ふと、屋敷の中が騒がしい。
普段は不気味なほどに静まりかえっている草摩の屋敷が
今日は珍しく人がいるような気がした。それでも屋敷の外からは物音1つしないのだが。
『あの子が風邪をひいたらしい』
友人から聞いた噂は本当だったらしい。
だからこうして自分は屋敷の前に立っているのだが。
「・・・・・・・・・・これは・・・」
一歩屋敷の中に踏み出せば、中は凄いことになっていた。
障子は勿論のこと襖まで無残にもボロボロになっており、
畳のところどころがむしられ、床には何かが叩きつけられたようなへこみが出来ている。
『どうせあの子が暴れたのだろう』
何時ものことだ。と紫呉は自分に言い聞かせた。
廊下の途中で屋敷の人間が破損物を片付けていたのを見た。
部屋の前で足を止めた。
八つ当たりを受けるかもしれない。それは覚悟の上である。
だが、もし理性を抑えることが出来なかったら・・・?
自分の愚かな考えに、思わず自嘲した。
「入るよ」
襖を開けると、彼女の部屋は予想以上に荒れ果てていた。
以前の綺麗だった部屋の面影はどこにもない。
ただ部屋の中心にきちんと敷かれた布団と布団の膨らみが
荒れ果てたこの部屋には不釣合いだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
布団の合間から、こちらをじっと睨んでいるあの子が見えた。
「風邪ひいたんだって?」
普通の暮らしをしていたらもっと子供らしい表情も出来るだろうに。
風邪をひいて身体がだるい筈なのにいつもと変わらない表情で、
少しこの少女が哀れに見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
反応が無いのは何時ものこと。
ただ、じっと此方を睨んでいる。
それすらも愛しいと思った。
「流行っているからね」
風邪が。
と、言う前に少女は布団の中に顔を埋める。
部屋に散らばっている花瓶の欠片に気をつけながら、布団へと近づいて行った。
「やっぱりダルい?」
布団の近くに腰を下ろし、
片手で布団の膨らみを『よしよし』と撫でてやる。
そんなことをすれば怒るのは分かっていた、だが、
そうしなければいけないような気がした。
「・・・・・・・・・触るな」
小さく、細い、声が聞こえた。
やはり怒られた。だが、いつもと違って体力が落ちてる所為か、
その怒声には迫力がない。
「はいはい」
そう言いながらも、どうしても撫でる手を止めることはなかった。
余計この子が怒るだけだというのに。
一様分かってはいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もぞもぞと、重いであろう頭を動かし、
布団から顔の半分を出して再び睨む。
「そんな顔しても全然怖くないよ」
元々、子供なのに謎の迫力のようなものをもってはいるが、
風邪の前には所詮子供は子供。
顔が紅潮し、瞳は潤んでいる。
そんな状態で睨まれても何ともない。
「普段もこんなに大人しければ良いのに…」
ぽつりと呟いた言葉を聞き取ったのか、
顔を歪める。
「帰れ・・・」
アキトもぽつりと言葉を漏らした。
「嫌だ」
だって、勿体無い。
普段滅多に拝めないこの子の姿を、今見ずに何時見れと言うのだろうか?
勿論、彼女としては屈辱的なのだろうが。
「帰れ・・・・帰れ!」
弱弱しくも、声を荒げ、
布団の中から手を出し、ぶんぶんと振り上げる。
しかし、力が出ないのか、小さな拳が当たっても痛くも何ともない。
「はいはい。」
だが、何時までもずっと此処に居ては
後で復讐と言わんばかりに八つ当たりされる。
大人しいアキトを観察出来ないのはしゃくだが、
一様草摩家の党首だし、ここは言うことを聞いておかないと。
「分かった。分かりました。」
簡単な手荷物だけ持って、荒れ果てたこの部屋を出ようとした。
「?」
ぐい。
「・・・・・・・・・・・・・・」
足元が何かに引張られた。
「矛盾してるんですけど・・・」
布団の中から小さな、白いその手だけを出して、
紫呉のズボンの裾を握っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰れ・・・」
今の彼女は自分が何を言っていて、
何をやっているのか理解していないだろう。
「ふぅ・・・」
再び、手荷物をそこらへんに置いて布団の横に座る。
「君は僕にどうしてほしいの?」
ズボンの裾を握り締めていたその手を握ると、やけに熱い。
この体温なら変なことを言う筈だ。そう思った。
「頭が痛いのはお前の所為だ。」
ついには何時もの八つ当たりまで始まる。
「お前が何とかしろ・・・」
生意気なことに憎まれ口まで叩いている。
でも、そんなことを言うこの子が愛しいと思ったのも事実。
「・・・・・・・いいの、なんとかして?」
まったく、自分はどうかしている。
「・・・・・・・・・なんとか、しろ・・・」
幼いこの少女に触れることに喜びに酷似した感情を覚える自分が
ひどく滑稽に思えた。
「・・・・・・・・・」
彼女の頭が小さく揺れた。
外に出ず、日焼けをしていない肌は雪のように白く、
発達途中の乳房は緩やかなラインを描き、
身体そのものが芸術のようだった。
「やっぱり熱けっこうあるよ」
だからと言って止めるつもりはさらさらないが。
「・・・・・・・熱い・・・」
焦点が定まらず、視線はどこを向いているのか分からない。
頬と顎を手で押さえ、
今彼女を押し倒している男の方へと顔の向きを変える。
「・・・・・・・・・・」
ようやくアキトの視界の中に自分を入れることは出来たが、
相変わらず彼女はぼおっとしていて、
果たして自分の存在が分かっているのかどうかすら謎のまま、
小さな唇に口づけた。
「・・・・ん・・・」
小さく声を上げるのが、直に伝わってきた。
微かに開いた唇に無理矢理舌を入れ、歯列をわって舌を絡める。
「んん・・・ふぁっ・・・んぐっ・・・」
普段なら舌を入れれば噛み切ろうとするのに、今はその気配すら無い。
ただ余裕がないだけなのか。それならそれで良い。
片方の手を肌蹴た着物の間に忍ばせる。
「んぅ・・・」
大きな手のひらにすっぽりとおさまった乳房をやわやわと揉みながら
指の腹で先端の尖りを愛撫する。
「っ・・・!」
びくりと、アキトの身体が震えた。
持て余していた手が紫呉の腕を掴み、その様子は拒絶のようにも取れたが、
お構いなしに紫呉は行為を進めてゆく。
散々口腔を犯した後、絡みあっていた舌を離すと
呼吸を整えるように胸を上下させている。
口元は半開きで、隙間から赤い舌が妖艶だった。
「悪いけど、少し大人しくしてて・・・」
折角ここまで辿り着いたというのに、彼女に抱きつかれて変化してしまったら、
そこで終わりだ。
アキトが放心している間に、彼女の着ていた服の帯を解く。
「・・・・・・・・・・・・・!?」
呆然と見ていたアキトも、どうやら紫呉の行おうとしている行動に気付いたらしい。
「・・・離せっ!」
彼女の抵抗か。両足をじたばたとさせるが、気付くのに少し遅すぎた。
両足を動かし始めた頃には、紫呉は解いた帯でアキトの両手首を拘束した後だった。
「終わったらね。」
片手でアキトの頭上で拘束された両手を押さえつける。
そうすればもう邪魔するものは何もない。
紫呉は顔をアキトの目の前から、胸元へと下ろしていった。
「離せ!はな・・・っ」
紫呉はぷくりと立ち上がっている胸の突起を口に含むと
先ほどから非難の声ばかり叫んでいた口もすぐに喘ぎ声をあげ始めていた。
「ん・・・んぅ・・・っ」
最後の抵抗なのか。本人なりに頑張って口を閉ざしていた。
他人に好きなように弄ばれるのは彼女の尤も嫌う事だ。
本来、アキトは人を弄ぶのを楽しみにしているような節がある。
だが、それは紫呉も同じだった。
「(声出せば良いのに)」
片手は暴れる拘束した両手をしっかりと押さえ、
もう片方の手は幼い胸を揉み、口では胸の突起を舐め、
じれったい愛撫を繰り返しながら紫呉はそう思った。
「うっ・・・あぁっ・・・」
目を固くつぶりながら快楽に耐えている姿はそれはそれでそそる物がある。
けれど、紫呉は今すぐ己の物を突きつけたい衝動に駆られていた。
理性の限界はすぐそこまで迫っている。
「人間、正直なのが1番ってね・・・」
胸元から顔を上げると、既に露になっているアキトの下半身に目を向けた
「!!」
今まで霞がかっていた瞳がぱっちりと見開かれ、その表情は驚きや戸惑いが入り混じっていた。
膝裏に手を回し脚の間に身体を滑り込ませると、脚を閉じられなくなったアキトの秘部が露になる。
今までも何度かこういった行為を繰り返して、男を知っている筈が黒ずむこともなく、
綺麗な桜色をしている。
「っう・・・」
風邪の所為なのか、いつもはさほど恥ずかしがらない筈が、今日は顔が真赤で、
もし羞恥で顔を赤らめているのであれば、初々しいととれる。
「人間正直なのが1番って言ったでしょ?」
隠れていた粘膜に優しく触れ、何度か撫でると指を離し
「濡れてる・・・身体は正直なんだけどね・・・」
濡れた指を見せ付けるように舐めた。
「違う・・・」
屈辱的で、悔しくてしょうがないのか、黒真珠のような瞳にじわりと涙が滲む。
「泣かない泣かない。分かったから。」
小さな赤子をあやすような口調で、アキトの目元をそっと拭おうとする。
「何も、分かってない・・・くせに・・・・・・」
だが、アキトは頭を振って拒絶する。
滲んでいた涙は、とうとう溢れてしまった。
表面上は平然としているが、紫呉は内心かなり焦っていた。
まさか彼女の涙をこのような形で見ることになるとは夢にも思わなかっただろう。
「何が?」
少しでも宥めようと、両腕を拘束している帯を緩める。
手首は薄っすらと紫がかっていた。
「いつも、っ、高い・・・とこ、から・・・見下して・・・」
いつも訳の分からない事を言って、恐ろしくて、我侭で、乱暴な、狂っているような、少女。
だが、彼女の中のまだ、『子供』の姿が垣間見えたような錯覚に捕らわれた。
「・・・追い、つけ・・・な、くて・・・っ」
自由になった手は紫呉の腕を必死に掴んで離さない。
「嫌だ・・・嫌だっ、いや・・・だ・・・」
きっと、いつもと調子が違うからこんな事を言っている。自分にはそう言い聞かせている。
けれども、それは『自分と同じ視点でありたい』ということだと解釈して良いのだろうか?
他人の玩具をねだる子供と同じような発想にすぎない彼女の発想が、
自分には自分と同じ視点でありたい、同じ立場でありたいという特別な発想に聞こえ、
それほどに彼女と自分の視点はあまりにも遠い所にあるのかもしれない。
けれど、
「・・・・・・いつか、同じようになれるよ」
そう呟いて。2本の指が既に濡れているそこに侵入させた。
いきなり2本では辛いと思われたそこは、ヒクつきながら柔らかく、けれどキツク締め上げている。
いとも簡単に2本の指を奥へ、奥へと招きいれる。
「んんっ・・・あぁっ・・・」
張り詰めた糸が途切れたかのようにアキトは廊下にも聞こえてしまいそうな位に声を上げる。
自分の部屋だから開放感のようなものがあるのだろう。
「気持ち良い?」
内の柔らかさを楽しみつつ、もう片方の手でアキトの汗でしっとりと濡れた前髪をわける。
「ん・・・」
言葉ではハッキリと告げていないが、かすかに頭が上下した。
アキトも先ほどとは違い、快楽に身を委ねている。
だが、アキトの下の準備はあまり出来ていない。
何せ成長した成人男性と、まだ成長途中の少女ならば体格差がかなり生じる。
いくら何度か交わったことがある2人でも、紫呉の物を受け入れるアキトの入り口は小さすぎた。
なので入り口を念入りにほぐしておかなければ内部を傷つきかねない。
「もう少し、慣らそうか?」
一旦指を引き抜き、布団に寝そべっていたアキトの身体を起こす。
「起きて辛くない?」
こくり。と返事をするかわりに小さく頷く。
「じゃあちゃんと裾持ってて。あと、座ったら駄目だよ。」
ほとんど脱げかけている着物の裾を持ち上げさせる。
真正面から見れば花弁はとろとろと愛液で光っていた。
「岩清水っていうんだけど、知ってる?」
「いわし・・・?」
ちょうど紫呉の鎖骨あたりに腰を下ろすような形でアキトは上手くバランスを取りながら
膝立ち状態になると、紫呉は目の前にある花弁に舌を絡ませた。
「んあっ・・・!」
突然の行動に思わず尻をついてしまいそうになるが、先ほど言いつけられたように、
今バランスを崩して座ってしまえば紫呉の顔の上に腰を下ろすことになってしまう。
アキトの腰を支えている紫呉の手に?まり、押し寄せる快感にその身を震わせた。
「ふっ、・・・あぁっ・・・」
部屋の中にはアキトの喘ぎ声とぴちゃぴちゃという律動のみが響き渡る。
「・・・っ、ずいぶんと、感じてるみたいだね?」
次から次へと溢れ出る愛液を吸い上げながら、紫呉は満足そうな意地悪い笑みを浮かべる。
「ん・・・やっ、る・・・っ」
「ん、何?」
快楽に震えていたアキトが言葉を小さく漏らす。
「同じ、ことっ・・・や、る・・・っ」
小さく漏らした言葉に、紫呉は目を丸くしたまま、手と口の動きを止めた。
動きが止まった瞬間に、アキトは素早く腰を浮かせた。
「お前ばかり・・・卑怯だ。」
何事かと、紫呉は身体を起こす。
「出せ」
むすっとしたまま、視線を下に向ける。
「一体な・・・・・・・あー・・・はいはい。」
アキトの考えていることにようやく気付いたのか、紫呉は笑う。
「じゃあアッキーはお口でご奉仕してくれるんだ?」
薄く柔らかい唇に触れながら尋ねる。
「・・・その呼び方、やめろ」
手で唇に触れる手を叩く。否定をしないあたり、本当のようだ。
「できるの、君に?」
「見くびるな」
キッと紫呉を睨みつけるが、多少元気が出てきたとしてもあまり迫力はない。
もはや着ているというよりも羽織っているという状態に近い着物や、
先の快楽により火照っている身体、潤んでいる瞳。
紫呉は可愛いなぁ。と本人に聞こえないように呟いた。
「はいはい。じゃあちゃんとやってもらいましょーか。」
そう言いながら、ベルトに手をかけた。
ズボンの中から取り出したモノを見て、アキトはほんの少し躊躇した。
ほんの少し、であるが。
空気に曝け出されたそれは大きく、天上を向いている。
「・・・・・止めるんなら今のうちだよ?」
多少躊躇しているアキトに、わざと紫呉は言い張った。
「・・・・・・・・」
しばし、目の前に突き出されたモノをじっと見詰め、両手をそっと伸ばして手で包む。
「・・・・・・・っ」
上半身を屈め、ゆっくりと口を開くと舌が出てきた。
ちらちらと紫呉を見ながら恐る恐る先端を舐めだした。
舌が先端の割れ目をぐっと、なぞった。
「・・・・・ん・・・ふっ・・・」
裏から舐め上げると、それはより一層大きく膨れ上がる。
「・・・・・・・・?」
突然大きくなったそれを、不思議そうに見て、しばし考えた後、
それを口に咥えた。
「・・・・随分と積極的だね。」
大きいそれで口が塞がって声を出すことが出来ないのだろう、
アキトはうー、と言葉には聞こえない声を発する。
「でも、まだまだ足りないよ?」
一生懸命自分の分身をしゃぶるアキトに笑みを溢すと、
アキトの頭をぐっと押さえた。
「んぐっ・・・ふぁぐっ・・・」
紫呉の手が、乱暴に頭を上下に揺さぶらせる。
「んんぅ・・・んぐふぅ・・・」
息をもとめて口を大きく開けるが、紫呉のそれが邪魔をしてうまく息が出来ない。
苦しそうに顔を歪めるが、そんな苦渋な表情を見ても、相変わらず紫呉は笑ったままだった。
「そろそろ・・・いいかな・・・」
「んっ・・・けほっ、けほっ」
強く掴んでいた頭を緩めると、咽返しながらアキトが頭を上げる。
苦しそうなアキトを心配するでもなく、紫呉はアキトの腰を持ち上げる。
「もう僕のこっちも、君のココも準備万端だよね?」
座った状態のままの紫呉自身の腹の上にアキトを乗せる。
「まぁ、今更聞くことじゃないけど。」
再びアキトを持ち上げ、先ほどアキトが奉仕したそれを、
何ら迷うことなくそこに捩じ込んだ。
「やっぱり、キツイかな・・・」
強烈な中の締め付け具合に紫呉は眉を顰めたが、一気に最奥を突いた。
「うぁっっ!!あ、ああああぁぁぁッッ!!」
そんなことをすれば十分慣らしたそこでも、流石のアキトも傷つきかねない。
だが構わずに腰を突き動かした。
「ッ・・・うあっ!・・・・やっ・・・」
紫呉も引き千切れるような感覚に陥るが、それ以上にアキトは辛そうだった。
少しでも痛みから逃れようと腰を浮かせるが、紫呉が腰を押さえ、それを許さない。
動けば動くほど奥へと突き上げられ、無駄な行為となった。
「・・・うん。相変わらずすごいイイね、慊人サンの此処は。」
耳元にそっと口を寄せて、そう言いながら突き上げることを止めはしない。
慊人は、苦痛に顔を歪め、目尻に薄っすらと涙が溜まっていた。
もう身体は既に紫呉のなすがままになっていた。
「ふっ・・・ああぁっ・・・」
結合した場所からズチュズチュと淫らな音がひきりなしに漏れる。
アキトは激しい突き上げに、揺れ落とされないように肩にしがみつきながらも
上気させた頬を零れた涙で濡らしていた。
紫呉の方からはその表情が見えないのがアキトにとって唯一の救いだったかもしれない。
だがそんなことを考えている余裕は存在しない。
「あ・・・つ・・・あつ、い・・・っ!」
強い突き上げは、最初はキツク、双方に負担を与えていたとしても
そこは動きがスムーズになり、侵入するモノを拒むことなく
何度も何度も、繰り返し突いた。
「やめ・・・もっ、や・・・」
「こんなに濡らしておいて言う台詞ではないですけどね。」
結合したままアキトを布団の上へと押し倒し、
体重を掛けながら、最奥を突くように。
「ふっ・・・んんっ・・・」
びくりと、アキトの身体が震えた。
限界が近いらしい。
離さないと言わんばかりに紫呉の首に抱きつきながら、必死に耐えている。
「イッて良いいよ?」
そんなことを言ってみれば、嫌々と首を横に振る。
だが彼女が正直じゃないのはこの男がよく知っている。
良いは嫌い、嫌いは良い、まるで天邪鬼のようだ。
「我慢は身体に毒だからねぇ・・・」
気に入っているところの1つでもあるけれども。と、紫呉は心の内で呟いた。
そして左手はアキトが逃げないように抱きしめ、空いていた右手で胸の突起を擦った。
「ああ・・・っは、あ、ああっ」
いっそのこと、自分の物に出来ないだろうか?
そんな疑問が駆け巡った。
「慊人さん・・・呼んで。」
ぴたりと、動きを止めて小さく呟く。
「・・・・・・・・・・・?」
この子が由貴を閉じ込めておくように。
自分もこの子を誰の目にも触れさせない処に。
「名前、ですよ。」
閉じ込めて、自分だけを見ていれば良い。
他の何者も見なければ良い。
「紫呉・・・」
小さく、息を整えることなく、呟いた。
そしてまた、最奥まで一気に突いた。
「・・・イ、・・・あ、あぅ・・・!!!」
全身が硬直して、達したと同時に内部が収縮して、
アキトがイくのと同時に紫呉も中に精を放った。
「・・・・・・・・・」
元々、あまり体調は優れなかった。
情事が終わったとほぼ同時にアキトは深い眠りへと堕ちていった。
全ての後片付けを終えた紫呉はアキトの短く切られた髪を手で遊んでいた。
さらさらと流れる髪は非常に心地よい。
「・・・・・もし、こんな事を言ったら君はどういう反応をするんだろうね?」
すやすやと眠っている顔は、先ほどの情事での顔とは全くの別人だ。
全く別人のように見えるが、それでもアキトなのは変わりない。
決して普段言葉に出さない言葉を、初めて眠っている彼女の前で言った。
「愛しているよ、慊人・・・」
言葉は闇へと消えていった。