視線を感じて振り返ると、やっぱり彼がそこにいた。  
あ…やば。見られた。  
「あ、あの一哉く…」  
先に口を開いたあたしの言葉を封じるように、  
「コーヒー。部屋まで。5分以内」  
そりゃいつも端的な物言いをする人だけど、ここまで素っ気ない時はそうそうない。  
──あああ、やっぱり怒ってるよ…。  
とか思ってる間に、本人はくるりと背を向けてさっさといなくなってしまった。  
「あ〜あ、彼氏のご機嫌損ねちゃったみたいだね〜。どうする? 鈴原さん」  
何がそんなに楽しいのか、くすくす笑い続ける瀬伊くんを背中に張り付けたまま、  
あたしは肩を落とした。  
キッチンでコーヒーを淹れながら、思わず溜息が出てしまう。  
何につけてもとにかくパーフェクトなあたしの彼氏は、一見クールな外面とは裏腹に  
かなりのヤキモチ焼きなのだ。  
それはもちろん、あたしを想ってくれていることの裏返しだから、嬉しくないわけじゃない。  
けど、ちょっと他の人と親しげに話してるだけで仏頂面になるのはどうかと思う。  
特に厳しいのが、同居人たちとのスキンシップ。  
でも、同じ家に暮らしてるんだもん、ほとんど家族みたいなもんだと思うんだけどなー。  
やたらひっついてくるのは約1名だけだし。  
だいたい、さっきのことだってあたしは全然悪くない。  
洗い物をしてたら、瀬伊くんがいつのまにやら背後に忍び寄ってきていて、いきなり  
羽交い締めしてきたのだ。  
「それなのにあの態度! もー一哉くんのバカ!」  
あたしは割烹着を乱暴に脱ぎ捨てながら、叫んだ。  
 
一哉くんの部屋の前で深呼吸をひとつ。  
覚悟を決めると、あたしはドアをノックした。  
扉を開けると、彼は携帯電話で話し中だった。  
「ああ、それで構わない。そうだな、明日午後の会議には間に合うだろう」  
抑揚のない声を聞きながら、デスクにコーヒーをそっと置く。  
お仕事中の彼の声はこんなふうに甘さのカケラもなくて、厳しさしか感じさせない。  
でも、あたしと2人だけの時は全然違って…  
吐息混じりというより、吐息そのもののような。  
鼓膜を直接舐めあげられているようでぞくぞくする、声。  
優しく、切なげに名前を呼ばれるだけで、達しそうになってしまう。  
…って、何考えてんのよ、あたし!  
トリップしそうになった頭をあわててぶんぶん振る。  
と、いつの間にか電話を終えた一哉くんが、ニヤニヤと面白そうに見ていた。  
「まったく飽きないな、おまえは」  
「…どーいう意味よ」  
「見てて面白い…観察し甲斐があると言ったんだ」  
「どうせバカですよ! 何よ、人のこと暇つぶしのオモチャみたいに」  
「オモチャだって?」  
彼はいかにも心外だという顔をした。そして、不意にあたしの腕を取る。  
「何……わわっ」  
ぐい、と強く引き寄せられて、そのまま彼の膝の上に抱え込まれてしまった。  
 
「バーカ。…そんなわけないだろ」  
耳元に、熱い息。  
あ…ほら、この声だ。あたしがどうしても逆らえない、甘い甘いトーンの声。  
なんてうっとりしたのも束の間。  
「ところで、さっきは一宮とずいぶん楽しそうだったな」  
また取り調べの刑事みたいにシビアな口調に戻っちゃった。  
「…う」  
思わず言葉につまって目を白黒させるあたし。  
「まさか忘れたわけじゃないだろうが、念のために聞いておこう。俺は、おまえの何だ?  
…言ってみろよ」  
…ほら、来た。  
こうやって、あたしから言わせようとするんだ。  
これが彼なりの甘え方だってことは、つき合うようになってからわかってきたけど。  
わかってても、照れるのはどうしようもない。仕方ないからそっぽを向いて、  
「雇い主で…ご主人様、でしょ。……いったー! 何すんのよ!」  
せいいっぱいの抵抗を試みたものの、あっさり一蹴されておでこを弾かれた。  
「その前に、あるだろう」  
「う……かれ、し?」  
「そうそう。…よくできました」  
こんなことで嬉しそうな顔してるの見ると、なんだかカワイイと思ってしまう。  
「だいたい、おまえは隙が多すぎる」  
「スキって何よ、あたしのどこが…」  
「あるだろ。だから一宮なんかにつけ込まれるんだ。それに、その服装も悪い」  
「はあ? 服装?」  
そりゃ今はキャミにミニスカートだけど、それは一哉くんの前だからで、いつもは割烹着着てるのに。  
「羽倉の言うことにも一理あるかもな…」  
「え? なんで麻生くんが出て…ひゃっ!?」  
裸の肩にキスされて、思わず変な声をあげてしまった。  
 
「な、な、なんで突然そんなとこに、キ、キス、なんて…」  
するのよ、と口の中でもごもご呟く。  
「おまえがそんな格好してるからだ、馬鹿」  
肩先から鎖骨のくぼみまで、ゆるゆると彼の唇がたどってゆく。  
「んっ…」  
くすぐったくて、でもそれだけじゃない甘い疼きに思わず身じろぎしてしまう。  
「あ…あたしのせいなの?」  
「そうだ」  
………っ! 唇つけたまましゃべらないでよ! 息が…  
ぴくん、と身を震わせると、また嬉しそうに含み笑い。  
「おまえ、ここ弱いよな」  
そんなことを言いながら首筋を舐め上げてくる。次の行為を予想して、あたしは慌てた。  
「ちょ、ちょっと待ってダメ! そんなとこ痕つけちゃ!」  
とたんに動きが止まる。図星だったみたい。むっとしたように人の顔見上げてくるけど…  
負けるもんか、後で困るのはあたしなんだから。  
しばらく無言で睨み合う。と、仕方ない、というように溜息をつかれた。  
「わかったよ…。なら」  
急に彼の頭が下へ移動したと思ったら…  
「ひゃあ!」  
胸の谷間を強く吸い上げられた。ぎゃ、いつの間にかキャミのボタンがほとんど外されてる!   
うう、前あきの服なんか着てくるんじゃなかった…。  
「…ここならいいだろ」  
今度は悪戯っぽく見上げてきた。  
 
「い、いいだろって…」  
よかない…ような気がする。ひしひしと。  
「あ、あたし、まだ仕事中なんですけど!」  
逃げ腰になるその腰を押さえ込まれて、ますます身動きが取れなくなる。  
「今日はもういい。それより…」  
「ふぁ…」  
唇と鼻先でブラをずらされて、胸のふくらみに何度もキスされた。  
恥ずかしさと気持ちよさがないまぜになって、思わずギュッと目を瞑る。  
と、肌を這う唇や舌、腰から背中を撫で上げる指先の感触がもっとはっきり感じられて、  
ますますいたたまれなくなった。  
「…あっ? やっ…!」  
ひときわ敏感な、淡く色づいた部分に舌先がたどりついて、  
──思わず、瞑っていた目を開いてしまった。  
そこは、まだかろうじて隠されてる。  
けど、布地と肌の間に舌をねじこむように舐められて、そのじれったい動きに声が止まらない。  
と、かすかな音がして、急に胸元が楽になった。あ…ホック、外されちゃったんだ。  
剥き出しになった自分の胸が目に入ってしまって、カッと全身が火照る。  
やだ…こんな明るいところで見られてるなんて。  
「もう、すっかりその気じゃないか」  
「なっ…! あっ!?」  
固く立ち上がりかけた胸の先に軽くキスをされ、身をすくませる。  
と、一瞬後にはそこを強く吸い上げられた。  
「はぁっ…」  
もう片方の胸も、大きな手でやわやわと揉みしだかれる。  
「んんっ…ふっ…」  
一哉くんの口の中で、熱く湿った舌に舐められ、つつかれ、甘噛みされて…  
解放された時には、そこはすっかり尖りきって濡れ光っていた。  
 
すっかり息の上がってしまったあたしが、ようやく一息つけるとホッとしたのも束の間。  
緩く開いた膝の間から、スカートの中に手が侵入してきた。内股をくすぐりながら、  
だんだんと奥の方に伸びてくる。  
「あ…ダメ…」  
なんとか膝を閉じようとするけど、力が入らない。  
「ダメじゃないだろ?」  
とうとう、一番恥ずかしいところまでたどりついた指が、す、とそこを撫でる。  
とたんに電流のような甘い刺激が背筋を走り抜けた。  
「あぁっ…!」  
自分でも驚くほど甘く高い声。思わず口元を手で覆うけど、声が…止められない。  
「濡れてるな…」  
「やっ、もうっ…そういう、こと言わないでっ、て…」  
「うん?」  
吐息のような甘い声を耳元で吹き込まれ、おまけに耳朶を舐められて、  
ますます身体の中心が疼いてしまう。  
下着の上から軽く爪を立ててひっかくようにされただけで、気が遠くなってくる。  
「邪魔だな、これは」  
そんなつぶやきが聞こえたかと思ったら、片手で器用に下着を脱がされてしまった。  
まったくもー、なんでこんな時だけ器用なのよ!  
茂みを撫で上げる指の感触に、またじわりと何かがあふれ出す。  
 
指が動く度に濡れた音が聞こえて…どうしようもなく恥ずかしい。  
耳をふさぎたいけど、身体中痺れて動けない。  
吐息混じりのあたしの声だけが部屋に響きわたって…  
敏感な突起を探り当てられて優しく弄られ、びくんと腰が跳ねた。  
「ひぁっ…やぁっ…」  
もう、声もなく喘ぐことしかできない。  
なのに、容赦のない指は襞をかきわけ、もっと奥へ入ってこようとする。  
「や…待って、待って…一哉く、ん…」  
「ダメだ。これはお仕置きだからな」  
おしおき…?  
だいたい、なんでこんなことになったんだっけ…?  
ダメ、何も考えられない…けど、なんかこのまま流されちゃいけない気がする…。  
そうだよ、だって、まだ…  
「きゃぅっ」  
長い指で中をかきまわされて、悲鳴のような声が出てしまう。  
「すごいな…いつもより溢れてるぜ」  
「んんっ、や……かずや、くん…」  
と、急に彼の動きが止まった。  
どうしたんだろう、と顔を見上げた。と、眉根を寄せ、驚いたように目を見張っている。  
彼のそんな表情は珍しくて、あたしもまたぽかんと見つめて返してしまう。  
「おまえ……なに、泣いてるんだよ」  
「え?」  
 
言われて、初めて気づいた。いつの間にか、頬が濡れてる…涙? あたし、泣いて…?  
自分でもわけがわからない。確かに、その、気持ちよかったけど…今までこんなこと…  
「あ、でも…」  
そういえば、と直前に頭に浮かんだことを思い出す。  
「なんだ、言ってみろ」  
焦れたように一哉くんが言う。う…言いにくい。またバカにされそう。  
「……ス、してない…」  
「なに?」  
「だから、キス!」  
あたしはやけになって怒鳴った。  
「…は?」  
「ちゃんとしたキス、してないでしょ。なのに…一哉くんてば、どんどん先に進んじゃうから…」  
そう、なんだか切なかったのは、そのせい。  
だって、いつもはお風呂に入って電気を消して、キスしてからベッドの中で抱き合うのに…  
「そんなこと、なのか?」  
案の定、呆然としたように一哉くんがつぶやく。  
「…悪かったね、そんなことで」  
頬を膨らませて言い返すと、彼は長い長い溜息をついた。  
「まったく…」  
「な、なによ」  
眉をしかめたままの顔が近づいてきた、と思ったら目尻にキスを一つ落とされる。  
そのまま、涙のあとをたどるように頬へと動いていく。  
優しい唇の感触に思わずうっとりしていると、まっすぐにあたしの目をのぞき込んで  
「…あまり、俺の寿命が縮むような真似しないでくれ。おまえに泣かれると…本当に、参る」  
彼にしては本当に珍しい、ちょっとだけ情けない…でも、すごく優しい笑顔。  
きっと、こんな顔見られるのはあたしだけ。  
そう思ったらなんだかたまらなくなって、引き寄せられるように自分からキスをした。  
 
「おまえ…」  
こんなにびっくりした顔も、相当に珍しい。ちょっと得した気分になる。  
でも…頬がすごく熱い。きっと今、あたし真っ赤になってるんだろうな…。  
「し…したくなったんだもん。悪い?」  
と、彼の目元が優しく和んだ。  
「悪いわけないだろ。大歓迎だ。…もっと、しろよ」  
「なっ…もっとって…」  
不意打ちならともかく、改まってなんてできるわけがない。  
色っぽく見つめてくる彼の視線に耐えきれずにうつむくと、顎に手をかけられた。  
「仕方ないな。それならご所望通り俺からしてやるか…」  
そのまま顔を仰向けられ、唇をふさがれた。ついばむように下唇を愛撫されて、  
「は…」  
溜息のような声を漏らしたとたん、素早く舌が忍び込んでくる。  
「んっ…」  
絶え間なくもれる吐息ごと絡め取るような勢いで、口中を隈無く愛撫された。  
長い長いキスに、頭の芯がぼうっと甘く痺れてくる。  
お互いの唾液がたまったのか、恥ずかしいほどに濡れた音が耳に響いた。  
その間も一哉くんの手は脇腹を撫で上げたり、うなじをくすぐったりと悪戯な動きを  
止めない。  
「ふっ、んんっ…」  
あたしはただぴくぴくと身を震わせることしかできなくて…  
閉じたまぶたの裏でまた瞳が潤んできた。  
ようやく満足したかのように唇が離れて、呼吸が自由になる。  
「で…続き、いいか? さすがにそろそろ辛くなってきたんだが…」  
「…え…? きゃあっ!?」  
 
な、なんか固いのが太股にあたってる〜〜!   
で、でもそうだよね、あの状態でお預けくわせてたんだから…。  
「なんならベッドに行ってもいいが…」  
あたしを気遣うように言う彼が無性に愛しくて。  
「ううん…いいよ、このまま…ここで」  
「そうか。…ちょっと待て。確か、ここに…」  
そう言うと、デスクの引き出しから何かを取り出した。  
これって…コ、コンドー…!  
「一哉くんてば…そんなとこにそんなもの入れて…なんでそんなに用意がいいわけ?  
なんか、ヤラシイ」  
「馬鹿、これはたまたまだ。以前、松川さんが…」  
「伊織くんが?」  
思わず好奇心剥き出しに聞いたのがいけなかったのか、みるみる不機嫌そうな顔になる。  
「…どうでもいいだろ、今は」  
ぶっきらぼうに言いながら、固く大きくなったものに手早くソレを装着していく。  
どんな顔してればいいのかわからなくて、あたしは視線をあさっての方向に泳がせた。  
だって。あ、あんまりジロジロ見るもんじゃないよね…こういうのって。  
「おい、もういいぜ。こっち向けよ」  
 
「あ、あの、でも…その、どうすればいいの…?」  
「俺の膝またいで…腰、浮かせてみろよ」  
言われた通りにすると、一哉くんと正面から向き合うことになった。  
うわ…これ、メチャクチャ恥ずかしいんですけど…。  
「そのまま、腰落としていってみろ」  
一哉くんの肩に手をかけ、ゆっくりと腰を降ろしていくと…。  
「あっ…」  
「わかるか?」  
固い先端が当たって…濡れた入り口をなぞられた。  
「や…もう、エッチ…」  
腰が砕けそうになるのを必死にこらえる。  
「我慢しなくていい。…来いよ」  
「だっ…て…怖い…」  
こんな体勢、初めてなんだもん。  
「大丈夫だ…そのまま、ゆっくり…」  
一哉くんの声に導かれて、さらに、そろそろと腰を沈めていくと──  
狭い入り口に、熱い塊が分け入ってきた。  
「ふぁっ…あ、あっ…」  
声を抑えられない。  
まだ浅く入っているだけなのに、内襞を擦られる感覚に腰が疼いてしまう。  
「くっ…やっぱり、きつい、な…」  
一哉くんも、ちょっと辛そうに眉をひそめてる。  
「痛くないか?」  
黙って首を横に振る。痛くは、ない…けど、苦しくて…切ない。  
「そうか、なら…」  
突然、尖った胸の先をきゅっと捻られた。  
 
「やっ…ダメっ…」  
鋭い快感に、強張っていた身体が一気に崩れ落ちた。  
「あぁぁんっ…!」  
奥まで貫かれて、あまりの快感に眩暈がする…。  
一哉くんの膝に腰を下ろしたまま、もがくように彼の肩をシャツ越しにギュッと掴む。  
ちらっと、こんなに掴んだら痛いかも、と考えたけど…。  
こうでもしないと、あたしの方が強烈な疼きに耐えられそうもなかった。  
「もっ…ひどっ…こんな……」  
泣きそうになりながら、彼の顔を睨む。  
と、さっきの優しい表情が嘘みたいな、なんとも人の悪い笑顔がそこにあって。  
「なんだよ。また泣くのか? でも、今度は止めてやれねぇからな」  
「……いじわる…っ!」  
「もっと俺の方に体重かけていいぜ、ほら」  
ぽんぽん、と宥めるように背中を軽く叩かれて、あたしは彼にもたれかかった。  
細身だけど、ほどよく筋肉のついた広い胸板。  
一哉くんの胸の中は、やっぱりすごく安心する…。  
あ…心臓の音。きっと、ドキドキうるさいあたしの音も聞こえちゃってる。  
しばらく彼はそのまま背中を撫でてくれて…でもやがて、焦れたように囁いた。  
「落ち着いたか? …そろそろ動くぞ」  
「え、ちょっ、待って…あぁんっ…」  
軽く揺すり上げられて、その振動だけで達してしまいそうになる。  
だって、こんな…いつもと全然違う…!  
体重をかけている分、一哉くんの熱いものが奥まで届いて…。  
思いもかけない敏感な部分を擦られるたび、甘い悲鳴をあげてしまう。  
 
「もっと聞かせろよ、声」  
耳元でそんなことを囁かれると、アマノジャクなあたしは意地になる。  
唇を噛んで、むずがるように首を振ったら…それが、いけなかったみたい。  
もっとアマノジャクな彼を刺激してしまった、と気づいた時にはもう遅くて。  
最初はあたしに合わせるようにゆっくりと動いてくれていたのに、  
急に堰を切ったように激しく突き上げられて…  
「やっ…こんなっ…くっ、んっ…」  
振り落とされそうで怖くなり、必死にしがみつく。  
「あっ…あっ、ああんっ、やぁっ…!  
もう聞こえるのは自分の喘ぎ声と彼の息づかい、抜き差しする時の恥ずかしい水音と、  
それに椅子の軋む音だけ。  
首筋にひっきりなしに口づけられながら、どんどんあたしは追いつめられていった。  
息をするのがやっとなくらいで苦しいのに…なのに、気持ちよくて…  
…もう、おかしくなりそう。  
霞む視界の片隅に、一哉くんの顔が映った。  
余裕のないその表情に、胸がきゅうっと切なく疼く。  
首に手をまわしてギュッと抱きつくと、 汗の光るこめかみに唇を押しつけて囁いた。  
「かずやくん…すき…だいすき…」  
すると、あたしの中にいる彼自身がまたちょっと大きくなり…思わず息を呑む。  
「あっ…はぁっ…! もう、ダメかずやく…、イきそ…!」  
「ああ、俺もだ…むぎ、一緒にっ…」  
思い切り腰を両手で引き寄せられ、ひときわ深く突き入れられて。  
「…ああぁあんっ!」  
昇りつめたあたしは、そのまま意識を手放した…。  
 
優しく髪を撫でる手の感覚に、まぶたを開く。  
「…大丈夫か? ちょっと無理させたな…悪い」  
微笑まれて、あたしも笑い返す。  
「ううん、平気。でもさ…」  
「うん?」  
「なんで今日はこんな…いきなりだったの?」  
と聞くと、またしてもピシっとおでこを弾かれた。今日、もう2度目だよ!?  
「なによ〜〜!」  
「つくづく鳥頭だなおまえは」  
「とり…?」  
「馬鹿だと言ったんだ。…おまえが一宮にちょっかいかけられたりしたのが、  
そもそもの発端だろうが。もう忘れたのか?」  
「あ…あ〜、そんなことも、あった、ような…」  
本気で忘れかけてたよ…。  
あはは、と誤魔化し笑いするあたしに、彼は呆れた表情。  
「ったく、おまえは…」  
またおでこの方に手が伸びてくる。  
来るか、3度目!?と身構えていると、前髪をかきあげられた。  
そして、降ってきたのは優しいキス。  
「どうしようもなく馬鹿で…可愛いよ」  
不意をつかれて、あたしは口をぱくぱくさせた。  
顔から火が出たんじゃないかと思うほど、熱い。  
もー、なんでそんな恥ずかしいこと言えちゃうのよ…!  
何も言い返せずに、ぽかぽか彼の胸を叩く。  
ヤキモチやきで意地悪で、アメとムチの使い分けがうまいご主人様の優しいお仕置きは、  
こうして幕を閉じたのだった。  
 
                  ─end─  
 
 

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