眼下には、波打つ蜜色の髪。  
柔らかな頬にまだあどけなさを残す少女が白い体を晒し、  
無心に男の下腹に舌を這わしていた。  
薄暗いランプの明かりにぬらぬらと赤黒く光るそれは、  
長さこそ普通並ではあったが、赤子の腕ほどの太い幹に大きな傘が張り出していた。まるで血管の浮き出た巨大な毒キノコのようである。  
緑髪の男の容貌そのままの異形であったが、少女はさも愛しそうに唇を寄せ、その形をなぞるように桃色の舌で舐め上げた。  
 
 
「キットン、お願いがあるの…」  
パステルがふらりと部屋に現れたのは、風がひどく生暖かい深夜。  
「おやおや、来る部屋を間違えてるんじゃないですか?」  
二人が恋人同士となってから数ヶ月、ルーミィが寝入ってから  
パステルは隣のトラップの部屋へ忍んで来るようになっていた。  
しかしぎゃははははっという笑い声にもパステルの表情は変わらない。  
真っ青な顔で床の一点を見つめたまま  
「お願い…記憶を…記憶を消す薬を、作って欲しいの…」  
とだけ呟くと、ぽろぽろ涙を流した。  
 
「どうです?落ち着きましたか?」  
むせかえるような甘い香りのお茶をすすると、  
パステルは俯いたままぽつり、ぽつりと事の次第を語り始めた。  
先日自室に一人でいる時、突然クレイが入ってきたこと。  
組み伏せられ、助けを呼ぶ間もなく無理矢理に乱暴されたこと。  
「お願い、このままじゃわたし、みんなと一緒にいられない…!」  
記憶がよみがえってきたのか、見上げるパステルの顔が再び蒼ざてくる。  
キットンはそんなパステルに背を向けると、どこか楽しそうに語りだした。  
 
「記憶をなくす薬はですねぇ、難しいんですよ。  
効果の範囲を確実に限定しないと、他の記憶まで消してしまうかもしれませんし。  
ま、脳に一種のショックを与える訳ですから、加減を失敗すれば  
大人の体に中身は赤ん坊、または新しい記憶が定着できなくなって  
心だけは永遠の19歳!ってこともありますしね、ぎゃははははははっ!」  
少々、といわずおおいに不謹慎なジョークに一人で大喜びしている小男を  
尻目に、パステルの顔色はもう紙のように白い。  
「まあまあ、そんな悲壮な顔はしないことです。方法、も…ないわけではありませんし」  
「お願い、クレイがあんなことするなんて…わたし…」  
「ないわけでもないんですけどねぇ、ちょっと特殊な状況を要とする、というか。  
ときにパステル、貴女、本当に記憶を消すだけでいいんですか?」  
突然の質問にパステルがうろたえる。  
「う、うん…」  
「それはよくないですねぇ。性犯罪者というものはとても悪質でして、  
何回も何回も同じことを繰り返すんですよ。  
隣国では性犯罪者は性器をちょきちょきっと切り取ってしまうそうですよ?ぎゃははっ」  
「そんな!クレイは性犯罪者なんかじゃないよ、ただ…っ!」  
「ただ?」  
振り返ったキットンからパステルは目を逸らす。  
先ほどまであんなに蒼白な顔をしていたのが、今は耳まで赤く染めている。  
「まあねぇ、大体の予想はついているんですが。  
トラップの部屋はクレイと私の部屋の間にありますしね。ここは壁もひどく薄い。  
トラップもクレイも健全な若い男ですからねぇ…。  
ま、トラップは少々若すぎるきらいもありますが。  
平均6秒じゃあどうにもねえ…ぎゃははははっ」  
パステルは真っ赤な顔をしてうつむいたまま、身じろぎもしない。  
 
「いやー、私も心配してはいたんですよ。  
なにせトラップは持ち物は粗末なくせに、器用さだけは  
天下一品ですから。  
散々指でいじくられて嬌声あげさせられたのに、6秒じゃぁねぇ…。  
夜な夜な壁越しに艶声を聞かされるクレイに、欲求不満の貴女、  
いつかこんなことが起こるんじゃないかと、ぎゃははっ」  
男は、いつのまにかベッドに腰掛けたパステルの傍まで近づいていた。  
「大方性欲をもてあまして、部屋で一人ひぃひぃ喘いでたとこを  
見つかって、こちらも我慢できなくなったクレイに  
犯されたってとこでしょう?」  
お世辞にも美しいとは言えない顔を近づけ、吐く息のかかる距離で  
次々と卑猥な言葉を囁く。  
「まぁ無理矢理といっても準備万端だったわけですしねぇ、ぎゃははっ。  
で、クレイはどうでした?貴女もトラップが初めてだったようですが、  
あの薬用人参に較べたら雲泥の差だったでしょう。  
どうですか、ちゃんといかしてもらったんでしょうね?」  
パステルはようやく男の視線を受け止め、  
「どうして…ひどい…」  
とだけ弱々しく呟いた。  
男はふいに立ち上がると淡い金髪をぐいと掴み、強引に顔を上げさせる。  
「それもこれも、貴女があんないい声で鳴くからいけないんですよ」  
口元にはいつも通りの笑みが浮かんでいたが、長い前髪のせいで  
その表情は見えない。  
パステルは驚きのあまり目を見開いたまま、呆然と男を見上げている。  
しかし、その大きな瞳の奥に粘った光が宿ったのを男は見逃さなかった。  
 
 
 
549 名前:キットン×パス(前編) ◆wVJ/dkEpkc 投稿日:05/02/07 05:24:11 ID:+IdCb4dM 
ぱっ、と手を開き、無骨な指から柔らかな髪を開放すると、  
キットンは幾分か声のトーンを和らげ、楽しそうに続けた。  
「いえ、責めてるわけじゃないんですよ。  
快楽を求めることは、決して悪いことじゃないですし。  
それに貴女だって、体の相性はともかくとしてトラップのことは  
大切に想ってるんでしょう?  
だからこそ、クレイとの事に苦しんで、記憶を消してまで  
元の生活に戻ろうとした、いい話じゃないですか」  
そう言いながらごそごそと机の中から黒い小瓶を取り出してくる。  
「この薬はちょっと状況を選ぶので、最初は迷ったんですが…」  
「じょう、きょう…?」  
ぼんやりとパステルが繰り返した。  
「はい、この薬は絶頂時の衝撃を利用して、  
性行為そのものの記憶を消す薬なんです。  
ごく最近の記憶にしか適用されませんし、  
まあ、そこまでトラップを想う貴女ならきっと大丈夫でしょう。  
あ、それにさっき飲んでいたお茶、あれにはちょっとした媚薬を  
いれておきましたから、そろそろいい頃合なんじゃないですか?」  
ぎゃはははははっと哄笑を続ける小男を尻目に、  
パステルは、手渡された液体を一気に飲み干した     
 

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