「別に責めているわけじゃないのよ、ゆーちゃん。でも、こんなに溜まってるなら、せめて妻である私に相談ぐらい……」
「するわけないでしょ!? 妻じゃないし!それから、『溜まってる』なんて生々しい言い方しないでよ!」
「でも、夫に夢精させるなんて、新妻としての立場が……」
「してないし! 新妻でもないし!! 言い方変えればいいわけじゃないでしょ!!!」
神庭家のリビングに幸宏の叫びがこだました。
希春は恥ずかしげに腰をくねらせ「もお、恥ずかしがりやなんだから」などと潤んだ瞳で幸宏を見つめている。
小夏も例によって無表情のまま幸宏を見ているし、「あの幸宏がねえ……」と、千秋がからかうようにニヤニヤと呟いたりもしている。
幸宏を見ていないのは美冬ぐらいで、はじめは同席すら嫌がっていたのだが、千秋に引きずられるようにリビングまで連行されてからは、
真っ赤になった顔をひたすら幸宏からそむけている。いつもの事とはいえ、流石にグサリときた。
年上とはいえ僅か一つ違い。しかも同居中で同じ学校に通う従弟の夢精(疑惑)が話題となれば、この反応の方が自然なのだろう。
4人の従姉はそれぞれソファーに腰を下ろし、幸宏一人だけがなぜだか囲まれるように、本来はそこに在るはずのテーブルまでどけて正座させられていた。
「やっぱ、問題はあれだよな〜」千秋が意地悪く目を細める。「エロ本一つ持ってない幸宏が、『何』をオカズにしたかってことだよな……」
「『オカズ』って何さ!? だから僕はそんなことしてないって!!」
「こんな美人姉妹に囲まれて生活してりゃ、エロ本もAV持ち込めない。そりゃ、手近かな誰かで済ますしかないよな……うん」
美冬の肩がビクッと震え、希春の目付きが真剣そのものに変わる。小夏の表情だけは相変わらず読めなかったが、千秋は明らかにこの場を楽しんでいる。
「そんなわけないでしょ!? 従姉だよ!家族をそんな目で見るわけないでしょ!!!」
「ひどいわ! ゆーちゃんは私を愛してないの!?」
「なんでそうなるの!?」
「正直に、誰で抜いたか言っちゃいなよ」
「私、私よね!?」
「いや、案外幸宏は貧乳好きかもよ? 春姉みたいなでっかいおっぱいには興味ないかも……」
「何ですって! 姉妹でも言っていいことと悪い事があるのよ!!」
『美人女教師と性徒』などと書かれたホワイトボードを振りかざし、小夏までもが火に油を注ぐ。
せ、セクハラだ……今、僕は絶対セクハラを受けている……。折れそうな心を奮い起し、すかな希望を求めてめぐらせた幸宏の視線が、
これ以上は限界というふうに顔を真っ赤にして、うっすらと涙まで浮かべる美冬の視線と重なる。
「み、美冬姉さん! 姉さんなら判ってくれるよね!? まさか、従姉を相手にそんないやらしい妄想なんて………」
あれ? もしかして僕なにか悪いこと言った?
見る間に美冬の視線込められた殺気が膨れ上がる。責めているのとも違う険しい視線を前に、幸宏は最後まで言えず萎縮してしまい……
「変態」
見事なまでに心をへし折られた。もお、おしまいだ。美冬姉さんにまで変態だと思われてるよ!!
「もお、ゆーちゃんまた浮気して!! はっ!? まさか、ゆーちゃんの妄想の相手は……」
「ツンデレかよ、幸宏もマニアックだよな」
『先輩はツンデレ従姉!?』
「だから、どうしてそうなるんだよ!! いい加減にしてよ!!!」
その日、四姉妹会議という名の幸宏いじりは延々夜中まで続いたという……