その日の会合が終わり、当に生徒全員が下校したはずの天栗浜高校生徒会室に、淫靡な水音が響く。  
 音の出所は、会議用テーブルの中央……すなわち、普段生徒会長が座っている椅子である。  
 大きな窓から夕暮れの光が差し込み、そこに座る誰かの姿をぼんやりと浮かび上がらせる。  
 肘掛に頬杖を突いたその少年は、不機嫌そうに目を細めて下を見下ろしていた。  
「御神楽さん、さ」  
 抑揚のない声に反応して、少年の眼前に跪いた少女が怯えたようにビクリと震える。  
「困るんだよね」  
 眼前、というのは正確ではないかもしれない。  
 少女が膝を突いているのは、少年が開いた股の下だ。  
 開かれたファスナーの間からそそり立つ彼の逸物を、必死に舌と手で愛撫しているのだ。  
 頬を紅潮させ、目に涙を浮かべたその少女の頭を、少年は無造作につかんでわずかに上向かせる。  
「君の派閥の子たち、いちいち反抗的でさ。ダメじゃないか、君がちゃんと抑えてくれないと」  
「ご、ごめんなさい」  
 少女が許しを請うように声を震わせる。  
 瑞々しい唇とたくましい男根の間に涎の端がかかり、夕陽を浴びて湿っぽい光を放った。  
 少年は唇を歪めて微笑み、小さく嘆息した。  
「まあ、いいけどね」  
 そう言って、少年は少女の頭から手を離し、軽く顎をしゃくった。  
「ほら、続けなよ」  
「はい」  
 少女はしおらしく頷き、再び少年の逸物に唇を寄せる。  
 この少年の名は神庭幸宏と言い、少女の名は御神楽あやめという。  
 表向きは、生徒会長と副生徒会長という立場である。  
「それにしても」  
 逸物の裏筋を丹念に舐め上げる御神楽の羞恥に歪んだ表情を眺めながら、幸宏は楽しそうに言った。  
「御神楽さん、自分の部下の管理もロクに出来ないくせに、こういうことは凄く得意だよね」  
「そ、それは、神庭君が」  
 反論しかけた御神楽は、顔を上げて息を呑んだ。  
「僕が、なに?」  
 幸宏がにっこりと笑いながら首を傾げる。御神楽が畏れるように目を伏せた。  
「か、神庭君が」  
「僕が、じゃないよね? こういうことが大好きなのは、御神楽さんだものね。  
だって、僕は頼んでないよ? 御神楽さんが是非ともやりたいって言うから、仕方なくやらせてあげてるんだよ。そうだよね?」  
 御神楽は顔を伏せて震えていたが、か細い声で呟くように答えた。  
「……はい……そう、です。わたしが、自分で……」  
「うん、さすが御神楽さん、物分りがいいね。でも、ダメだよ? 自分がいやらしいのを人のせいにしちゃ、さ」  
 幸宏はおもむろに立ち上がると、じっと御神楽を見下ろした。  
「これは、躾が必要かな?」  
「あ……」  
 躾、という言葉に反応して、御神楽の背筋が大きく戦慄いた。頬の赤みが深くなり、吐息がにわかに荒くなる。  
 床に膝を突いたままモジモジと身じろぎする彼女を見下ろして、幸宏は呆れたように首を振った。  
「やれやれ。本当にいやらしいね、御神楽さんは。これじゃ、盛りのついた雌犬と同じだよ。ねえ?」  
 幸宏が微笑みながら手を伸ばし、それこそ犬にしてやるように、御神楽の頭を軽く撫でる。  
 その瞳から、かすかに残っていた理性の色が急激に失われていく。  
 幸宏は唇の端を大きく吊り上げた。  
「さて。それじゃ、言ってごらん? 雌犬のあやめちゃんは、今から何をしてほしいのかな?」  
 何かを求めるように舌を突き出しながら、御神楽は悲鳴のような声を絞り出した。  
 
「そうです、わたし、いやらしい雌犬なんです。今日の会議中も、あなたにお仕置きされるところを想像して興奮してました!  
こんな風に、いつもエッチなことばっかり考えてるんです。お願いです、こんないけない雌犬に、お仕置きしてください!」  
 理性など欠片も感じられない御神楽の叫びに、幸宏は嘲り笑いを浮かべた。  
「御神楽さん、ずいぶん頭が悪くなっちゃったね。選挙のときとはまるで別人だよ、今の君は」  
「そんなことどうでもいいの。ねえ、早くこれ頂戴、ねえ、お願い」  
 懇願するような熱っぽい視線で目の前の逸物を見つめる御神楽に、幸宏はため息を吐いた。  
「分かった分かった。それじゃ御神楽さん、犬なら犬らしく、尻尾を振ってみせてよ」  
「はい」  
 御神楽はもどかしそうに体の向きを変え、幸宏に向けて小ぶりな尻を突き出す。彼は首を振った。  
「違う違う」  
「え? なにが……」  
「犬ならさ、もっと、犬らしくしなくちゃ」  
「犬らしく……あ……!」  
 御神楽の表情に浮かんだ困惑の色は、ほとんど一瞬で消えうせた。  
「わん、わん!」  
 夢中になって犬の鳴きまねをする御神楽を見て満足そうに頷き、幸宏は彼女の尻を両手でつかみ、ゆっくりと腰を近づけた。  
「よく出来ました。それじゃ、お望みどおりたっぷりとお仕置きしてあげるよ、御神楽さん」  
「あ……入ってくる……神庭君の……!」  
 御神楽は喜悦に満ちた嬌声を上げた。  
 
 
 
「ねえ、御神楽さん」  
「なに、神庭君」  
 事が終わったあと、神庭は雑巾で床を拭きながら首を傾げた。  
「僕はさ、元々こういうのには疎い方なんだけど」  
「ええ、そうでしょうね。それがどうしたの?」  
「御神楽さんは、こういうのが普通のやり方だって言ってたけど、どうも僕には信じられないんだよね」  
「あら、どういう意味?」  
「だって、どっちかと言うと御神楽さんの言ってるやり方の方がなんかおかしい感じが」  
「神庭君」  
 机に座って足を組んだ御神楽が、不機嫌そうに言った。  
「つまりあなたは、わたしのことを疑うわけね?」  
「いや、そういうわけじゃ」  
「こういうことに関してはわたしの方がずっと先輩なんだから、あなたはわたしに従っていればいいの。  
いい、あくまでもこれが正式なやり方なんであって、わたしが好きでやってるわけじゃないのよ?  
そこのところ、勘違いしてもらっちゃ困るんだから」  
「……いくらなんでも無理があると思うんだけど」  
 幸宏がぼそりと言うと、御神楽からきつい視線が飛んできた。  
「なにか言った?」  
「いや、なんでもないよ」  
「そう。じゃ、明日もよろしくね」  
 あっさりと言う。幸宏は悲鳴を上げた。  
「えぇ!? 明日もやるの、こんなの!?」  
「なに。わたしが相手じゃ不満だって言うの?」  
「いや、そうじゃないけど」  
「だったらいいじゃない。いい、ちゃんとわたしを満足させられるように、少しでも我慢して溜め込んでおくこと。  
自慰しないのは当たり前だけど、他の人とこういうことするのも絶対ダメよ?」  
 御神楽が念を押すように言うと、幸宏は顔を真っ赤にして反論した。  
「他の人となんて出来るわけないじゃないか! 大体、相手がいないよ」  
「あらそう? 四人の従姉妹と同棲してるって聞いてるけど?」  
「それはそうだけど、そういうんじゃないよ、あの人たちは」  
「そう。じゃあ何の問題もないわね。それじゃ、明日もよろしくね、神庭君」  
 にっこり笑う御神楽に、幸宏は結局何も言えずじまいだった。  
 
 

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