捕らえたようだった。
しかしそれは私にとって重要な内容を含んでいた。
ここは恥を忍んで聞くべきだろう。
「いずみは……いつごろ胸が大きくなったの?」
「どうしたの?急に」
「その、気になったというか……参考にさせてもらおうかと……」
「なるほど、美冬の好きな人は胸が大きい人が好みなのね」
「え?そ、そういうじゃなくて、やっぱり女の子の願望というか
その、一般論としての男子からの評価というか……そうじゃなくて!」
「ふふふ、かわいいわね美冬」
つい顔が赤くなってしまう。どうもうまくあしらわれてる気がする。
「美冬を見てるとつい……ね。でもこんなことするのは美冬だけよ?」
「もう……」
でもそんな関係が楽しい。
「そうね、大きくなったのはテニスをやめたころかしら?
そういえばテニスをやめたあとは体重増えて悩んだわ。
運動量が減ったせいだろうけど」
テニスをやめたころ……
「だからといって美冬がテニスをやめても大きくなるとは限らないわよ?
確かにアスリートと呼ばれる人たちはあんまり胸が大きい人はいないけど、
直接の原因だとは限らないわけだし。それに美冬、やめられる?」
もちろん首を左右に振る。
「でしょ?それに私たちはまだ10代なんだからまだ可能性はあると思うの。
諦めちゃ駄目よ?協力するからね。にしても美冬はかわいいわね!」
不意をつかれて抱きしめられる。少し汗の匂いが混じっているが、
いずみからいいにおいがした。そしてやわらかい感触が伝わる。
やっぱり世の中不公平だと思った。
「ところで美冬、美冬のお姉さま方の胸がいつ頃大きくなったか覚えてる?」
「……希春姉さんは知らないけど、他は中学生ぐらいだったかな?なんで?」
「ええと………………美冬ガンバ!」
「え?どういうこと?いずみ?なんで目そらすの!」