今年も後残り数日となった。
紫呉宅の大掃除もほとんど終わった。
由希は考えていた。
今年の正月は本家に帰らなかった。今度はそんなわけにはいかないだろう。
もう逃げないと決めた自分。
由希は草摩に反発して帰らないのではなく、
敢えて来年はちゃんと草摩と向き合おうと思っていた。
でも透は年末年始をどうするつもりなんだろう?
お祖父さんのところへ戻るのか、ここにいるのか・・・?
「透君、お正月お祖父さんのところに帰るの?」
紫呉も心配していた。
「い、いえ…お祖父さんにはまだ何も…」
透は少し困ったように答えた。すると、
「夾、お前正月は師範の所に帰るんだろ?本田さんも一緒に連れていけないかな。」
由希から思いがけない言葉。
「な、何だよ、俺もその方がいいのかな、と… …透、どうする?師匠のところで新年迎えるか?」
「え…?いえ、そんな・・・ご迷惑をおかけする訳には・・・っ」
「別に迷惑でもなんでもねーよ。お前も祖父さんのところは帰りにくいだろ?
それに師匠も喜ぶだろうしっ!」
「喜ぶのは夾君だったりして〜??」
「てめっ!いちいちからかうなっ!」
「じゃ、決まりだね。本田さん、夾と一緒に師範の所へいくといいよ。
俺も師範には新年の挨拶したいし。向こうで会おうよ。」
「は、はいっ!」
嬉しそうに答える透に、由希もにっこりと答えるのだった。
透をお母さんのように思っていた事をなんとなく恥じていた由希だったが、
真鍋に話してからはそんな気持もなくなっていた。
透のうれしそうな顔を見て由希もうれしくなった。
―大晦日
「じゃあ、夾君、透君。気をつけて行っておいで。
それと夾君、二人になったからって透君に変なことしちゃ駄目だよ!」
「おまえはいつもいつも・・・っ!ナンもしねーよっ!!」
「いってらっしゃい。本田さん、良いお年を。・・・・・・ついでに夾も。」
「何でおれはついでなんだ??」
「あははは・・・・、はいっ!行って参ります!
紫呉さん、由希君。今年は本当にお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。」
深々と頭を下げた透に、夾は「行くぞ」と言って紫呉宅を後にした。
「じゃ、僕らもそろそろ行くかい?それにしても由希君、なんだかえらく
透君と夾君を推すんだねえ・・・?」
試すような物言いの紫呉に、「そうかな?」と由希はさらっと答えた。
―藉真宅
「ただいまー、師匠ー、透も連れてきたぞ。」
奥から出てきた藉真。にっこりと出迎える。
「ようこそいらっしゃいましたね。さあどうぞ。」
「師匠さん、私まですみませんでした。お世話になります。」
透は深々と頭を下げた。
「いえいえ、うれしいんですよ。なかなかない機会ですし。夾も喜んでいるでしょう。」
「し、師匠までっ!紫呉みたいなこというなよっ!」
がなる夾を尻目に藉真は「上がってください」とクスクス笑いながら言う。
「で、では、お邪魔いたします。」
「今夜は鍋にしようと思うんだけどね・・透さんはそれでいいですか?」
「私は何でも!お手伝いいたしますね!」
早速エプロンをする透。
「師匠に任せてたら新年になりそうだから、俺も手伝うよ。」
「そうかい?なんだか私の出番はなさそうだな。お任せした方がいいのかな?」
「はいっ、お任せください!」
夾と透が一緒に鍋の準備をしている。前にも見たが、仲睦まじい二人を見て
このままがずっと続いてくれれば・・・と願う藉真だった。
三人はコタツに入りながら、鍋をつついている。
「由希君たちは今どうしているでしょう…宴会の準備とか大変なんでしょうね…」
「だろうね。十二支たちの大事な行事だからね。由希はアキトに気に入られているから尚更大変かも知れないな。」
ちょっと間を置いて夾が口を開いた。
「・・・・俺・・草摩にずっと憧れていたけど・・
こうしてみんなで鍋をつついたりしてることって・・いいなって・・思った。」
「めずらしいね。夾がそんな風に言うとはね。」
「何だよっ別にいいじゃん・・・・アイツらも大変だろうなって思っただけだ。」
透は微笑みながら、
「由希君も師匠さんに新年の挨拶をしたいって言ってましたから、顔を出してくれるかもです。」
「そうですか。そうそう、それならお年玉の用意をしないとね。」
「俺にもくれんの?」いたずらっぽく言う夾に「ハイハイ」と藉真は答えた。
「師匠さん、夾君の武道の方は益々強くなられましたか?」
「そうだね。だんだん強くなってきてますよ。いつかは追い越されるんじゃないかと
心配しています。」
「ほんとですか?すると夾君が師匠の後を継ぐかもやもですねっ!」
「!」
「・・・・・そうだね。夾が私の後を継ぐ日がくるかもしれないね。」
藉真は静かに笑みを浮かべながら喋ったが、
「やめよう、この話。だいたい俺は師匠に一生かなわないよ。・・一生。」
「え、ど、どうしてですか??そんなことないですよ。師匠さんもああ仰っていらっしゃいますし・・・。」
「俺は今のこの時がいいっていったろ?
それに道場を継ぐなんてそんな大それた事・・・考えた事もない。」
「そうですか・・・・」
透は夾の言葉が寂しかった。
藉真もまた、夾がまだ答えを出せていないのが辛かった。
「さあさあ、なんだか暗くなってしまったね。そうだ、二人で初詣に行ってきたらどうだい。」
「初詣か・・・透どうする?」
「師匠さんは行かれないのですか?一緒に・・」
「二人で行っておいで、私は紅白の結果が気になるんだよ。」
「なんだよそれ??」
夾はぷっと吹き出した。
「で、では、夾君と行ってまいりますね。」
外は真っ暗でものすごく冷え込んでいる。
「夜中だと冷え込み方が違いますね。夾君は大丈夫ですか?」
「暑いのも好きじゃないけど、寒すぎるのもあまり・・・お前は?寒くない?」
「だ、大丈夫です!・・・っくしゅ!」
「おーい、風邪ひくなよなー。カイロ持ってきた。透使えよ。」
「それでは夾君が・・・そうです!一緒に使いましょう!…ってどうやって・・?」
「アホ・・・じゃあ、俺のポケットにカイロ入れるからお前手ェ突っ込めよ。」
「ハ、ハイ・・・・」
二人ともカァーっとなりながらも夾のポケットの中で手をつないで歩いた。
「夾君の将来の夢は何ですか?」
「またその話?いいよ、何でも。」
「駄目です、それじゃあ。師匠さんがっかりします。
もしかしたら夾君に後を継いでもらいたいと思っているかもですよ。」
「ハイハイ、考えとく。」
「・・・そんな茶化さないでください・・。」
透の顔から笑みが消えた。
「そんなんじゃない。ただ、お前がそんなことばかり言うから・・。
オレのことはいいんだよ。ちゃんと考えてる。どうするのか・・・、どうなるのか・・。
それに俺は今をすごく大事に思ってる。それじゃ駄目なのか?」
「ごめんなさい・・すみません・・。」
透の目から涙がボロボロこぼれるのを見て、夾は素直になれなくなってしまった。
繋いでいた手を離してさっさと歩く夾。
透はすごく孤独な気持になってしまった。
夾はいつかいなくなってしまうかもしれない・・。今だってどんどん離れていっている。
“また私は置いていかれるのかな??お父さんも・・お母さんも・・・私から離れていく”
絶えられなくなった透は自分から逃げ出してしまった。
「おいっ透っ!どこ行くんだよ!透っ!!」
どれくらい走っただろう。真っ暗な中、悲しくて夢中で走った。
「あ、あれ??ここは何処でしょう??真っ暗で分からなくなってしまいました・・」
何処かわからなくなって、我に返る透。
すると、街灯に照らされた人影・・
“だ、誰でしょう??どうしよう!”
「あれ??本田さん?どうしたの?こんな暗い中一人で・・・夾は?」
「ゆ、由希君??どうして???」
「新年の一番最初に神様にお願いをしてこようかなって・・・
・・・本田さん、どうしたの目が腫れてる。何かあった?」
「い、いえ、何でもないんですよ!暗いのが恐くて恐ろしくて泣いてしまったのです!」
「そう、ならいいけど・・。夾はいないの?」
「い、いえ・・あの・・・えっと・・神社に行く途中で夾君とははぐれてしまったのです・・・」
「そうなんだ、じゃあ、一緒に神社に行く?」
「いえ・・・やっぱり私は明日にします。由希君は行ってらしてください!」
「こんな暗い中一人で帰せないよ・・。師範の家まで送るよ。」
「だ、大丈夫です!由希君はお参りに行ってらして下さい!それでは・・」
「本田さん・・・そっちは師範の家じゃないよ・・。」
「・・・・・」
「送るよ。イイよね?」
「すみません・・・」
「本当に神社に行かなくていいの?夾心配してるんじゃないかな。
それに本当に暗くて恐くなって泣いてたの?」
「あ、あの・・」
言った瞬間、透の目は涙でいっぱいになった。
「大丈夫??本田さん。俺でよかったら何でも言って。」
「・・・・優しいです、由希君は・・。私は自分の事ばっかりで・・
私は・・夾君を傷つけてしまいました・・。」
透のひと通りの話を聞いた由希は
「本田さんの言ってる事は間違ってないよ。あいつがしっかりしてないだけ。
心配しなくても向こうから謝ってくるよ。」
「でも・・・私は夾君には諦めてほしくはないんです。これからのこと・・・・」
由希は夾の幽閉の事を知らないかもしれない。透は由希にこれ以上言えなかった。
由希は透がすごく傷ついているのを見てやり切れなくなった。
「そうだ・・ここ寒いし良かったらもう少し付き合うよ。今夾と会いたくないんだろ?
草摩家で良かったら・・・誰にも見つからないようにしなきゃいけないけど。
秘密の部屋があるんだ。おいで」
「ゆ、由希君??」
透は由希に手を連れられて走っていった。
―草摩家
「そっとね・・バレると大変だし。」
「大丈夫でしょうか・・」
秘密の出入り口から入り、こそこそ歩く二人。
ガヤガヤしている場所からだんだん人気のない離れの部屋にたどり着いた。
そこは真っ暗ながら、月明かりが障子戸を通してほのかに部屋を照らしていた。
「灯りをつけると見つかるかもしれないし・・でも今日はここを通るものはいないから大丈夫だよ。」
「ご迷惑を・・かけてしまいました・・」
落ち込んでいる透を見ていると由希はやっぱり透が愛しくなってきた。
“なんで夾は透を傷つけるんだろう。俺だったらそんな事しないのに・・。
夾と透を応援しようと思っていたのに・・・“
そのとき・・
由希は優しく透を見つめたかと思うと、透の顎をくっと引き上げ優しくキスをした。
「ゆ、由希君!」
透はものすごく驚いて目を見開いている。
「ゴメン・・本田さん。突然こんな・・。でも俺・・・」
由希の両手が透の頬を包みもう一度引き寄せて熱いキスをした。
すると、透の胸の辺りがすごく苦しくなった。そして頭に浮かんだのが
・・・・・・夾君?!
「由希君、駄目です!!・・・夾君!! 」
ハッとする二人。
透はやっと気がついたのだ。自分は夾が好きだという事を・・・
ずっと前から胸につかえていた思い。こんな形で気がつくなんて・・・
由希は切ない笑みを浮かべながら話し始めた。
「俺・・知ってるよ・・本田さんが夾を好きな事。でもいいんだ。
俺・・今、本田さんがすごく愛しく思えて・・自分に正直になりたい。
本田さんをすごく好きだと思えた事。この気持を大事にしたい。」
“ずっとお母さんのように思っていたと思っていたけど・・・
そうじゃなかった。やっぱり俺は本田さんが好きなんだ。“
由希も自分の気持に気がついたのだ。
透は由希の熱い思いを聞いて心が揺さぶられた。
見つめ合う二人。透もこの甘い雰囲気に完璧に呑まれてしまった。
二人は引き寄せられるように熱いキスをした。
由希とこうなって気付いた自分の気持。自分は夾が好きだったんだ・・と。
でも由希の深い思いも知ってしまって透は腰が抜けたように立ち上がることが出来ない。
本田さん・・いや、透って呼ばせて・・・透・・・好きだよ・・愛してる・・」
透の髪を撫でながら優しくキスをする。
「透・・・・かわいい・・」
髪を撫でていたその手はやがて透の胸に・・
「ゆ・・由希君??駄目ですこんなっ!・・・・ええっ???・・」
由希はそっと服の上から透の胸を探り撫でるように揉みはじめる。
やがて服の下に手をやり、ブラのホックを外す。
由希の手に収まるような透のかわいい胸。優しく、時に荒く揉みあげる。
“由希君と・・・・私が??・・これは夢???私はどうなってしまうの??”
由希に愛撫されながら色んなことを考えてしまう透。
由希は透の服を一枚一枚脱がせる。透の上半身があらわになっていった。
透は両腕で胸を隠すが、由希は優しく「見せて・・」と透の腕を下ろしてあげた。
ほのかな月明かりが透の細いからだを照らす。
「透の体・・・・きれいだな・・」
やがて由希は透の胸に顔を埋める。
由希は舌の先でつんと固くなった透の乳首を愛しそうに舐めてあげた。
そしてもう片方の乳首は由希の指先で優しく苛められていた。つまんだり・・転がしたり・・。
また、由希は大きな口を開けて透の乳首をほお張り、吸ってあげたり舌全体で舐め回してあげた。
「いや・・・・やだっ!由希君・・・・っ!」
透の体がビクッ・・・・ビクッと反応する。
“駄目です・・私は夾君が好きなのに・・どうして由希君に体をあずけてしまうのか・・”
やがて透の下半身に由希の手が延びる。
「あっ・・由希君・・いやっ・・あっ!」
「透・・・好きだよ。こんな俺でも・・・感じてくれて・・うれしい・・。」
由希は透の濡れた恥部を指でなぞる。すると簡単に指が入ってしまった。
出したり入れたり・・・由希はそれを繰り返す。
そして由希は指を小刻みに動かしはじめた。
クチャクチャクチャ・・・・
すると透の体に“ビリリリッ”と何かが走った。
「いやああああっ!」
透の体が一瞬浮き上がった。由希を体全体で拒否した。
「どうしたの??大丈夫?ごめん・・・・もう少しだけ・・。」
由希はなおもやめようとしない。
「・・やっ!駄目です、駄目なんです、由希君!!もうこれ以上は・・・」
由希は透のスカートの中の下着を下ろして、透の股間に顔を埋めた。
恥部からは透の愛らしいジュースが溢れている。
・・・チュ・・クチュチュチュ・・・ピチャピチャ・・
由希は透の茂みの中にある秘部を両手で全開に開いてあげて、
舌先でたまにクリトリスを刺激しながら透の綺麗な花びらも全て丁寧に丁寧に舐めてあげた。
「や・・・やだ・・・・んっ・・んんっ・・・由希君・・お願い・・・いやぁぁあっ・・・」
透の必死の抵抗といやらしい音だけが部屋に響いていた。
“由希君は酷いです・・私は・・恥ずかしい・・・私は一体何をされているの??”
すっかりと力が抜けて、たまにやってくるあの感覚に身を任せはじめた。
「あ・・・・あの・・由希君・・先ほどから何かすごく・・感じたことのない感覚が・・
来るんです・・あっ・・!またっ・・やだ・・怖い・・怖いんですっ!・・ひっ・・・やっ・・」
「本田さん・・・大丈夫、怖くないよ・・体が反応してるんだ。
俺たち・・いますごく愛し合ってるんだよ・・・」
“私は・・・・ホントに?”
「・・・愛しあって・・・る・・??」
透は怖かった。体全体に電気が走るようなあの震えるような感覚。
でも・・・なぜかまたあの感覚が欲しいと・・頭の天辺から足の指の先まで感じるあの感覚を・・・
「由希君・・由希くううん・・・はああっ・・・んん・・ん」
すると由希のモノが透の中へ入っていく。
「えっ!・・あっ・・イタッ!」
「大丈夫?・・初めてだと痛いかもしれない。
・・ほら・・・もう大丈夫。もう痛くないだろ?・・俺たち、ひとつになってるんだ。」
“・・・・・ほんとです・・痛くありません・・・不思議です・・今私は由希君と一つになっているなんて・・・
透はほっとした。
由希はゆっくりと腰を動かす。すると透にまた、“あの”感覚がきた。
「ああああっ!由希君・・また来・・・!怖い・・怖い!やだあ・・・っ!!」
体全体で悶え苦しむ透。
「落ち着いて、本田さん。大丈夫。だんだん気持ちがよくなるから。頭の中が真っ白になるくらい・・・」
由希はあくまでも透をいたわりながら優しく優しく胸を愛撫し、腰を動かす。
身も捩れるほどの感覚。これがほんとに快感に変わるのか?絶頂の手前にいた透は
未知の世界に足を踏み入れていた。
由希はだんだんと禿しく腰を動かした。
「いやああああ!怖い、怖い・・頭が・・どうにかなってしまいそう!・・怖い!!」
今の透はどこを触ってもものすごく感じてしまうのだ。
「・・ハア・・ハア・・・大丈夫・・大丈夫・・だよ・・もう少しだから・・」
透も由希ももう絶頂にいた。
透は頭が真っ白になっていて自分がどうなっているのか分かっていない。
「透・・・透・・!愛してるから・・いくよ・・いい?」
透に由希の声は聞こえない・・もう何も分からない。
ただただ、この熱い感覚に身を任せていた。
この感覚から早く開放されたいような・・・そうでないような不思議な感覚。
「由希くん・・・・・由希くん!!」
「透っ・・透っ・・・っう・・・・・ハァァ・・・本田さん・・・・大丈夫・・・?」
「う・・っ、うっ・・」
透の目から涙が溢れ出る。
「・・・・由希君・・由希君・・・」
由希の腕をガクガク震えながら掴む透。
「ごめん・・・俺も初めてだから・・
本田さんのことちゃんと考えてあげられなかった・・泣かないで・・・。」
「いえ・・いえ・・っ」
透は涙が止まらない。透がしばらくして落ち着いてから、
「本田さんを本当は好きだった事がうれしくて・・俺の気持が止まらなくなったんだ。
本田さんの気持は無視してしまったけど、俺はもうこの気持ち誰にもは遠慮しない。
自分に正直でいたいって・・・・
本田さん・・いや、透のこと・・ホントに大好きだ。」
透はこんなに由希に思われて素直にうれしかった。突然こんなことになったけど
ずっと自分の事を優しく優しく愛してくれた由希を透もいとおしく思った。
「私は・・・・どうしたらいいですか?どうしたら・・
由希くんの気持うれしいのに・・・・どうしたら・・・」
「本田さんは本田さんのままで・・このままの透で・・・。
答えは焦らないよ。でも俺はあきらめないから、そのつもりでいて。」
ちょっとずつ落ち着いた透。二人は手を取り合って、笑みを浮かべた。
まだ夜明けにはほど遠いが、かなり時間は経っていた。
「師範の家へ送るよ。みんな心配してると思うし・・。」
「私・・・夾君の顔見れません・・・・」
透は由希にすがるように服を掴んでいる。
「本田さんに重いものを背をわせたよね。ほんとごめん。夾とは普通にしてればいいんだよ。
でも、もう俺は今までの俺じゃないよ。分かってくれたよね?」
「・・・・ハイ」
二人はそっと草摩家を後にした。
―藉真宅
「こんばんは・・・由希です。本田さんを・・・」
藉真と夾が慌てて玄関に来る。
「透!何処行ってたんだよ!心配しただろ!由希、お前がどうして・・・?」
ビクッとする透。
「神社に行く途中であったんだ。夾・・・お前」
「・・・・・・」
由希と透が一緒だったことに、夾は言葉にならない。
「・・・悪かったね、由希。透さん、大丈夫でしたか?さあ、中に入って。」
「あの・・私・・」
「透・・俺のせいだな・・ごめん。俺・・・」
藉真は微妙な空気を察して、
「夾、お前はもう休みなさい。今は話辛いだろう?透さんもその方がいいでしょう?」
「あ、あの・・・・」
透は夾の目を見る事が出来ない。
夾は透をすごく傷つけた事を改めて思い知り、肩を落とし「ゴメンな」と言ってそっと部屋に戻っていった。
「由希、本当にありがとう。今日はこのままここに泊まるかい?」
「いえ、俺は帰ります。本家でいろいろありますから。
本田さん、それじゃあまた。おやすみ・・。それでは失礼します。」
「お休みなさい・・。」
藉真と透が二人。
「透さん、夾から聞きました。私が二人で初詣に行かせてしまったから・・
嫌な思いをさせました。申し訳ありません。」
「そんなこと言わないで下さい。私が焦ってしまって・・夾君の事傷つけてしまいました。」
「・・あの子はまだ・・答えが出せないでいるのです。でも大切なモノを失って気付くこともある。
あの子の試練の時なんです。待ちましょう。夾の答えを。」
「はい・・でも私・・明日からどうやって夾君と顔を会わせたらよいのでしょうか・・」
「普通でいいんですよ。アレは素直じゃないところがあるから周りが普通にしてやらないと・・
困ったものですねえ。」
藉真は困ったもんだという風に笑った。
「分かりました。今日はこんな遅くまでご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。
・・・それではお休みなさいです、師匠さん。」
「お休みなさい、透さん。」
―元旦昼近く
みんな遅くに寝たものだから透以外は今ごろやっと起きてきた。
透が用意したお雑煮や簡単なお節が並んでいる。
「おはようございます・・師匠さん、夾・・君」
夾は気まずかったが、透が普通にしてくれたから昨日のことを謝った。
「透、昨日はごめんな。俺が悪かった。」
透は普通にしているつもりなのに夾の目が見れない。
「いえ・・大丈夫です・・。お雑煮はお食べになられますか?」
「ああ・・。」
今までと違う微妙な空気。仲直りはしたのにいつもとは違っていた。
正月も三日が過ぎ、由希も紫呉も自宅へ戻り、夾や透も藉真宅から帰ってきた。
透と夾の微妙な雰囲気も相変わらずだった。
透は由希がいるからほっとした。夾といるのは何となく辛くて、ついつい由希の方へいってしまう。
夾はそれが面白くなかった。
「本田さん、その・・その後夾とはどうなった?」
「え、えと・・・大丈夫ですよ・・は、はい・・。」
夾とは相変わらずなのは見てすぐ分かる。由希は自分が出来る事を考えた。
―夾の部屋
「夾、話があるんだ。いいだろ?」
「・・・・・。」
夾は返事はしないが、由希の話に耳を傾ける。
「・・・俺本田さんが好きだよ。彼女には・・・俺の気持・・伝えたよ。」
「・・・・・・え?」
衝撃を隠せない夾だったが・・
「・・そうか・・・いんじゃねえか?」
「・・・・・・お前も本田さんのこと好きだと思ってたけど・・」
「俺は誰も好きにならないよ。誰も。」
自分にいい聞かせるように夾は言った。
「・・・そう・・、なら彼女に思わせぶりな態度はやめた方がいいと思う。いつかお前が
・・いなくなったら、彼女はどう思うと思う?」
由希は少し強い口調で夾に詰寄る。
「思わせぶり??何なんだよ一体!俺がいつそんなっ・・・!」
「・・・・お前って・・ずっと変わらないんだな。・・・お前がそれでいいんなら俺は別に関係ないよ。
俺・・本田さんのこと本気だよ。お前に遠慮もしない。」
「・・・・・ああ。」
由希は夾の部屋を出ていった。
夾は悲しくなった。由希がうらやましかった。自分はもう全てを受け入れるつもりでいたのに。
ただ残された時間そばに居たいと思っていただけのはずなのに・・。
煮え切らない自分。
透と由希は二人で買い物に行った。
透も夾といるよりも由希といる方が心が安らいだ。
「俺・・本田さんのことずっと透って呼びたかったんだ・・。あの時呼んでたのに・・
変だよね。また本田さんに戻ってるよ、俺。」
あのときの事を思い出して、カァーっとなる二人。
「い、いえ・・“透”って呼んでくださってもいいのですよ? 」
「う、うん・・。あのさあ、透・・。あの時も言ったけど・・・
俺のこといきなり考えなくていいんだ。。夾のこともあるし。
俺の勝手でこの気持大切にしたいって・・透は正直にいてくれればいいから・・」
透は思った。“由希君ははなんて優しいんだろう・・”と。
由希といるときの安心感のようなものがとても心地よかった。
「はい・・私・・・由希君のこと真剣に考えます・・。」
透はカァーっとなりながらも二人は微笑みながらお互いの顔を見合わせた。
新学期も始まって数日が過ぎ、由希と透は一緒に登校するが夾は一緒に登校しなくなっていた。
普通の必要な会話はするのにそれ以上の話が出来ない。透と夾は相変わらずだった。
楽羅が紫呉の家へ来た。楽羅は夾とあれ以来特に顔を会わせる事もなかったのだが、
思い切って遊びにきたのだ。
「しーちゃんっ!、お正月はご苦労様でしたっ!夾君は?ゆんちゃんや透君は??」
「夾君は道場かなあ。由希君と透君はまだ帰ってきてないよ。
それより正月以来夾君と透君の様子がおかしいんだよ。
あの二人仲よかったのに今はほとんど喋ってないんだよね・・。」
「え・・どうして・・?何かあったの?」
「いや?分かんないけど・・どうして?」
「う、ううん。何でもない。」
―道場
「いたいた!きょうーくーん!久しぶり!しーちゃんに聞いてここに来たんだよ!」
「楽羅・・??あ、ああ・・。久しぶりだな。元気・・だったか?」
「私は元気だよォ!夾君・・・・?なんだか落ち着いちゃった感じだね・・。」
「はあ?なんだよそれ。」
夾は苦笑いをする。
「なんか元気ない感じ。透君と・・・なんかあった?」
「何で透が??何もねえよ。お前に関係ない。」
スパッと言う夾。楽羅は胸が苦しかった。
「そうだよね!関係ないか・・!でも・・夾君なんか淋しそうだよ?」
「・・・・・・」
二人に沈黙が続く。
楽羅は夾の顔をじっと見つめた。
すると―
楽羅は思い切って夾の頬を両手で引き寄せてキスをした。
「楽羅!お前っ!」
突き放そうとする夾。
「突き放さないでっっ!!」
楽羅は夾の胸に飛び込んだ。
「俺はお前を好きじゃないんだ・・駄目だ・・こんな事。」
顔を背けたままの夾。
「分かってる。私馬鹿だよね。夾君に好かれてもないのにこんな・・。
だけど・・私の精一杯の勇気なの。だって夾君にもっと嫌われるかと思うとホントは怖いんだよ?
それに・・今の夾君・・見てられないの・・」
夾は楽羅を突き放す事が出来なかった。楽羅はガクガク震えていたから。
「夾君・・透君のこと好きなんでしょ?」
「俺は誰も“好き”にならない。楽羅も・・透も・・・。」
「嘘だよ!夾君嘘ついてる。目が違うって言ってる・・・・。」
楽羅は夾の手を掴みその手を自分の胸にやった。
「おいっ!」
夾はすごくドキドキした。女の子の胸を服の上からとはいえ初めて触れたから。
楽羅の胸のドッキン、ドッキンというものすごく力強い鼓動が夾の手に伝わる。
「私の胸・・ドキドキしてるでしょ?ホントはいっぱいいっぱいなんだよ。
夾君にもっと嫌がられるんじゃないかって・・怖くて怖くて・・。」
楽羅の目から潤んだものが見えた。
その目を見たら楽羅の精一杯の思いが伝わって・・・
“俺がハッキリしないから・・楽羅にまでこんな思いを・・こんなことまでさせてしまって・・・
ゴメン楽羅・・ゴメンな・・。“
夾は楽羅を思いっきり抱きしめた。そして楽羅の肩に手をやり
夾は精一杯のキスを楽羅にした。
「夾・・・・くん?」
下を向いたままの夾。楽羅の目を見る事は出来なかったけど・・
「ありがとう・・・楽羅・・。俺・・みんなに心配してもらってるんだな。
俺・・・自分さえいなくなればそれでいいって思ってた。
楽羅の勇気・・伝わったよ。こんなことして・・軽薄かもしれないけど・・俺の精一杯の・・
ありがとう・・ありがとう、楽羅。」
「ふふ、夾くんが元気になってくれないと・・私心配でまたこんなことしちゃうよ!
夾君困るでしょ??」
いたずらっぽく笑う楽羅。夾は楽羅が無理してくれている事は充分に分かっていた。
「ちゃんと透君と仲直りしなくちゃ!ね?透君の所に行って。」
「・・あ、ああ。楽羅、俺・・」
「いいから!」
楽羅は夾の背中を押した。そして夾は道場を後にして走って去っていった。
「頑張ったね、楽羅。」
紫呉だった。
楽羅が道場に行くだろうと思って様子を見に来ていたのだ。
「しーちゃん・・・いたんだ・・・。
これで・・これで良かったのかなあ?私・・私・・」
楽羅は目にいっぱいの涙を溜めた・
紫呉は楽羅を優しく抱き寄せた。
「偉かったね。楽羅。君はすごくかわいい女の子だよ。」
「しーちゃん!・・・・しーちゃん・・・っ!」
紫呉の胸でずっと・・・涙が止まらない楽羅だった。
道場からそのまま走ってきた夾。
楽羅からの勇気を無駄にする訳にはいかなくて・・・
すぐに透を探す。台所に透と由希がいた。
「透!」
「きょ、夾君??」
「由希・・悪いけど、ちょっと透を借りる。」
「俺に聞かなくても・・行ってきなよ、透。」
「は、はい・・。」
「・・後でお前にも話がある。」
「・・・ああ。」
由希は夾の話が何であるか何となく分かった。
―近くの公園
「透・・ごめんな・・こんな俺で・・。心配ばっかりかけて・・。
俺は・・・ずっとずっと前から思ってた。好きだよ・・・俺・・お前が好きだよ。」
「夾君・・・。」
「由希もお前が好きだって聞いた。透を困らせたくはないけど・・
自分の為にも・・俺を心配してくれる人の為にも・・。草摩のこと、答えはどう出るのかまだ分からないけど・・」
透は夾が将来の答えを少し出してくれた事がうれしかった。
「私・・うれしいです。夾君が少しでも答えを出そうとしてくれてること。
夾君の私への気持・・嬉しいです・・私も・・考えます・・・お二人の事を。
由希君も夾君も私には充分すぎるほどの気持を下さって・・私は本当に幸せ者です・・。」
透の涙が止まらない。夾は服の袖で透の涙を拭いてやった。
「ホンッとに泣き虫だよなあ。透は。」
「あはは・・・」
「帰ろうか。」
「はい・・。」
二人は手を繋いで家へ帰った。
―紫呉宅
夾は由希を庭へ呼び出した。
「俺・・透が好きだ。お前には遅れを取ったけど・・。
やっと・・目が冷めた気がする。俺もこれからの事逃げずに考えたい。
不覚にもお前のお陰だ。・・・・・借りができたな。」
「ああ。その借りはいつか返してもらう。俺も本田さんのこと・・透のこと諦めないから。
・・・・お前とはやっと同じところに立った気がする。
「・・・・・・だな」
二人はお互い目を合わせてニヤリと微笑んだ。
―翌日
「透、時間だよ。学校へ行こう。」
「はい!」
「・・・オレも一緒に行く。」
「夾君!は、はい!」
「・・一緒に行くんだ・・フーン・・」
「何だよ!駄目なのかよ!」
「別に〜。透、こんなのと一緒になったら大変だよ。気分屋で、気ィばっかりつかってなきゃいけないよ。」
「何だとォ、コラァ!!透っ!こいつこそ、いっつもしれーッとしてツマンねえヤツだぞ!!」
「何だと!」
「何だよ!」
久しぶりに二人の喧嘩。透は二人を優しい眼差しで見守りながら、
「由希君、夾君!学校遅れますよ!」
「うん。」「ああ。」
三人は仲良く学校へ向かった。
終わり。