感情を溜めて吐き出す場所もなかった私にとって春は大きな存在だった。
自分の事を言わなくても察してくれる人なんて初めてで、今でも心からの「愛してる」を聞かされた時は涙腺が緩みそうになる。
今日もキスだけでは止まれそうにない。
あんなに人を傷つけてきた言葉が出てきた、こんなに汚い唇と舌に、優しさで満ちた唇と舌とで触れてくれる。
温かく柔らかくて、触れた所から浄化されるようだった。
「・・・っう・・・っは・・・春・・・」
その感情は一言で言うと、「愛しい」だけれども、でもそんな言葉一つでくくる程単純なものでもなくて、言葉を持たない無知な私はただ彼の名前を零れる吐息と共に、溜息をつくように言うだけしかできない。
それが苦しくて苦しくて仕方がなかった。
伝えたいものは沢山あるのに。
プライドが邪魔をする。
今更「愛してる」とか「大好き」とか面と向かって話せるわけがない。
いっそ理性も感情も、春が飛ばしてくれたらいいのに。
ぐちゃぐちゃにしてそこら辺に捨ててある見向きもされない紙屑みたいに私の感情全部取り払ってよ。
「リンっ?・・・」
くちゃくちゃとチューインガムを噛んでいる音と舌と舌が絡まる音って似てるなあ、とどうでもいい事を酸欠になった頭で考えた。
自分から深く口付けをしたら彼は驚いたみたいで私の名前だけを呼んでくれた。
そういう事がどうしようもなく嬉しくて、また深く舌を入れる。
顎に涎が伝っても気にならないくらいキスに熱中していた。
SEXは好き。自分以外の人の為だけに存在できる唯一の時間だから。
ファスナーを開けると大きく硬くなっている彼のものがあった。
トランクスに手を掛けてそろそろとおろす。
その間春はイスに座っていた。
「リン。別にそんなコトしなくてもいいよ」
「いいの。私がやりたいだけ」
握ってみた。
ドクン、と脈を打っていて凄く熱い。
そのまま唇を近づけた。
プチュ、という空気が潰れた音がして、彼の象徴と自分の唇との距離がゼロになる。
そのまま舌を使って余す所無く舐めた。
舌から感じるドクドクという脈打ちに、ああ彼は本当に存在してるんだな、と少し安心する。
そういえば赤ん坊は母親の心臓の音を聞くとよく眠れるらしい。
という事は自分もそう変わらないのかも知れないけど、悪い気はしなかった。
しばらく舐めていると先から苦い白濁した液体が出てきた。
春のなら全然平気だった。
「リ・・・ンっ!・・・ヤバイ出る」
顔を引き剥がそうと頭を掴まれた。
でも力は全然入っていない。
本当にどこまでも優しい人間だ。
こんな我が儘な自分とは大違い。
「出して」
「服・・・汚れる」
「もっと春を感じたい」
そう言うと限界だったのか口の中一杯にどろりとした液体が入ってきた。
喉の奥にもへばり付いてむせそうになったけど春のものを吐き出すなんて勿体ない。
何かを共有したいという一瞬の喜びと、吐き出しそうになる身体的苦痛とを伴わせながら、ゆっくりと嚥下した。
春の体内にあったものが、今は自分の体内にある。
こんなに簡単に。
その事に少し驚いた。