この娘の、縋ってくるような目は、嫌いじゃない。
紫呉は、襖を開けて凛と立つ依鈴を眺め、ぼんやりそう思った。
依鈴は秀麗な目元をきつく歪ませ、座っている紫呉を見下ろしてきている。
「ぐれ兄」
ぽつりと呼びかけてきた声には、有無を言わせぬ強さと、そして
突けば崩れそうな脆さが滲んでいた。
この切羽詰まったような、いつでも必死そうな声音も、紫呉はまた
気に入っている。
依鈴は、繰り返した。
「ぐれ兄」
にっこり笑って、答えてやる。
「何かな、リン」
依鈴は後ろ手で襖を閉め、こちらへ近づいて来た。
紫呉のすぐ脇に、膝をつく。
「あたしは、構わない」
そう言って、まっすぐに視線を向けて来た。
紫呉は片眉を上げて見せる。
「何がだい?」
「モノでも」
端的な返事が、ほんの少しの紫呉の熱を、じわりと沸かせる。
依鈴は長い腕をすらりと伸ばし、紫呉の首へと回して来た。
「モノでも、構わない。あたしにはもう、ぐれ兄しかいないから」