あれ?  
目が開かない。  
良く分からないけど、何かが巻き付けられているみたい。  
ぼんやりしながら触ろうとしたら、腕が何かに引っ張られた。  
ちがう。手足を縛られてる?  
 
!!  
 
思わず出そうとした声は、声にならなかった。その刹那、口の中に布が押し込まれたからだ。  
 
「目が覚めたかい、ミモザ」  
 
彼はわたしに(たぶん)馬乗りになりながら、首筋をすす…と撫ぜた。  
 
ど…どうなってるの?  
 
パニックになってじたばたもがいても、両手両足が自由になる気配は全然なかった。  
「動けないだろ、ミモザ…ふふ。昨日はさんざんいじめてもらっちゃったから、お返しをと思ってね。驚いたかい?」  
わたしの寝間着をまさぐりながらささやくその声は…ナレオ?  
 
ああー!!  
 
わたしはやっと状況を理解した。つまり…ナレオは、ミモザの部屋に夜這いをかけにきていて。  
で、でもでも。ちょっと待ってー!  
わたしはミモザじゃなくて、パステルなんですけど!  
わめいても、声が出ない。苦しい…。  
その間にも手際よく、わたしの寝間着が彼にはぎ取られていくのがわかった。  
 
どうしてもこっそり買いに行きたいものがあるからと言うミモザ姫とわたしは、一晩だけ入れ替わる約束をした。  
それが今日の夕方のこと。  
一日くらいなら体調が優れないってことで公務を休んでも差し支えはないし、  
側近の侍女にだけ入れ替わることを知らせておくから不自由はさせないぞ、そう彼女は言ってくれた。  
 
ミモザ姫ー!  
一番重要な人に言ってないよ!  
 
おなかの上の重さが消えて、ネグリジェのボタンが一つずつ外されていく。  
 
ど…どうしよう?  
わたしのことを完璧にミモザ姫と間違えてるけど…それをどうやって教えたらいいの?  
声が出ない。  
動けない!  
 
ひやりとした空気が触れた。驚いて動かした膝が、細い指に捕まっちゃう!  
「ドキドキするかい、ミモザ」  
つつっ。  
爪の先でふとももの内側を撫ぜる声は優しい。  
く、くすぐったい…  
 
わたしが身をよじると、おへそのあたりに冷たくてトロトロした液体のようなものがたれてきた感触があった。  
!?  
なに、これ??  
 
同時に甘い香りがむわっ、とたちこめた。  
 
「今日は何の香りだと思う?」  
大きなてのひらがぐい、とその液体を塗り広げた。この感触…油?  
「当ててごらん。当てられなかったら、罰があるよ」  
…!!  
こんな状態で、口をふさがれて!  
答えられるわけがないじゃないー!!!  
 
わたしの声は、むー、むー、という呻き声にしかならない。  
当たり前なんだけど。  
そんなのどうでもいいから、触んないでー!  
 
ささやきながら、彼…ナレオは、両手で油をわたしの胸や首筋に塗りこんできたのだ。  
ぞ、ぞ、ぞわぞわするぅ…  
動ける限りにからだをよじって逃げても限界があって、暗闇の中で、わたしにはナレオの手が何本もあるように思えた。  
 
急に。  
耳元に暖かい空気。わたしのものでない髪の毛が落ちる。  
おしおきだね。  
え?  
 
次の瞬間、  
ものすごい痛みがわたしのからだを貫いた。  
今まで体験したことのないような…  
「ああ、ミモザ…初めてなのに、こんなに大きいのが入っちゃったよ…。  
痛いかい?  
大丈夫、すぐに気持ちよくなるから」  
 
何かが動かされる感触がする。  
そのたびに激痛!  
何、これ?!…わたし、もしかして、いま…あの…俗にいうところ…  
あれを、あそこに入れられちゃってるの?  
それって、こんなに痛かったっけ?  
…でも。  
だんだんと、その痛みが引いてくるにつれ。  
わたしは、自分のからだに何がおこっているかわかってきた。  
 
まさか…  
何か差し込まれてるのって…わたしの…  
おしり??  
 
ええええ?!  
やだ!やだやだやだやだー!!!  
やめてっ!  
今度は、心の中の大絶叫は呻き声にもならなかった。  
痛い。  
怖いっ…  
 
「大丈夫、ちからを抜いて…じゃないとずっと痛いよ」  
ナレオが油の付いた手で、おしりの…モノのまわりを撫で回した。  
いやあああ…  
やだ。涙でそうだよぅ。やめてよ。  
同時に動かされる「モノ」の感触とナレオの手の感触がいまのわたしのすべて。  
…おかしくなりそう。  
もうやだ。  
無視しよう。おしりのモノも、ナレオの手も。やだ。もう、やだ。  
 
…?  
 
無視…  
 
 
…?!  
 
 
 
や…  
や、いやっ、なに、何?!だめ、駄目、…あ、あぁっ、あああ!!!  
いったい、わたし、何されてるの?!  
 
 
 
知ってる。  
 
わかる。覚えてる。この感じ。自分でするときもある。  
前に、いきなりトラップに触られたこともあるけどものすごく痛かった…  
 
 
――ちょっと、どこで寝てるのー?ちゃんと部屋に帰ってから寝てよ。  
――…ちょっと、やだ、どこ触って…え…  
――…きゃああっ!  
――あ…ああ、ちょっとトラップに抱きつかれちゃってびっくりして…ごめんねクレイ、運ぶの手伝ってくれないかな???  
 
 
知ってる。  
けど、こんなの知らない…!!  
柔らかくてぬるぬるしたものが、あの場所だけじゃなくて、全身を舐めとっているような錯覚に陥っちゃう。  
「…今日は濡れるのが早いね、ミモザ…コレがそんなに気に入った?」  
彼がわたしから口を離したとたんに、からだじゅうのちからが抜けた。…だけど。  
「じゃあこれも…今日はもっと気に入ってくれるかな?」  
せりふの意味を理解するより先に、彼がわたしに入ってきた。  
 
〜…!!!!  
 
ナレオがわたしを突き上げる。  
そのたびに、ナレオと、おしりに差し込まれている何かが擦れる。  
そしてそのたびに、わたしは動かせない手のひらをぎゅう…っと握りこんで耐えた。  
だめ。  
…だめ。  
だめ!  
 
と。  
彼の動きが、緩やかになった。  
はああ…よかった。  
それはそれで、あの…擦れるのがよくわかってしまうんだけど。でも、激しくされると死んじゃいそうになるよ…。  
そして耳元にまた、暖かい空気。  
な、何?今度は何するのー?!  
…かちん、  
左耳の後ろで金具が外される音がした。  
 
目を押さえつけていた何かが外れて、わたしはゆっくりとまぶたを開いた。  
 
薄暗い。  
天蓋付きのベッドの脇に、小さなランプが頼りない光を投げている。わたしが寝る前に消したはずなのに。  
「…」  
細い金髪がそれを受けて、ゆらゆらと揺れた。  
「……」  
ナレオが、今は完全に動きを止めて、わたしの顔をまじまじと見ている。  
「…あんた、もしかしてパステル?ミモザじゃ、ないだろ」  
!!  
そう、そう!  
ナレオの訝しげな問いに、わたしは首をぶんぶんと振った。  
さっきまで、もう呻く気力もなくなってたけど。  
やっと気づいてくれた!!  
「…早すぎると思ったんだ…  
ミモザはもっと痛くしないと、全然濡れてくれないのに、すぐ濡れるし。  
そんなにこのビンが良かったのかと思ったけど、入れてみたら…」  
ナレオは、後ろ手にわたしのおしりから差し込まれていたものを抜いて、(不覚にも抜く瞬間、気持ちよかった…)  
鼻先にずい、と近づけてきた。  
ややややだっ。そんなの近づけないでー!!!  
って、わたしの中にあったものなんだけど…  
ナレオはそんなわたしに気を留める様子もなく、もの凄いせりふを続けた。  
「入れてみたら、全然あんたの方がいいんだ。おんなじ顔で、こんなに違うもんかな」  
 
は…?  
何言ってるの?  
 
「ねぇ、ミモザには、こんなこと内緒にしておいてくれよ?ばれたら一生口きいてもらえないかもしれない」  
 
ちょ…ちょっと、ちょっと待ってー?!  
なんでまた動かし始めちゃうの?  
「そうやって締め付けるなよ。気持ちいいのバレバレ。実はあんたも結構痛いの好きだった?」  
!  
かあ、と頬が熱くなる。  
そう。  
こんなことされてるのに、なんで、なんでこんなに気持ちいいの?!  
わたしの表情を見て、ナレオはにやりと笑った。  
「秘密にしておいてくれるなら、もっと良くしてあげるよ…」  
耳元でそう囁いて、耳を舐め上げる。  
やあ…っ。  
「だから、そう…締め付けるなってば」  
からだの中で、ナレオがいっそう硬くなったのが、わかった…  
 
 
 
気づいたら、朝だった。  
何回したか、覚えてない…いつ眠ったのかも。  
はだけたネグリジェも何もかも元通りにされていて、夕べのことがまるで夢みたい。  
手首に残っちゃった赤い痣がなかったら、あんなこと…  
 
――また入れ替わったら…さ。  
 
きゃあああああ。  
ナレオの声がよみがえってしまって、わたしは頭を抱えた。  
からだが熱く疼いちゃう。  
 
 
…当面の問題として。  
ミモザ姫が帰ってきたら、わたし、どんな顔すればいいんだろう?  
 
 
 

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