うららかな春の日差しの中。
彼女はベランダで楽しそうに洗濯物を干す。
俺はそれを、ただ窓越しに見ているだけだった。
触れてはならない。
愛してはいけない。
ガラス越しの彼女にそっと手を伸ばしてみる。
(−−−−透。)
ただ、心の中で、彼女の名前を呼ぶことしか出来なかった。
ガラッ。
ベランダから彼女が戻ってきた。
「終わりましたー!今日もいいお天気で良かったのです!」
空っぽになった洗濯籠を置き、額の汗を拭っていた。
白いシャツも少し汗が滲み、下着の線がうっすらと見えていた。
自分の中で、熱い何かが込み上げてくるのがわかった。
「・・・おい。」
「はいっ!あ、夾くん!いつから其処にいらしたのですか!?」
「ついさっきだよ。それより、見えてんぞ。」
指を指した方向へと視線が行く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!こ、これは大変お見苦しいものを!申し訳ないです!
セクシャルハラスメントになってしまうのでしょうか!今すぐ見えないように致します!
えっと、どうしたら良いのでしょう・・・ここは脱いでしまったほうが!」
ぬぎっ。
何を考えたのか、彼女は白いシャツを脱ぎだしてしまった。
中に見えるのはレースの施された白いブラ・・・。
・・・って。
「待て!透!脱いでどうするんだ!!!!」
普通、それなら上に羽織るだろうとツッコミを入れたい衝動を抑え、彼女の服を戻そうとする。
だが。
「ももももも、申し訳ありません!こんな体を見せられても夾くんは困惑されてしまうというか・・・
胸が小さくて申し訳が無いのです!」
「だーーー!!!そんなのどうでもいいから、脱ぐなーー!!!」
もみあっているうちに、段々とバランスは崩れてしまい。
ぐらっ。
彼女の手をつかんだまま俺は床に倒れこんでしまった。
無論、倒れこんでしまった時には、俺は猫の姿になっていた。
彼女はというと、うつぶせになったままだ。
「・・・透?」
「も、申し訳なさすぎるのです・・・お母さん、私は何をしているのでしょう・・・。」
「おい、透。」
心配になり、顔のほうへ歩いてゆくと。
床に、ぽたりと涙が落ちていた。
「こんなものを見せられて、夾くんは何を思ったのでしょう・・・つまらないものをお見せしてしまいました。
これは2年前にセールで買ってしまった安物なのです・・・・!!!
せめて、せめてうおちゃんたちと買いに行った可愛らしい下着なら・・・・!!!!!!」
そういう問題でも無いと思うが(冷静なツッコミ)。
「阿呆、別に下着なんか気にしねぇよ。どうでもいいから、早く服着ろ。」
頭をぽんぽんと叩いて、彼女を促してやる。
どうして、こいつは論点がずれているんだろう。
まぁ、今更だが。
「・・・気にして・・・しまうのです・・・・・。」
床から起き上がりながら、ぽつりと呟く。
「え?」
「・・・・・・・可愛くない下着は、見て欲しくなかったのです・・・夾くんには。」
涙ながらに、彼女は小さな声で語った。
「やっぱり・・・夾くんには、可愛らしい下着を見てもらいたいのです。
何故だかわかりませんが・・・見栄というやつなのでしょうか。
見てもらいたいというのは痴女さんになってしまうかもしれません・・・。
でも、でも。
好きな方に見てもらうなら、可愛らしい下着のが良いのです・・・・・。」
くすん、と鼻を鳴らし涙を拭う。
好きな、方って。。。
俺の体の中で、ドクンという鼓動の音が聞こえた。
急激に脈が速くなる。
「おい、透。お前・・・。」
「え、あ、好きな方は皆さんですよ!?由希くんも、紫呉さんも、はとりさんも綾女さんも!
・・・・夾くんも・・・・。」
何故だか、急に声が小さくなる。
それは俺を前にしているからなのか、それとも。
「・・・好き、なのです。」
びくん。
紅色に頬を染めた彼女が、物凄く可愛く、いとおしく感じた。
・・・やばい。
俺はどうかしてしまっているのではないか。
彼女をいとおしいと感じてしまった瞬間から・・・なんだ。
あの、下半身が。
「う・・・。」
「夾くん?ど、どうなされたんですか?」
彼女が俺を覗き込んでくる。
そうすると、丁度開いたブラウスの隙間から谷間が覗けてしまう。
「ちょっ・・・・ちょっと待ってくれ!後ろ向いてくれ!な!」
隠そうとするも、彼女はどうしたのかと覗いてくる。
「夾くん、具合でも悪くなってしまったのですか!?はっ、まさか私の下着姿なんぞをご覧になって
具合を悪くされてしまったのでは!?ど、どうしましょう・・・・!!」
真正面に見える、柔肌の丘がふたつ。
俺の理性は、0.00000001秒でブチ切れることになる。
触れたい。
触れたい。
ずっと、触れる時を待っていた。
彼女が俺のことを思ってくれてなくてもいい。
あとで罰なんていくらでも受けてやる。
だから。
今だけ。
ぼんっ。
手を伸ばしたと同時に、俺の姿が人間に戻る。
彼女の頬に手をかけ、そっと唇を重ねた。
「きょっ・・・夾く・・・んぐっ。」
唇を無理やり開かせ、舌を捻じ込む。
温かい口内を貪り尽くす。
「透・・・・・・好きだ。好きなんだ・・・。」
口付けをするたびに、繰り返すうわ言。
いつのまにか、彼女も目を閉じ、受け入れるようになっていた。