「ねぇト−ル。起きて!」
「〜…ん…も、紅葉くんまだ起きていらっしゃったのですか?」
旅館。深夜2時。浅い眠りに入っていた透は、 幼い声に起こされた。
紅葉は布団の上にチョコンと足を崩して正座をする
「あのね、ボクどうしてもト−ルと一緒に露天に入りたくてホントはずっと起きてたの」
「それは…なんとも…」
透は上半身だけを起こし真剣に耳を傾ける
「でもねでもね!ユキとキョ−がダメって言うでしょ?!」
「そ、そうでしたね」
「ト−ルは?」
唐突に質問され透は戸惑う
「ト−ルは…ボクと一緒に入るのは…イヤ?」
紅葉が上目遣いで透に尋ねた
「い、いいえ!そんなことありません!分かりました!今から一緒に露天風呂にゆきましょう!」
コブシを握り気合を入れる透。かくして、夾と由希に気付かれぬようこっそりと二人は露天風呂に向かった。
「え〜と…どうしましょうか」
透が二つののれんを指差す
「ト−ル!こっちこっち♪」
「えっ!でもそちらは…」
露天風呂の前まで来たはいいものの、【男】【女】と書かれたのれんの前で透は立ち止まってしまっしまったのだった。…しかし、紅葉は半ば強引に男湯に引きずり込む。
「ト−ルは男湯に入ったことないでしょ?すっごく広いんだよ!」
「いえ、あの、そういう問題ではなくてですね」
「でねでね!ボクが飛び込んだらユキとキョ−にお湯がバシャ−ッてかかっちゃってね!」
大はしゃぎしながら紅葉が浴衣を脱ぎ始める。
っていうか透の話なぞ耳に入ってなんかなかった。紅葉は下着だけの姿になり、タオルを腰に巻くと下着を脱いだ。それに引換え透はもじもじと浴衣の帯を解き始める。
「も、紅葉くん。先に入っててはいただけませんか?やはり男性の前で服を脱ぐのは少し…」
か細い声でそう言うと透が頬を赤く染めた。聞いちゃいない紅葉は
「ト〜ル早く早く!」
浴衣のソデを引っ張った。…と、緩んだ浴衣の胸元から左の胸が飛び出す。
「…あっ」
透の頭から湯気がボンッと上がった。
「あ、あ、あの紅葉くん…」
透は反射的に胸を腕で隠し、視線を床に落とす
「えっ?あれ?紅葉…くん?」
紅葉がいない。
「うっきゃあ〜!!」
[ザッパ〜ン]
次の瞬間、遠くから温泉に飛び込む音が聞こえた。(&紅葉の声)
「さ、さて私も入りますです」
透が一人照れながら笑い、大きいタオルを体に巻くと露天へと足を進めた
「わ〜広いです…」
星空の下だったからかもしれない。大して広さが女湯と変わらない男湯が、透にはとても広く大きく感じられた。
そしてふと視線を右にやると
【のぼせやすい人専用】と書かれた立て札があった
「女将さん男湯にも作ってくださったのですね。とても親切です」
透はニコッと笑うと泳いでる紅葉に声を掛けた
「紅葉く〜ん!私のぼせやすいのでこちらに入ります〜」
「じゃあボクもそっちに入る〜うっきゃ〜!」
ペタペタと走ってきた紅葉は透よりも早く【専用風呂】に飛び込んだ
その返り水を浴び透はずぶ濡れになった