フリーダの世界  

風呂から上がり、バスタオル一枚巻いたきりでアリスはカウチに腰掛けた。全身の肌がピンク色に上気しているのも、ぼおっとしてしまっているのも、逆上せたせいではない。原因を作った少女がアリスに後れて部屋に戻って来たのを、  
アリスは笑顔を湛えて迎えた。それが少女らしからぬ淫蕩な気配を含んでいるのは、浴室での出来事のためだ。  
 同じようにバスタオル一枚巻き付けただけのフリーダは、缶をひとつ手に持って頬に当てている。アリスを見て穏やかに微笑み、隣に座る。  
 パシュッ  
 小気味良い音をたてて缶が開けられる。若々しい桃色をした唇を付け、フリーダは缶の中の液体を喉に流し込む。少しこぼれて口元に伝った泡立つ液を手の甲で拭う。  
「喉渇いちゃったわ、誰かのせいで」  
 流し目を送られてアリスは更に顔を赤くする。でもすぐに悪戯っぽく笑い、言い返す。  
「いけませんよ、未成年がお酒なんて飲んじゃ」  
 黙ってフリーダは缶に口を付け、テーブルに置く。アリスの顔を両手で捕まえて、いきなり口付けた。びっくりして動けないアリスの口にビールが流し込まれ、放してもらえないから飲み込まざるを得なかった。  
「けほっ」  
 ちょっと咳き込みながら、アリスはフリーダを睨みつけた。  
「ふふふ、これでアリスもいけない子の仲間入りね」  
 また缶を手にとって、今度は自分で飲み込む。  
 口を手で押えながら、アリスはフリーダの飲みっぷりを眺めている。飲み慣れないビールは口に苦くて、喉は潤ったけどあまり美味しくなかった。だけど、目の前の女性の口移しはあまりにも甘美だった。  

「もっと飲む?」  
 訊ねられて、即座に肯定してしまう。  
 たっぷりと口に含んで、フリーダはアリスに飲ませてやる。今回は半分ほど自分の方に残し、二人で一緒に飲み込んだ。こくん、と喉が動くのを、お互いに確認した。  
「缶を渡すつもりだったのに、いけない子ねえ」  
 言われて、アリスは俯いてしまう。そのまま顔を上げられずにいると、フリーダの手が顎を摘んで持ち上げ、三度キスされた。また、さっきと同じぐらいビールを含ませてくれる。冷たさとキスの味しか感じない液体を体に入れて、口を開ける。  
「初めに仕掛けてきたのはフリーダさんじゃないですか」  
「嬉々として受け入れてるのはアリスでしょ」  
 そして四回目。開き直ったアリスは堂々と口を突き出して求めた。飲み込むと、すぐにもう一度口に入れられる。それも飲み込んだら、単純にキスされた。少しだけビールの味のする接吻は次第に熱くなり、  
慣れないアルコールと相乗してアリスは思考が溶ける。心臓が激しく打っているのが判るのに、まるで体の外にあるかのよう。気が付いたらカウチに押し倒されていて、バスタオルも剥がされている。  
 またフリーダが顔を降ろして来て、こんどは胸元に襲い掛かる。いきなり胸の先端に口を押し当てて来る。  
「ひゃん」  
 不意の冷たい感触に悲鳴を発してしまう。こんども口にビールを含んでいたのだ。熱くなっていた肌が冷えた液体に触れて、収縮して乳首が硬くなる。  
ビールの泡の転がっていくのが微妙に、だけどやたらに擽ったい。舌が触れてくるときだけ気泡の感触から解放されるけど、それはそれで感じてしまう。  
 こぼさないように口を閉じて飲み込み、フリーダは肌に残ったビールを舐め取って行く。体を離した時には、乳首はすっかり尖っていた。  

 僅かなビールの残りを口に入れて、同じことを反対側の胸にも施す。先程よりもずっと執拗に舌で突付かれて、アリスは甘い吐息を洩らし始める。  
 覆い被さって短く口付け、フリーダは囁く。  
「ほんとに、いけない子ねえ、アリス」  
「フリーダさんは悪い子ですっ」  
 耳に流し込むようにフリーダは続ける。  
「ホームシックの治療はもう充分だと思うんだけど?」  
 一瞬だけ目を見開き、すぐに細めて、途切れそうな口調で言う。  
「それは充分です、けど」  
「けど?」  
「その……」  
 言い淀むアリスをフリーダは根気良く待つ。  
「けど……」  
 意味のあることを言えずにいるので、フリーダは言葉にしてやる。  
「他のこと、したい? いや、して欲しいのかしら?」  
 満面に喜びの笑みを浮かべながらも小さな声で、アリスは答える。  
「……はい」  
 またアリスに覆い被さる位置に戻り、唇が触れ合う寸前の位置でフリーダは言う。  
「他って、どんなこと?」  
「あん、それは、その……意地悪です、フリーダさん……」  
 ちゅっ、と触れ合う程度にキスして、フリーダはまた囁く。  
「判ったわ、してあげる」  
 先に立ち上がってアリスの体を引き起こす。  
「ベッドルームに行きましょ」  
 フリーダもバスタオルが落ちて、二人とも全裸。キスとビールに酔ってふらふらのアリスをフリーダは横抱きに抱え上げ、歩き出す。  
「たっぷり、してあげるわね、アリス」  
 言われてアリスは期待に満ちた笑いを見せる。  
「ご要望どおり、意地悪を、ね?」  
 意味を解するのにしばらく時間が掛かる。ようやく理解して、アリスは悲鳴とも嬌声ともつかない声をあげた。  
「そんなぁ……ぁん……」  

ベッドに横たえられたアリスは、腰掛けて自分を眺めているフリーダに期待に満ちた視線を送る。  
筋肉の付いたフリーダの背中は格好良くて、それなのにお尻や胸のラインは丸くて柔らかくて綺麗。見ていると、なんだか自分の体つきが恥ずかしくなって来て、ころんと転がって離れ、うつ伏せになる。  
 フリーダが隣に寝て、頭を撫で、まだ少し濡れた髪を梳る。  
「もう、キスは充分?」  
 言われてアリスは、顔を向けてねだる。二人ともうつ伏せの体を捻って上半身だけ向き合い、唇を吸い合った。今までよりもっと強烈でに歯茎や舌やを愛撫されて、さほど長くもなかったのに興奮したアリスは息が続かなくなる。  
「今度はこっちを可愛がって欲しいのね?」  
 下を向いてシーツに顔を埋めているアリスにフリーダが言う。こっち、の意味が判らないうちに、アリスは自分のお尻の辺りにフリーダの肌が触れるのを感じた。それから、背中全体にフリーダがのしかかって来る。  
「えっちなアリスは体中どこを触られてもとっても感じちゃうのよね?」  
 毎回の如く、耳に口をくっつけて辱しめの言葉を流し込む。  
「ん〜っ」  
「ふふ、背中なんか触られても感じないと思う?」  
「ぁん……」  
 反論したいところながら、事実フリーダの指や手が気持ち良くて仕方の無いアリスは言葉にならない声をあげるしかなかった。  
 フリーダは起き上がって、アリスの尻の上に跨って座る。両手を開いてアリスの背中に当て、ソフトに上下に滑らせる。緊張していたアリスは、特に官能的ではない心地良さに体の力を抜いた。  
リラックスしたアリスの様子にフリーダは少しずつ手つきを変えていく。前より指をもっと広げ、軽く曲げて点で背中に接する。上下運動の軌跡をずらして、背筋から脇腹まで広くカバーする。  

 ある瞬間、アリスは頭の天辺から腰の方にぞくりとする感覚を受け、狼狽した。自覚してしまうと逃げ道は無かった。いつの間にか、背中を撫でるフリーダの手の感触が違っていた。パステルカラーの電撃が背中を襲っているのがほとんど目に見えそうな気がした。  
「油断したわね?」  
 フリーダに図星を突かれて、アリスはまた喘ぐしかない。  
「攻撃目標の調査は済んでいるのよ」  
 口にしてすぐ、フリーダは指先であちこちを突付き出す。  
 肩甲骨のすぐ下あたりをくりくり。  
「んふ……ん……」  
 腰骨のちょっと上をつんつんつん。  
「ふっ、あっ、うふふっ」  
 背筋の両脇2センチぐらいのところを下から上にずーっと。  
「ひゃっ、ぁは、ふあぁ……」  
 背中の真ん中の何にもない部分、ちょっとだけ横の方。五本づ立てた指を当ててぷるぷるぷるぷる。  
「あはぁあ〜っ、ちょ、っと、なに〜?」  
 思いもよらず突き抜けた快感に戸惑って悲鳴を発する。フリーダの手が脇腹の方に行って、同じように振動する。  
「駄目っ……それ、駄目ぇ!」  
 しばらく悶絶させられたあと、やっと解放された。  
「どれが一番良かった?」  
 息を整えようとしているところに、そんなことを訊かれる。恥ずかしくて答えないで居ると、また脇腹を攻撃される。  
「ひゃぁんっ……ふぁあ、ぁあ……」  
「答えは?」  
 とにかく今の感覚は強烈過ぎるから、逃れたくて必死に告げる。  
「背中!」  
「あら、これの方が感じてるみたいだけど?」  
「こ、これは駄目ですっ」  
「あら、良いのと駄目なのは違うの?」  
「くすぐったいっ、から駄目ぇ!」  
 そう叫ぶと、フリーダは手を止めてくれた。  

「くすぐったかったの?」  
「そうですよぉ!」  
 弱々しい抗議だった。  
「そのわりには色っぽい声ばっかり出して、笑ってなかったわね? くすぐったいのと気持ち良いのはほとんど同じことだけど」  
「とにかく、さっきのは駄目ですぅ」  
「ふふ、じゃあ、あれは御仕置き専用にとっておくわ」  
「御仕置きって……」  
「御仕置きよ。例えば、気持ち良かったくせに認めないで嘘をついた時なんかにね?」  
「ふぇえん……」  
 フリーダが姿勢を変え、またアリスの背中に体を沿わせる。  
「大丈夫よ、良い子にしてれば良いんだから」  
 そして今度は背中に口をつける。さっき指で責められてアリスが感じてしまった部分を中心に、背中一面にキスをして可愛がる。くすぐられたり愛撫されたりして、片時も休ませて貰えずアリスは善がり続けた。  
 一番初めみたいに隣に寝てディープキスをしたあと、抱き締めて囁く。  
「背中はこれぐらいで満足?」  
「……一々言わせないで下さいよぉ」  
「だって、とってもえっちなアリスの気が済むまで可愛がってあげたいんだもの。言ってくれなきゃ判らないわ」  
「……充分過ぎます……判ってる癖に、意地悪です……」  
「悪い子ね、こんなに親切に訊いてあげているのを意地悪だなんて」  
 言ってから、また一瞬唇を触れ合わせた。  
 ぐったりしているアリスを尻目に、フリーダは足の方に移動する。いきなり右足の爪先を捕まえた。  
「きゃっ」  
 弾かれたようにアリスは足を引っ込めようとする。しかし、力強く掴まれていて果たせない。  
「ちょっと、駄目、フリーダさぁんっ!」  
 アリスが切羽詰った声をあげる。  
「大丈夫、コチョコチョはしないから」  
「ホントですかっ?」  
 風呂場で散々くすぐったい目に遭わされたアリスは警戒を解かない。  
「ホントよ、大人しく良い子にしてればね。悪い子には御仕置きが必要だけど」  
 言われて、ようやくアリスは力を抜いた。流石にもう、生殺与奪を握られていることは思い知らされている。フリーダがくすぐりたいと思えば、なんとでも理由を付けて好きなだけくすぐられてしまうに違いなかった。  
「そんなに嫌だったら、止めてもいいのよ? こんなこと」  
 アリスは観念する。蜘蛛の巣に囚われた獲物になった気分だった。  
「どうするの?」  
 平然とフリーダは訊ねてくる。  
 そんなこと、判ってる癖に……  
「もっと、して欲しい……です」  
「ふふふ、淫乱アリスちゃんっ」  
 言うが早いか、フリーダはアリスの爪先にキスした。親指を口に含んで吸い、舐めまわす。  
「やん、フリーダさん、そんなところ……」  
「ん、どうかした?」  
 口を放して問い返し、すぐにまた第一指と二指の間を舐める。  
「汚いですよぉ!」  
 さっき言われたとおりの、くすぐったいのと気持ち良いのとの中間みたいな刺激に戸惑いながらも言う。  
「お風呂、入ったばかりでしょ? 洗ってあげるって言ったのにアリスが拒んだんだから、洗えてなかったとしたらアリスの責任よ?」  
 それだけ言うと、また足指責めを始める。一本ずつ指を吸っていき、小指の方に移動する。小指と第四指の間が一番感じた。そんな体の端っこの一点を刺激されているだけなのに、脚の間の女の子の部分が熱く疼くようだった。  
 指を口が離れて、今度は足の裏に触れる。ちゅっ、と音を立てて土踏まずに吸い付いてくる。口の離れた足指の方には手の指が入り込んで揉むようにしてくる。  
 そんなところが感じるなんて全く予期しなかったから、アリスは快感と当惑で声も出せなくなっていた。踝とか足の裏や甲やを時々指先がかすめて、それだけはくすぐったくて快感だけにも酔い切れない。  
ふくらはぎや脛を撫で上げ、膝の裏にキスされる。ここはくすぐったいのが勝って、身悶える。  
「きゃははははっ」  
 脚を持ち上げられて、膝の皿をくすぐられる。思わず脚をばたばたさせたら、踵がフリーダの頭に当たってしまった。  
「痛いわね……御仕置きっ」  
 その口調から、また罠に嵌ったんだろうってことはアリスにも判った。  
「きゃははははははははっ」  
 押さえ込まれて、足の裏と膝の裏をくすぐられた。  
「反省してる?」  
「あはは、してますぅっ、ふふふふふふっ」  
「ホントに反省してるんだったら、そんなに笑ってないでちゃんと言いなさい」  
「そんな、無理、あははっ」  
「反省なんか出来ないって言うの?」  
 両足とも押さえ込まれて、そこらじゅうくすぐり回される。  
「駄目、くふふっ、許しっ、てぇ〜」  
 まだもうしばらく、くすぐったい御仕置きは続いた。  
「はぁ、はぁ、はぁ……」  
 息も絶え絶えのアリスをフリーダは仰向けに引っ繰り返す。今度は左足を掴むと、また指を一本ずつ吸う。  
 ちゅっ、ぺちゅる、くちゅ、ちゅううっ……  
 くすぐられた余韻のせいか、さっきよりまた快感が鋭かった。触れられてもいないのに、脚の間を直接舐めまわされているみたいだった。  
 踵に少し歯を立て、踝を舐め、脛を攻め上って膝の皿にキス。裏側を指でくすぐる。また蹴ってしまわないように、アリスは指を噛んで耐えた。  
 思い切り脚を開けさせられる。フリーダの含み笑いに、アリスは自分の状態を意識させられた。確かめなくっても、女の子の部分がぐしょぐしょになっているのは間違いないのだ。  
だけどフリーダは黙ったままで、内腿を撫でたり揉んだりして丁寧にじっくりと愛してくれる。  
 フリーダが手を止める。何もしないで、じっとアリスを見詰めている。  
「フリーダさん?」  
 何もされないことに耐えられなくなって、アリスは声をかけた。  
「ふふ、ここも綺麗ね、アリス。えっちなくせに」  
 露骨にそんなことを言われて、アリスはどんな反応をして良いやら判らずに悶えた。  
 フリーダがアリスの足首を掴む。持ち上げて、アリスの体を大きく曲げさせて頭の上に持っていく。  
「やん、こんな格好……」  
 お尻を高々と上げさせられて、アリスは羞恥に塗れて悲鳴を上げる。自分の股間からフリダに覗き込まれて、いたたまれず顔を背けた。  
「ふふふ、可愛い」  
 蕩けるように微笑んで囁き、フリーダはアリスの尾底骨のところにキスする。そこから舌をお尻の谷間に沿って這わせていく。  
「やぁん、そんな、駄目ぇ!」  
 騒ぐアリスを押さえ込んで、フリーダはお尻の谷間をゆっくりと穴に向かって舐める。  
「さっきから駄目、駄目って言ってるけど、少しも駄目じゃないって感じよ?」  
「ぁん……でも、そこは……そんなとこと舐めるなんて……」  
「気持ち良いでしょ?」  
 言った途端、とうとうお尻の穴に舌を付けられた。ほとんど同時に、手を回してアリスのクリトリスに触れる。もう一方の手が少しだけ愛液の溢れる谷間に沈み込んだ。  
「あぁ……」  
 脚の間を前後から責められて、悦びに融かされて力が抜ける。クリトリスの包皮をめくり上げて弄られ、秘裂を指が往復してくちゅくちゅと音を立てる。わざと音を鳴らしながら、尾底骨と肛門の間をフリーダの口が何度も行き来する。  
「はぁ……ふああ……あんっ……あっ」  
 喘ぎ声も途切れ途切れになる。パステルカラーの電撃のイメージがまた浮かんだ。フリーダの触れてくる全ての場所から、甘い甘い猛毒を注ぎ込まれているみたいで、意識が溶けて何も判らなくなってくる。快感だけが残る。  
「お尻の穴を舐められて気持ち良くなってるなんて、ホントにえっちの素質あるわねぇ、アリスちゃん?」  
 耳に届くフリーダの揶揄も、もう甘い睦言としてしか聞こえていなかった。  
 性器を責める指の動きが激しくなる。クリトリスを愛撫していた手は放れていて、今は片手で両方を弄っているのだが、アリスはそんなことには気付かない。  
「あぁ……あふっ、ぁっ……」  
 もう少しで逝きそうなのに、ここに来てなかなか逝けなくてもどかしかった。  
「逝きたい?」  
 そう言われて、また意地悪されているのだと胡乱な頭のまま気付く。糸に絡まって身動きの取れない獲物が、巣の主の蜘蛛に玩弄されているイメージをまた抱く。  
「いいわ、でも、逝くときはちゃんと逝くって言うのよ?」  
 そして、また性器への責めを激しくし、お尻の穴に舌を突き立てるようにして舐め、さっきから遊ばせていたてを脇腹に当てる。背中側から襲ってアリスを悶絶させた場所をまた責めた。  
 ぎりぎりまで高ぶっていたアリスは不意打ちを喰らって何が起きたのかも判らず、増大した悦楽に既に溶けていた意識が気化して弾け飛んだ。  
「あぁあ……ぁ……逝くっ……逝きます……」  
 全身をがくんがくんと震わせるアリスをしっかりと抱き締めながらも、フリーダは愛撫の手を休めない。  
 半ば意識を失いかけていたアリスはお腹に何か暖かいものが流れているのを感じて、とんでもないことをしたのに気付いた。  
 あまりの感覚の強烈さのせいか、失禁していたのだ。  
「いやぁっ」  
 流れ始めてしまったものは止められない。だけど、フリーダが何か布を押し当ててくれた。お腹に流れていた分も、ほとんど拭き取ってくれたみたいだった。  
 顔を覆うアリスの手をそっとどけて、フリーダは微笑みかけ、ちょっと触れるだけのキスをした。  
「大丈夫」  
 一声かけて、今度は深く熱く甘いキス。  
 お漏らしなんかしてしまったショックが少し和らいで、まだ体に残っているような悦楽の余韻に陶然となる。何度も繰り返されるフリーダのキスが更に余韻を長引かせる。  
 長いこと経って、お腹の上に冷たいものがあるのを感じて、ようやく自分の粗相を拭ってくれた布の正体が気にかかった。  
 見れば、それはフリーダのパジャマだった。  
「ご、御免なさい、フリーダさんっ」  
 泣きそうになりながら、アリスは謝る。  
「良いのよ。ビール飲んじゃったあたりで、アリスがこうなるのは半ば運命付けられていたんだから」  
 その言葉に呆気に取られながらも、申し訳ないことには変わりない。  
「でも……」  
 想像したよりもずっと前から、罠の中に落ちていたのだと、改めてアリスは思った。  
 だけど、そこは余りにも居心地が良いから、逃げたいなんて欠片も思わなかった。  
「良いのよ。それとも、御仕置きして欲しいの?」  
 御仕置きって言葉にアリスは怯えた。なのに、どういう訳かその言葉が甘美に響いて来て、慌ててアリスは気を引き締めようとした。  
「それとも、頑張った御褒美が欲しい?」  
 ああ、やっぱり、そっちの方が良いかな……良いに決まってるよね? ……でも、御仕置きって言うのも……ちょっと良いかな……  
 そんな、妙な考えが頭から離れなかった。  
「ほら、もう一回お風呂に行くわよ? 体、洗わないと」  
 そう言って起き出したフリーダをアリスは慌てて続いた。自分の尿の付いたパジャマをまだフリーダが持っているのを思い出して、急いで取り返そうとする。  
 フリーダは返してくれず、それどころが、逃げながら匂いを嗅いで見せたりする。  
「フリーダさぁんっ!」  
 追いかけたくても、腰に力が入らなくて走れない。やっと脱衣場に入ったらフリーダは待ってくれていて、いきなり捕まって、もう何度目か判らないキスをされた。  
「これからも宜しくね、アリス?」  
 アリスは真っ赤になり、俯いてフリーダの胸に顔を埋めるようにして、どうにか口にする。  
「はい、こちらこそ。私、世間知らずですから、その……また色んなこと、教えてください、ね」  

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