初めて会った時は、粗雑で頭の悪そうな小娘としか思えなかった。  
初対面の人間を見るにしては、いやに必死すぎる眼差し。単なる気まぐれで拾った女。  
その女が、いま自分の身体の下で喘いでいる。  
むぎとふたりきりで迎える初めての冬が、すぐそこまで来ていた。  
 
 
「…ち、ちょっ……何やってんの一哉くん!?」  
キッチンで片付けをしていたむぎは、赤面しながら振り向いた。  
シンクを磨くたびに揺れる腰がなんとも悩ましかったので、背後から  
ほんの少しちょっかいを出しただけなのだが。  
 
「そんなに怒るな。ほら、手がお留守だぞ」  
「誰のせいだと思ってんの!ったくこのエロ社長〜〜〜」  
そこから先は言わせなかった。  
やや強引に抱き寄せて、むぎの下唇を軽くついばみながら様子を伺う。  
「やっ……!」  
泡の残る手で胸元を押し返してきたので、こちらも一気に深くくちづけた。  
 
一瞬ひるんだむぎの歯列を舌で割り、存分に舐め回す。  
キッチン内に、くちゅくちゅと淫らなくちづけの音が響いた。  
腕の中に閉じこめたむぎの身体が、じわり熱を帯びてくる。  
つい先程まで空しい抵抗を続けていた手は、俺のシャツの胸元を固く  
握り締めていた。  
 
「んっ……ふ…」  
苦しそうに息を継ぐむぎから不意に顔を離すと、お互いの唇から  
唾液の細い糸が引いて消える。  
力の抜けた身体を抱き上げてリビングへ入った直後、一応訊いてみた。  
「ここじゃ嫌か?」  
「…どうせイヤだって言ってもするんでしょ」  
予想通りの拗ねた答えに、思わず苦笑する。  
 
事件が一段落して数ヶ月、その間ふたりで何度も肌を合わせた。  
あいつも最近ようやく慣れたようだが、まだ行為を楽しむほどの余裕はないらしい。  
ソファに身体を下ろされた後も、むぎは俺のシャツを握り締めたまま  
離そうとしなかった。  
 
そんなかたくなな手の甲をそっと指でなぞりながら、耳元でつぶやいてみる。  
「…まだ怖いか?」  
むぎは一瞬ハッとしたように俺の目を見ると、ようやく手を緩めながら答えた。  
「そんなことないよ」  
ソファに横たわったまま割烹着の結び目をほどくと、むぎは俺に向かって  
袖を抜いてとばかりに両手を突き出した。  
両袖を引っぱって脱がせた割烹着は、まるで何かの抜け殻のようだ。  
 
そのままカーディガンとブラウスのボタンを外し、キャミソールとブラを胸元まで  
たくし上げた。  
紅潮した頬や耳に軽いキスをくり返し、窮屈そうな乳房を少し手荒に揉みしだく。  
先端の尖りを親指の腹でこねるように転がすと、濡れた唇から熱い吐息が洩れた。  
 
「…んっ……あ…ぁ」  
硬さを増した乳首を口に含み、舐め回し、甘く噛んでは、舌で転がす。  
口の中の甘く愛らしい感触を、延々と弄りつづけた。  
わざと音をたてて強く吸い上げると、その瞬間、むぎの身体がびくりと跳ねた。  
 
白く密な肌が全体的に上気して、ほんのり紅く染まっている。  
やがて、荒い吐息に切ない声が混じりはじめた。  
「…ずや、くん……一哉…くっ、ああっ」  
 
胸や腹を舌と唇で攻めながら、空いた片手をミニスカートの中へすべり込ませる。  
さっきまで固く閉じられていた両脚は、汗ばんでゆるく開いていた。  
じわり湿った内腿を、掌でタイツ越しにじっくり揉み上げる。  
と、不意に淫らな匂いが鼻先をかすめた。  
 
導かれるように手を下着の奥へ差し込むと、柔らかで弾力のある狭間は  
すでに濡れている。  
ぬめりに任せて秘裂を軽くなぞるうち、指先にほんの小さな尖りを探し当てた。  
指の腹でゆるく弄りつづけるうち、その尖りはこりこりと手応えを増していった。  
 
「いやっ!…っは…あっああっ、っん!やぁあっ」  
その瞬間、嬌声がリビングにひときわ高く響き、むぎの腰が小刻みに震えたかと思うと  
秘裂の奥から新たな蜜がトロリと溢れだした。  
 
「まだ何も挿れてないぜ?……いやらしいな、お前のここ」  
卑猥な言葉を口の端にのせてはみたものの、身体の下でただ喘ぐばかりの恋人に、  
果たしてどれだけ届いたものか。  
わずかに表情をうかがうと、まともに目が合った。  
「……かずや、くん……」  
荒い息を継ぎながら、むぎは潤みきった目で俺の顔をぼんやりと見ている。  
普段の生活からは想像も出来ないその表情に、まるで見知らぬ女を犯している  
心地がした。  
 
「脱がせてくれ」  
俺の声を聞いたむぎが、ようやく身体を起こしてベルトを外しにかかる。  
さらに、ジッパーを降ろしているむぎの頭を、張り詰めた股間に押し付けてみた。  
「んんっ」  
始めは抵抗するように顔を振っていたが、やがて下着越しにおずおずと唇を這わせてきた。  
熱く湿った吐息と拙い動きが、ひどく心地良い。  
俺の先走りとむぎの唾液が、下着を生々しく汚していた。  
 
いったん身体を離して、焦れるむぎの身体をソファの片隅に安定させる。  
濡れた下着をタイツごと脱がせて、汗ばんだ膝の裏をぐいと抱え上げた。  
リビングの明かりの下、どこか幼さの残る性器が淫らに俺を待ち構えている。  
 
本当はもう少し弄りたかったが、もはやその余裕がない。  
怒張した先端を軽くあてがい、目的の場所を探り当て、一気に腰を進めた。  
 
「ああんっ…!はっ、っ…んっ、やあぁっ…」  
声が切なさを増し、突き上げるたび、じゅぷっじゅぷっ、と淫猥な音が室内に響いた。  
蜜でぬるんだ肉襞が、うずめた棹をやわらかく甘噛みするように締め上げてくる。  
そのたまらない感触に、こちらも思わず呻いた。  
「く…っ」  
何とかこらえながらむぎの片脚を自分の肩に担ぎ上げ、いっそう深く交わる。  
奥に届く感触の変化に、むぎはぎこちない腰使いで応じてきた。  
腰を打ち付ける音とお互いの吐息、そして生々しい匂いがあたりに満ちていく。  
 
不安定な姿勢での交わりは、さほど長く続かなかった。  
ほどなく、俺を根元まで咥え込んだむぎの肉襞が、ひくひくと震えた。  
「はあっ、あ…っん…ああっ、あっ…っああぁーーっ!…」  
長く尾を引く甘い声を聴きながら、俺もむぎの淫らな腰に身体を預ける。  
ありったけの精を流し込み、脱力したままむぎの上に覆い被さった。  
 
疲れ果てた俺の顔に、むぎは笑いながら悪戯っぽいキスをくり返す。  
ご褒美のつもりか?  
そう言いたかったのだが、自分の口から出てくるのは荒い吐息ばかりだった。  
 
事が済んだ後も、俺たちはソファの上で呑気にじゃれ合っていた。  
そんな中、ふと窓の外を見ると……初雪だ。  
大粒の雨雪が、ぽたりぽたりと降っている。  
 
すると、突然むぎが飛び起きた。  
「あーーーーっっっ!?」  
……人の耳元で叫ぶな。この馬鹿。  
「だっだだっだってだって、閉まってないよ!カーテン」  
確かに開いている。全開と言ってもいい。  
「お…お隣さんのベランダから、この部屋けっこう丸見えだと思うんですけど!」  
詮索好きな隣の老婦人に説明の手間が省けて、実に結構じゃないか。  
 
「…ひょっとして始めから気付いてたの!?この露出狂!ヘンタイ!エロ将軍!」  
どうやら俺は社長から将軍に昇格したらしい。良い事だ。  
「ひとりでニヤニヤしちゃって〜〜〜最低!この△△!◎◎◎!■■■■ー!!」  
ついに放送禁止用語が飛び出した。危険だ。  
 
素早くあたりを見回すと、下着や割烹着といったむぎの抜け殻の他に……あった。  
クッションと携帯、小ぶりの花瓶、買い出し専用の財布に、テレビのリモコン。  
敵はすでにリモコンを手にしている。  
おそらくそいつを俺の顔面にブチ当てる気だ。  
 
こちらも染みだらけの下着に自分の一物を詰め込み、ツィードのパンツを穿きなおす。  
これで逃亡準備完了。  
と、さっそくリモコンが眼前をかすめていった。  
クッションを盾にリビングを逃げ回る。  
濡れた下着の感触は最低だが、なぜか笑いが止まらない。  
 
そんな俺たちの馬鹿騒ぎをよそに、初雪は淡々とあたりの景色を白く染めていった。  
 
--- End ---  
 
 

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