フリーダの世界

 フリーダが扉を開いた時、ダウンライトひとつ点けたきりの部屋でアリスはカウチに座り込んでいた。明るくなってようやくルームメイトの帰宅に気付いたらしく、はっとした様子で顔を上げる。そこに湛えられていた曖昧な愁いは、フリーダを目にして幾分和らいだ。  
「おかえりなさい」  
「ただいま。どうしたの? あんな薄暗いなかでじっとして」  
「いえ、別に」  
 取り繕った笑いを浮かべて見せても、聡明な友人の観察眼を騙すことは出来なかった。  
「もう、ホームシック? 先が思い遣られるわね」  
「判っちゃいました?」  
「……三日も前からね」  
 嘘を見抜かれることも、時には喜びになる。友人に心配を掛けてしまうことを心苦しく思いながらも、アリスは心情を吐露した。  
「わたし、エグバードの生まれ育った家だって離れたことがあまり無くて。変な話ですけど、何で気分が沈んでるのかもなかなか判らなかったんです。しばらくかかってようやくホームシックって言葉を見つけた感じでした」  
 フリーダはアリスの隣に腰掛ける。フリーダにしても、ホームシックとはどんな感情なのか、良くは判らない。アリスとは対照的に、《ホーム》と呼ぶほどのものをひとつも持ったことがないためだったが。  
「フリーダさん、寂しくはならいんですか?」  
「私はずっとひとりだもの」  
「駄目ですよ、わたしが居るじゃないですか」  
 戸惑った様子でフリーダが自分を見詰めているのに気付いて、アリスは頬を赤くした。  

「ヘンなこと言いましたね、わたし。でも、事実ですから。フリーダさんがそう思って下さらないと、わたしも独りぼっちになるじゃないですか」  
 あんな強烈な経験をしたのに、この少女の真っ直ぐな明るさに変わりは無かった。フリーダはその輝きを嫌悪しながら、惹き付けられてもいた。  
 これ以上近付けば身を焼かれることを知りながら、灯火の誘惑に焦がれている蛾みたいだ。違うのは、己の身を焼いてでも煌きを汚して堕としたいと思っていること。  
「アリス。わたしは一緒に居てあげられるけど、それだけでホームシックは治まって?」  
「少しは、いけそうです。これからは具合が悪かったらすぐ言いますね。内緒ごとするなって言ったのはわたしでしたし」  
 冷静に聞けばずうずうしい言葉だが、不快ではなかった。信頼しきった視線は眩しすぎて、翳らせてしまわなければ目を合わせて居られそうにない。  
 この子を汚してしまいたい。  
「アリス。嫌だったらちゃんと拒みなさい」  
 え、と返事をする間もなく、アリスはフリーダに両手で頭を押えられた。眼鏡の後の怜悧な瞳に自分の目の奥まで覗き込まれている気がして、たじろぐ。額どうしが触れそうなほど顔が近付いて来て、さっきの言葉を理解し、アリスは目を閉じで受け入れた。  
 柔らかい感触が唇に伝わる。羽毛が撫でたような微かな接触。ほんの小さな触れ合った点が唇の上を滑って行き、ようやく強く押し当てられた。  
 思考が飽和してしまって、自分が何をしているのか忘れそうになる。髪を梳かしてくれるフリーダの指が心地よくて、唇が離れているのになかなか気付かなかった。  

「初めてだったらごめんなさいね」  
 ようやく目を開けたら、まだ美しいルームメイトの顔はすぐ近くにあった。  
「いえ……その、初めてですけど、フリーダさんで嬉しいです」  
「そう。じゃあ、もっと、初めてのことしてあげる」  
 あなたの無垢な体にね。  
 愛らしく、愛しく思いながら、同時にフリーダはアリスの無垢を壊してしまうつもりだった。  
<セックスが汚れだなんて、お笑い種ね。性別だって関係ないでしょう?>  
 こんな時にまで、《偽人格》の声が聞こえた。  
 もう一度唇を重ねる。それだけだった先ほどとは違い、フリーダは舌を伸ばしてアリスに唇を開かせ、口内に入り込んだ。  
 びっくりした様子だったアリスも、やがて、おずおずと応え始める。時々離れて向きや位置を変え、わざと音を立てながらフリーダはディープキスを続ける。  
「んふっ……」  
 頬を真っ赤に染め、アリスは蕩けたように力が抜けてカウチに倒れこんだ。  
 覆い被さってキスを続けながら、フリーダは手をアリスの胸に当てる。清楚な白いブラウスの上から、大きくはなくても充分に女らしく膨らんだ丘を包み込み、ゆっくりと撫でる。口をアリスの耳に移動し、息を吹きかけた。  
「ひゃんっ」  
 逃げるアリスを抑え、唇を耳朶に触れさせながら、囁く。  
「嫌だったら、ちゃんと拒むのよ? 黙ってたら判らないんだからね」  
 くすぐったいのを少し越える、背筋に響くような慣れない感覚に戸惑いながら、それでもアリスは明言する。  
「嫌じゃないですから。フリーダさん、好きですし」  
「じゃあ、もう訊かないわ。私も貴女、好きだし」  
 耳を舐められて、アリスはまた悲鳴とも嬌声ともつかない声をあげた。同時にフリーダの指が胸の果実の頂点に至る。布地越しながらも、高ぶった体には充分に甘い刺激だった。  
<節操が無いわねえ、貴女も>  
 脳内の声を無視しながら、舌先で耳から首筋を下に辿って行く。  

「あっ……ふあっ」  
 自分の出した声に気付き、アリスは羞恥に駆られて唇を噛む。そんが嗜虐性を掻き立てるばかりだとは、当然ながら気付いていない。  
 唇に戻って舌を絡めつつ、ブラウスのボタンを外し始める。陶酔していたアリスは、前を肌蹴られてようやく意識した。  
「きゃんっ」  
 慌てて両手で胸元を押えようとするのを、あっさりと腕を掴んで阻まれる。そのまま両腕を頭の上に万歳するように上げさせらた。  
 フリーダは背中に手を回し、こともなげにブラのホックを外した。あまりに自然な動作だったから、肌着をどけられてしまうまでアリスは気付かなかった。  
「いやっ」  
 思わず、また手で胸を隠す。今度はフリーダも邪魔はしなかった。替わりに、正面から目を見ながら穏やかに告げる。  
「嫌だったら、もうしないわ」  
「あ、いや、ああ、嫌なんじゃなくて……」  
「なくて?」  
 思わず口篭もるアリスをフリーダは問い詰める。  
「嫌じゃないですから。もっと、して、ください……」  
 黙ってフリーダはまた口付けた。  
 さっきまでと違って、素肌の上をフリーダの手が動き回る。力強い指が繊細に皮膚を撫で、胸の膨らみを揉むように愛撫する。  
 長いキスの最後にたっぷりと唾液をアリスの口に流し込み、フリーダは少し体を起こした。両手をそれぞれ乳房に当て、同調して愛撫する。指先で弄られて、淡い色の乳首はツンっと自己主張している。  
「あふっ……あんっ。ぁあ……」  
 まだ、我慢しようという意志はなくしていないようだが、ほとんど果たせていない。  
「いやらしい。ちょっと触っただけなのに」  
 意地の悪いフリーダの言葉に、アリスは顔を背けて呟いた。  
「フリーダさんだから……です……」  
「ほんとかしら」  

 くすくす笑いつつ、いきなりフリーダはアリスの乳首に口をつけた。唇で挟み、舌先で転がすように突付き、舐める。同時に、反対側の乳首も指で摘んで先端を擽る。  
「ひあ!」  
 最初こそ頓狂な声だったが、すぐに喘ぎに変わる。とうとう我慢しようとする意志も絶えたようだ。  
「あっ……ふあぁ……」  
 今までと違う強烈な感覚の正体が舌なのだと理解したのは、何度か左右をフリーダの口が行き来した頃だった。  
「んあ……フリーダ、さん、そんな、舐めるなんて……ぁふ……」  
「素敵でしょ?」  
 快感に頭が働かなくなりつつも、少女らしい恥じらいもまだ消えていない。  
「汚いですよ、舐めるなんて、ああぁっ」  
 部屋に戻ってシャワーも浴びていなかったことを思い出し、汗臭かったらどうしようと考えてしまってフリーダの行為を止めさせようとした。  
「あら、私は平気よ? アリスだもの」  
 自分も、フリーダだからこんなことをされて嬉しく思っているのだ。だからフリーダの言葉は幸せだけど、それでもやっぱり、羞恥は消えない。  
 甘い感覚に酔いながらも、次第にフリーダの舌が乳首以外のところにも侵攻し始めたのを契機に、アリスは初めて拒絶の言葉を発した。  
「駄目、嫌です、舐めたりしちゃ」  
「良いじゃない、感じてるんでしょ? 乳首もこんなに尖ってるわよ」  
 責め方を激しくしてフリーダが言う。  
「あん、でも……」  
 更に高まった快楽に意志を砕かれそうになりつつ、どうにか再び拒絶を口にする。  
「駄目です、嫌だったら拒めって言ったじゃないですか!」  
 それを聴いて、ようやくフリーダは胸から口を離した。抱き締めて口付け、耳に唇を移して言う。  
「汚いから駄目だって言うのね?」  
 また耳から流れ込む快感に耐えながら、アリスは返事をする。  
「はい」  
「いいわ、なら、シャワーを浴びに行きましょ。ちゃんと全身隅々まで洗ってあげるから」  
「えっ?」  
「それで綺麗になれば、問題ないわけでしょ?」  
 まだ唾液の乾いていない乳首を摘んで愛撫し、囁く。  
「……はい」  
 拒む積りだったのに、口は意志を裏切っていた。  

「ほら、行くわよ?」  
 さっさと立ち上がったフリーダはアリスに声をかけ、ぐずぐずしているところを横抱きに抱え上げてしまった。  
「きゃっ」  
 俗に、お姫様だっこなどと呼ばれる状態。結婚式の後、初めて家に入るときにこんなふうに新婦を抱いて入り口をくぐったりする。フリーダの力強さに感嘆しながら、だけど我に返って言う。  
「あ、歩きますから、降ろしてください」  
 フリーダはアリスの顔を見て微笑み、静かに床に立たせた。  
「良かった、流石にあのままシャワーまで行くのはコトだったわ。幾らアリスがスレンダーでもねえ」  
 何気なく手を取りあって、二人は浴室に向かう。  
 恥ずかしいから降ろしてもらったけど、もうちょっとダイエットして運んでもらうのも良いかも。そんなことを思いながら、アリスは足を進めていた。  
 二人して脱衣場に入る。普段はもちろん一人づつで入っているから気にならなかったものの、お世辞にも広くはない。黙ってフリーダがアリスのブラウスを脱がそうとして来て、一緒にお風呂に入るなんてことを改めて意識する。  
「自分で脱げますから」  
 アリスが抗っても、フリーダは止めてくれない。ブラはさっき外されているから、あっさりと上半身が裸になる。そのまま当然のようにスカートも脱がされてパンツとストッキングだけになってしまい、ようやく抗弁を通すことに成功する。  
「フリーダさんも脱いで下さい」  
 きっと頬が真っ赤になっているだろうな、と思いながら、どうにか口にした。  
「自分ばっかりは恥ずかしい? そんなに綺麗なのに」  
 時々フリーダは怖い笑いを見せるが、今は天使のような慈愛の微笑。苛烈な死天使の側面は、未だアリスには見えていない。  

 美術品を眺めるようにうっとりとしたアリスの視線の中でフリーダが肌着だけの姿になった。艶然と、また微笑んで、横を向いてブラジャーを外す。  
「うふふ、こっち向いてください」  
 仕返しするような気分でアリスが求める。  
「ふふふ」  
 フリーダも笑って、二人の少女は向き合う。胸を隠していたアリスの手をフリーダが下にさげさせ、しばし見詰め合った。  
 一面では、二人の若く健康な輝きに満ちた体は鏡像のようだ。だけどもちろん違いがあるから、お互いに、相手の姿に憧憬と羨望を覚えた。  
 フリーダは自分より少し背が高いのだし、胸の脹らみも確かに少し大きいと思うのだけど、サイズよりも、とても女らしく思えて羨ましい。  
それなのに多分ウエストはフリーダのほうが引き締まっている気がする。力強いのに成熟した女性の形も見出してしまい、理想的な姿に思えて酷く憧れる。  
 別に太ってなんかいないけれど、アリスはもうちょっとだけ運動した方が綺麗になれるだろう。  
それは確かなのに、柔らかそうなアリスの体は愛らしくて、筋肉質な自分の体を少し寂しく思う。ただでさえイノセントなアリスが余計に眩しくなって、自分の手で壊してしまいたくなる。  
 沈黙の時が過ぎて、先に行動を起こしたのは、やっぱりフリーダだった。あっと思う間もなく、アリスはしゃがみ込んだフリーダにパンツを降ろされていた。  
「きゃあっ」  
 思わず上げたのは、悲鳴というより嬌声だった。フリーダはすぐに自分も最後の一枚を脱ぎ捨て、全裸になってもう一度向き合った。  
 アリスの蜂蜜色もフリーダの銀色も明るいから、ビーナスの丘は翳るというより木漏れ日が差し込んだかのようだった。  

 どちらからとも無く浴室に入り、シャワーの湯を出す。スポンジにボディソープをたっぷりと取ってフリーダが言う。  
「洗ってあげるから、まずは向こうを向いてごらん」  
 大人しく従うアリスの背中にスポンジを当て、ゆっくり上下に往復させる。  
 力強くも繊細な手つきにアリスは気を安らげた。他人に背中を流してもらうなんてこと、ほんの子供の頃以来だ。親や故郷のことを思い出してしまいもするけど、今はフリーダの存在が嬉しい。  
 スポンジが肩から腕をなぞって降りて行く。泡まみれのアリスの細い指をした手をフリーダの両手が包み込み、指を絡めて揉む。片手で甲の側から押えて指を開かせ、掌で指先が激しく蠢く。  
「きゃはははははっ」  
 擽ったがって振り払おうとしても、石鹸でぬるぬるなのにフリーダの手は逃がしてくれなかった。  
「ほら、そっちも。こういう時は手は綺麗にしなきゃ駄目よ」  
「擽ったいですよ〜」  
 ひとしきり笑わせて、フリーダはアリスの後に戻る。  
「両手を上にあげて。降ろしちゃ駄目よ」  
 よく判らないながらもアリスは従った。  
「じっとして。腕、降ろしちゃ駄目よ?」  
 繰り返しながら、スポンジを腰骨の辺りに当て、上に動かした。  
「きゃん!」  
 擽ったいのが耐えられなくて、アリスは身を捩って腕を下げた。  
「じっとしてって言ったでしょ?」  
 後からアリスを抱き締め、有無を言わせない声で告げる。  
「あ〜ん、そんなぁ……」  
 背中に感じるフリーダの肌が暖かい。バストの脹らみが柔らかに押し付けられていて、その中で二箇所だけ少しクリクリした硬めの感触がある。泡で滑って擦れあい、二つの突起物が背中を擽る。  
「フリーダさん、乳首硬くなってます?」  
「なってるわ。さあ、もう一回手を上げて降伏しなさい。降ろしたら処刑するわよ」  
「あん……」  
 何をされるか知ってしまったから、余計に不承不承ながら、何やら楽しくなって命令に従う。右腰にスポンジ、左腰には手が置かれて、それらは同時に脇腹を登り始めた。  
「くふふふふふふっ」  
 やっぱり擽ったい。必死で両手の位置を維持する。フリーダの両手は腋の下の窪みに達し、そこで一度くるりと輪を描く。そしてゆっくりと骨盤の位置まで降りて行った。  
 ほんの一呼吸静止して、また動き出す。スポンジと指の感触の違うのが無闇に擽ったい。腋の下で折り返す瞬間、肘を肩の高さぐらいまで下げてしまったけど、許してくれたらしい。  
「十往復よ」  
「あぅ〜」  
 そんなの無理、と思いながらも抗議はしなかった。  
 また一度上下して腰に両手が戻り、フリーダが囁く。  
「はい、一回」  
「三回目ですよぉ!」  
「ふふふ、あと十回、って言ったのよ」  
「そんなぁ〜」  
 抗議を受け入れず、フリーダはアリスの脇腹を擦り続けた。  
 連続して動かれると、段々我慢するのが難しくなってくる。四回目に腋の下を攻撃された時、耐え切れずにまた万歳をやめてしまう。  
「ほら、抵抗する者は処刑よ」  
 後から抱き締めて、脇腹を擽りまわしてくる。  
「きゃはははははっ、駄目、降参ですっ」  
 ちょっぴり涙を浮かべながら、アリスはまた手を上げる。  
 何でこんな理不尽なことに従ってるんだろ。  
 そんな疑問を覚えはするのだが、嫌だとは少しも思っていなかった。  
 擽ったい拷問が再開する。やっぱり、一往復ごとに耐久力が無くなって行く。  

「……三回」  
「六回目ですっ」  
「連続十回。さっき手を下げたから、初めからよ」  
 すっかり巧妙な罠に囚われて、アリスは悶えつづける。幸いなのは、今回は手を上げたままでいたから再度カウントリセットにはならなかったことだ。  
 唇を噛んだり掌に爪を突き立てたりして、甘い責め苦を忍ぶ。肘を曲げて自分の腕を掴み合うのは許して貰えたから、少しは耐えやすくなった。  
「な〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜な、か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」  
「あはははははは、そんなの、ずるいです〜〜」  
 小刻みに手を動かして、倍ほども時間をかけて上下したのだ。おまけに腋の下では十回もクルクルと円運動をした。それでも、どうにかギリギリで腕は降ろさずに耐え切った。  
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ち、か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」  
 また同じことをして来る。腕に爪を食い込ませて、死ぬ気で我慢した。  
 その後、フリーダの手はしばらく腰に止まって動かない。  
「あと三回だったかしら」  
 不意に言われて、思わず同意しかけて、アリスはインチキに気付く。  
「二回です!」  
「ふふふ、騙されないか」  
 それからまた、じっとしてる。いつ再開するかと思うと、何もされないでいるのだって少しも楽ではなかった。  
「擽ったい?」  
 いきなり囁かれて、それだけで悲鳴を出しそうになる。ほっと息を吐きかけた瞬間フリーダが動いた。  
「九……」  
 今度も、辛くも耐える。  
「……回、十回!」  
 最後にいきなり素早く二連続され、フリーダの手とほとんど同時にアリスも手を下ろしてしまった。  
「あら、手を下ろして良いとは言ってないわよ?」  
「十回終わったじゃないですか〜!」  
「私と同時じゃ、終わってたとは言い難い気がするけど」  
「え〜ん……」  
 もう、これ以上なんて絶対無理。半泣きでアリスは訴える。  
「ふふふ、まあ許してあげる」  

またアリスは後からフリーダの腕に包み込まれた。柔らかい脹らみの先端の突起はさっきよりもっとくっきりと、背中をくすぐってくる。  
 スポンジと一緒に左手もお腹の上を踊りまわる。これもやっぱり擽ったい。でも、辛いほどではない。  
 両手が上がって来て、胸を避けて鎖骨や首の辺りをこする。  
「んっ、ふ……」  
「敏感ね、アリス。洗ってあげてるだけなのに」  
 囁かれて、アリスはまた頬が熱くなるのを感じながら、少しだけ反撃を試みる。  
「洗うだけだったら左手は要らないはずです!」  
「そう? じゃあ、こっちは止めた方が良いの?」  
 左手の指先が首筋を駆け回った。擽ったいのとは違う、ぞくりとする感覚に襲われて声が出せない。  
「むしろ、こっちの方が良いんじゃなくて?」  
 なかば耳朶を舐めるように囁きつつ、フリーダはスポンジを床に落として右手を下に滑らせた。  
「あんっ」  
 あともう少しだけ大きくなって欲しいな、といつも思っているバストをフリーダの右手が包み込む。  
「スポンジで力が入ってしまったら痛いでしょうからね」  
 甘言と共に、左手も胸に。  
 アリスの未だ熟れ切らない果実を、フリーダの両手が泡塗れにして覆う。形も変えないぐらい、優しく細やかに指が蠢き、肌をなぞる。  
 うっとりするような感触ながらも、ソフト過ぎてじれったくなって来る。  

「痛くないわね?」  
 もう少し強くしてくれることを期待していたのに、反対のことを訊かれた。  
「大丈夫です。って言うか」  
 言いよどむアリスに、指でそれぞれ乳首のまわりに輪を描きつつ、フリーダはまた耳に唇を近づけて言う。  
「もっと激しくして欲しい?」  
「は……い」  
 聞こえないぐらいの声で言う。  
「ふふ、でも、もうこれぐらい洗えば充分だと思うけど?」  
 フリーダは指の動きを変えない。泡で目立たないが、触れられてもいないのにアリスの胸の先端は硬く尖っていた。  
「……もっと、して……ください」  
「いやらしい子ね、アリス」  
 囁いて、不意に指に力が篭った。痛くはない程度に、でも充分力強く、張りのある双丘が蹂躙される。乳首が指で挟まれて、周辺から刺激される。耳朶を甘噛みされ、舌を這わされ、息を吹き込まれる。  
「あ……んっ、ふあぁんっ」  
 いきなりの激しい愛撫に意識がついて行かず、飽和したような快感に翻弄された。  
「行くわよ、もっと敏感なところ」  
 何のことか判らなかったけど、すぐに思い知る。乳首の先端は未だに責められていなかったのだ。指先で転がすように弄られて、鮮烈な快感は全身の隅々まで走るようだった。「あ〜っ。んぁ、あふっ」  
 気持ち良かった。シャワーのとき自分で触れて、多少の背徳感と共に甘い触覚を楽しんだことこそあっても、これほど強烈なのは経験がない。力が抜けて足元が崩れそうになるのをフリーダが支えてくれている。  
「あっ、ん、あ……」  
 切羽詰った声を出しつつ、アリスは体を後に反らせる。無防備になった首にフリーダは吸血鬼のように口を付ける。噛み付く代わりに舌を伸ばして這いまわらせる。  
「ふぁあああっ」  
 ひときわ高く声を上げ始めた途端、フリーダは手を止めた。  

「あ……フリーダ……さん?」  
 真っ白になりかけていた頭が現実に呼び戻された。  
「敏感ね、おっぱいだけで逝きそうになるなんて」  
「あン……」  
 そのまま逝かせてくれなかった意地悪を恨みつつ、恥らって黙り込む。  
「ほら、ちゃんと立って」  
 フリーダはアリスの体を解放し、しゃがみ込む。落ちていたスポンジを一度水で洗い、もう一度ボディソープを取る。  
「お風呂は体を洗うところよ?」  
 悪戯っぽく笑いながら、フリーダはスポンジをアリスの腰骨に当てる。そこから脚の外側を通って降りて行き、足首を押えて指の間まで擦る。  
「きゃははっ」  
 先ほどから繰り返される快感と擽ったさの境目がだんだん曖昧になっていた。  
 脚の前面を通ってスポンジは登って行き、後にまわってお尻のすぐ下からまた下る。膝の裏をくるくる撫でられて、また悶える。  
 脚の内側を登りだすも、なぜか膝で止まり、反対側の脚に移ってまた外側から今と同じことをしてくる。  
 それから、またスポンジを落として、両手で内腿を撫で上げる。アリスの正面に屈んで、脚の付け根近くを揉む。そんなところにフリーダの顔があるのに気付き、思わずアリスは脚の間を手で隠す。  
「ふふ、見られると困るの?」  
「え……いや、別に、困らないですけど……でも……」  
「そう。私はまた、そこの状態を知られたくないのかと思ったわ」  
「じょ、状態ってっ」  
 言われて、気付く。さっきから、こんなに気持ち良いことをされつづけているのだから、潤っているに決まっている。とはいえ、湯で濡れているのも間違いない以上、見て判るものでも無いはずだろう。  
「どうしたの?」  
 相変わらず内腿に擽ったいような快感を送りこみつつ、フリーダがからかう。  

 横を向いて答えないアリスに、フリーダは立ち上がって囁く。  
「ほら、洗えないから手をどけて」  
「ここは自分で洗います!」  
 慌てて抗議するが、フリーダは認めない。  
「駄目よ、ちゃんと隅々まで洗ってあげるんだから。言うこと聴かないとまたこちょこちょするわよ」  
 言いながら、既に脇腹を襲っていた。  
「だめぇっ」  
 手を掴もうとしたが、滑って逃げられた。そしてフリーダの片手が脚の間に忍びこむ。上の方から、淡い茂みに泡をつけて掻き乱す。もう一方の手がお尻をなでる。  
 女の子の部分を手が包み、大きく優しく揉む。脚の付け根を擽る。  
 指が尾底骨の下を突付く。  
「ひゃんっ」  
 アリスの悲鳴を無視して、指は更に下を目指す。  
「フリーダさん、そんなところっ!」  
 幾らなんでも、そこは恥ずかし過ぎる。逃げようとしたけど、前を襲っていた手が体に回されて捕まった。  
「あら、アリスはお風呂でこの辺は洗わないの?」  
「洗いますけど、そこは自分で、ぁあっ」  
 有無を言わせずフリーダの手は進み、お尻の谷間の奥まで侵入した。  
 あまりに恥ずかしいところに触れられて、アリスは弾けるように体を反らせる。  
「ほら、そんなにお尻で指を挟んだら抜けないわよ」  
 石鹸塗れでそんな訳はないのだが、アリスがお尻から力を抜かないのを良い事にフリーダは谷間の奥を突付き回し、撫で続ける。  
「気持ち良いでしょ?」  
「そんなっ」  
「そんなことない?」  
 アリスは答えなかった。  

 体を押えていた手が下に戻る。とうとう指先が叢を掻き分けて谷に至る。  
「あぁっ」  
 ゆっくり、柔らかな肉を指先が愛撫した。  
「濡れてるわね」  
「……そりゃ、シャワー浴びたんですから」  
 通じるわけの無い言い訳だと判りつつアリスは言わずに居られない。  
「そう? そのわりには何だかぬるぬるしてるけど」  
 後から前から注がれる快感に酔いながら、それでも反論は続ける。  
「……それは石鹸です」  
「ふふ、じゃあ、一旦流してしまいましょ?」  
 シャワーヘッドを手にとって、フリーダは脚の間に湯をかける。丹念に茂みとその奥を洗い、お尻からも泡を流し落とす。シャワーを脚の間に押し当て、小刻みに揺らす。  
「ん、んふっ……」  
 指でくつろげて、細い湯の流れを直接当てる。同じようにお尻の方へ。  
「あぁっ、あ……んっ……」  
 充分過ぎるほど丹念に洗い、再びフリーダは指でアリスの性器に触れた。谷間を上下に何度も往復し、その上で隠れていた小さな突起を見つけて転がす。  
「ぁあ、はぁあ〜っ」  
 クリトリスに直接触れられた感触は強烈だった。  
「おかしいわね、やっぱりぬるぬるしてるわよ?」  
 アリスが何も言わないでいると、フリーダは手を止める。  
「ふふ、このぬるぬるは、なあに?」  
 指をアリスの顔の前に持って来る。目で見て湯と区別が付く訳ではないが、アリスは目をそらす。  
「答えないと、これ以上洗ってあげないわよ? 判るかも知れないから、指を舐めてごらん」  
 指先をアリスの唇に付ける。アリスはおずおずと口を開け、指を含んだ。やっぱり、何の味がする訳でもない。  
「判った?」  
「……わたしの……です……」  

「聞こえないわ」  
 言えなかったのだから当然だが、判りきっているのにフリーダは意地悪を続ける。  
 何もされないでいるなら、そのうち高ぶった体も覚めてしまうかもしれないけれど、フリーダは僅かにだけあちらこちらを刺激してくる。さっきの強烈な刺激が恋しくて、とうとうアリスは羞恥を越える欲情に屈した。  
「わたしの愛液ですっ」  
「あら、よく判るわね。今までにも舐めたことあるの?」  
「そぉんなぁっ!」  
 またも意地の悪いことを囁きながら、フリーダは両手を先ほどの位置に戻した。  
 そして手加減の無い愛撫を開始する。前後から何箇所も何箇所もに甘美で痺れるような悦楽の火を付けられて、アリスは身も世も無く喘いだ。  
「ああぁっ、んぁっ、ふあぁあぁん……ンぁ、あふあっ」  
 それでも、フリーダが唇を近づけてやると、アリスは自分から吸い付く。啼いていないときは舌を絡めあっている。  
「胸は自分の手でしてみたら?」  
 フリーダの恥知らずな提案に、アリスは黙って従った。自分の手で乳房を揉み、乳首を摘んで可愛がる。同時にフリーダの指の動きが更にもっと激しくなる。  
 本当に、何も考えられない。悦楽が頭も体も犯して支配している。こんな恥ずかしいこと、と思いながら、乳首を愛撫する指を止められない。  

「ぁ、ぁっ」  
 口は開けていても、声らしい声も出せなかった。  
「ほら、逝って良いのよ?」  
 別に達しちゃ駄目だと思っていたわけでもないが、フリーダの言葉をきっかけにアリスは弾けた。脚の間と胸と唇から全身が溶けるような錯覚。方向と重力の感覚を無くして  
どこかに浮かんでいるような気がした。  
 酷く長いその瞬間の後、体中が弛緩して危うく倒れかける。いや、フリーダが抱いてくれたから倒れなかっただけだ。  
 やがて、蕩けた意識も覚醒し、またフリーダにキスされているのが判る。  
 ゆっくり体が離れ、恥ずかしくてならなくて、俯いて黙り込む。  
 フリーダが抱き締め、濡れた髪を撫でながら言う。  
「ふふふ、えっちねぇ、アリス」  
 何も言わないながら、アリスは体を揺らす。  
「えっちなのは悪いことじゃないわよ? とっても可愛かったわ」  
 それからまたしばらく、二人は抱き合っていた。 

 
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