(何でだよ…。)  
 
撥春は苛立っていた。  
『君もういらないから。飽きちゃったから。』  
リンの別れの言葉が頭の中で反芻している。  
リンが大怪我をしたと聞いて慌てて病院に行くとそこで告げられた言葉。  
後は何を言おうが何を訊こうが答えてはくれなかった。  
撥春にはリンの真意が掴めなかった。  
それが一段と苛立ちを募らせた。  
 
(くそっ!)  
 
自分の中のどす黒い部分がもわもやと湧きあがる。  
よくない兆候だ…。  
感情を抑えつけるのもかったるい。  
怒りのままにそこらの奴を殴り倒して…。  
 
「撥春のお兄ちゃん…っ。」  
不意に自分の名前を呼ばれた気がして思考は中断された。  
「撥春のお兄ちゃん…っ。」  
今度は確かに聞こえた。  
撥春が声のした方向を見ると金髪の可愛らしい少女が嬉しそうに駆け寄って来ていた。  
「杞紗…。」  
「おかえりなさい…っ。」  
杞紗と呼ばれた少女は息を切らせながらも笑顔で撥春を迎えた。  
「ただいま…。学校の帰り?」  
「うん…。」  
杞紗の家は自分と同じ『内』だ。  
どちらが言うわけでもなく自然と2人は並んで歩き始めた。  
 
帰る間2人は特に会話らしい会話はしなかった。  
だが息苦しい沈黙ではなかった。  
考えてみれば自分とこの少女との関係は奇妙なものだ。  
従姉妹であり実の妹のように身近に感じたり愛玩動物のように愛しく感じたり…。  
自分の胸元くらいしかない小柄な少女を眺めながら考えることなしに考えていた。  
杞紗は撥春の視線には気付かず公園で遊んでいる子供たちを眺めていた。  
 
トクン  
 
突然それは『来た』。  
(まずい!)  
撥春は焦った。自分の中のもう一人の『自分』。  
杞紗の呼びかけで中断されていたどす黒い感情が急激に沸き起こる。  
 
トクン  
(いけない!今ここでブラックになったら一番近くにいる杞紗が…)  
 
ドクン  
「……杞紗…。」  
「…?」  
名前を呼ばれた杞紗は不思議そうに撥春の方を見た。  
「うちでゲームしない?」  
「うん…っ。」  
撥春の呼びかけに笑顔で答える杞紗。  
 
「おじゃまします…。」  
「今誰もいないからな。上がれよ。」  
「うん…。」  
杞紗はそのまま2階の撥春の部屋に案内された。  
普段テレビゲームはしない杞紗はどういったゲームなのかよく分からない。  
車を運転するゲームらしいが操作が難しくあちらこちらに車をぶつけていた。  
 
「…?」  
不意に撥春が杞紗の髪を撫でた。  
杞紗の柔らかく綺麗な髪は引っ掛かることなく流れ次は頬を撫で始めた。  
最初は不思議そうな顔をしていた杞紗だがすぐに笑顔で撥春に軽く体重を乗せた。  
撥春は肩に寄りかかっている杞紗の頭を何度も優しく撫でていた。  
傍から見れば仲の良い兄妹のように見えるだろう。  
実際杞紗は『そういった感情で』撥春のことが大好きだった。  
 
「…っ。」  
今まで安心して撥春に身を預けていた杞紗が急に身を堅くした。  
撥春の手が自分の太ももを撫で始めたのだ。  
それでも撥春を信頼してる杞紗は何も言わず撥春の手の動きを見ていた。  
だが撥春の指の動きは収まるどころか太ももの付け根あたりまで深く進入してきた。  
「あ、あのお兄ちゃん…?。」  
撥春の指が自分の下着に触れるのを感じて杞紗はようやく抵抗の声を出した。  
だが撥春は無言のまま下着のゴムを弾いた。  
「や…やぁ…っ。」  
ここにきて杞紗ははっきりと抵抗した。  
撥春の手を取り慌てて立ち上がろうとする。  
撥春は立ち上がろうとしていた中腰の杞紗に腕を回しそのまま押し倒した。  
「やぁ…っ。やぁ…っ。」  
床に倒され撥春に馬乗りにされた杞紗は恐怖を感じた。  
 
普段は大人しい彼女が足をばたつかせ腕を振り回した。  
  ガッ  
「っつ…っ。」  
偶然杞紗の振り回した左腕が撥春の頬に当たった。  
「ぁ…ご、ごめんなさ…」  
反射的に謝ろうとする杞紗の左腕を取り撥春は自分の腕と絡めた。  
(何を…)  
一瞬疑問が起こったが  
 
 ボクン  
 
鈍い音がして杞紗の肩が制服の上でも分かるくらいに不自然に盛り上がった。  
「ああああああああああああああああ!!!!!!!!」  
初めて聞く杞紗の絶叫。肩の関節が外されたのだ。  
「痛い痛い痛い痛いいいいいいい!!!!」  
普段の彼女からは想像できないような叫び声をあげる杞紗。  
(マズイな…声が外に漏れる…。)  
撥春はゆっくりと自分の拳を持ち上げた。  
 
(お兄ちゃんの手…)  
『やっと声、聴けた…』そう言って優しく抱きしめてくれたお兄ちゃんの手…。  
(あったかい…)  
撥春の腕の中で安心できたあの時…。  
その手が拳を創り自分の顔に向かって。  
拳はひどくゆっくりと見えて…  
 
 ガンッ!!  
 
部屋に鈍い音が響いた。  
 
撥春が杞紗を殴りつけた。杞紗の鼻から大量の血が噴き出す。  
(もう一発いっとくか…?)  
撥春は再び腕を振り上げるが放心状態の杞紗を見てその必要はないと考えた。  
目の焦点が合っていない。殴りつけた時床に後頭部を打ちつけたか?  
(出血が多いな)(制服が鼻血で真っ赤だ)  
(鼻折れた?)(ごまかせるか?)  
(腹を殴っておけば)(写真をとっておどせば)  
(制服はどこで処分する?)(男とぶつかって変身したことに)  
放心状態の杞紗の制服を脱がしている間様々な疑問が沸き起こる。  
だが不思議と杞紗にやったことに対する後悔はなかった。  
(俺が家出した杞紗を見つけたんだ)  
(俺が見つけないと本田透にも杞紗は会えなかった)  
(あの日以降の杞紗の人生は俺が与えたモノだ)  
(コイツをどうしようと俺の勝手だ)  
そんなことを考えるうちに杞紗の衣服は全て剥ぎ取られた。  
全裸で横たわる杞紗は自分を見ていない。天井を眺めているようだ。  
出血はまだ止まっていない。  
血まみれの杞紗の顔を見て撥春は自分の股間が熱くなるのを感じた。  
 
終わり  
 

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