「今日こそトラップに会って話をつけなくちゃね」
私はふうっとため息をつきながら小さく呟いてトラップの元へと急いだ。
トラップと私は、一応、まだ付き合っている状態にある。
なんで「一応」とか「まだ」っていう言葉が付くのかって言うと、別れるのか、それともトラップを許してこのまま付き合っていくのか決めかねている冷却期間にあるからなんだ。
トラップが他の女と浮気をしていたこと、それを許して続けていくことなんて私にはできそうにない。でもトラップのことがまだ好き。
そんな、私の心が揺れていた時に再会したのがギア・リンゼイ。私にプロポーズしてくれたこともある人。強くて、背も高くて格好良くて、やさしくて。
おまけにまだ私のことが好きだって言ってくれた。
傷心していた私はぐらっとギアに心が傾いてしまって――
……その……酔った勢い……ってやつ?つまり、……ギアと…しちゃったんだよね。
これってもしかして私も浮気したことになるのかな!?ってそんなことよりっ!!公共の場所であんなに乱れちゃって、今さらながらすごく恥ずかしくなってきた!
お酒を飲むときは今度から気をつけようっと…。
ギアと別れた後、トラップの所に行って話をつけようと思ったんだけど、自分が思っていたよりお酒が回っていたみたいでその後の記憶が全くない。
きれいさっぱり抜け落ちている。うーん、どうやって帰ったんだろう?
目が覚めて、気が付いたら朝になっていた。
きちんとパジャマに着替えていて、自分の部屋のベッドに横になっていた私。
ずきんと膝が痛くて見てみると怪我をしていた。転んだみたいなんだけど、どこでいつ転んだのかももちろん覚えてない。
しかもご丁寧に手当てまでしてある。我ながら意識もないのに自分で怪我の手当てまでやってのけるなんてすごいかも。
そんなわけで、今日こそはと身支度を整えるとトラップの所へと向かった。
やや重い足取りでようやくトラップの部屋の前まで来た私は、大きく息を吸い込むとドアをノックした。
コンコン。
がちゃ。
ドアが開いたそこには、いつもよりちょっと元気が無さそうなトラップがいた。
「よ、パステル…まあ、ここじゃあ話もできねえからあがれよ」
「すぐ済むからここでいい」
トラップの申し出断ったのにはもちろん理由がある。
部屋に上がったりなんかしたらトラップに上手く言いくるめられて、せっかく別れる決心したのにずるずると付き合うことになっちゃいそうだもんね。ここでトラップのペースに巻き込まれるわけにはいかない。
「おめえは…その……やっぱり、今日は俺と別れるために来たのかよ?」
「もう…トラップのこと、前みたいに信じることができないの。無理だよ。それだけだから!もう会うのはやめにしよう?じゃあ、ね……」
「待てよ、パステル!」
「きゃっ」
踵を返して帰ろうとした私の腕を、トラップがぐいっと掴んで引き止めた。トラップの力が強くて振り払えない。引っ張られたかと思った瞬間、私はトラップに抱きしめられる格好になっていた。
「は、離して!」
「……っ…離さねえ!!俺はおめえと別れたくねえ……本当に馬鹿なことをしちまったって今じゃあ反省してる。おめえの事こんなに傷つけときながら、やり直したいってのは虫のいい話だってこともわかってる。けどよ、俺はおめえがいないと駄目みてえなんだ」
「今さらそんなこと!それに――もう、決めたことだから」
ぎゅっと私を抱きしめて離さない腕に、さらに力が込められる。ちょっと苦しい。
トラップの顔を見上げると私にすがるような目でじっと見つめ返して視線を反らそうとしない。
そ、そんな目で見られたら何もいえなくなっちゃうじゃない!だから伝えることだけ伝えてすぐ帰るつもりだったのに――っ!!
トラップは端整な顔立ちですごく格好いい。女の子にもてるのもわかる。スタイルもいいし、おもしろいし、器用だからその――あちらの方もかなり上手いし。…ってわたしもそんなに経験があるわけじゃないけれど。
人を寄せ付ける魅力もあるし、憎めないんだよね。
トラップが浮気したことはもちろん許せないけど、それでも私が嫌いになれないのはそういうところがあるからだと思う。
「なあ、どうしたらおめえは俺を許してくれるんだよ……パステル……何でもしてやるから言ってくれ」
「だから無理だってば…」
いつもは憎まれ口ばかりを叩いてくるトラップが、弱々しく許しを請うもんだから冷たくするのは可哀想になってきてしまった。
…って危ない危ない!ここで同情しちゃったら私の負けだわ!
それに、これは私を引き止める彼なりの作戦に違いないから。
騙されないようにしなくちゃ。
トラップがどうしたら納得してくれるのか色々と考えをめぐらせていると、いきなりがばっと土下座をしてきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、トラップ!?」
あまりの突然の出来事にびっくりして声がうわずってしまった。
「本当にすまねえ……許してくれ……もうぜってえあんな事はしねえって誓う。だから」
「土下座なんてされても私は…」
「――そうだよな、おめえを傷つけちまったしな……ここまでしても許してくれねえんじゃ、いいかげん、俺もおめえのこと諦めるしかねえよな。見捨てられて当然だよな…」
トラップががっくりと肩を落として寂しそうにため息をついた。
心なしか目が潤んでいるように見えるのは気のせいだよね?
まさか土下座までしてくるなんて思ってなかった。同情させる作戦かと思っていたのに本気みたい。
それに、これじゃあなんだか私が悪いみたいじゃない!?うう……どうしたらいいの!?
答えは出ていたはずなのに、ここに来てまた、私の中に迷いが生じた。
ギアと付き合うって決めてここに来たのに決心が揺らぐ。
「あんな女に騙された俺が…馬鹿だったんだよな……けどよ、俺が好きなのはおめえだけだ。パステル、それだけはわかってほしい」
「トラップ…」
それだけ言うとトラップはようやくゆっくりと立ち上がり玄関のドアを開けた。
でも、確かにそうよね。良く考えてみたらトラップも被害者なのかもしれない。
だってあの女が色目を使って誘惑しなければトラップだって浮気なんてしなかったのに。
あの女さえトラップに言い寄らなければ私もトラップもこんな風に別れることなんてなくて……ずっと一緒にいられたかもしれないのに。
トラップと過ごした楽しかった思い出が、まるで昨日のことのように思い出されて、トラップへの好きって言う気持ちが再び私の胸に込み上げてくるのがわかった。
この時の私は完全にギアのことを忘れていて、トラップの方への思いが強くなっていた。
――浮気は一人では成立しないという、重要なことにも気づかないくらいに。
「じゃあな。パステル、おめえが俺のこと忘れても、嫌いになってもそれは仕方ねえ。でもよ、俺はおめえの事は一生忘れねえからな。二人で撮った写真くれぇは俺が持っていてもいいよな?」
「う、うん…」
思わず返事をしてしまう私。写真は私が捨てるから全部返してなんてとてもじゃないけど言えない雰囲気。
正直、ここまでトラップが私のことを思ってくれるのというのは悪い気がしない。
いや、寧ろ、不覚にも嬉しく思ってしまった。
じゃあな、と後ろを向いて手を軽く上げてトラップが部屋に戻ろうとする。
もうトラップとは会えない、って思った途端に寂しくなってきた。
「トラップ!」
呼び止めた私の声に、トラップはぴくっとわずかに反応したけれど、振り返らずにそのままドアを閉めようとした。
「ねえ、やっぱり、お茶…一杯だけ飲んでいってもいいかな?」
別れるっていう考えは変わってないんだけれど、トラップに同情してしまったというか、トラップの事が好きという気持ちはまだ残っている。もう少しだけ一緒にいたいって思ってしまった。
これが本当に最後だから。
ちょっとくらいならいいよね?
あがれよ、って言って振り向いたトラップの顔は嬉しいのを隠すような、むっつりした顔で、可愛かった。
「散らかってるけど適当に座れよ」
何度も来た事がある部屋だけど今日は落ち着かない。
もう恋人同士じゃないんだよね。それなのに部屋に上がるのはやっぱりまずかったかも。
ふっと彼のベッドの枕もとの方を見ると写真立てに、私たちの写真が飾ってあった。
この写真はお正月にみんなで初詣でに行った時の写真だ。腕を組んで楽しそうに写真の中の私たちは幸せそうだった。
「ほら、二人きりで写真を撮ってやるからそこに並べよ」ってクレイが言ってくれて写真を撮ってくれたんだ。
「茶、持ってきてやったぞ」
振り返るとトラップが湯飲みをテーブルの上に置いて私のほうへやってきた。
「あ、ありがと」
「これ、良く撮れてんだろ?おめえも写真じゃあ、ちっとは綺麗なのにな」
「な、何よそれー!!」
トラップがいつものように私をからかってきた。楽しかった頃の事がまた思い出されて切なくなる。
「冗談だっつーの。おめえは実物の方がいい」
「んっ、んん〜〜〜〜〜っ」
いきなり肩を抱き寄せられたかと思うとトラップにキスの不意打ちをくらってしまった。どんっと押してトラップを突き放す。トラップの様子がさっきと違うみたい。
もしかして私、かなり危ない状況なんじゃ…。
「…っ…やっ…何するのよっ」
「こういう事…されたくねえなら、何で俺の部屋に入ってきたんだよ。おめえだってこうなる事くらいわかってんだろ?」
「そんなつもりじゃない!もうトラップとはこういう事したいなんて思ってないんだから!離して」
「うるせえよ。いつもみたいに気持ち良くしてやるからよ。ちっと大人しくしとけよ」
「きゃあ!」
ベッドの上に押し倒されて、手首を掴まれベッドに押し付けられ、完全に自由を奪われた。そして嫌がる私の唇を無理やり奪う。
必至に逃れようと頭を左右に振って抵抗するけど、男の力にかなうわけもなかった。
「んん…んっ…む…んんっ……」
トラップの舌が私の口の中を蹂躙する。舌が這いまわり力が抜けそうになってしまう。
「んっ…やだっ…」
「俺に力で勝てるわけねーだろ。大人しくしとけって」
「う……あ、……何するのよ!ひゃっ」
やっと唇を解放してくれたと思ったら、今度は首筋に沿ってトラップの舌が這い回る。背筋がぞくっとするのがわかった。
さっきまで(´・ω・`)ショボーンとして可愛かったトラップとはまるで別人。なんとか逃げようと身をよじってみたりしたけどトラップの下からは抜け出せそうにはなかった。
ぷちっ。
ブラのホックが外されてトラップの手が私の服の中に差し入れられ私の胸を触ってきた。
「嫌だって言ってるでしょっ!やめて、と、トラップ…ちょ、ちょ、ちょっと…何処触ってるのよ!きゃ…やだやだっ……やっ」
「嫌とか言いながら、おめえだってだんだんその気になってきたんじゃねえの?じゃなきゃあ、なんでここがこんなに硬くなってんだ?」
「や…んっ……触らないで!!」
「感じてきちゃったのかな〜?パステルちゃん?」
くっと笑いながら私の胸の先端を摘み上げ、もう片方の胸に吸い付いてきた。胸の突起を舌で転がすように舐められて私の息が荒くなる。声を出しそうになるのを必至でこらえた。
「うっ…そ、そんなわけないでしょ。トラップみたいな下手なやり方で感じるわけないじゃない」
「そうかよ。そんならおめえ、喘ぎ声出すんじゃねえぞ?我慢できたらやめてやるよ」
「そ、そんな……うっ…」
胸を弄ばれて感じてきてしまった私はすでに濡れ始めてしまっていた。
トラップの手が次第に下の方へと伸びてくる。スカートをめくりあげたと思ったら、私の足の間に強引に体を滑り込ませる。
そして下着の上から割れ目に沿ってつつっと指でなぞってきた。
「…っ……くっ…はぁ……」
「もうぐちょぐちょになってんじゃん。ほら」
「やぁ……うっ」
下着越しにぐっと指を突き立てられる。私の一番敏感な突起物のあたりを指でこすられる。
それでもなんとか声を出さないようにこらえていた。
いつの間にか下着を脱がされて、直接指が触れた。
くちゅ
指が私の敏感な突起物のある部分をこするように何度も何度も触ってくる。その快感にぎゅっと唇を噛み締めて必至になって耐えていた。
くちゅ、くちゅ
「…はぁ、はぁ、うっ……う…んっ…」
「濡れまくってんなあ。おめえ感じてんだろ?声出せよ。楽にしてやるから」
「か、感じてるわけ…ない…でしょ…くぅ……ふ……や、やだ!だめ…だめぇ…」
トラップの顔が私のあそこに近づいたかと思うと、私の敏感な部分を舐めてきた。
ぴちゃ、ぴちゃ
吸われたり、舐められたり絶妙な舌使いで私を攻める。快感で頭がくらくらしてもう何も考えられない。それでもここで声を出すわけにはいかない。
声を出したら私の負けだから。
「うう……はぁ…い、いいかげん諦めたら?…んっ…声…出さなかったらやめてくれるって…言ったじゃない……う……」
「おめえ、そろそろ辛くなってきたんじゃねえの?これならどうだ?」
「……っ……くっ…う……やめて!!やめて…うっ…やだぁ!入れないで!動かさないで……んっ!…う…う…やぁ…」
ぐちゅ、ぐちゅ
トラップの指が私の中に入ってきて容赦なくかきまわされる。もう限界だった。声が漏れそうになって自分の手で自分の口を塞いだ。
「…ん…ん、ん、…う…うう…」
「おめえ、それは反則じゃねえ?」
「きゃあ、あ、…あんっ…はあ…あっ、あっ、あん…んっ…ああっ…」
「俺の勝ちだな」
口を塞いでいた手をひきはがされて、とうとう声が出てしまった。
トラップの硬くなったものが私に押し付けられる。
「や、やだっ…はなして!!」
「こら、暴れるんじゃねえよ」
「いやあっ!!」
じたばたと足をばたつかせ最後の抵抗を試みたけれど力ではかなわない。
ぐ、ぐぐっとトラップの熱くなったものが入り口にあてがわれ少しづつ押し入れられる。
「うっ……うう…くっ……やだっ、あ、あ、あ……抜いてぇ……う…はあ…あ…」
「く…そんなに締め付けんなよ…ほら奥まで入ったぜ。ここ触ってみろよ」
トラップが私の手を掴み繋がった部分を無理やり触らせる。
恥ずかしさのあまり私は顔をそむけた。こんなことになるなんて、家に上がらなければ良かった…。そんな事を考えたけど、もう遅かった。
「お願いだから、やめて…んっ…あ…」
「気持ちよくしてやるつってんだろ…ほら」
「や…はぁ…あ、ああっ、……っ…だめぇ…」
ず、ずちゅ、ずちゅ
ゆっくりと腰を動かされ、次第に動きが速くなり激しく腰を打ち付けられる。
トラップに犯されているのに体は求めて感じてしまう。
「おめえのその顔たまんねえ…もっと感じさせてやるよ」
「…う…やだあ…あ、」
くるっと向きを変えられてうつ伏せにされた。そして、腰を持ち上げられて後ろから一気に貫かれた。
「きゃあ…あ…んっ……ふ……やあああああっ!」
「おめえは後ろからの方が好きだろ?そろそろ俺も限界だからなあ…おめえだって逝きたいだろ?逝かせてやるよ」
ぐちゅ、ぐちゅ
擦れ合う音が激しくなって限界が近づく。
私は自分を支える事ができなくなって、お尻だけトラップの方に突き出すような体制になってしまっていた。
ぐっ、ぐっと奥まで押し込まれるようにさらに激しく打ち付けられて。
頭の中が真っ白になる。
「やあっ…あ、だめ、だめぇ!!うっ…ああっ……はあ…はあ…」
「…く…おめえ、逝けたみてえだな、俺も…」
そして私の中でトラップが果てた。
「こんなの…ひどいよ…」
「おめえだって感じてたじゃねえか、パステル。俺はおめえともう一度やり直してえ」
「私は…もう、二度と会いたくない」
私は服を整えると急いでトラップの部屋を後にした。
男の人の部屋にその気もないのに上がりこむなんて、私も軽率だったけど、トラップにいいようにされて感じてしまった自分が悔しかった。
そして、別れるためにトラップに会いに行ったのにあんなことになってしまって、ギアの気持ちを裏切ってしまったような罪悪感にかられた。
早く家に帰ってシャワーを浴びたい。
汚れてしまった自分を全て洗い流して綺麗にしたい。
こんな自分を誰にも見られたくなくて足早に家へと急いだ。