「もう……嫌……っ」
躯の内部を這いずり回る指先に、薄く開かれた唇から、細い拒絶の言葉が迸った。
いいように蹂躙する男の肩に掛けられた手がきつく爪を立て、日に焼けた肌に血を滲ませる。
しかし、痛みはあるだろうに男は眉一つ動かさず、結局彼女を苛む愛撫に、一層の激しさが
増しただけだった。
何をどうやっても、逃げられない。
その事実を突きつけられて、潤んだ瞳に涙が浮かぶ。
部屋を満たす忙しない自分の息は、耳を塞いでも聞こえてきそうだった。
それぐらい―――もう長い時間、相手に追い詰められている。
「あ……っや……」
「少し、大人しくしていなさい」
本気で抗うことなど許されていないが、啼きそうになりながら首を何度も振って、儚くも虚
しい抵抗を繰り返す。
けれど、それすら苛む男の耳には、心地よい嬌声にしか聞こえないらしい。
過剰な抵抗はさすがに興醒めになるが、ある程度の拒絶は、かえって男の征服欲を煽るよう
だった。
逃げようと腰を捩るのも、見ようによっては、誘っているとも取れる。
本人に自覚はないだろうが、それは確かに媚態と呼ばれる種類の仕草だ。
「もう、欲しくて仕方がないんだろう?」
「―――や、そんなこと、な……っ…」
「ここは、そうは言ってないみたいだけどね?」
くつくつと喉の奥で低い笑いを漏らした依織は、散々内壁を嬲っていた指先を乱暴に引き抜
くと、引き攣るように悶えていた下肢を力ずくで押し開いた。
濡れた秘部に怒張した雄を感じて、細い躯が怯えたように竦み上がる。
「あ――や、やだっ………」
「力を抜いていなさい――むぎ」
甘い声で名前を呼ばれて、押し退けようとシャツを掴んでいた指先から、自然と力が抜けた。
結局、何があってもこの声に呼ばれてしまえば、おしまいなのだ。
羞恥による抵抗も、何もかも、無駄なことでしかない。
その耳朶をやんわり噛みながら、依織は更に追い討ちをかけるよう、残酷なほど優しく彼女
の耳元で囁いた。
「君は、俺のものなんだから……ねぇ、むぎ」
依織の言葉は鎖のように、むぎのことを呪縛する。
それが、例え支配者然とした、傲慢な口調であっても。
――――むぎはされるがまま大人しく、その躯を残酷な独裁者の前に開いた。
拒絶することは、許されない。
何より彼が、そんなことを許すはずがない。
獣の笑みを残して、依織の力強い躯が、むぎの上に圧し掛かってくる。
むぎにとっては辛く、そして甘い責め苦が、ゆっくりと始まろうとしていた―――。