「それでは引き続き第2回ルートβチキチキ神庭君のお相手は誰よ? 大会〜!」  
 
三島が再び開催宣言をしているのをぼんやり眺めながら  
いや、あれは無限に回るというオチじゃなかったのかなぁ?  
ていうかなんで僕が説明してるんだろう?  
なんて考えていると  
「……幸宏、外」と言いながら美冬が窓の外を指差した。  
 
疲れてるからあんまり動きたくないなぁと思いながら  
指差す方向を見ると、そこには『伝言』と書かれた  
ホワイトボードを掲げた小夏が立っていた。  
 
「なにやってんだろ……」  
「……知らない」  
 
小夏姉さんが書き直したホワイトボードには次のように書かれていた。  
 
『正直続き書けといわれるとは思わなかった。  
続きなんて考えてなかったわw  
いずみはイメージでお嬢言葉だと思い込んでた。反省してる。  
読み直してるから許して。  
色々壊れてるのは基礎能力の問題なので生暖かい目で見てちょうだい。  
んじゃあとは任せた>缶バッチ by中の人  
 
PS.エロルートの方へ。エロは書けないのでよろしく。  
もっとやれw』  
 
なんだかわからないけど任されてしまったようだ。  
さてどうしたものか……  
 
「……ネタはある」  
「……あんまりプライベートなことだと困るんだけど」  
「……大丈夫。これは私が勝つために必要なこと」  
 
その口元だけ笑いがすっごく怖いんですけど美冬姉さん。  
といっても僕にはネタなんてないし任せるしかない。  
 
いずみとなにやら相談を終えた後、美冬は付箋のついた画用紙を取り出した。  
 
「はい注目。美冬から発表があるそうです。お題は何? 美冬」  
「ケータイメール部門、女子の部の発表」  
『どんどんどん、パフパフ!』  
 
やっぱり……  
それにいつのまにやら小夏姉さんが座ってるし。  
書き文字じゃ盛り上がらないと思うんだけど。  
 
「え?え?え? ちょっとまって。みんな神庭君のメアド知ってるの?  
なんで? 私知らないよ?」  
 
三島がメール女子の部と聞いて騒ぎ出した。  
 
「「階段部だし」」  
「『姉』」  
「副会長として当然でしょ?」  
「じゃあなんでナギナギまで知ってるの? どういうことよ!」  
「半分階段部みたいなものだし。あと井筒君のこと相談したりとか」  
「なんで! なんで私だけ知らないの!! 神庭君は私なんてどうでもいいのね!!!」  
 
いや、聞かれなかっただけなんですけど。  
それに僕のメアドなんて知っててもしょうがないと思うんですけど。  
 
「別に教えてもいいですよ。後で凪原さんにでもアドもらってください」  
「それじゃダメなの! 神庭君から直接教えて欲しいの! 赤外線通信で!」  
 
別に誰からもらっても同じだろうと思うけど、なんでだろ?  
まぁいいかとケータイを準備して転送すると  
 
「今、神庭君と私は繋がってるのね! とっても幸せ!」  
 
わけわかりません。小夏姉さんがホワイトボードで通信を遮断しようとしてるし。  
他の人達も手で遮ろうとしてるけど、何してるんだか。  
 
「これから毎日おはようとおやすみのメール送るからねっ!」  
 
勘弁してください、そんなスパムいらないです。  
それにみんな僕を睨んでるし。なんで僕を睨むんですか。  
メールするって言ってるのは三島さんなんですけど。  
居た堪れなくなって美冬に話をすすめるように促す。  
 
「とりあえず2位から…………どろどろどろ…………じゃじゃん、いずみ」  
「あら、私が1位だとおもってたのに」  
「缶バッチ、いずみちゃんと何メールしてるのよっ!」  
「えーと」  
「お爺様への挨拶はいつしてくれるの? とか、婚約発表はどこでします? とか、  
入籍は神庭君の誕生日を迎えたらすぐ行きましょうね とか、  
式は神式、披露宴は洋式がいいかな? とか、はやく神庭泉になりたいな とか……」  
「嘘はやめてください嘘は!」  
「えぇ! 私との関係は遊びだったのねっ」  
「全然違うし! みんな信じてるし! ていうかいずみ先輩なら実力行使しそうだし!  
ホントはトレーニング方法とか勉強の質問とかそういうのです!」  
「……なんで私に聞かないの……一緒に住んでるのに……」  
 
いや、話しかけると美冬姉さん睨むじゃないですか……  
 
『恋する美冬ちゃんは幸宏と二人きりになると妄想でいろいろ大変なの』  
 
そこっ、小夏姉さん煽らない!  
そして美冬姉さんはフォーク投げるの禁止!  
小夏姉さんに勝てるわけないし!  
次行きましょ、次!  
 
「第3位…………どろどろどろ…………じゃじゃん、凪原さん」  
「「なんでナギナキなのよっ!」」  
 
九重先輩と三島さんてやっぱり似てるよなぁ……テンション高いし。  
似たタイプの3人目が出ないといいなぁ……疲れるし。  
 
「私は階段部のスケジュールとか、あとは……男の人が喜ぶこととか……」ぽっ  
「いや、井筒の趣味とか、どこへデート行ったらいいかとかそういう相談でしょ!!!」  
 
「へんたーい、へんたーい」のコールが店内に響き渡るが聞こえないことにする。  
美冬姉さん次!  
 
「第4位…………どろどろどろ…………じゃじゃん、九重さん」  
「階段部のことだけです。次」  
「なんでボケ殺しするのよっ! 私の出番これでおしまいなのにっ!」  
 
もう終わらせたいんです……わかってください……  
 
「残りは私と美冬さんだけのようね。まぁ私の勝ちはゆるぎないでしょうけど」  
 
これ、美冬姉さんが持ち込んだの忘れてるんだろうなぁ、御神楽さん。  
 
「最後は1位とビリを一緒に…………どろどろどろ…………じゃじゃん、  
1位私、ビリ御神楽さん。ちなみに御神楽さんはメール件数ゼロ」  
「なんで私がビリなのよっ! それにゼロって! 数え間違ってるんじゃないのっ!?」  
 
みんながかわいそうにと御神楽を生暖かい目で見てる。  
あーそれはですね……  
 
「もしかしてアドレス違うの!? 毎日あんなに送ってたのに!」  
 
御神楽がみんなにケータイのアドレス帳を見せる。  
なんで名前を「だーりん(はぁと」で登録してるんですか。  
嫌がらせですか。まだ選挙のこと怒ってるのかなぁ……  
 
「あれ? そのアドレスさっきもらったのと違うよ?  
ほら、こっちはflag_breaker@s0ftbank.c0.jpだけど、  
御神楽さんのはflag_breaker@yah00.c0.jpになってるし」  
「え? アドレス変わったっていうから変えたのに! なんで嘘教えたのよ!!!」  
 
いや、嘘教えたわけじゃないんです……  
 
「じゃあ何でなのよ……」  
「御神楽さんのメールめちゃくちゃ長いし! それにいっぱい送ってくるから!  
普通季節の挨拶から書く人いないですよ! それも毎日!  
10通に別れた1メールってありえないですって!  
すぐメールBOXパンクするからPCメールに変えてもらったんです!  
おまけにメールの後すぐに『メール届いたかしら?』って電話するじゃないですか!  
そこで内容の話するから意味無いし! どこの機械音痴ですか!」  
「だって手紙を書くときは挨拶から書くのは礼儀だし……  
神庭君が読んでくれたかどうか心配なんだもの……」  
 
あ、指先いじいじしてる御神楽さんちょっとかわいいかも。  
 
「わかりましたよ……元のアドレスに戻していいですから、  
もうちょっと簡潔に書いてください、フランクでいいですから。」  
「じゃあフランクにいっぱい書いてもいいのねっ!」  
 
いや、やめてください……  
 
「これで私の第1夫人は確定ね……」  
 
なんでメールが多いと第1夫人なんですか。  
それに美冬姉さんには言っておかなければならないことがあるんです。  
 
「美冬姉さん、いつか言おうと思ってたんだけど今言います。  
無意味なメールやめてください」  
 
そんなふうに睨みながら首傾げてもかわいくないですよ……  
 
「神庭君、美冬はどんなメール送ってくるの?」  
「『かゆ……うま……』とか、一緒に食事中なのにおかずの写メ付で『おかず、届いてる?』とか、  
僕が宿題やってる後ろに立って、『わたしミッフィー 今あなたの後ろにいるの』  
とか送りつけてくるんですよ! わけわかんないし、正直怖いですって!」  
 
あちこちから「それは愛ね」「愛だわ」なんて聞こえてくるんですけど……  
僕の常識間違ってますかね? 誰か助けて……そしてこの話はいつ終わるの……  
 
脱力してると小夏姉さんが僕に向かってホワイトボードを掲げた。  
 
『この話とかけまして』  
 
「この話とかけまして?」  
 
『美冬と初めてしちゃった後のベッドシーツを見た幸宏の一言ととく』  
 
「そのこころは?」  
 
『お、血がない』  
 
お、血がない お、血がない お、血がない……  
 
「美冬姉さんってもう体験済」ぐぼあっ!  
 
失われていく意識のなかで最後に見たのは  
美冬の鉄拳と  
小夏の『お、血がでた』の文字だった。  
 
終われ  
 
 

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