「幸宏、踊って……」
美冬のいつも幸宏を見る視線が少しだけ優しくなったように感じた。
「み、美冬姉さん。僕は先約が……」
「わたしとじゃいや?」
今にも泣き出しそうな顔をしている美冬にそれ以上は何もいえなかった。
美冬姉さん。なんかいつもと違ってやさしい?
そのまま見つめられてドキッとする。顔が真っ赤になって、行くのが自分でも分かる。
それに少しだけ抗おうとするが無理だった。
「で、でも……」
「お願い」
「わ、分かったよ。美冬姉さん」
美冬がそろそろと差し出した手をギュッと掴む。ビクッと振るえ、引いてしまいそうになる美冬をぐっと引き寄せた。
「きゃっ」
その勢いが強すぎて、そのまま腕の中に美冬が飛び込んでくる。小さな美冬の体を慌てて受け止めた。
見下ろすとリボンでしっかりと結ばれた美冬の髪の毛があり、その手はしっかりと制服を掴んでいた。
美冬姉さんってこんなに軽かったんだ。それになんか……。
そのまま抱きしめてしまいそうになる。だが、美冬にぐっと押され、互いの体が離れてしまった。
「変態……」
「ご、ごめんなさい。美冬姉さん」
慌てて謝った。
確かにちょっと変な気分になっちゃったし……。
殴られると思って、目もつぶっていたがいつまでたっても手のひらが飛んでくることはなかった。
目を開けると目の前には頬を真っ赤に染めながら、もう一度手を差し出している美冬がいた。
「今度はちゃんと踊って」
「う、うん」
さっきよりも優しく、しっかりと手を握る。今度はしっかりと美冬も握り返してくれた。
そのときの美冬は、少しだけ笑っているように見えた。