ど、ど、なにが、どうして、こうなって…  
持っているお盆の上で、湯飲みがかちゃかちゃと音を立てています。  
「答えて?透君」  
ふくらはぎ、ふともも、ふくらはぎ、ふともも…紫呉さん。紫呉さんの手が往復して、触って…  
声どころか、息が苦しいのです。  
それに、どうしてなんて、聞かれても…  
「わかった」  
ぞぞっ。  
紫呉さんの指先が下着の、下着の中に…!!!  
…一瞬で体中の力が抜けるような感じが、しました。  
「透君がいつもミニスカートなのは、ほんとは僕を誘惑してるんじゃないんですか?」  
 
ごとっ。  
 
湯飲みがごろごろと転がって、畳にお茶の染みができてしまうかも、と思いましたが、それどころでは、ありませんでした…  
 
「ゆ、誘惑なんて、そんな…」  
「ほんとに?」  
くいっ。  
お盆を持った手を強引に引っ張られて、振り向かされると、紫呉さんは眼鏡を外しながら…  
「!!」  
く、く、唇が…!舌が…!  
吸われて、引っ張られて、からめとられて…触れて。また吸って。離れて。  
その動きに合わせて、下着の中で紫呉さんの指がゆっくりと動いています。  
何がなんだかわかりません。心臓が、いままでないくらいに早鐘を打って、ぼおっとしてしまって。ぴりぴりして。  
あっというまだったような、長い時間だったようなその行為を終えて、紫呉さんは耳元で囁きました。  
 
「…オトナのキスだよ」  
 
 
…は、走って逃げてしまいました…!!!  
心臓がまだどきどきしています。  
キス。確かにそう言いました。オトナの、キス。  
したことはありませんでしたが…あんなに、舐めたり、吸ったり、かんだり、しかも触りながらするものだったのでしょうか?  
テレビなどで見るのと、するのとでは大違い…  
…そんなことより!紫呉さんが、あんなこと…するなんて。  
 
冷蔵庫を開けて、冷たい麦茶をグラスに注いで…  
飲み干しても、体はまだぼおっと熱を持っているようです。どきどきも収まりません。どうしましょう…  
紫呉さんに最後に言われたせりふが、頭から離れてくれなくて、思い出すたびにくらくらしてしまいそうな…  
 
「…このキスの続きを知りたくないかい?」  
 
 
…どうしましょう。  
 
 
 
 
――眼鏡をかけなおした。  
原稿はあと少しで終わる。久しぶりに少しやる気が出てきて、紫呉は笑みを浮かべた。  
「可愛い足を見せられて、欲情しない男はいないんですよ、透君…」  
台所の方に向かって、小声でつぶやく。  
 
…原稿が終わったら、ね…透君。  
 
 

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