紫呉は歩いていた、紙袋を4つ抱えて。  
「・・・・・・先生?」  
派手な頭が1つ。  
髪が白く、見る人が見ればその人物は不良という風に分類されるのだろうが、  
紫呉はよく見慣れているし、 派手ではあるが毎日喧嘩に明け暮れているという一般イメージの不良とは  
少し違うことを知っていた(毎日ではないだけで、喧嘩はするが)。  
「や、奇遇だね〜。リンのお見舞い〜?」  
今日は休日、彼は私服、 この大通りの先にあるのは総合病院。  
と、くればリンのお見舞い以外に有り得ない。  
「先生は?」  
「僕はクリーニング屋から服を取りに行って、今まさに本家へ行こうとする途中」  
紙袋にはクリーニング屋のロゴがプリントされている。  
袋の合間から覗けば綺麗にたたまれた服も入っている。  
「・・・・・先生がクリーニングなんて珍しい・・・」  
「正式には両方とも僕のじゃないんだけどね。」  
「?」  
撥春は表情が読み取りにくいが、疑問を抱いているのは確かだった。  
「1つは、あーやが僕にプレゼントだって。中身は本家に着いたら開けてみると良い!  
ハーッハッハッハ…だってさ。んで、もう1つは神楽から頼まれたリンの制服だってさ。  
クリーニングに寄るんだったらついでに持ってきて〜って頼まれてねぇ…」  
左手に持っているのが綾女からのプレゼント(?)で、  
右手に持っているのがリンの制服だそうだ。  
「・・・俺ついでにリンの制服持って行く。・・・リンに用事あるし。」  
「あ〜そうしてくれると嬉しいなぁ。んじゃ、これ。」  
この時、袋の外見が全く同じだったからか、  
それとも、ただ単に互いに目的地、正確には目的の人に会いたいと思ったからか、  
紫呉は間違えて左手の袋を撥春に渡し、  
撥春もまた、紫呉の間違いに気付くことなくそれを受け取ってしまった。  
途中の交差点に着くと、2人はそれぞれ目的地へと向かった。  
中身がすり替わっていることなんて知らずに…。  
 
「うぉっ・・・」  
病室に入って来た瞬間に、撥春の顔目掛けて何かが飛んできた。  
持ち前の身のこなしで避けるものの、顔面に目掛けてだったので、  
もし当たっていたら…どういうことになっていたのだろうか?  
勿論、この男にそのような事を気にする性格ではないのだが。  
「・・・・・・・リン、危ない。」  
「来ないでって言ったでしょ?」  
前のようにリン自身が暴れないのは撥春にとって嬉しいことだが、  
流石にこれはないだろう。と、  
自分の背後の壁下に無残に砕け散っている花瓶を見て思う。  
だが、そんな元気な様子にほっとしたのも事実だ。  
「心配したから」  
「・・・・・・・・前にも言ったけど、来ないで。」  
身を隠すようにベットのシーツに潜り込む。  
「何で?」  
リンの返事はない。  
「リンのことを心配するのがいけない?」  
返事はなく、リンは沈黙を守り続けている。  
もう少し、近くでリンを見たい。  
そう、撥春はリンの元へと一歩一歩近寄って行く。  
「リンは、俺のこと嫌い?」  
珍しく、感情を表した声で、撥春は尋ねた。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・」  
撥春の感情を見抜いたのだろうか。  
見抜かなくとも、何かを感じたようにリンは何とも言えない雰囲気を出していた。  
「ねぇ・・・リン?」  
リンに嫌われたら悲しい。  
けれど、リンが何も言えなくて1人で何かを抱え込む癖のようなものは、  
撥春が1番理解していた。  
「・・・・・・・よ、・・・・」  
意図的に小さく発した声で、リンは呟く。  
「・・・・・好き、だよ・・・」  
本当に、聞き取れるか聞き取れないか、かなり微弱な声の大きさで、  
それでもはっきりと告げたそれは。  
撥春にとって、申し分ない言葉だった。  
「・・・・リン。俺をちゃんと見て?」  
シーツをぎゅっと握り締めている手に触れた。  
温かくて、柔らかい手、  
リンが何かを恐れないように、優しく触れる。  
「・・・・・・・・・・・・」  
シーツから、少しだけ、顔を出した。  
その顔は以前に来た時よりも血色が良く、  
顔のパーツの1つ1つが何かの装飾品かのように綺麗だった。  
「・・・・うん。やっぱり。」  
あの時、自分に別れを告げた時以前のリンの顔だった。  
好きで、好きで、しょうがない、リンの顔だ。  
「?」  
何が?と、視線で尋ねてくる。  
「うん。やっぱり俺、リンのこと好きだなぁって・・・」  
撥春の本音を素直にそのまま伝え、  
その言葉にリンは顔を紅潮させた。  
 
「・・・・・・・・・なんで、そんな恥ずかしいことをすぐに言えるの?」  
「・・・・・恥ずかしい?」  
本音をストレートに伝えただけなのだが、リンは嫌だっただろうか?と、  
考えてしまうあたり、撥春はある意味天然記念物だった。  
「春と一緒にいると、分からなくなるよ・・・」  
観念したかのようにリンはシーツから身体を出して、  
撥春に向き合った。  
「うん。俺もリンと一緒にいたらどうして良いのか分からなくなる。」  
ベットに座って、ベットの前に立っている自分を見上げるこの瞳が、  
触ったらさらさらと流れるような触り心地の良いこの髪が、  
キツいように見えて、実はどこか優しいこの人が、  
リンが笑うだけで、自分は救われてしまう。本気でそう思った。  
「リンがどうやったら笑ってくれるか、とか。沢山悩む。」  
けれど、他愛の無い世間話での自分の主張を言うだけで、  
彼女は撥春に優しい笑みを返してくれる。  
「・・・・・・・・私も。」  
そっと、2人の唇が重なった。  
触れるだけのような、柔らかいものだった。  
けれど、前の自分達を思い出すのは十分すぎる。  
『やっぱり、好きだなぁ。』  
1度リンに恋心を抱き、もう1度撥春はリンに恋をした。  
 
何度かのキスを交わし、2人は笑いあった。  
「・・・・・・・・・・そういえば。」  
ふと、思い出したことがあった。  
紫呉に渡された、リンの制服。  
ちらりと、制服の入った紙袋を見ると、  
最初にリンが投げた花瓶の水で紙袋は濡れていた。  
「・・・・・・・あ。」  
ベットから離れ、急いで紙袋を持ち上げ、  
中身を取り出した。  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
天然記念物な上に、マイペースな撥春は普段あまり物事に動じないが。  
流石の撥春もしばし押し黙ってしまった。  
「・・・・春?」  
しばらく立ち尽くしている撥春はその背中に声をかける。  
「・・・・・・・・リンの制服ってこれなの?」  
ビニールに包まれ濡れてはいなかったものの、  
撥春の手に握られている服は、  
ピンクのミニスカートタイプのナース服と、  
おそろいのナースキャップと白のニーソックスだった。  
 
 
撥春がリンにリンの制服(?)と思われるものを見て、しばし固まっている頃、  
ようやく紫呉は本家へと辿り着いた。  
 
「慊人さんいますかー?」  
何か入室前に言うでもなく、  
そのまま紫呉は慊人の部屋へと入っていった。  
「五月蝿い」  
そして最初に突きつけられた言葉はこれだ。  
当然、と言えば当然なのだが。  
「あらあら、慊人さんがお勉強だなんて珍しい。」  
障子に寄り添うように、慊人は分厚い本を読んでいた。  
本は医学に関するということだけ紫呉には理解できた。  
恐らく駄々をこねた慊人にはとりが適当に置いていった本だろう。  
昔から本を読む時だけは大人しかったなぁ…と思った。  
「はとりが置いていった本を読んでただけだよ、で、何か用?」  
本を読んでいるのを邪魔された所為か不機嫌きわまりない表情を浮かべる。  
「用事はあると言えばある。ないと言えばない。そんな感じですよ。」  
「何が言いたい、はっきりしろ。」  
段々機嫌が悪化してゆくのを見て、  
逆に紫呉は機嫌が良くなってゆく。  
「貴女はあまり外のことを知らないでしょうから、色々持ってきてあげたんですよ」  
クリーニングの袋以外にも紫呉の手には握られており、  
その種類は食べ物、娯楽道具、本など、様々だった。  
「こんなのを持ってきてどうするのさ?」  
「おや、気に入りませんか?」  
年頃の女の子なら誰もが興味を持つような物を一通り揃えて見たが、  
慊人は興味を持つこともなく、一目見て終わる。  
「いらない。全部捨てておいて」  
世間体のことはよく知らない、ある意味世間知らずな慊人だが、  
草摩家の当主故に、金銭感覚などは凄まじいものを感じさせる。  
 

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