「君が・・・十二支であったなら―――――」
あれは一体、どういう意味だったのでしょうか?
はとりさんがその言葉を口にしたのは、中間試験の追試も無事終わった初夏のことでした。
そう、ちょうど私が風邪を引いてしまって皆さんに迷惑をかけてしまった後です。
あの時は本当に十二支の皆さんにお世話になり、そしてはとりさんは十二支でもない私の病気も診てくださったのです。
感激でした。
私はその日、この間のお礼もかねて、紫呉さんに頼んで草摩の本家にあるはとりさんの家にお邪魔させてもらいましたです。
唯一の取柄の料理を作るためです。
慊人さんのお世話でお忙しいはとりさんに、栄養をつけてもらうのです。
あつあつを食べてもらうために、少しの間台所をお借りしてがんばったのです。
そしてはとりさんがお仕事から帰ってきたのです。
「あの、この間はありがとです!あの、これ!お口に合うか分かりませんが、宜しければどうぞ召し上がって下さいです!!」
はとりさんは最初戸惑っていましたです。やはり、紫呉さんの許しを得てきたとはいえ、いきなりお家にお邪魔するのは迷惑だったのでしょうか・・・。
でもはとりさんはそんな私の不安を察して下さったのか、すぐに
「わざわざすまない。そして、ありがとう。」
と言って下さいました。勝手なことをして迷惑をかけてしまったのは私の方ですのに、優しい方なのです。
それから私とはとりさんはいろいろなことを話しましたです。
学校のこと、草摩の皆さんのこと、大好きなお母さんのこと。
はとりさんは寡黙な方なので、ほとんど私ばかりが話している形になって恐縮でしたが、はとりさんが笑っていただけたので嬉しいです。
私なんかの話で少しでもはとりさんの気をまぎらすことができただけで嬉しいです。
「君が・・・十二支であったなら―――――」
帰り際そう言うと、はとりさんは私をやさしく抱きしめてくれました。
もちろんすぐにタツノオトシゴさんになってしまいましたが。
あれはどういう意味だったのでしょうか?もちろん私も十二支の仲間入りできるなら大喜びです!
それから数ヶ月して、はとりさんが薬を開発したことを紫呉さんから聞きましたです。
十二支の皆さんが異性にぶつかっても変身しないですむ魔法のような薬なのです。
でもその薬は一日しかもたず、しかも飲みすぎると強い副作用があって、一ヶ月に一度のペースでしか飲んではいけないんだそうです。
でもこれで人が多い商店街にも遊園地にもいけますし、今よりはずっと進歩だと思うのです。
その薬を試すために街へ出かけるというはとりさんが、なんとこの私を誘ってくれましたです!!光栄なのです!!
さっそく一番お気に入りの服を選んで、はとりさんとの待ち合わせ場所へ向かいましたです。
でもこの服も、洗濯のし過ぎでぼろぼろなのです。
はとりさんがこんな服を着ている私なんかを連れていて、恥ずかしい思いをしなければよいのですが・・・。
待ち合わせ場所にはもうはとりさんはいましたです!
「すみません遅れてしまって!!ほんと申し訳ないです」
「いや、俺の方が早く来過ぎただけだから・・・。今日はせっかくの休日なのに、俺なんかにつき合わせてしまってすまない。家の方は大丈夫なのか?」
「はいっ!紫呉さんが快く留守を引き受けてくれたです!!それにお洗濯も全部済ませてきたです!!だから心配ないのです!!」
そういうとはとりさんは静かに微笑みました。
はぁ、やっぱりはとりさんはかっこよいのです。くーるびゅうてぃなのです。
そしてはとりさんと水族館に行きましたです。
休日なので家族連れが多く、人がごったがいしていましたが今日はぶつかっても平気なのです。
そしてはとりさんが、私が迷子にならないようにとわざわざ私の手をつないでくれたのです!感激です!
僭越ながら、恋人同士のようなのです!!ちょっと恥ずかしかったのですが、はとりさんを見上げて微笑んでみました。
はとりさんも微笑んでくれました。お母さん、透は今、一番の幸せ者です。
水族館なので、はとりさんのお仲間さんもいましたです。
「うわ〜このシードラゴンっていうタツノオトシゴのお仲間さんは、ほんとの龍さんみたいです!!」
「俺もせめてこのぐらい龍らしければ良かったんだがな・・・」
「そんなことないです!!はとりさんもりっぱな龍さんみたいです!!」
「仲間内には散々からかわれたがな」
そうこう話しているうちに、タツノオトシゴさんが私たちの方に寄ってきましたです。
水槽の中に何十匹もいるタツノオトシゴさんが一斉にです!
でも十二支憑きの方にはその憑いている十二支の動物が近寄ってくるというのでごく自然なことなのですが、感動でした。
その後はとりさんがお洋服屋さんに連れて行ってくれましたです。
いつもウィンドウショッピングな私は鏡の前でたくさんの服を照らし合わせてみたです。
とても素敵なお洋服を見つけたのですが、とてもお値段が高かったので、これを買うために私の分の食費を削らなければならないと考えていましたら、なんとそのお洋服をはとりさんがレジに持っていくではありませんか!?
「あの、はとりさん!私、払えないです!!だからっ」
「いいんだ。これは今日一日俺に付き合ってくれた君へのプレゼントだよ」
「あ、ありがとうです!でも気をつかわせてしまって申し訳ないです!」
「俺が好きで君にプレゼントするんだ。すみません、これ、ここで着て帰ってもいいんですよね」
「かまいませんよ。可愛い彼女さんですね。きっとお似合いですよ」(←店員さん)
「彼女だなんて、そんな!!私は嬉しいですけどはとりさんは―――」
「俺も嬉しいよ」
そういうとはとりさんは微笑みましたです!これは両想いだといっていいのでしょうか?嬉しすぎて眩暈がしてきました。
こうしてその日さっそく、はとりさんにいただいたお洋服の袖を通すことになったのです!感謝感激です!
今流行のもこもこ付きで、とっても可愛いお洋服なのです!!
それからはとりさんはなんとお夕飯もご馳走してくれました!本当に恐縮なのです。
お母さん、透はこんなに幸せでいいのでしょうか?何だか罰があたりそうです。
帰り際、はとりさんと歩いていると、何やら妖しげな雰囲気の場所を通りがかったのです。
ご休憩 ¥5000〜?ただ休憩するだけなのに、どうしてこんなにお金をとるのでしょうか?
世の中分からないことだらけです。
そんな看板を眺めながら、ふとはとりさんを見ると、はとりさんも同じ方向を見ていましたです。
やっぱり気が合うのです。嬉しいです。そしてはとりさんは私の肩を抱いてその中へ入って行こうとしました。
何故だかそんなはとりさんを少しだけ怖いと感じましたが、すぐに思い直して一緒に入ることにしました。
お部屋に入ると、大きなベッドが一つありましたです。でもこれでは1人しか休めないのです。
どうするのでしょうと私が悩んでいましたら、はとりさんがそっと口付けてきたです!!
ドラマとかで見たことはありましたけど、生まれて初めてのことで、しかもそれが我が身に起こるなんて考えてもいなかったので驚きましたです!!でもとても嬉しかったです。
そしてそのままはとりさんは寄りかかってきましたです。私はついベッドに倒れてしまったです。
はっ!いけないです!せっかくはとりさんにいただいたばかりの素敵なお洋服が皺になってしまうです!!
するとはとりさんは
「大丈夫だよ、心配することはない」
と言ってお洋服を脱がしてくれましたです。私の心を読まれているようで、ドキドキしました。でも恥ずかしいです。
そしてやはり・・・なんだか怖いのです。大好きな人と一緒にいるはずなのに、これは一体何故なのでしょう?