草摩本家。率直に言って途轍もなく巨大な日本家屋である。いや、むしろ城と言った方が正しい
実際天守閣こそ無い物の、いくつもの家屋が建ち並ぶ本家の敷地内だけで一族が50人も暮らしているのだ。
草摩神楽の私室も無論本家の中にあった。
元々見た目が幼いのに加えて、自作の猫さんリュックを背負った状態で神楽の年齢を言い当てるのは難しい。
下手をすると本田透と同い年に見えても不思議ではないが、彼女は本田透より2歳年上の短大生なのだ。
彼女の性格は思いこんだら一直線というその矛先を向けられた人物(主に夾)には時として恐怖の対象になりかねない厄介な性格だった。
いま、神楽は草摩本家から少し離れた場所にある草摩紫呉の家の近くにいた。
目的は・・・・夾への夜這いである。
時刻は草木も眠る丑三つ時、早起きする習慣のある夾はとっくの昔に眠っている時間だった。
「うふふ」
神楽の目に人ならざる光が宿っていた
「今日こそ夾君をわたしの物に・・・」
いつもなら紫呉に止められるところだが、真夜中の奇襲となると紫呉も寝ている。
神楽の策略を止める者は誰もいない。
草摩夾は自分の手足がベッドにくくりつけられた状態で目を覚ました。
しかも全身の衣服がはぎ取られ、寝る前につけたはずのクーラーの電源も切れていた。
−なぜ縛られている?
−と言うかなぜ裸?
−何でクーラーが切れてるんだ?
夾の頭を疑問が駆けめぐった。
しばらくして夾があるモノを見つけたとき、夾は原因を理解した。
「かぁ〜ぐぅ〜らぁ〜。お前の仕業か!!!」
「あ、夾君おはよう」
あくまでマイペースな神楽が爽やかに挨拶を返す。
「おはよう。じゃねぇ!てめぇ一体何しようとしてやがる!」
この時点で夾は半分ぶち切れていた。寝込みを襲われて裸にされた揚げ句縛り付けられたのだから無理もないのだが。
「何って・・・ナニに決まってるじゃない」
神楽は頬を紅潮させ、頬に手を当ててイヤイヤのポーズをしながら答えた。
「だからナニって何なんだよ!」
この一言が引き金になった。
「それはねぇ・・・」
と言いながら神楽は背負っていた猫さんリュックを下ろした。
そしておもむろに背中に手を回し、上着のジッパーを下げた。
シュルシュルという微かな衣擦れの音を立てて滑らかな肌をワンピースが滑り落ちていく。
パサッ
床に落ちたワンピースは乾いた音を立てた。
下着だけになった神楽の体を雲の間から顔を出した月が射した。青白い光が神楽の白い肌を一層強調した。
不意に開け放たれた窓から一陣の風が舞い込み、神楽の長いダークブラウンの髪を揺らした。
その美しくも本能を刺激する姿に、女性経験の少ない夾の野生が逆らう術はなかった。
「夾君、もうこんなになってる」
神楽に指摘され、夾の嗜虐心は最高潮に達した。
「う・うるせぇ。お前が・・・その・・・そんな格好するから・・・」
真っ赤になって顔を背ける夾。同時に諦めにも似た感情がわき起こってきた。
「はずせよ」
「え?」
「この手足の拘束外せって言ってるんだよ。これじゃぁお前を抱くことも出来ねぇだろうが」
「え・・・それって・・・」
「何度も言わせるな、恥ずかしいんだからよ」
神楽は驚きと感激で涙を流した。
「なっ・・・なぜ泣く・・・俺なんか変なことでも言ったのか?」
慌てる夾。
「違うの、夾君がやっとそういってくれたのが嬉しくて」
「んったく。お前は行動力があるのか泣き虫なのかどっちかにしろよな」
いつもなら鼻をポリポリ掻きながら言うところだが、夾は未だに縛り付けられたままだった。
「神楽・・・・」
「夾君・・・・」
そしてそのまま二人は口づけを・・・・
ピピピピピピピ
突然、無機質な電子音があたりに響き渡った。
「え、ちょっと、あと少しなのに、夾くぅーーーん」
その叫びも虚しく神楽の目の前から夾はフェードアウトしていくのであった
「ぷはぁ」
草摩本家の自分の部屋で神楽は目を覚ました。
「うーん、まさかあんな夢を見るなんて・・・欲求不満かなぁ」
「そうだ。帰りに夾君のところへ寄っていこうっと」
かくて今日も夾は神楽にボコボコにされるのであった。